海外駐在員レポート 

米国のブロイラー産業に おけるインテグレーション

デンバー駐在員事務所 藤野哲也、本郷秀毅




1 はじめに

 ブロイラー産業は、米国農業部門の中で初めて工業化が図られ、最も成功した
分野であると言える。ブロイラーの生産量は、86年に豚肉を、96年に牛肉を上回
り、1人当たり消費量も55年以降5倍以上に増加している。

 ブロイラー処理加工業者は、ブロイラーの生産から加工、流通、消費段階に至
るまでインテグレーション(垂直統合)によって一貫的に管理している。ブロイ
ラー産業における契約生産やインテグレーションの進展は、新しい技術への迅速
な対応、品質管理の改善、ブロイラーの安定供給、加工分野への進出などをもた
らした。これに加えて、ブロイラー産業がここまで成功した要因として、健康志
向や食の簡便性追求(ファストフードやデリカテッセン)などのさまざまな消費
者ニーズへの迅速な対応、生産効率追求による実質価格の低下、輸出拡大努力な
どさまざまな理由が挙げられているが、これらを可能としたのが、まさにインテ
グレーションであったと言える。

 今月は、ブロイラー産業におけるインテグレーションの歴史を振り返るととも
に、同産業が現在置かれている状況などについて報告する。


2 ブロイラー産業の歴史

(1)ブロイラー産業黎明期:採卵鶏の副産物

 ブロイラー産業の萌芽期は、1920年代にまでさかのぼる。それ以前は、ほとん
どすべての農家において、採卵鶏が飼養されており、鶏肉はその副産物にすぎな
かった。最初にブロイラーの年間生産に成功したのは、23年と言われている。当
時デラウェアの農婦がふ化場から500羽のひなを購入し、これを小さな納屋で育
てて400羽を2ポンド(900g)まで成長させて販売した。当時の販売価格は、生
体1ポンド当たり62セント(168円/kg、1ドル=123円で換算)であり、このニュ
ースが広まると、この地域では25年までに、約5万羽のブロイラーが育すうされ
るようになった。


(2)ブロイラー産業成長期:飼料会社が生産拡大を誘導、第2次世界大戦の明暗

 30年代当時は、採卵鶏の廃鶏や若どりが肉用として春先に出荷されていた。特
に若どりは人気が高かったため、「ニューヨークドレスド」(と鳥、放血、脱羽
されたもので、頭、足、不可食内臓は分離されていなかった。)として大量に冷
凍され、周年販売されていた。このため、飼料会社は農家に対してブロイラーの
周年生産を積極的に奨励するようになった。飼料会社は、農家に対してブロイラ
ーが販売されるまで飼料代の支払いを猶予する掛け売りを行うとともに、新規参
入者への融資を模索した。生産者の掛け売り利用割合は、35年までにひな購入が
約半分、飼料購入が約3分の2、燃料購入が約半分となっていた。しかし、ブロイ
ラー生産は、依然として疾病や季節変動が激しかったことから、かなりリスクを
伴うものであった。

 40年代のひなの事故率は10〜50%と高く、疾病対策が重要課題であった。40年
初期には、ニューイングランド、アーカンソー、ジョージア、テキサス、カリフ
ォルニア州などで集約的生産が始まったが、早くも52年には、このような大規模
生産者の生産量が伝統的農家のそれに追いつくこととなった。

 ブロイラー産業の成功の下地を作ったのは、第2次世界大戦であると言われて
いる。家きん肉は牛肉および豚肉と違い、戦時下における統制品とならなかった
ため、消費が飛躍的に増加するとともに、販売価格も上昇した。このため、ブロ
イラーの生産量は、飼料の品質低下や高い事故率にもかかわらず、40年から45年
の間に約3倍にも増加している。

 一方、最初のブロイラーの主産地であったデラウェア、メリーランド、バージ
ニアの諸州は、当時、全国生産の4割を担っていたが、そのほとんどを戦時調達
として連邦政府に買い入れられたため、終戦後には、国内市場を政府への販売を
要求されていなかった南部の生産者に奪われる結果となった。


