海外駐在員レポート
シンガポール駐在員事務所 伊藤憲一、外山高士
タイの鶏肉輸出は、96年からEU地域向けの拡大により増加傾向で推移している。 また、昨年の通貨バーツの下落は、輸入資材の価格高騰を招き、生産コストの増 加をもたらしたが、一方で、中国、ブラジルなどの輸出競争相手国に対し優位に 立ったとみられている。 このような状況の中、タイ鶏肉の輸出は、通貨の下落により得た競争力を生か して今後とも順調に拡大していくのか、それとも、生産コストの上昇などの要因 により劣勢に転じるかなど、今後の動向が注目されている。今回は今後の輸出動 向について、業務にお忙しい中、日本向け鶏肉輸出にかなりのウエイトを占めて いる下記の輸出業者の方々にお集りいただき、タイ国内外の消費、生産動向およ び各国の政策など、貴重な意見を拝聴できたので、その内容を報告する。 出席者(敬称略50音順) シンガポール日本ハム(株) バンコク駐在事務所 工藤健雄 ニチレイ(株) バンコク駐在事務所 長塚清勝 住金物産(株) バンコク駐在事務所 西館卓哉 MIトレーディングサービス(株) 堀川真巳人 司会 シンガポール駐在員事務所 伊藤憲一
司会者: タイの鶏肉の輸出は、93年から96年までは日本向けの輸出の低迷などにより数 量は減少しております。しかし、96年からは、EU向け輸出の大幅な拡大により、 輸出の回復の兆しが出てきました。はじめに、この時の状況をおさらいの意味で お聞きします。 堀 川: タイから日本への輸出が減った理由は、中国の輸出価格がタイよりも安かった こともありますが、もう一つには、中国ブームがあります。その頃の日本のバイ ヤーを含めた需要者の多くは、日系合弁企業の増加、中国産鶏肉の品質がタイ産 鶏肉と遜色がないところまで向上してきたことなどから、よく中国に商談に出か けておりました。また、タイでしかできないものも一部ありますが、8割方のア イテムは、どちらの国でもできます。さらに、チャロン・ポカパン(CP:タイの 華僑系財閥企業)の中国進出も大きな要因となっております。このような訳で中 国が注目されていたのです。一方、EU向け輸出は、むね肉を中心に増えておりま した。これは、EUが中国からの輸入を禁止した(※)ためです。価格は、皮なし むね肉でトン当たり 3 千USドル(以下「ドル」)を超えたこともありました。 (※)EUに生鮮家きん肉を輸出する場合、輸出工場の認定を受ける必要があり、 現在、中国にはこの認定工場がないことから実質的にEU向け輸出ができな い状況となっている。以下同じ。 長 塚: タイの鶏肉産業は、エビの養殖よりも早く70年代から始まりました。その後、 鶏肉の輸出は、日本向けが約80%を占めてきました。しかし、92年から中国が急 激に価格競争力をつけてきました。93年頃の人民元の切り下げにより価格競争力 が増幅し、そして鶏肉の品質も改善されてきました。そのような訳で、日本の輸 入は、価格の安い中国にシフトしていきました。また、EU向けの輸出が急激に増 えたのは、EUが中国の鶏肉の輸入を禁止したことが大きな原因と考えられます。 EUは中国からむね肉を買うことができないので、タイにオーダーがきました。な お、タイからEU向け輸出は、むね肉が中心となっています。 工 藤: 全体的には先に発言された通りです。特に補足することはありませんが、結局 コストの問題が大きかったと思います。55 〜 6 年前までの日本の需要者は、タ イ産鶏肉の方が中国産よりも、価格が少し高くてもやむを得ないと考えていまし た。しかし、中国産鶏肉の品質が改善された現在では、基本的には中国産もタイ 産も同一品質と考えています。私のような立場では中国産とタイ産の区別はあま りしていません。中国とタイは同じマーケットと見た方がいいと思います。ただ し、ブラジルは違います。 