豊作予測の中、節目を迎える食糧流通改革(中国)


今年の食糧生産は前年をやや上回る見込み、夏作も好調

 農業部が発表した99年の食糧(穀物、マメ類、イモ類)生産は、作付面積が1
億1千2百万ヘクタールと前年より若干減少したにもかかわらず、優良品種の導入
などで史上3番目の豊作となった昨年の4億9,250万トン(速報値)をやや上回る
見通しとなった。飼料穀物として注目されるトウモロコシの作付面積は豊作とな
った昨年並みで、稲および油料作物が増加、小麦および大豆は減少とされている。

 また、6月までにほぼ収穫が完了する夏季収穫食糧を見ても、作付面積が前年
比で2.5%減少したものの(3,107万ヘクタール)、昨年の1億1,310万トンをやや
上回ると予測されている。夏季収穫食糧は前年の秋季に作付けされた春小麦およ
び早稲が主体となっており、通年で収穫される全食糧の約4分の1を占めるにすぎ
ないが、その好不調は食料品の消費支出全体に占める割合が高い中国においては、
今後の物価動向に与える影響の大きさから、重要な意味を持つと言えよう。


5年連続の豊作、食糧流通改革を推進

 12億の人口を抱える中国では、農業は国の安定を図る上からも重要な産業であ
り、近年は第9次5ヵ年計画(1996〜2000年)で策定された、2000年までに5億ト
ンの食糧生産を目指す方針で食糧の増産が図られてきた。その結果、本年も含め
ると5年連続の豊作(96年以降は5億トン水準)を達成することとなる。

 このような状況の中、98年3月に首相に就任した朱鎔基首相は、食糧流通改革
の徹底を重要政策の1つに掲げ、これを精力的に推進してきた。中国では近年の
豊作による食糧価格の低下から農民の生産意欲の減退が懸念されていた。また、
多量の食糧在庫を抱えた国有食糧買付・備蓄企業の販売難も顕著化していた。同
改革は、@農民から生産コストに見合う保護価格で食糧を買上げることで農民の
生産意欲を刺激するとともに、農民の収入を増やすことで農村の消費市場を活性
化し内需拡大を図ることや、A余剰食糧が正規のルート以外から市場に流れるこ
とにより生じる価格乱高下を防ぐため流通を国有企業に独占させるとともに、国
有企業の徹底した合理化による赤字発生防止などの国有企業改革を狙ったもので
あった。


一部の品目で保護価格による余剰品の無制限買い上げを中止

 こうした中、本年5月13〜14日北京で開催された全国食糧流通体制改善工作会
議で朱首相は、農民が政府に売り渡す国家備蓄用食糧および自家用食糧を除いた
余剰食糧を保護価格で無制限に買い上げる制度を変更し、需要が劣る低品質の品
目はこの制度から除外することを発表した。

 これは、近年の豊作による余剰食糧を無制限に買い上げることによる財政負担
の増大や中国農産物の競争力低下などを懸念してのこととされている。また、国
有食糧買付・備蓄企業が政府から備蓄補助金を十分に得ているにもかかわらず、
積極的な販売努力を行っていないとも指摘している。現在のところ、保護価格に
よる無制限買付けの対象外となるのは東北地方の春小麦、南部地域の長粒系早稲、
揚子江以南の低品質小麦など需要が低い品目に限られているが、財政ひっ迫など
の事態が生じれば、将来的に食用としての位置付けが低い飼料用トウモロコシな
どへ波及する可能性も否めない。

 今年の作付けは既に終了していることから、今年の措置は保護価格の引き下げ
にとどめると同時に農民に注意を促し、来年から実施するとしているが、今回の
措置は、保護を前提に進められてきた食糧生産の分野にも大なたが振るわれ市場
経済の原理が導入されることを意味しており、食糧流通改革の1つの節目として
注目される。

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