望まれるトウモロコシの安定的確保(インドネシア)
口蹄疫の侵入阻止のため欧州産飼料穀物などの輸入を制限
インドネシア政府は先ごろ、口蹄疫の侵入を阻む手段の一環として、口蹄疫の
発生が見られる欧州およびアルゼンチンからの飼料穀物の輸入を事実上禁止した。
併せて、加熱処理されていない中国産トウモロコシについても、同様の措置が取
られた。
畜産物の需要増大に伴い、インドネシアが輸入する飼料用トウモロコシの数量
は、年々増加する傾向にある。インドネシア中央統計局によると、99年10月〜20
00年9月の間に91万トンが輸入され、その内訳は、中国産が70万トン、米国産が
17万7千トン、アルゼンチン産が3万1千トンとなっている。在インドネシア米
国大使館は、アルゼンチン産や中国産の輸入が制限されることで、今後は米国産
の輸入シェアが大きく伸びるとの見解を示している。
なお、今回の輸入制限措置は、同国農業大臣の行政指導に基づくものであり、
世界貿易機関(WTO)へは通報されていない。
飼料穀物の不足で鶏肉輸入も必要?
インドネシアの伝統的な料理であるナシ・アヤム(鶏肉を添えた焼き飯)など
に代表されるように、同国で最も国民に親しまれている食肉は鶏肉である。貿易
省によると、昨年、養鶏業で飼料として消費されたトウモロコシは約250万トン
で、そのうちの多くは輸入品である。鶏肉消費量も年々増加しており、インドネ
シア養鶏協会によると、今年の家きん生産は、前年比23%増の8億羽に上ると予
測されている。
しかし、一部のエコノミストは、輸入制限により飼料用トウモロコシの手当て
が十分にできなくなると予測されることから、同国は今後、トウモロコシととも
に一定量の鶏肉輸入を行う必要もあると指摘している。同国は昨年末、米国産鶏
肉の輸入を、「ハラール(イスラム教の教義にのっとり製造された食料品)」の
順守が疑わしいとして禁止したが、これは、大量に流入する安価な米国産もも肉
に対抗するための措置とも言われている。
一方、インドネシア養鶏協会によると、米国において好まれるむね肉の価格が
1kg当たり2.7ドル(約343円:1ドル=127円)であるのに対し、需要が弱いも
も肉は0.5ドル(約64円)と5倍以上の開きがあることから、米国はむね肉に利
益を転嫁する形で、もも肉を安価でインドネシアに輸出することが可能であると
している。
こうしたことから、同協会は政府に対し、米国産鶏肉の輸入禁止措置の継続を
訴えるとともに、同国同様、安価な米国産鶏肉の輸入増加に不安を抱くタイ、フ
ィリピンおよびマレーシアとの4ヵ国で構成するアセアン鶏肉生産者連合全体で、
米国産鶏肉の流入阻止を図っていく動きを強めている。
漁夫の利を得たタイのトウモロコシ輸出
一方、インドネシアの輸入制限は、タイのトウモロコシ輸出にも思いがけない
好機をもたらしている。タイのトウモロコシの年間生産量は約450万トンで、国
内需要とほぼ均衡していることから、本来、輸出余力は乏しいといわれる。しか
し、ある大手農産物輸出会社によると、タイの今年のトウモロコシは豊作と予測
されており、同国の輸出意欲は高まっているとされる。昨年、タイのトウモロコ
シ輸出量は約2万トンであったが、同社によると、今年はすでに7万5千トンの
売買が成約したという。
インドネシアでは現在、大統領の弾劾問題による政局の混迷化などで社会不安
が増大しつつあり、食肉をはじめとする食料の不足は、これに一層拍車をかける
恐れがある。トウモロコシは、国民にとって最も重要な食肉である鶏肉生産を支
える飼料原料でもあり、その安定的な確保が望まれている。
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