ブラジル中西部の大牧場

(ブエノスアイレス駐在員事務所 浅木 仁志、玉井 明雄)


ひとくちメモ

 ブラジルは、国土面積855万km2で日本の約23倍、約1億6千万の人口は
開発の進んだ南東部に集中し、農業のほか鉱工業も盛んな南米の大国である。

 ブラジルの大家畜生産は広大な自然草地を利用した肉牛飼育が主体で、人口と
同じ約1億6千万頭が飼育され、中西部、南東部、南部にその8割以上が集中し
ている。

 今回訪問した帝人牧場(帝人(株)により、74年に設立)は、中西部のマット
グロッソドスル州の、州都カンポグランデ("巨大な田舎"の意)から南東に250
キロ入った、ノバアンドラディナ郡の、セラード(サバンナ)と呼ばれる熱帯草
原に立地している。

 帝人牧場では、放牧可能な牧草地面積19,000ヘクタールに約16,000頭の肉牛
を飼育、周年繁殖で年間3,500〜4,000頭の子牛を生産し、平均450kgの去勢牛を
月約120頭、枝肉換算で約31トンの牛肉を近くの食肉処理加工施設(インデペン
デンシア社)に出荷している。

 同牧場で生産された牛肉は高品質で、イスラエルやEU向けになるという。


 総面積28,000ヘクタールのなだら
かで広大な牧場、写真はそのほんの
一角である。牧草地、牛群、全長が
450キロにも及ぶ牧柵、庇蔭林、水源
地などが整然と連なる。年間降雨量
は年々減少し近年では1,300ミリ、ア
フリカのサバンナを連想させる景色
だった。

    
 FAZENDA TEIJIN(帝人牧場)
の入り口。ここから牧場事務所まで
10キロ以上ある。帝人農牧開発の谷
社長(左)、帝人牧場の林場長(右)、
林場長は設立当初から今日に至るま
で現場で管理運営にあたっている。
 ゼブウ(Zebu、瘤牛)の短角グル
ープに属するネロール種(Nellore)。
オンゴール種(Ongole)とも呼ばれ、
同牧場で主体となっている品種であ
る。この雌にヨーロッパ系品種の雄
を交配し、雑種強勢を利用した交雑
種も生産している。ゼブウはき甲部
に肩峰と呼ばれる隆起があり、耐暑
性に優れ、ダニや風土病に強い。

    
 ネロール種には有角と無角があり、
無角ネロールが純粋種との説明だっ
た。写真のようにゼブウは、皮膚が
緩やかに襞状に垂れ下がり、おだや
かな顔付きをしている。
 カンシーン種(Canchim)の雌牛。
ネロールの血が3/8、シャロレー
の血が5/8導入されている。カン
シーン種は最初にブラジル農牧研究
公社(Embrapa)が作出し、その
後広く普及した。
  
 カンシーン種(Canchim)
の雄牛。最近はネロール種にレッド
アンガス種を交配する傾向が見られ、
レッドアンガスの耐暑性と肉質の良
さがポイントになっているという。
 ゼブウの、角が側方に湾曲して伸
びるグループに属するギル種(Gir)。
運良く早朝に一頭だけいるところを
ファインダーに捉えることができた。
ゼブウの乳用種はすべてこのギル種
に由来するといわれている。

    
 サンタガートルデス種の雄牛。ネ
ロールの血が3/8、ショートホー
ンの血が5/8導入されている。サ
ンタガートルデス種は、本来ゼブウ
の品種間交配などで作出されたブラ
ーマン種とショートホーン種を高配
して作出されたものをいうが、ブラ
ジルではネロール種が一般的で、雌
側の交配の基礎牛となるようだ。

 同牧場で働く17人の牧童(ガウチ
ョ)のリーダー格。給与は少ないが、
家屋、土地や食料をはじめ生活必需
品はすべて支給されるとのこと。乗
っているのは馬ではなく騾馬(ラバ)
である。

    
 ブラジル風の焼肉、シュラスコ
(Churrasco)。鉄串に刺して炭火
で焼いた牛肉を、串ごとテーブルに
運び大きなナイフでスライスして食
べる。部位別に次々と鉄串に刺して
運ばれるため、上手に間をあけて食
べないとすぐに満腹になってしまう。

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