司会者: タイ産と中国産が品質的に差がないとすれば、価格についてもほぼ同じとみて よいですか。 堀 川: 今はほとんど価格差はありません。 工 藤: 一つ象徴的な出来事を挙げたいと思います。かつてお客さんからタイ鶏肉は魚 粉臭いとかバン(面)が小さいなどのクレームがつき、タイ産のもも肉がもうダ メだと言われた時期がありました。そして、価格を引き下げて輸入してもタイの もも生肉は売れないと言われていました。しかし、やはり価格によって売れるこ とがわかりました。現在は、タイのもも生肉は、価格の安さも手伝って、以前に も増して日本向けに出るようになりました。中国産もタイ産も品質にそれほど大 きな差はありません。 堀 川: 特に大きいものが欲しいというような特殊なオーダーは別として、同じサイズ の同じものを比較した場合、中国産もタイ産と差はないと思います。 ◇図:冷凍鶏肉の地域別輸出数量◇ ◇図:鶏肉調製品の地域別輸出数量◇
司会者: 97年の冷凍鶏肉の輸出数量は、同年7月以降のタイバーツの下落などの影響も あって増加し、全体で約1割増加しております。その中で、日本向けは減少傾向、 EU向けは大幅な増加となりましたが、この辺りの状況についてお聞かせ下さい。 工 藤: タイの97年の輸出数量は、通貨下落以前のEUからのむね肉を中心としたオーダ ーが、日本向けの減少分を十分にカバーできたために、約1割の増加となりまし た。 堀 川: 97年当初は、日本向けのタイの輸出数量は減り続け、もうダメになるかという 悲愴感がありました。日本で需要のあるもも肉、ももステーキなどを毎月5〜6 千トン輸出できれば良い方だと思っておりました。しかし、97年末には、通貨バ ーツの下落の恩恵で、日本向け輸出数量が1万トン弱まで回復してきました。一 方、タイは、徐々にEUマーケットに強くなってきております。既に、ISO(国際標 準化機構)の認証資格を取得したパッカーもあり、品質・衛生基準も国際基準を 満たしております。仮に、EUが中国の輸入を解禁したとしても、すぐにタイの水 準までに追いつけるとは思えません。また、タイ産鶏肉のブランドもEUマーケッ トでかなり浸透してきております。したがって、EUマーケットに関して、これか らEUが中国産の鶏肉輸入を解禁したとしても、タイとの競争は価格を下げない限 り難しいと思います。 西 館: もし、中国産が解禁となった場合には、かなり安い物を出すしかないと思いま す。 長 塚: EUが中国産の輸入を解禁するのは、まだまだ先だと言われています。すぐに状 況が変わることはないと思います。
司会者: 今年の第1四半期のタイの輸出は、EUおよび日本向けも大幅に増加し、前年同 期比で5割近い伸びを示しています。このような状況で特徴的な動きがあったら お聞かせ下さい。 堀 川: これまで、中国が日本に輸出していた30/40gのもも肉の角切りなどの商品が、 昨年の通貨下落以降、徐々に当社に戻ってきております。また、最近のタイのパ ッカーの動きとしては、為替などを予測しながらさまざまな値段で、かなりの日 本向け成約を獲得したようです。ある大手パッカーは、EU向けに関しては11月デ リバリーまでの成約を得ているという話です。状況はかなりいいと思います。 司会者: もし、現在のような為替が続いた場合、タイの日本向け輸出の拡大は継続する のでしょうか。 堀 川: 中国の価格次第だと思います。中国で為替の切り下げなど変化が起これば、ま た状況は変わると思います。しかし、タイの価格が現在のように割安であればこ の状況は続くと思います。 工 藤: マクロ的に見ると、人民元を切り下げるとバーツも安くなるので、結局切り下 げ競争になってしまうと思います。元が切り下がったのにバーツがこのままとい うことはないと思います。 西 館: 中国に比べるとタイへのオーダーは入れやすいと思います。