ラオスの畜産事情

(シンガポール駐在員事務所 小林 誠、宮本 敏行)




ひとくちメモ

 ラオスは、86年から地方分権と民営化を中心とする政策に移行し、96年ま
での間は年率7%以上の経済成長を遂げた。しかし、97年後半から東南アジア
を襲った通貨危機の影響で、タイ向けを中心とした輸出が伸び悩み、同国の経済
も一気に落ち込む結果となった。

 こうした中、国民の約8割が農業に従事している同国では、GDP(国内総生産)
の約5割を占める農業への期待が再び高まっている。とりわけ畜産は、森林の伐
採や焼畑の増加により林業が衰退する中にあって、農業GDPの4割を占める基幹
部門である。2000年の同国の家畜飼養頭羽数は水牛が103万頭、牛が110万頭、
山羊・羊が12万頭、豚が143万頭、鶏が1,309万羽となっている。

 同国の畜産は、牛・水牛の役用を中心に発達してきており、豚や鶏は庭先ある
いは裏庭での副業的なものが中心で、家畜の95%以上は小規模農家に飼養されて
いる。しかし、首都ビエンチャン近郊では近年、規模のメリットを生かした養豚
・養鶏場なども誕生しており、畜産を農村開発の中心と位置付け、畜産振興を推
進している政府の家畜増産・普及センターとともに同国の畜産振興の担い手の一
つとして、今後の活躍が期待されている。
 FAOの援助により79年に設立さ
れ、その後政府に移管されたノンテン
種豚場。同国ではランドレース、大ヨ
ークシャーおよびデュロックの3元交
配が主体であり、こうした種豚用の子
豚を年間2千頭を農家に販売している。
販売価格は10kg程度の子豚について20
万キップ(2,600円:100キップ=1
3円)を固定基準価格とし、体重がこ
れを上回るものは1kg当たり9,000キ
ップ(約117円)を上乗せする。

    
 農家の豚舎。木製の板床、柵に屋根
をかけただけの簡単な施設。通風設備
などがないため、日中は非常に暑く、
冷却のため、ホースで直接放水してい
る。
 ラオス最大のバニット養豚場内部。
8,0009,000頭の肥育豚、1,100頭の繁
殖雌豚、50頭の繁殖雄豚を飼養する。
子豚は1015kgの段階で1kg当たり9,
50010,000キップ(約124130円)
で一般農家に売却される。ラオスはタ
イとの国境線が長く、圧倒的な生産量
を誇るタイ産の価格次第で価格が変動
する。2000年の価格は、タイ産の生産
過剰により特に低調で年最高価格が8,
200キップ(約107円)と同農場の採算
ラインを割り込む水準であった。これ
につられて肉豚価格も低下し、一般農
家の養豚の収益性も著しく悪化した。

    
 養鶏産業の普及のため、政府により
95年に設立されたノンテン種鶏場。ベ
トナムから導入した卵肉兼用のタンフ
アン種を県の種鶏場に配布しているほ
か、農家にも在来種との交雑種を販売
している。初生ひな価格は1羽当たり
2,500キップ(約33円)である。
 ラオス国内唯一の商業規模のビエン
チャン市立ドンド養鶏場。FAOと日本
の協力により設立された後、75年に政
府に移管されたが、今年2月、ビエン
チャン市に再移管された。現在の飼養
羽数は3千羽で、初生びなは系列のド
ンバン種鶏場から供給されている。

    
 農家脇の路傍で草を食む在来牛。発
展途上国の農業において、牛は水牛と
ともに役用として欠かせない存在であ
り、政府も頭数の維持には神経を尖ら
せている。
 ラオス唯一のナボン酪農場。スウェ
ーデンとのジョイント・ベンチャーに
より、95年に設立された。タイのチョ
クチャイ農場からホルスタインとサヒ
ワール種の雑種(ホルスタインの血量
75%)160頭を3年かけて輸入し、現
在では総頭数200頭(育成牛、雄牛を
含む)を飼養、このうち搾乳牛が44頭、
乾乳牛が16頭となっている。1頭の泌
乳量は1日当たり11リットル程度。

    
 ビエンチャン市営の「近代的と畜場」
という名称のと畜場。71年にニュージ
ーランドの援助により設立され、98年
に国から市へ移管された。国内唯一の
近代的と畜場だが、30年間にわたり設
備の更新がなされておらず、老朽化が
著しい。1日当たり水牛70頭、牛10頭、
豚120頭程度を処理し、仲買人に販売す
る。仲買人は隣接する小屋で解体し、
市場へ運ぶ。
    
 農場に付属した生乳処理施設。1日
当たり500リットルの殺菌乳のほかヨ
ーグルト、ホイップ・クリーム、バタ
ーなどを生産する。牛乳価格は1リッ
トル紙パックで7000キップ(約91円)
で、消費者の7割は外国人である。ラ
オスにおける乳製品のマーケットはい
まだ小さく、タイ産の牛乳との競合も
あって、利益を十分に上げるまでに至
っていない。

    
 ビエンチャン市内のウェット・マー
ケット(伝統的な常温での対面販売市
場)の畜産物売り場。価格はおおむね
1kg当たり、地鶏が13,000キップ(約
169円)、豚肉が12,500キップ(約163
円)、牛肉が20,500キップ(約267円)
である。

元のページに戻る