生体牛の輸入をめぐり畜産農家が猛反発(韓国)


輸入自由化後最初となる663頭が4月に上陸

 韓国では、ガット・ウルグアイラウンド農業合意に基づき、97年7月1日から
豚肉、鶏肉および牛くず肉などの輸入が自由化され、2001年1月1日からは、生
体牛と牛肉の輸入も自由化された。

 こうした中の3月30日、ヘレフォード、アバディーン・アンガス、マレーグレ
ーなどの交雑種669頭が豪州のブリスベン港を出発、悪天候の影響で疲へいし、
船上で処分された6頭を除く663頭が4月16日午前、生体牛の輸入自由化後初め
て、韓国の仁川(インチョン)港に上陸した。

 豪州産生体牛を輸入したのは、韓国の大手食品メーカーである株式会社ノンウ
ォン食品で、体重430〜450kgのこれら生体牛は、約半月ほどの動物検疫後、6ヵ
月以上の飼養期間を経て出荷される予定であった。なお、韓国では、輸入生体牛
を6ヵ月以上国内で飼養すれば、国産の表示を行うことができる。


国内生産者は一斉に反発、動物検疫も思うに任せず

 しかし、こうした生体牛輸入の動きに対し、国内の畜産農家、特に韓牛生産者
は強い反発を示した。国立獣医科学検疫院では、畜産農家のデモのため、5月7
日時点で、輸入されたうちの約4分の3に当たる493頭が、未検疫のまま係留さ
れるという事態となった。国内生産者の強い反発の背景には、豪州産生体牛の輸
入価格が、関税や動物検疫費用などを含めても、生体500kg換算で1頭当たり166
万ウォン(約15万9千円:100ウォン=9.6円)と、韓牛の生産者販売価格(生体
500kg換算)である261万ウォン(約25万1千円)に比べ4割近くも安いことがあ
る。

 このため、韓国農林部は、輸入生体牛に耳標などを装着し、輸入後6ヵ月以上
飼養して販売する場合も、国産牛肉という表示に、生体牛の輸出国を併記するな
どの方策を検討しているともいわれる。


反発強まる中、第2陣667頭も到着

 生体牛輸入に反発する国内生産者のデモが続く中、第2陣となる豪州産生体牛
669頭がブリスベンを出港、途中で死亡した2頭を除く667頭が5月14日午前、ソ
ウル近くの仁川港に到着した。

 国内生産者は、価格的に不利であることに加え、豪州産生体牛の輸入は、家畜
感染症の1つであるブルータングが持ち込まれる可能性があるともして、第1陣
の輸入生体牛のうち649頭について再検査を要求した。このため、第2陣の生体
牛は、検疫施設の不足から海上待機を余儀なくされた。

 一方、豪州政府は駐豪韓国大使を通じ、韓国政府に「合法的に成立した貿易が
順調に進められるよう、問題を早期に解決することが望ましい」などとする書簡
を送り、豪州産生体牛の輸入に支障が生じた場合、両国の貿易関係に悪影響を及
ぼすだろうとコメントしている。

 再検査を要求された第1陣の649頭については、第2陣が到着した5月14日、
国立獣医科学検疫院が、精密検査の結果、陰性であったと発表したが、全国韓牛
協会は5月15日、全羅北道の井邑(ジョンウッブ)で「生体牛輸入に対する糾弾
および飼養阻止決起大会」を開催、生体牛の輸入に対し、さらに反発を強めた。


食品会社が輸入を中断、貿易摩擦の恐れも

 生産者団体などの予想を上回る激しい反発や抗議に対し、輸入元であるノンウ
ォン食品の韓代表は5月15日、記者会見の席で、今後計画されている第3〜6陣
分(約2,600頭規模)の輸入を取りやめることを明らかにした。韓代表は席上、
輸入生体牛の売買契約を締結した国内の農家に配慮し、既に輸入された生体牛に
ついては、政府の主導により、農業協同組合中央会(農協)と韓牛協会とで行き
先を解決して欲しいとも付け加えた。

 しかし、年末までに合計約4千頭を輸入するとの契約を解消した場合、豪州側
からは多額の損害賠償の請求が予想される。また、豪州政府は、6月に開催され
るアジア太平洋経済協力閣僚会議(APEC)の通商閣僚会議で、韓・豪両国の閣僚
会談を要請するとともに、5月16日には韓国政府に対し、「両国間の円滑な通商
関係に影響を及ぼさないためにも、政府レベルで自由な貿易が行えるよう協調し
て欲しい」との公式コメントを伝え、両国間の貿易摩擦の可能性も高まるなど、
今後の動向が注目される。

 なお、韓国農林部は、既に輸入された豪州産生体牛について、韓牛協会がこれ
を引き取るのは困難であるとし、農協が引き取って飼養することを軸に解決を図
る意向としていた。しかし、農協が引き取った生体牛の一部が一時的に飼育され
ていた牧場付近などの畜産農家の反対デモも激しく、結局、農林部はこれら生体
牛を段階的に強制と畜することとし、6月5日から処分が開始された。処理され
た牛肉は競売にかけられるが、政府はすべて原産地を明示し、流通経路を追跡す
ることとしている。

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