中国にオーダーを 入れると、もも肉を買うなら余っているむね肉、手羽も一緒に買ってくれという ような抱き合わせの 注文を要求するパッカーが多くなっています。その価格がタイに比べかなり安け れば、抱き合わせで多少でも買おうという気にもなります。しかし、価格はタイ の方が安い上、必要な部位を欲しいだけオーダーを入れることもできます。しか もデリバリーが正確であることなどから、日本のオーダーが中国からタイに変わ るといったことは、当然の流れかもしれません。 司会者: 先程、EU向けにむね肉の輸出がよく伸びたとおっしゃっていましたが、これは どのようなものの原料に使用されるのでしょうか。 長 塚: 大きく業務用と市販用に分けることができます。最初の頃は、むね肉を蒸して 塩味を付けただけの簡単な加工品を業務用として使用しておりました。用途はス ープの具、サラダやピザのトッピングなどが代表的な例として挙げられます。市 販向けとしては、スーパーマーケットなどの店頭で販売しております。今年あた りから、小売りパック用に小割包装した商品の注文がきております。また、最近、 焼き鳥、唐揚げ、フライドチキンなどさまざまな注文がヨーロッパからくるよう になりました。一方、最近の日本からのオーダーで目新しいものでは、レバー串 など内蔵の串刺しオーダーが入っています。 司会者: 中国の独壇場であった串刺しなどが価格の要因でタイに戻ってきたということ ですか。 堀 川: これまで、中国からのレバーなど内蔵の串刺し、焼き鳥の日本向け輸出価格は、 安すぎてタイとは競争になりませんでした。しかし、串刺しなどのオーダーがタ イに戻ってきたのは、タイの価格が安くなったこともありますが、価格以外の面 でも全体輸出量の低迷のため、買いづらくなっていることもあると思います。 司会者: なぜ中国の同製品が買いづらくなったのですか。 堀 川: 中国では、商売全体が細ってきて、オーダーする数量に限界がでてきているた め、1コンテナを満載できず船積みに支障を来すなどの影響がでてきたからでは ないかと思います。また、大量にタイに注文したついでに、串刺しなどにオーダ ーが入ることもあります。当社にもレバー串、皮串というような注文が結構きて おります。また、タイの全盛期を知っているバイヤーと、中国が全盛期になって から担当したバイヤーとの間の世代ということも関係しています。中国からタイ に変更して買いに来たバイヤーで、タイの良さを認識する人もいます。そして、 最近、タイへ来るお客さんの頻度も多くなり、お客さんが戻ってきています。人 が来れば何か買ってくれますし、それが重なれば結構大きな数量となります。
司会者: 最近のタイの鶏肉の輸出状況につきまして、よく理解することができました。 次に、昨年のタイバーツの下落は、各方面に大きな影響を与えたといわれていま す。特に、通貨下落が鶏肉業界に与えた影響につきまして、具体的な例などがあ りましたら、それらを含めてお聞かせ下さい。 工 藤: 具体的な影響として、例えば飼料コストが上がったことが挙げられます。通貨 危機以前は、トン当たり 6 千バーツ台でしたが、今は 1 万バーツ弱で約4割も 上昇しました。その他にも、工場の運営経費なども上昇しています。しかし、今 のEU向けおよび日本向け輸出価格から生産コストを差し引いた額を、1ドルを40 バーツとしてコスト計算を行ってみると、十分に利益が上がっております。ただ し、これは現段階での話です。タイからEU向けの輸出価格が突然に値崩れしたり、 EUが中国からの輸入を禁止したような事態がタイに適用されるようなことになれ ば別です。また、現在の日本向けの価格は、トン当たり約 1 千 8 百ドルですが、 タイから見てこの価格は満足ができるものとなっておりません。EU向けの輸出価 格が、バーツ下落にもかかわらずタイにとって満足のできる価格で輸出ができて おり、かつ、大きな伸びとなっているので、タイのパッカーは救われている状況 です。 