(3)インテグレーション黎明期〜確立期:飼料会社によるインテグレーション
 の幕開け

 ブロイラー産業においてインテグレーションが本格的に開始されたのは、50年
代になってからのことである。当時、飼料会社は、ひなおよび飼料の売り込みに
躍起となっていたため、ブロイラー需給のアンバランスを引き起こしつつあった。
また、59年には、食鳥製品検査法が施行され、州間をまたいで流通するブロイラ
ーについては、米農務省(USDA)の検査に合格する必要が生じた。これを受け
て、処理加工業者は、同法に対応して衛生面の改善などのため施設の改築を行う
とともに、その多くは、自動加工機器の導入など処理規模の拡大を図った。処理
規模の拡大に併せて、処理加工業者は、自前のふ化場を建設するなど増産に努め
た結果、過剰生産を引き起こし、58年から61年の3年間でブロイラー価格は3割程
度下落することとなった。

 この価格の暴落をきっかけとして、飼料会社は、ふ化、育すう、加工の各段階
における需給バランスを安定化させる必要性に迫られる結果となり、ふ化段階か
ら傘下に収めていった。ふ化場を傘下に収めた飼料会社は、次なるステップとし
て、最終消費者の需要動向が最も的確に入手可能な加工段階への進出を図るべく、
処理加工場の吸収や処理加工場の建設を行った。

 飼料会社による生産から加工段階までのインテグレーションの結果、ブロイラ
ー取引市場が縮小し、独立系の処理加工場は、飼料会社と成鳥の購入契約を結ぶ
か、生産者に契約生産を依頼するかの道を選択せざるを得なくなった。一方、生
産者も離農、自己処理加工場の取得、または、自らがインテグレーターとなるか
のいずれかの道を選ぶこととなった。


(4)処理加工会社によるインテグレーションの完成:現状の姿へ

 以上のように、インテグレーションの原型は飼料会社によって作り出された。
しかし、70年代には、その主役は、飼料会社からブロイラー処理加工会社へと移
ることとなった。これは、72年の世界的な異常気象による穀物生産の激減および
旧ソ連による大量穀物買い入れなどによる穀物価格の急騰によってもたらされた
ものである。飼料会社は、ブロイラー生産コストの増大とブロイラー価格の低迷
によるダブルパンチを受け、ブロイラー産業からの撤退を余儀なくされたのであ
る。処理加工会社によるインテグレーションは、加工場の稼働率を最大とした大
量生産によるコスト削減を追求するとともに、消費者の需要に合った加工度の高
いブロイラー製品の供給を推進することとなった。

 インテグレーションによる生産管理を通じた技術革新の急速な浸透により、飼
料効率が飛躍的に向上した。加えて、自動化などによる規模拡大の進展や飼養効
率の向上により、100ポンド(45kg)の鶏肉を生産するために必要な労働時間は、
40年代後半に5.1時間であったものが、その30年後には、わずか0.1時間と労働生
産性も飛躍的に向上した。


3 インテグレーションの現状

 現在、インテグレーションがブロイラー生産量の95%を占めていると言われて
いる。そのうち、約85%が契約生産によって生産され、残りが処理加工業者の自
己所有する農場によって生産されている。以下、契約生産の内容およびインテグ
レーターである処理加工業者の実態について報告する。


(1)契約生産

@契約方法:

 その変遷とさまざまなプレミアム査定

 ブロイラー生産における契約生産は、基本的に時代の流れとともに清算勘定契
約から保証価格契約、均一報酬契約、共同分担契約、飼料転換契約、複合契約へ
と変化してきた。

ア 清算勘定契約

 初期における契約生産で用いられたもので、インテグレーター(当時は飼料会
社)が飼料などの生産資材を供給して、ブロイラー販売時にこれらの代金を回収
する契約である。生産資材やブロイラー価格および生産のリスクはすべて生産者
に帰属していたため、生産者の専業化に伴い批判の的となった。

