成長が持続するフィリピン畜産業
昨年1〜9月の農業生産額は4千億円、鶏肉は畜産部門の半分強
フィリピン農業省農業統計局はこのほど、2000年1〜9月の農業生産額を発表し
た。これによると、農業全体では1,771億ペソ(約4,428億円:1ペソ=2.5円)で
あり、前年同期比で3.5%増加した。第3四半期(7〜9月)単独では5.5%増で、
2000年前半からの好調が持続した。
分野別では、鶏肉部門が前年同期比6.2%増の256億ペソ(約640億円)、鶏肉
を除く他の畜産部門が2.8%増の254億ペソ(約635億円)となっており、鶏肉部
門がかなりの増加を見せて、その他の畜産部門と肩を並べている。農業省は、こ
れら畜産分野が伸長した理由として、安価な米国産鶏肉の輸入を抑制する努力
(海外駐在員情報第446号参照)が奏功したことや、養豚部門において収支の改
善が図られたことを挙げている。
一方、フィリピン農業の基幹をなす米やトウモロコシをはじめとする穀物分野
は前年同期比3.6%増の897億ペソ(約2,243億円)、水産分野は2.0%増の357億
ペソ(約893億円)と、ともに増加しており、アンガラ農業長官は、これらの分野
が一様に成長したことを高く評価している。
農畜産業の成長が通貨危機後の経済活動を活性化
フィリピンは、将来の農畜産業の姿を見据えた中期的な発展計画を定めており、
年率2.7〜3.4%の伸びを目標としている。農業省では、年間の農業生産額の3割以
上を占める第4四半期(10〜12月)の伸び率について、年末需要の盛り上がりか
ら2000年は3%以上の成長を見込んでいる。また、今回の調査で、第1〜3四半期
を通して3.5%の成長が達成されたことから、通年でも発展計画の目標値を上回る
3.0〜3.5%の成長は確実とみている。また、ある民間の調査機関は、年末に向け
た畜産物の需要増が原動力となり、4.5%の増加が期待できるという強気の試算結
果を発表している。
こうした農畜産業の成長は、通貨危機後の同国の経済活動を活性化させる役割
を担いつつある。第3四半期の国内総生産(GDP)成長率は、4.0%という予測を
上回る4.8%となり、多くのエコノミストが農畜産業の貢献度について言及してい
る。
社会情勢などから、今年の農畜産業の成長目標達成には疑問の声も
しかし、懸念材料が全く存在しないわけではない。同国では、既に農家販売価
格の下落や失業率の上昇などが見られており、第4四半期以降の経済は減速する
との見解を示すアナリストもいる。通年4%という2000年のGDP成長率の目標に
ついても、これを危ぶむ声が根強い。また、今後は需要の減退が見込まれること
から、畜産農家は飼養頭数を減らすなど経営活動の後退を強いられ、2001年の畜
産業の生産に悪影響が出るとみる向きもある。
フィリピンでは現在、エストラーダ大統領の罷免問題をめぐり、政局は混迷の
色を深めている。これに呼応して通貨ペソの下落も一段と進んでおり、将来の経
済の安定を楽観視できる状況にはない。アンガラ農業長官は、2001年の農畜産業
の成長率を、干ばつの被害などマイナス要因も織り込んで前年予測よりやや低い
2.5〜3.2%としているが、その達成には早くも疑問の声が投げかけられている。
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