司会者: 具体的にEU向けのむね肉の輸出価格は現在何ドルですか。 工 藤: トン当たり 2 千 6 百から 2 千 3 百ドルというように、人によってまちまち です。 堀 川: 今年の 3 月に、EU向けの輸出価格は同 2 千3百ドルに下がりました。このよ うに、成約した時期によって輸出価格は違いますが、最近は同約 2 千 6 百ドル です。 工 藤: これは皮なしむね肉の輸出価格です。ただし、ブラジルからヨーロッパ向けの 輸出価格が下落していることが気になります。 司会者: そうすると、タイのEU向けのライバル国はブラジルで、常にブラジルを念頭に 置いていなければいけないと言うことですか。 工 藤: そのとおりです。一方、フランスの国内生産は増加傾向にあり、同国内の価格 は下落傾向で推移しておりますので、タイの輸出量が減るという見方があります。 堀 川: 鶏肉のカットなどの加工料金は、通貨下落後も同一単価でドルにより支払われ ていますが、パッカーの作業労賃などの経費はバーツで支払われているため、バ ーツ換算で手取額が増えており、加工料金においても通貨下落の恩恵を得ており ます。手を加えれば加えるだけ利益が上がることになります。 司会者: ちなみに、現在の加工料金はいくらぐらいですか。 堀 川: 鶏肉を切ると、どこのパッカーでも最低トン当たり約200ドルとなります。高い ところでは250ドルのところもあります。引き下げをお願いしても、過去からの価 格料金であるとして、値下げに応じてくれません。 司会者: タイのパッカーは、通貨下落の悪影響を回避するために、具体的にどのような 対応をしておりましたか。 堀 川: 為替の予約で急場をしのいでいるようです。 司会者: 従業員のカットなどはありましたか。 堀 川: これまでは、毎年2回程度の賃上げ要求ストライキがありましたが、賃上げの 要求が少なくなっただけでもパッカーは安心していると思います。
司会者: これまでの話を総合すると、タイの多くのパッカーは、通貨の下落により輸出 数量が増加し、企業収益が改善されているということですか。 長 塚: 借金しているところはかなり苦しいと思います。EUや日本からの注文を多く獲 得しており、それなりに好調のように見えますが、ドルで借金しているところは、 1ドルが40バーツの為替レートになっても経営状況はかなり苦しいと思います。 堀 川: インテグレーションの取り組みによっても経営状況は異なってきます。飼料生 産、種鶏、ふ化場、養鶏場、加工処理場など一連のインテグレーションを完備し ている企業は、全体でみた場合、かなりの低コストで鶏肉が生産でき採算も取れ ております。しかし、種鶏、ふ化場、養鶏場を所有していないなどインテグレー ションが途中で切れている企業は、価格変動の大きなひな、飼料、生鳥などを仕 入れなければならないというリスクを負っているため、収益に差がでてきます。 一連を完備したインテグレーションを所有していれば、生産部門の各過程でコス トダウンの可能性が秘められています。技術的には、大変な管理能力が必要とさ れますが、インテグレーションの完備は、相場に左右されない鶏肉生産が可能と なります。したがって、飼料部門、ふ化部門、養鶏部門を所有せず、いわゆる処 理場だけに力を入れている企業の経営はかなり苦しいと思います。 工 藤: インテグレーション化した方がバラエティに富む対応ができます。例えば、自 社の農場で鶏を飼養していると、日本のお客さんからのオーダーに応じた鶏の生 産が可能です。また、同時に鶏のサイズについても融通が利きます。 長 塚: お客さんのオーダーは、例えば、30から40グラムのももの角切りというように、 鶏肉1ピースの重量を指定してきます。もし、そのオーダーが大きなももステー キ肉を必要とするならば、飼育期間を延ばすことなども可能となります。