農業技術者の人材不足が深刻化(豪州)


輸出ウェートが高まる農産物生産

 豪州の農業総生産額は、90/91年度から97/98年度にかけての7年間に、241億
豪ドル(約1兆9,762億円:1豪ドル=約82円)から318億豪ドル(約2兆6,076億円)
へと32%増加した。この間、主要な輸出品目である羊毛の国際市況の低迷や、ア
ジア経済危機による需要の低下があったにもかかわらず、農産物輸出額について
も143億豪ドル(約1兆1,726億円)から251億豪ドル(約2兆582億円)へと75%ア
ップし、農産物生産に占める輸出向けの割合も、金額ベースで59%から79%に拡
大している。


企業経営や高付加価値品目による生産が増加

 一方、農産物輸出の内訳を見ると、穀物、羊毛、牛肉が主要品目であることに
変わりはないものの、これらの伝統品目の割合が相対的に低下する一方、これに
代わり、乳製品、ワイン、カノーラ(西洋菜種:油糧種子)、コットン、砂糖、
各種花き園芸作物などの比較的新しい品目が大幅に台頭している。

 これら成長分野では、極めて大規模な酪農経営や広大なブドウ栽培農場など、
従来見られなかった企業的な経営や、新たな高付加価値品目が出現しており、こ
れらの管理運営や営業に関連する雇用機会が大幅に増加している。


農業従事者のうち管理運営・技術者の割合が大幅増

 豪州統計局のセンサスによると、全国の農業従事者数は98年6月時点で、約43
万7千人であり、ここ3年間で3万2千人増加している。このうち、自営の農場経営
者数は一貫して減少していることから(同時点で約22万8千人)、管理運営・技
術者などの被雇用者の割合が大幅に増加していることになる。

 シドニー大学オレンジ農業校のチュードレー教授によると、同大学に寄せられ
る農業関連の求人のうち、最近、特に目立って増加しているのは、大規模酪農・
養豚・フィードロットの管理運営者、バイオテクノロジー関係の技術者、ブドウ
栽培や花き園芸作物栽培の専門知識を有する者となっている。また、これら農業
生産に直接関与する職種のほか、農業経営・技術コンサルタント、高付加価値製
品の開発コンサルタント、農業ジャーナリストなどのサービス業関係にも及んで
いる。

 地域雇用エージェントからの聴取によると、約15年前までは、農業に関連する
求人全体のうち、特別な技術や知識を条件としない職種の割合が約半数を占めて
いたのに対し、最近では、全体の90%が必要な学歴に加えて何らかの特殊な知識
や技術を雇用条件に加えているとのことである。


有利な待遇にもかかわらず技術者の数が不足

 こうしたことから、チュードレー教授は、今後、必要とされる有能な農業技術
者が大幅に不足することを懸念している。実際、同農業校の学生も、平均失業率
が極めて高い中で(全世代平均で7.5%、若年層はさらに高率)、全員が卒業後
間もなく希望する職を得た。従来、農業関係の職種は賃金などの条件面で不利と
されていたが、現在では、高度な知識と技術を条件に、相当有利な待遇が提供さ
れている。それにもかかわらず、求人側は、有能な技術者の絶対数が大幅に不足
していることを訴えている。

 豪州の農業が、伝統的な家族経営からハイテク産業へと質的な転換を遂げる中、
人材面で意外なアキレス腱が露呈していると言える。

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