イ 保証価格契約

 インテグレーターがブロイラー価格を販売時に保証する契約で、ブロイラー価
格のリスクはインテグレーターへと移るが、依然として生産資材価格のリスクは
生産者に帰属する。保証価格契約は、結果としてブロイラーの品質悪化を伴った
ため、利用されなくなった。

ウ 均一報酬契約

 50年代および60年代に広く利用されたのが均一報酬契約である。インテグレー
ターが、飼料、医薬品、ひなを供給し、ブロイラーの所有権を保有する。契約農
家は、ブロイラー1羽当たり、1ポンド当たりまたは週ごとの決められた単価によ
って契約料金を受け取ることになる。これによって、生産資材およびブロイラー
の価格リスクも生産のリスクもインテグレーターへ移ったが、生産者による経営
効率などの自助努力を評価することが困難だったため、この契約も下火になって
いった。

エ 共同分担契約

 契約農家の減少を食い止めるため、インテグレーターは均一報酬契約の変化型
を開発した。共同分担契約は、インテグレーターがひな、飼料、医薬品および燃
料を供給する一方、生産者は鶏舎、機械施設、労働力を供給する。そして、ブロ
イラーの販売価格からインテグレーターの経費を差し引いた収益をインテグレー
ターと生産者が分配する仕組みとなっている。なお、損失が出た場合には、イン
テグレーターがそれを負担することになっていた。しかし、インテグレーターは
生産資材の値上げに躍起となり、結果として分配すべき利益が減少していった。

オ 飼料転換契約

 飼料転換契約は、生産者による生産性向上を奨励するために発案されたもので、
均一報酬に加えて、飼料転換プレミアムが生体1ポンド当たりの飼料要求率に応
じて支払われるものである。これにより、経営努力に見合った報酬を得られるこ
とが可能となった。

カ 複合契約(業績契約)

 この契約は、今までの契約形態のさまざまな要素をミックスしたものである。
通常、複合契約は、均一報酬に加えて、さまざまなプレミアムが支払われるもの
を言う。プレミアムの査定基準には、収益分配、飼料効率、災害による死亡率な
どがある。これらのプレミアムの査定は、契約生産者と同じような生産者の業績
と比較して行われており、絶対的な基準があるわけではない。なお、プレミアム
査定はマイナスもあるため、生産コストが平均を下回った場合には、罰則として
契約料が減額されることになる。

A契約の内容:契約期間は平均9年

 通常、生産者は、土地、鶏舎、光熱水道費、労働力および修繕や維持などのそ
の他の運転経費を提供して、ブロイラーを飼養する。また、契約内容によっては、
生産者が鶏ふんの処理や鶏舎の掃除を規定している場合もある。

 他方、インテグレーターは、原種鶏、ふ化場、飼料工場、加工処理場を所有し、
ひな、飼料、医薬品を提供するとともに、獣医サービス、経営指導および生鳥の
運搬を行う。インテグレーターは、鶏舎の大きさや建設方法、技術の適用、ブロ
イラーの大きさやローテーションおよび飼料の配合率などのさまざまな生産過程
の意思決定を行っている(図1)。これにより、インテグレーターの必要とする
系統のブロイラーが契約生産者によって飼養されるため、インテグレーターによ
る統一的な品質管理が可能となり、製品の均一化を図ることができる。

 契約年数については、各インテグレーターによってさまざまであるが、その決
定権はインテグレーターにある。USDAの調査によれば、平均は9年で、ブロイラ
ー主要生産地域である南東部では11年となっている。また、契約生産により生産
および価格リスクはインテグレーターが負うこととなるため、生産者は、インテ
グレーターからの融資機会の提供を利用して、急速な規模拡大が可能となった。
◇図1:ブロイラー産業におけるインテグレーション◇

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(2)契約生産者の現状

 ブロイラー生産は、「ブロイラーベルト」と呼ばれる南東部の8州(アラバマ、
アーカンソー、フロリダ、ジョージア、ミシシッピ、ノースカロライナ、サウス
カロライナおよびテネシー)に集中しており、ブロイラー生産全体の約3分の2
がこの地域で生産されている。

