中国、最近20年余で最悪の干ばつ被害に
政府は78年以来最悪と発表
中国では華北部や東北部を中心に、春先からの降水量が例年より大幅に少なく、
大規模な干ばつ被害が憂慮されている。中国水利部の張基堯副部長は6月21日、
記者会見の席で、
@ 中国北部などを中心に、78年以来最悪の干ばつ被害が拡大していること
A 大型ダムの平均貯水率が前年比60%を割り込んでいること
B 全国の耕地面積の約22%に当たる2,938万ヘクタール(日本の耕地面積の約
6倍)が影響を受け、特に小麦とトウモロコシに大きな被害が出ていること
C 6月上旬には、農村部の2,260万人と家畜1,450万頭が飲料水の不足に陥る
状況となったこと
などを明らかにした。
被害が特に深刻なのは、山東省の煙台市および威海市を中心に天津市、遼寧省
大連市、河北省唐山市など全国17省の364都市で、1日当たり平均1,305万立方
メートルもの水が不足し、都市部の住民2,198万人にも影響が出ている。
干ばつの原因としては、@春先からの降水量が、例年に比べ4〜7割も少ない
こと、A平均気温が、例年より2〜3度高いこと、B黄砂飛来と強風による表土
消失が増加していること、C河川の水量が少なく、全国のダム貯水量が4割以上
減少していることなどが挙げられている。その一方で、急激な自然破壊による河
川流量や農地保水量の減少、工業用水の濫用など、人災的な要素を指摘する声も
ある。
干ばつ対策に副首相が陣頭指揮
こうした中、中国共産党と国務院(内閣)は事態を重視し、6月初旬には江沢
民国家主席(中国共産党総書記)と朱鎔基国務院総理(中国共産党中央政治局常
務委員)が渇水対策の推進を指示した。また、温家宝国務院副総理を長とする国
家洪水干ばつ対策総指揮部も組織され、温副総理自ら被害が深刻な山東省などを
視察するとともに、天津市、河北省、遼寧省、河南省など省・直轄市の幹部を集
めた対策会議も主催した。会議では、都市部への給水確保や農村部での飲料水確
保、財政負担と各省・直轄市幹部の責任体制なども話し合われたもようである。
なお、同総指揮部は国家発展計画委員会、民政部、財政部、建設部、水利部お
よび農林部などにより組織され、今後、被害が大きな河北省、山西省、黒龍江省、
安徽省、河南省、四川省、陜西省、甘粛省、内蒙古自治区および寧夏回族自治区
の8省2自治区へも調査に赴くこととなっている。同総指揮部は各地の実態を把
握し、それぞれの地域に適応した有効措置の選択や被害の補償、住民や家畜の飲
料水確保などに当たる。
イナゴの大発生に鶏、アヒルも"出陣"
農村部などでは干ばつに加え、高温の影響でイナゴやバッタが大量にふ化、す
さまじい勢いで繁殖を繰り返し、水田や畑などの農作物を食い荒らす二重被害も
深刻となっている。小麦やトウモロコシなど主要な穀物生産地である山東省では、
イナゴの被害が3万ヘクタールに達する可能性もあるとみられている。
これらイナゴなどの大半は、「東亜飛蝗」(「蝗」はイナゴのこと)と呼ばれ
る大型種で繁殖力が強く、食性も強い上、殺虫剤に対する抵抗性も増していると
いう。このため、寧夏回族自治区の人民政府所在地であるウルムチ市では、殺虫
剤による作業に加え、1万5千羽以上の鶏とアヒルが駆虫のために投入された。
同自治区の被害面積は約100万ヘクタール、このうちウルムチ市の被害は約2万
ヘクタールに達し、イナゴの密度は1平方メートル当たり40〜50匹程度とされて
いる。
湖南、広東などは豪雨の被害
華北部や東北部、西北部などが干ばつにあえぐ一方、湖南省や広東省などの中
南部は、逆に豪雨による被害に苦しんでいる。
6月上旬から断続的に雨が振り続いている湖南省では、6月下旬の時点で4万
7千ヘクタールの農地が被害を受け、約24万6千頭の家畜が死亡した。家屋の倒
壊なども含め、被害総額は9億7,510万元(約146億3千万円:1元=15円)にも
上るという。
また、同じく6月上旬から降雨の続く広東省では、6月19日現在、土砂崩れな
どにより14名が死亡、農作物や家屋の被害総額は3億9千万元(約58億5千万円)
に上るとされる。同省海豊県では、3千人が農地を失い、転居せざるを得ない状
況に陥っている。
これら一連の干ばつや洪水は、自然要因だけでなく、人口増加やかんがい・工
業用水の使用増、無計画な農地開拓のための森林伐採や深刻な砂漠化の進行など
も関係しているといわれており、中山間地の農地を森林に戻すなど、このところ
環境保護政策に重点を置き始めた中国政府の対応が注目される。
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