立場の違いが際立ち始めた米国の酪農・乳業界
在庫累積で脱粉買上価格を引き下げ
米農務省(USDA)が5月31日に行った加工原料乳価格支持制度における乳製
品の買上価格の変更が、米国の酪農・乳業界に波紋を投じている。
同制度は、乳製品の市場価格が低迷した場合、商品金融公社(CCC)がこれを
買い上げることによって、加工原料乳の価格を間接的に維持するという仕組みで
ある。USDAの発表によれば、同日以降の1ポンド(約0.45kg)当たりの買上価
格を、バターについては19.99セント(約24円:1ドル=121円)引き上げの85.4
8セント(約103円)とする一方、脱脂粉乳については10.32セント(約12円)引
き下げの90.00セント(約109円)に変更することなどが決定された。その理由と
しては、買い上げた脱脂粉乳の在庫がUSDAの処理能力を超えるまでに積み上が
っているため(5月25日現在で約5億8千万ポンド:約26万3千トン)、費用負
担が増加し、市場が著しくわい曲されていることを挙げている。
引き下げを求めた乳業界、狙いは国際競争力の強化
この決定は、乳業メーカーなどが組織する国際乳食品協会(IDFA)が5月22日
にベネマン農務長官にあてた書簡の内容に沿うものとなっている。IDFAは、バタ
ーに比べると脱脂粉乳の買上価格の水準が高すぎるため、これを引き下げるべき
であり、これによって、国産脱脂粉乳の国際競争力が増すとともに、近年、脱脂
粉乳の代替として輸入が急増している濃縮乳たんぱく(milk protein concent
rate:MPC)の国内生産の増加も期待できるため、輸入MPCの需要も減ると主張し
ている(MPCの輸入動向等については、本誌2001年5月号「トピックス」参照)。
先ごろ就任したばかりのペン新農務次官(農業・国際問題担当)も、IDFAの見解
を追認するような形で、国産の脱脂粉乳価格が低下すれば「MPCの輸入は事実上
食い止められる」とコメントしている。
生産者団体は引き下げに失望、今後はMPC輸入抑制などを推進へ
これに対して、全米最大の生産者団体である全国生乳生産者連盟(NMPF)は、
今回のUSDAの決定に、「酪農家にとっての連邦政府によるセーフティ・ネット
が脆弱(ぜいじゃく)化する」として、大きな失望を表明した。NMPFの試算に
よれば、脱脂粉乳の買上価格の引き下げが、連邦ミルク・マーケティング・オー
ダー制度における最低取引価格の低下をもたらし、これによって農家の生乳販売
価格が平均49セント/100ポンド(約1.3円/kg)下がり、全酪農家の収入は総額
約8億ドル(約990億円)減少するとしている。
また、NMPFは、国産脱脂粉乳の国際競争力が増すという見方に対しても懐疑
的であり、むしろ、今回の決定を契機に、現在超党派の国会議員によって上下両
院に提出されているMPCの輸入抑制を目的とした法案(注:MPCなどの関税分類
を変更し、関税割当を適用するというもの)の成立に向け、一層の努力を傾けて
いく必要があるとの立場を表明している。一方、先のIDFAの書簡は、この法案へ
の反対の立場を示すものであり、USDAもこれに近いとの推測もできそうだ。
今年末までが実施期限とされている加工原料乳価格支持制度の扱いに関しても、
新農業法の中で来年以降の延長を規定するよう求めるNMPFと、これを廃止して市
場への介入を伴わない新たな農家のセーフティ・ネットを創設するよう主張する
IDFAとの立場の違いが鮮明になってきており、これらの問題をめぐる今後の動向
が注目される。
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