 この理由としては、土壌が中西部に比べて肥よくでないこと、温暖な気候であ
ること、労賃が安いことなどが挙げられる。

@契約生産者数:

 その大部分がブロイラーベルトに集中

 USDA「1995 Agricultural Resource Management Study」による95年の調査結果
によれば、13,319のブロイラー経営体が契約生産を行っており、これらの経営体
は、アパラチア地域(バージニア、ウエストバージニア、ケンタッキー、テネシ
ー、ノースカロライナ州)、南東部(サウスカロライナ、ジョージア、アラバマ、
フロリダ州)およびデルタ地域(ミシシッピ、アーカンソー、ルイジアナ州)の
3地域にその82%が集中している(表1)。ブロイラー経営体のほとんどは、年間
販売額が5万ドル(約6百万円)を超えている。

 一方、インテグレーターは、契約生産者からブロイラーを回収するとともに、
ひな、飼料などを供給する関係から、これらの運搬経費を削減するため処理加工
場などが南東部に集中しており(図2)、契約生産者との強固な関係を維持して
いる。

 なお、97年農業センサス(農産物販売額千ドル以上を対象)によれば、ブロイ
ラーを飼育している経営体数は、約2万9千戸で、そのうち約2万4千戸がブロイラ
ーを出荷販売している。

表1 ブロイラー契約生産者の概要
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 資料:USDA「1995 Agricultural Resource Management Study」

A契約生産者の販売規模別分布:

 3分の2が複合経営

 契約生産者を販売規模別に見ると、年間38万1千ドル(4,686万円)未満の経営
体が55.3%と半数以上なのに対し、57万1千ドル(7,023万円)以上の経営体は21
.4%となっている(表2)。また、38万1千ドル未満の契約生産者の多くは複合経
営を行っている。全契約生産者に占める穀物販売額のシェアは51.4%となってい
る一方、96万5千ドル(1億1,870万円)以上ではブロイラーの専業化により、そ
のシェアはわずか4.2%に過ぎない。

 また、3分の2の契約生産者が、ブロイラー以外に肉牛、トウモロコシ、牧草、
大豆などとの複合経営を行っているが、それらの販売額は、契約生産者全体の農
産物販売額の15%にも満たない。
◇図2:主要なブロイラー処理加工場の分布図◇

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資料:USDA
表2 ブロイラー契約生産者の販売規模別概要
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 資料:USDA「1995 Agricultural Resource Management Study」
 注1:ブロイラー契約生産者13,319のうち、契約産品がブロイラーのみの者は
         12,479である。
  2:ラウンドの関係で合計とはかならずしも一致しない。

B生産者の契約相手先:

 88%が処理加工業者 

 契約生産者の中には、複数の契約相手先と契約する者もいるため、13,319の経
営体数に対して、契約数は13,386となっている。南東部においては、加工場、イ
ンテグレーター、他の農業経営体および協同組合などと幅広く契約生産を締結し
ている。一方、アパラチア地域、南東部およびデルタ地域では、ブローカーや投
資者および同一企業内の別部門との契約生産は全く行われていない。全国におけ
るブロイラー処理加工業者(加工場およびインテグレーター)合計の契約数は11
,808で、全体の88%に上っている。

C契約生産者と他の農業経営体との比較

 ブロイラー契約生産者と他の農業経営体の収支を見ると、契約生産の性格が明
らかとなる。表3および表4は、農産物の年間販売額が5万ドル(約6百万円)以上
のブロイラー契約生産者と家きんを飼育していない穀物および畜産経営体(以下
「他の農業経営体」という。)の収支などを比較したものである。

 95年のブロイラー契約生産者の平均現金収入は、86,048ドル(1,058万円)で他
の農業経営体250,478ドル(3,081万円)の約3分の1にすぎない。また、同様に正
味農家収入も約4割程度である(表3)。しかしながら、ブロイラーの粗利益は、
販売額1ドル当たり39セントと他の産品平均の21セントに比べて高いことから、
単純にブロイラー契約生産者が低収入とは言えない。