そのよ うに、お客さんの注文に応じたきめ細かな対応が、一連のインテグレーションを 完備し、自社農場を所有している企業は可能となります。また、歩留まりも良く なります。 工 藤: 一連のインテグレーションの中で、鶏肉加工処理部門での利益はほとんどあり ません。加工処理場は単なる外貨を獲得する窓口のようなものです。 堀 川: 要するに、一羽の生鳥がいくらで生産できるかということです。最終の鶏肉加 工処理場は単なる出口で、低コストの良い鶏を入れれば安価で良質の鶏肉が出て きますし、高コストの悪い鶏を入れれば、どんなに努力しても処理場の採算は取 れません。
司会者: 昨年末、香港に端を発した新型インフルエンザ問題は、タイの鶏肉の輸出にど のような影響を与えたのかお聞きしたいと思います。 長 塚: 場所が香港ということもあります。香港から直接日本に輸出されていませんか ら、一過性のものだったと思います。 司会者: 香港と言っても中国から入ってきた鶏が大部分なので、中国に対して悪いイメ ージを抱くことはないのですか。 堀 川: この件では、鶏肉に対するイメージが悪くなりました。このため、消費者が鶏 肉を敬遠して食べなくなった分、消費が減少し影響を受けたと思います。 工 藤: 新型インフルエンザの問題が発生した時は、日本の民間の鶏肉在庫がかなりあ ったこともあり、タイ鶏肉の輸出が増加するといったことは少なかったと思いま す。もし、その時の日本の民間在庫が減少していたら、タイにオーダーが相当き たと思います。当時は、鶏のイメージが悪くなるという心配の方が強かったと思 います。 堀 川: 新型インフルエンザとO-157問題を比較すると、O-157の影響の方が大きかっ たと思います。
司会者: 次に、EUから中近東に補助金付きの鶏肉が輸出されています。これに対抗して 米国でも色々な動きが出ておりますが、EUから中近東への輸出が増えるとタイに どのような影響がでますか。 長 塚: 中近東の鶏肉マーケットは、輸入される鶏肉の形態もグリラー(頭と足の爪を とった丸鳥のこと)、骨付きもも肉などが主流となっています。加工して付加価 値を付けた鶏肉を輸出するタイにとって、丸鳥での輸出は利益が上がらないため、 中近東への輸出をあまり重要視していません。補助金の関係で問題になるのはタ イよりもブラジルだと思います。 司会者: ブラジルから中近東への輸出の状況をお聞かせ下さい。 工 藤: アメリカを除いた日本の主要輸入3カ国は中国、タイ、ブラジルとなりますが、 それらの国の輸出価格を比較すると、タイが優位でブラジルが苦しい立場にあり ます。ブラジルは、日本向けの骨なしもも肉の輸出価格が、現在の相場の上限で あるトン当たり2千ドルとしても、安すぎて採算が合わないために、国内向けお よび近隣諸国のアルゼンチン、チリへの販売に力を入れるとともに、中近東にも 丸鳥の形態で輸出しております。そのため、ブラジルは、EUから中近東への輸出 が増加すると苦しい状況になると考えられます。 司会者: 為替の影響でブラジルは競争力が弱まったと考えてよろしいですか。 工 藤: はい。同じことがタイにも言えます。もし、1バーツが1USドルに対して25〜 26バーツで推移していたとしたら、苦しいものになっていたと思います。
司会者: 最近、タイの国内鶏肉価格を見ますと、小売価格は下落しているが、卸売価格 は上昇しているという現象が見られます。これはパッカーが輸出向け商品を優先 して生産するため、卸売市場などのマーケットに出荷される鶏が不足することに より生じている一時的な現象なのでしょうか。また、消費者の鶏肉の購買に変化 が現れてきているのでしょうか。 堀 川: タイの卸売価格は、輸出価格の動向をみて決めていますから、輸出価格が上昇 すれば、卸売価格が上がるという現象は大いにあり得ます。