BSE問題への対処で混迷するドイツ政府


今後、さらなる件数の増加が予想

 昨年10月にフランス国内で牛海綿状脳症(BSE)感染が疑われる牛肉が販売さ
れた問題を発端に、EU各国にBSE問題再燃への警戒感が高まる中で、昨年11月末、
今まで発生が確認されていなかったドイツ、スペイン両国で相次いでBSEの発生
が確認されるという事態になった。特に、EUの主要な畜産生産国の1つであり、
それまでは輸入された肉牛を除き国内での発生事例の確認がなかったドイツでは、
12月までに合計7件の発生が報告されている。また、今年1月から新たなプログラ
ムの下、EUで実施されているBSE検査などにより、1月上旬で新たに6件の発生が
確認され、今後、さらなる件数の増加が予想されている。


流通・消費に対する安全対策の遅れが問題に

 当初ドイツ政府は、BSE検査の実施などにより発生件数の増加は避けられない
としながらも、イギリスのような危機的事態にはならないものと考えていた。こ
のため、初発生を受けて政府は、家畜に対する動物性飼料の使用禁止やBSEに関
する研究所の設置など、主に生産部門を重視した対策を中心とし、流通・消費に
対する取り組みは後手に回ることとなった。このような中、域内各国では、消費
者を中心に牛肉への不安感が広まるにつれ、ドイツ国内でも牛肉の安全性につい
て疑問視する声が高まっていた。ドイツ国内で製造されているソーセージなどの
食肉製品には、通常、牛肉など牛由来の原料も使用されており、特にBSE感染の
危険性が高いとされる背骨周りの肉などが用いられている。ドイツ連邦保健省は、
当初、ソーセージなどの食肉製品の安全性を確認する手段はないとしてこれら製
品の回収を行わないことを発表したが、国内での不安感増幅により、12月下旬に
ようやく製品の回収を命じており、国民の間からBSE問題に対する政府の対応の
遅れが問題視されている。


BSE問題の責任で関係閣僚が辞任

 対応が遅れた結果、結果的にドイツ国内の牛肉消費は大幅に低下し、牛肉への
不安感から牛肉の販売量は4割以上も低下したとみられている。国内の牛肉業界
は、州政府や連邦政府に対し早急な対応の実施を求め、EU委員会も、ドイツ政府
の対応について、連邦政府と州政府の調整のまずさを指摘し、早急な改善を求め
たが、各省とも責任を回避する行動を取ってきた。このため、政府に対する非難
の声が一層高まり、責任をとる形で1月9日、連邦政府のフンケ農相およびフィッ
シャー保健相が辞任に追い込まれている。野党勢力は今回の辞任問題を糸口に消
費者団体などと連携して、政府の対応を厳しく追及していくとみられ、今後、予
想されるBSE発生件数増加の問題を抱える中で、どのように対処していくのかが
注目されている。

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