 収支計算で特質すべきは、ブロイラー契約生産者の素畜費や飼料費が他の農業
経営体と比較して極端に低いことであり、現金支出額は、他の農業経営体の約27
%にすぎない。現金支出の内訳を見ると、修繕、維持費、光熱水道料および労働
費のほとんどが契約生産者によって支払われるため、全体の約3分の1を占めてい
る。また、利子や保険料などの固定経費も約3分の1に上っている。

 なお、インテグレーターは、ひな、飼料や獣医師サービスの供給を行っている
が、これらの経費合計は、変動費の約6割程度になるものと推測される。

 このことは、貸借対照表からも見て取れる(表4)。ブロイラー契約生産者は、
家畜を飼養したり、飼料穀物を生産、保有する必要がないため、例えば、家畜評
価額は、7,892ドル(97万円)で、他の農業経営体28,678ドル(353万円)の3割以
下となっている。ブロイラー契約生産者の資産の約8割は、土地および建物で占
められている。鶏舎は生産者が提供するため、一番の投資額となっていることが
貸借対照表から読み取れる。建設費は、鶏舎のウインドレス化、温度管理のため
の機器設置や、鶏ふん貯蔵施設の建設などにより上昇傾向にある。

表3 年間販売額5万ドル以上のブロイラー契約生産者および穀物、
  畜産経営体の収支比較
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 資料:USDA「1995 Agricultural Resource Management Study」

表4 年間販売額5万ドル以上のブロイラー契約生産者および穀物、
  畜産経営体の貸借対照表比較
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 資料:USDA「1995 Agricultural Resource Management Study」


(3)処理加工場:5大加工場のシェアは53%

 98年の1週間当たり平均のブロイラー生産量は、5億9,583万ポンド(約27万ト
ン、可食重量ベース)であり、5大処理加工場のシェアは53%となっている(表5)。

 中でも第1位のタイソン・フーズ社のシェアが24.7%と圧倒的に大きい。これは、
98年に大手ブロイラー処理加工会社であったハドソン・フーズ社を合併したこと
が大きく貢献している。同社は、第2位のゴールド・キスト社と比較しても、2倍
以上の生産規模となっている。

 5大処理加工場のシェアは、83年37.3%、93年45.6%となっており、98年には50
%の大台を突破するなど、寡占化が進展している。

表5 ブロイラー生産規模別処理加工場ランキング(98年)
re-ust05.gif (5222 バイト)
 資料:Broiler Industry Survey, 1999
  注:週平均生産量は可食重量ベース


4 インテグレーションの効果

 インテグレーションにより、ブロイラー産業は目覚ましい発展を遂げることが
可能となった。この発展を支えたのは、市場変化への迅速な対応、生産構造の変
化、輸出拡大努力などである。ここで、ブロイラー産業の発展の経緯を消費およ
び輸出の面から見ることとする。

(1)消費:

 消費者ニーズを捉えて急増

 98年のブロイラーの1人当たり消費量は、73.5ポンド(33.3kg:小売重量ベース。
以下同じ)で90年の59.51ポンド(27.0kg)と比較すると23.5%増加している(図3)。
一方、この間、牛肉の消費量は、67.8ポンド(30.8kg、子牛肉除く。)から68.1ポ
ンド(30.9kg)へと横ばいで推移している。豚肉は、49.8ポンド(22.6kg)から52
.6ポンド(23.9kg)となっている。

◇図3:1人当たり食肉消費量の推移◇

 80年代前半までの消費の拡大は、インテグレーションによる生産量の増加およ
び生産・流通加工段階におけるコスト低減に伴い、ブロイラーの実質小売価格が
低下したことが大きく寄与している。しかし、その後の消費量の拡大は、これに
加えて業界がさまざまな努力を行ったことにより獲得されたものである。以下に
主な要因を紹介する。