また、本来、上がる べき小売価格が下落しているのは、経済不況の中で鶏肉の消費が大きく減退し、 価格を下げざるを得ない状況に追い込まれているためではないでしょうか。あく まで想像に過ぎませんが、日本でも同じ様な現象が起こっているのではないでし ょうか。 工 藤: これまで、骨付きもも肉などの鶏肉を取り扱っていた業者が、価格が比較的安 価な内臓類などにシフトしている状況から、鶏肉の消費が減少しているためだと 考えられます。スーパーなどでは、価格の安い内臓類、余剰の手羽肉などの流通 が増加しています。国内の鶏肉価格は、輸出価格が上がれば卸売価格も上がると 思います。 長 塚: タイでは、国の政策を含めて輸出が優先します。そのため、輸出向けに余った ものが国内消費に向けられます。そのため、市場への供給数量は、輸出数量によ って大きく増減します。卸売価格は、国内の消費動向よりも、むしろ輸出を優先 した後に、国内市場へ出荷される数量の増減により決まってくると思います。 司会者: 日本の需要者は、価格以外の面で、タイの鶏肉に対してどのような要望をして おりますか。 工 藤: オーガニックチキン、地鶏、無農薬チキンなどの特殊鶏の要望があります。 司会者: 地鶏やオーガニックに対する日本側の要望は強いのですか。 堀 川: それほど強いわけではないですがあります。どこかがやると必ずできないかと 質問がきます。しかし、基本的には、我々のような会社の仕事は、異物混入がな い鶏を安い値段で買って、お客さんが求める納期にデリバリーすることです。
司会者: 最後に、98年のタイの日本向け鶏肉の輸出量を冷凍と調製品に分けてお聞かせ 下さい。97年のタイから日本に輸出された冷凍鶏肉は 8 万 8 千トン、鶏肉調製 品は 3 万 5 千トンでした。 工 藤: ちなみに、通関ベースの資料では96年度が 9 万 6 千トン、97年が 8 万 8 千 トンでしたから、今年は3割増の11万トンとみています。しかし、鶏肉調製品は、 円安の影響で、冷凍鶏肉ほど伸びはないと思います。もし、この円安が続くなら ば、しばらくの間、輸入が鈍くなるのではないかと思います。例えば、国産鶏肉 を使用して製造した鶏肉調製品のコストが、タイから輸入した鶏肉調製品より安 ければ、必然的に、タイからの鶏肉調製品の輸入は減ります。これが、逆であれ ば、タイからの輸入は当然増加します。しかし、全てがシフトできるというわけ ではありません。 長 塚: 今の勢いが続けば、冷凍鶏肉は3割増の11万トン前後、鶏肉調製品は昨年が31 万 5 千トンだったので、今年は 1 割増しで 4 万トン程度と考えています。 堀 川: 昨年末から今年の4月位までは、日本の原料鶏肉の価格が安かったので、国内 で鶏肉調製品を製造した方がコストが安くなっていました。その結果、鶏肉調製 品の輸出は伸びませんでした。ここへきて、日本の原料鶏肉の価格が上昇すれば、 タイの鶏肉調製品を輸入した方がメリットが出てくるかもしれません。 司会者: 常時、仕入れ価格が安い方にシフトしていくのですか。 工 藤: そういうことができるものとできないものがあります。できるものはどんどん シフトしていくと思います。 司会者: 以上でお聞きしたいことが終了しました。本日は長時間にわたり貴重なご意見 をありがとうこざいました。 本座談会の開催に当たり出席をお願いしたところ、業務ご多忙の中、快く出席 を頂きましたシンガポール日本ハム(株)バンコク駐在事務所工藤健雄氏、ニチ レイ(株)バンコク駐在事務所長塚清勝氏、住金物産(株)バンコク駐在事務所 西館卓哉氏、MIトレーディングサービス(株)堀川真巳人氏に、また、会場設営 などに大変ご協力を頂きましたジェトロ・バンコクセンター角田幸司氏に対しま して、この書面を借りましてあらためて御礼申し上げます。
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