タイの鶏肉の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○米国の鶏肉輸出攻勢で緊張感高まるタイ鶏肉業界


 昨年来、EUへの輸出が好調でさらに市場を拡大したいタイのブロイラー産業と、
ロシアの経済危機により大きな市場を失った米国ブロイラー産業との、輸出市場
をめぐる攻防が続いている。タイ側には、米国が本格的にアジア市場に進出して
きた場合には、コスト面から太刀打ちできないとのあせりもあるようだ。


衛生基準と関税率をめぐるタイと米国との攻防

 昨年、米国産ブロイラーの輸出攻勢により、タイを含むアジア諸国のブロイラ
ー産業は打撃を受けてきており、東南アジアで最大の輸出実績を有するタイのブ
ロイラー産業も緊張感を高めている。現在、タイ産ブロイラーは、米国が自国の
衛生基準に達していないとして輸入を許可していない。これに対し、タイのブロ
イラー産業界は、タイ産ブロイラーは米国より衛生基準の厳しいEUへの輸出が可
能であり、EUへの輸出がない米国が、衛生基準を盾にタイ産ブロイラーの輸入を
阻止しているのは、非関税障壁にほかならないとして、強く反発している。

 このようなタイのブロイラー産業の反発の背景には、米国が国内農業に対して、
補助金を含めた手厚い保護政策をとっているのに対し、タイでは政府の補助がほ
とんどなく、種鶏や飼料穀物のような生産資材のほとんどを輸入に依存している
現状では、とうてい太刀打ちできないという焦りがある。また、米国の輸出鶏肉
の中心が、米国内で需要度の小さい骨付きもも肉であることから、米国のアジア
向け輸出価格は一種のダンピングであるとの指摘もある。実際、フィリピンでは
昨年、米国産骨付きもも肉の輸入により、市場価格が約30%も下落している。イ
ンドでも米国産鶏肉の輸入により市場価格が大幅に下落したため、インド政府は、
99年にいったん100%から35%に引き下げた関税率を、再度100%に引き上げる措
置をとっている。

 一方、タイの大手スーパーでは、昨年から米国産野鳥肉の販売が開始され、市
場への浸透が始まったが、これと同時に、米国はタイ政府に対して関税率引き下
げの前倒しを求める交渉を行っている。現行の世界貿易機関(WTO)の約束では、
タイの鶏肉の関税率は2004年までに42%から30%へ引き下げられることになって
いるが、米国はこれを即刻10%まで引き下げ、七面鳥や野鳥肉にも適用を拡大す
るよう求めている。しかし、このような低関税率では、タイ産ブロイラーはタイ
国内市場での価格競争力を維持できないとして、生産農家を含めて産業界での反
発が過熱している。


新たな抗生物質禁止の動き

 こうした中、タイのブロイラー産業界は、米保健社会福祉省食品医薬品局(F
DA)が、新たに2種類の抗生物質(Sarafloxacin,Enrolfloxacin)の
鶏飼料への添加を禁止しようとしていることに対し、同様の措置がEUにも飛び
火することを恐れている。現在、タイ産ブロイラーは米国への輸出ができていな
いが、今年に入って、EUにおける牛海綿状脳症(BSE)の発生問題の影響から
EU向け輸出が好調であり、この措置がEUにまで拡大すれば、大きな打撃を受け
る可能性がある。このような米国の動きに対し、タイブロイラー輸出協会では、
EUの検査でもタイ産ブロイラーには抗生物質の残留が検出されておらず、今回
の米国の動きはタイ産ブロイラーに新たな貿易障壁を設けるためのものではない
かとしており、禁止が検討されている抗生物質は現在、米国でも使用されている
ものであると反発している。

元のページに戻る