@簡便化:丸と体から解体品、加工へ

 ブロイラー処理加工会社は、70年代まで、ブロイラーの約5割を丸と体のまま
流通させており、これらの丸と体は、小売店または主婦によって解体されていた。
しかし、80年代以降、処理加工会社による処理形態は、解体品へと急速に移行し
ている(図4)。これは、消費者の解体品志向、とりわけむね肉の需要が増加し
たことを反映している。

 97年の処理割合を見ると、解体品は65.6%、丸と体13.5%、加工調理品7.5%、
その他(レンダリング、ペットフード向け)13.4%となっており、解体品と加工
調理品のシェアが拡大している。

◇図4:ブロイラー処理加工会社における処理形態◇

A製品のブランド化:

 小売りの約半分がブランド製品

 インテグレーションは、ブロイラーの品質および斉一性の管理を可能としたた
め、処理加工会社は、自社製品ブランドを確立することとなった。「米国種鶏産
業における知的所有権の保護」の報告(ブゴス.G.E、88年)によれば、88年には
全国のスーパーマーケットにおけるブロイラー売上の半分がブランド製品であっ
た。また、消費者は、ブランド製品に対して一般の商品より14%プレミアムを支
払っても良いとしている。

B健康志向:脂肪の少ないむね肉へ

 ブロイラー(むね肉)は、牛肉、豚肉と比較して、脂肪、カロリー、コレステ
ロールが低く、脂肪摂取を極端に嫌う米国人の健康志向にマッチした食肉として
消費が拡大している。米国では、むね肉の価格がもも肉より高いにもかかわらず、
消費は伸びており、日本とは全く逆の構図となっている。

C新規市場開発:

 最近のヒット商品はバッファローウイング

 ブロイラー産業は、新規市場の開発に積極的に対応している。ファストフード
やレストランでは、ブロイラー・メニューの多様化が図られた。一方、ファスト
フード業界も鶏肉の価格優位性が魅力となり、チキンナゲットやバッファローウ
イングなどの新メニューを次々と採用していった。バッファローウイングは、手
羽を辛みのある香辛料を使って揚げたもので、現在、スナックサイズの商品とし
て需要が高まっており、卸売価格も上昇している(図5)。

Dライフスタイルの変化への対応:

 ブロイラーはHMRの主要商品

 共稼ぎや独身家庭が増加するにつれ、外食や中食の需要が増加傾向にある。最
近の調査によると、外食などの支出が家庭で消費される食料費を上回っている。
また、近年HMR(ホーム・ミール・リプレスメント)市場が急拡大しているが、
ブロイラーはその主要商品として、スーパーおよび小売店におけるデリカテッセ
ンコーナーで販売されている。これに対応して、処理加工会社においても、調理
加工品を高付加価値商品と捉え、さまざまな新商品を開発・販売している。

◇図5:ブロイラー卸売価格の推移◇


(2)輸出:もも肉需要を支える

 米国のブロイラー輸出量は、約30年前には、生産量の約1%を占めるにすぎな
かった。しかし、70年代半ばから、輸出量は緩やかな拡大傾向を示し、90年以降
は、大幅な増加に転じている。この結果、94年以降の輸出量は、生産量の12〜17
%台で推移しており、輸出市場はブロイラー産業にとって大きな存在となってい
る。輸出は、米国内で余剰となるもも肉が中心となっており、ブロイラー産業に
とって輸出市場は、非常に重要な存在となっている(図6)。

 94年から98年まで、ロシア(旧ソ連)がブロイラーの最大の輸出先となってい
る。これは、当時のブッシュ大統領が食糧援助として、ブロイラーのもも肉を旧
ソ連に輸出したことが始まりとなっている。その後、ロシアにおける安価なたん
ぱく質としてのブロイラーのもも肉の需要が高まり、ロシア向け輸出は急増し、
97年には、輸出量の44%を占めるまでに成長した。しかしながら、98年のルーブ
ル切り下げ以降、輸出は急減しており、99年のロシア向け輸出量は大幅に減少す
ると見込まれている。

 米国のブロイラー輸出は、世界における貿易量の4割以上のシェアを占めてお
り、世界一の輸出量を誇っている。ブロイラーのその他の輸出先国は、香港、日
本、メキシコ、ポーランドなどとなっており、今後、ロシア向け輸出の減少を補
うため、もも肉の内外需要のさらなる拡大努力が求められている。

