貿易促進権限の獲得に動き出すブッシュ政権(米国)


94年失効の権限獲得への動きが本格化

 ブッシュ政権の通商政策における最重要課題である貿易促進権限(Trade 
Promotion Authority)の獲得に向けた動きが本格化し始めた。

 貿易促進権限とは、行政府が議会から通商協定に関する交渉権限を与えられ、
議会には、協定の実施法案について、その賛否のみを一括して問うことで足りる
という仕組みであり、以前はファスト・トラック権限と呼ばれていたものである。
これは、先のガット・ウルグアイラウンド交渉が終結し、世界貿易機関(WTO)
協定への署名が行われた94年に失効したままの状態となっており、97年に当時の
クリントン大統領もその再取得を提案したが、貿易相手国に対して労働・環境基
準の確保を求める権限を付与すべきか否かをめぐって議会の支持が得られず、断
念せざるを得なかったという経緯がある。


権限の早期取得で自由貿易協定などへ弾みの意向も

 ブッシュ政権は、この貿易促進権限の早期取得により、米国のリーダーシップ
の下、ヨルダンやシンガポールなどとの自由貿易協定や、4月の米州サミットに
おいて、2005年末までの発効を目指すことが確認された米州自由貿易協定(FT
AA)実現に弾みをつけるとともに、11月に中東のカタールで開催予定のWTO閣僚
会合における新ラウンド交渉のスタートにもつなげたいとの意向である。

 こうした中、6月13日に貿易促進権限法案が下院貿易歳入小委員会のクレーン
委員長(共和党)によって提出された。これを受け18日には、ブッシュ大統領の
主催により、ベネマン農務長官やゼーリック米通商代表部(USTR)代表の同席の
下、本法案を支持する農業関係78団体の代表などを集めた会合が、ホワイトハウ
スで開催された。スピーチに立った大統領は、EUの牛肉の二次関税が91〜177%、
日本の小麦が同242〜256%、カナダのバターが同299〜314%に相当することを
例に挙げ、「米国の農業者は信じ難い貿易障壁に直面している。本政権が行うべ
き任務は、農産物のさらなる市場開放である」として、法案成立への一層の協力
を呼びかけた。


一方では足並みの乱れも

 こうした一方で、関係団体や議員の間には、本件に関する足並みの乱れもある。
中小の家族経営の維持を目標とするナショナル・ファーマーズ・ユニオンは、議
会での修正を通じた意見の反映ができないとして、従来から貿易促進権限の付与
には反対の立場をとっている。他方、全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、同
法案への支持を表明しながらも、

@ 米国産牛肉にとって、ホルモン牛肉問題で輸入を制限しているEU、比較的高
 関税を設定している日本や韓国などのアジア市場が重要であること

A 米国は世界最大の牛肉輸入国でもあり、他の輸入国のアクセス改善なくして、
 FTAAの中の輸出国を相手とした米国市場の一方的な開放はできないこと

 を理由に、WTOの下での多国間交渉を優先させるべきであり、FTAAの創設には
  反対との立場を明らかにしている。


貿易促進権限法案の早期成立にはさらなる困難も

 こうした中で、自由貿易推進派としても名高い上院財政委員会のボーカス委員
長(民主党)が、提出法案から欠落している労働や環境に関する条項の追加を求
めるとともに、交渉の合意内容が、交渉目的にかなったものかどうかを議会で審
議するプロセスも設けるべきであるとして、独自の法案を提出する構えを見せる
など、民主党議員を中心とした同法案への抵抗は大きい。

 また、同法案の共同提案者として名を連ねていた下院農業委員会のコンベスト
委員長(共和党)も、98/99市場年度における米国の国内支持に関し、USDAが6
月22日、緊急農家救済策として措置された市場損失支払い(直接固定支払いを受
けた生産者に対する追加的支払い)を、「黄」の政策に分類してWTOに通報する
との意向を表明したことを不服として、法案への支持を取り下げ、共同提案者か
ら離脱するという事態も起きるなど、その早期成立にはさらなる困難が予想され
る。

元のページに戻る