生体牛輸出、新たな市場開拓に期待(豪州)


アジア経済危機以来、生体牛輸出が急減

 豪州の生体牛輸出は、東南アジア諸国向けの肥育素牛を中心に、ここ数年、著
しく増加し、97年には史上最高の80万頭を記録するなど、国内の肥育素牛供給に
影響を及ぼすほどの水準に達していた。しかし、昨年後半に多くのアジア諸国が
経済危機に陥って以来、これらの諸国の牛肉需要が急減し、アジア各国通貨の急
落から生体牛の輸出頭数も急激に減少した。中でも、中心的な輸出先となってい
たインドネシアは、最も壊滅的な経済危機に見舞われ、同国向け生体牛輸出は、
今年初頭にはほとんど停止状態となった。


新たな市場の開拓

 しかし、 7 月から始動したミート・アンド・ライブストック・オーストラリア
(MLA)の生体牛輸出担当者によると、このところ、アジア向け輸出の全般的な不
調とは対照的に、リビア、イスラエルなどの北アフリカ・中東諸国が、新たな生
体牛輸出先として脚光を浴びつつある。これらの地域は、従来、EUから生体牛を
輸入していたが、牛海綿状脳症(BSE)の発生以来、その輸入を抑制していた。

 こうした中で、先般、リビアは、国内の供給不足から8万頭もの生体牛輸入計
画を発表し、輸出国の注目を集めた。特に、同国は、豪州北部で生産される熱帯
種系の肉牛への需要が強いことから、豪州としては、当該輸入計画頭数の大半を
供給したいと期待を膨らませている。さらに、MLAは、豪州がイスラエルとの間の
家畜輸入検疫問題を決着させたことから、近い将来、同国向けに、3万頭程度の
生体牛輸出を実現できると見込んでいる。

 また、これとは別に、豪州は、ベトナムへの輸出についても交渉を進めており、
この度、同国から帰国した豪州北部準州の第一次産業大臣は、少なくとも20ヵ月
以内に両国間の家畜検疫問題を決着させて生体牛輸出を開始できる見通しになっ
た旨を報告した。


動物愛護団体による規制強化要求が今後の課題

 低迷する豪州生体牛輸出業界にとって、これらは久々の明るい話題となってい
るが、一方、同業界にとって気にかかる問題も生じつつある。

 先般、中東向けの生体牛輸送船が熱帯海域で嵐に遭遇し、1,200頭の肉牛のうち
263頭がへい死するという事故が発生した。これについて、荷主・船会社側は自然
災害による不可抗力と主張しているが、豪州の動物愛護団体である王立動物愛護
協会(RSPCA)は、荷主・船会社側の責任を追及するとともに、州政府および連邦
政府に家畜輸送に係る規制をさらに強化するよう強く求めている。  北アフリカ
および中近東は、豪州からの海上輸送距離が長いだけに、家畜輸出業者にとって
は、動物愛護問題の取扱いが今後の業界発展への課題となりそうだ。


元のページに戻る