◇図6:ブロイラーの最終仕向先◇


5 今後の課題

 以上のように、ブロイラー産業は、インテグレーションによるスケールメリッ
トを生かして効率性、低コスト化の追求を推進している。ブロイラー産業は、経
済性を追求することにより、国内外における競争力を強め、結果として消費者が
その恩恵にあずかるという構図を実現した。

 ところで、ブロイラー産業は今日まで、政府からの規制や保護政策を受けるこ
とはあまりなかった。現に政府は、ブロイラー価格が低迷した50年代後半から60
年代前半に価格安定対策を提案したものの、ブロイラー業界はこの提案に反対し
た。しかし、インテグレーターの合併やブロイラー経営体の大規模化により、農
村地域社会や環境への影響が懸念されている。また、処理加工業者の危害分析重
要管理点監視方式(HACCP)などを通じたサルモネラ菌やカンピロバクターなど
への食品安全性確保対策を確立することが業界に求められている。ここでは、ブ
ロイラー産業の進展に伴い発生したいくつかの問題点を紹介する。


(1)環境規制:

 強化される環境規制により生産地域の移動の可能性も

 ブロイラー生産に対する環境規制は、他の畜産と同様に72年に制定された水質
保全法がその根幹を成している。なお、非点源汚染源における環境規制に焦点を
当てた水質保全アクション・プランに基づく「畜産経営体のための全国戦略」な
どの畜産環境規制の概要については本誌「畜産の情報」(海外編99年3月号)に
おいて解説したので、ここでは、ブロイラー業界における自主的対応を紹介する
こととする。

 毒性のフィステリア(渦鞭毛虫)は、97年にメリーランド、バージニア州のチ
ェサピーク湾支流河口域において数千匹の魚を大量死に至らしめた。フィステリ
アは88年にその存在が確認され、90年初期には、ノースカロライナの河川におい
て約10億匹の魚が被害にあったとされている。当初チェサピーク湾における魚の
大量死の原因は、ノースカロライナ州における企業養豚からの家畜ふん尿の流出
が原因であるとみられていたが、結局、大規模ブロイラー生産者が多量の鶏ふん
を河川に流出させ、富栄養化を招いたことが原因であることが判明した。

 フィステリア事件を契機として、ブロイラー産業は、USDA、米環境保護庁
(EPA)および州政府と連携して、鶏ふん管理などの環境対策に積極的に動き出
すこととなった。

 全国鶏肉協議会(NCC)は98年12月、「家きん経営体のための環境フレームワ
ークおよび実行戦略(Environmental Framework and Implementation Strategy for 
Poultry Operations)」を取りまとめ公表した。フレームワークには、@鶏ふん管
理(適切な保管、記録保存、死亡した鶏の処理計画、栄養分利用管理、運搬計画
など)、A土壌散布に代わる鶏ふん利用方法の研究、B鶏ふんの栄養分が削減可
能となるような飼料配合の研究、C教育、D経済支援、E州への報告義務および
検査の強制プログラム確立などが柱となっている。

 今後、ブロイラー産業が環境対策への対応を誤れば、養豚産業で見られるよう
に、環境規制が緩い地域への生産地の移動が起こる可能性は否定できないとみら
れている。


(2)労働問題:

 安い労働力を背景に成長を持続

 ブロイラー産業の発展を支えてきた大きな要素に安価で大量な労働力が生産部
門、加工部門の両方で確保できたことが挙げられる。特に処理加工場においては、
そのほとんどが労働組合を組織しておらず、他に雇用機会のない農村地域に立地
していることから、低賃金での雇用を可能とした。労働者を人種別にみると、黒
人約60%、ヒスパニック約35%となっており、いわゆるマイノリティが圧倒的と
なっている。

 ブロイラー生産量の増加に伴い、ブロイラー処理加工場の労働者数は、97年に
は約24万人となり、93年より11%増加した。加工場の労働者の時給は、97年の平
均で8.42ドル(1,036円)で、食肉のパッキングプラント:10.47ドル(1,288円)、
全製造業:12.78ドル(1,572円)と比較して相当低いことがわかる。なお、ミシ
シッピ州立大学の調査によると、同州におけるブロイラー処理加工場の労働者の
年収は、平均15,592ドル(約192万円)であった。

 米労働省の97年調査によると、約3分の1のブロイラー処理加工場が安全および
賃金に関する規則に違反している可能性があるとしている。また、ブロイラー産
業における平均事故率は、全企業平均の2倍以上であるとしている。

 インテグレーションによって、ブロイラー産業は他の農業分野の先端を走って
いるが、こと賃金および安全性については、他の食肉加工場よりも条件は悪いの
が実態と言える。


(3)契約生産者との関係:

 高まる生産者の不満

 現在、85%のブロイラーが契約生産によって生産されているとされている。契
約生産は、生産者の生産資材コストおよび販売価格の変動リスクを低減するとと
もに安定した収入を得られることから、多くの生産者から支持されている。

 しかし、90年代に入って不満を持つ生産者も出て来ており、訴訟問題も起きて
いる。その不満として、

 @契約生産は、インテグレーターに多大な恩恵を与えている一方で、生産者を
  弱体化させ、しばしば小作人同然に扱うことがあること

 A業績契約では、その査定がインテグレーターの自由裁量によって行われるた
  め、不公平で片寄った判断をされる恐れがあること

 B飼料の配合方法や給与時間および鶏舎の建築方法などが契約でこと細かく指
  定されていることから、生産者の自由裁量を発揮する場が限られていること

 Cブロイラー産業が寡占化することにより、契約先が減少し、生産者の立場が
  弱体化すること

などが挙げられる。

 これまで、連邦および州政府の中には、ブロイラーの契約生産に関する規則を
設けようとする動きがあった。ノースカロライナやミシシッピ州では、90年代初
めに契約生産について一定の規則を定めようとしたが、実現はしなかった。また、
USDAは97年、他の生産者と比較してプレミアムを支払うとする業績契約に関す
る規則案を発表した。その際、USDAに提出されたコメントは、約3千4百に上っ
たが、その6割は、契約に関する規則制定に反対するものであったため、これを
棚上げしている。

 インテグレーターは、不平を漏らす生産者は、生産効率が悪く成功を収められ
ない者で、その数は非常に少ないとしている。一方で、業界内においては、イン
テグレーターと契約生産者の関係改善を図るため、新技術を採用した生産者に対
する低利融資の実施や生産者からのアイデアを取り入れるための生産者諮問委員
会の設置などの動きも出ている。


6 おわりに

 現在、米国の食品産業は、合併などによる大規模化・集中化が進展している。
農業分野も、今後さらなる変革を余儀なくされることであろう。米国農業が市場
志向性をますます強めるとすれば、今後の農業の行き着く先の1つとして考えら
れるのがブロイラー産業のような産業構造である。ブロイラー産業は、経済効率
のあくなき追求によって、消費者へは実質価格の低下という最大のメリットをも
たらした。

 ブロイラー生産は、生産規模拡大によるコスト削減や技術革新を通して、今後
とも拡大するものと見込まれる。また、国内消費は今までのように大幅増加は見
込めないものの、産業全体による新しい市場開発努力などによる成果は十分期待
できるものと考えられる。

 ところで、近年のブロイラー産業の成長を大きく支えたのが輸出量の拡大であ
る。ロシアの例を見るまでもなく、輸出市場には不安定要素も多くある。今後の
米国ブロイラー産業の成長を握るカギは輸出拡大にあると言っても過言ではない
であろう。

 また、大手処理加工会社には、国内では他の事業から撤退し、ブロイラー部門
に集中する一方、海外進出を図るなど、さまざまな対応を図っている。

 インテグレーションによる寡占化の進展により、国内需給はもとより、世界貿
易にどのような影響を与えていくのか、注視する必要がある。

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