海外駐在員レポート
ワシントン駐在員事務所 渡辺 裕一郎、樋口 英俊
米国は、世界最大の生乳生産国であり、99年における生乳生産量は、7,380万 トンと、日本の約9倍にも相当する。近年、その生産のウエイトは、伝統的な生 産地域である五大湖沿岸や北東部から、太平洋沿岸を中心とする西部へと移動し てきており、これら地域における経営の大規模化も急速に進展している。 このような生産構造の変化の中で、米国酪農・乳業の発展を支え、酪農家の利 益確保と経営安定のため中心的な役割を果たしてきた酪農協においても、その構 造や機能に大きな変化が見られるところとなっている。 今回は、こうした酪農協をめぐる動向とその役割について深く掘り下げながら、 米国酪農・乳業の全体像についても明らかにしていきたい。
(1) 農協の概況 米国では、一口に協同組合といっても、農業協同組合(以下「農協」という。) のほかに、食料品の卸・小売、消費者信用、児童保護、教育、公共事業、健康管 理、機械設備、住宅供給、保険など、さまざまな業種に関する協同組合が存在す る。ナショナル・コーポラティブ・バンク(NCB)の報告によれば、99年におけ る収益を見ると、第1位および第2位は、ともにミズーリ州カンザス・シティに本 部を持つ巨大農協組織、ファームランド・インダストリーズ(牛・豚中心の総合 農協。収益は約107億ドル(約1兆2,500億円:1ドル=117円))と、デーリー・ ファーマーズ・オブ・アメリカ(DFA:酪農協。同約76億ドル(約8,890億円)) によって占められている。また、上位100組合の中には、農協が43組合、うち酪 農協が17組合もランク・インするなど、農協の規模が他の組合を圧倒している。 それでは、農協は、全米でどれくらい存在するのであろうか。NCBによると、 現在、全農協数は、約4,100組合に上るとされている。米国では日本の場合とは 異なり、経済事業を行う農協の形態としては、農産物の販売を主眼とする販売農 協と、農家に対する農業生産資材等の供給を主たる業務とする購買農協とに分か れ、また、前者にあっては、作目全体をカバーするのではなく、各作目単位で組 織された専門農協が大半を占めるという特徴を有している。米農務省(USDA) の統計で見ると、うち販売農協の数は、1935/1936年で8,388組合あったのが、 98年には1,863組合と、約2割にまで減少している(表1)。これを、作目別に見る と、同期間中、酪農協が2,270組合から228組合へ(約10%)、畜産農協が1,040組 合から80組合へ(約8%)と、他作目に比べ、畜産関係の農協数は激減している。 表1 販売農協数の推移 資料:USDA「Cooperative Historical Statistics」、 「Farmer Cooperative Statistics」 (2)酪農協の設立目的 このように、農協にはさまざまな形態があるが、USDAは、その設立目的につ いて、@取引の際の交渉力(バーゲニング・パワー)の強化、A組合員における 生産資材等に係るコストの低減、B営利を目的とする民間企業ではなし得ないよ うな組合員に対するサービスや商品の提供、C農産物の販売先の確保・拡大、D 農産物の質的向上(付加価値の付与等)、E利益の配分による組合員の収入の増 加、という点のいずれかがすべての農協に当てはまるとしている。 これらを酪農協に限定して考えた場合、特に、上記@、C、DおよびEがその 目的に該当するものと考えられる。すなわち、組合員からの生乳供給を束ね、乳 業者との乳価交渉におけるポジションを高めることによって、より高い乳価を獲 得するとともに、供給過剰による需給不均衡や価格低下などが生じた場合におい ては、広域流通による生乳の販売先の選定・確保、自らが生乳を処理・加工し、 需給調整や付加価値の付与などを図ることを通じて、その組合員である酪農家の 利益を保証するというのが、酪農協の基本的使命であると言える。 (3)酪農協の歴史的経緯 生乳は、腐敗しやすく、容量がかさばる(バルキー)という特性を有しており、 また、生産と消費の季節的なアンバランスなども生じやすいため、酪農家自らが、 その安定した販売先を確保し、これを出荷・販売するには、大きな困難とリスク が伴う。酪農協は、このような個々の酪農家が単独では成し得ないような行為を 集約し、肩代わりすることによって、その負託にこたえてきた。また、酪農協自 体も、酪農家戸数の減少や生乳の広域流通の拡大などを背景として、合併や買収 などによる再編・統合が進展し、その規模も大幅に拡大した。 こうした酪農協の始まりは、約200年前にさかのぼるが、その間の歴史的経緯 については、USDAをはじめとする各種文献において詳述されているので、本項 では、それを簡単な年表に取りまとめて紹介する。 【米国における酪農協の歴史】 1800年代:牛乳販売業者が出現 1810年 :米国最初の酪農協がコネティカット州ゴーシェンに設立 生産者の生乳はプールされ、地元の処理業者との間で供給契約に関 する交渉が行われた。余剰乳からはバターも製造された。 1851年 :米国最初のチーズ工場を有する酪農協が誕生 1850〜1900年代:都市部への牛乳輸送が始まる 1884年 :生乳生産者連合(Milk Producers Union)が設立 酪農家を代表して乳業者との交渉を行うことを目的として設立され たが、組合員の統率がとれず、解散。 1890年 :シャーマン・反トラスト法が制定 1894年 :5州に生乳生産者協会(Milk Producers' Association)が設立 (5年間のうちに消滅) 1908年 :シカゴで、生乳の殺菌義務を課す規制が制定 1912年 :生乳の連邦規格が制定 1914年 :クレイトン・反トラスト法が制定 1916年 :全国生乳生産者連盟(NMPF)が設立 1914 〜18年:生乳価格の低迷等による酪農家のストライキなどが広がり、酪 農協の設立も相次ぐ 1919年 :デーリーマンズ・リーグが設立 1921年 :ランド・オレイク(Land O'lakes)の前身である Minnesota Cooperative Creameries Associationが設立 1922年 :カパー・ボルステッド法が制定 反トラスト法の適用除外によって、協同組合活動が法的に認められた 1919〜22年:生乳価格が凍結 1925年 :酪農協の設立が42州にまで拡大 1929年 :大恐慌によって乳価も暴落 1933〜35年:33年農業調整法によって、生乳取扱業者の許可制度が導入され、 35年農業調整法では、マーケティング・オーダーを通じた用途別乳 価の設定と生産者に対するプール乳価の支払が義務化(カリフォル ニア州では、現在も続く独自のオーダー制度が創設) 1936年 :全米の酪農協2,270組合が、生乳の約半分を供給 1937年 :農産物販売協定法が制定され、連邦ミルク・マーケティング・オー ダー(FMMO)制度が開始 1949年 :加工原料乳価格支持制度が開始 1951年 :乳製品の輸入割当(数量制限)が開始 1950年代:酪農協や乳業の再編が進展(酪農協の数は、20年前の約半分に減少) 1960〜70年代:大規模な地域酪農協が設立。農家でのバルク・クーラーの導入 が一般化 1970年 :牛乳の宅配が、27%にまで減少(1940年は70%) 1980年代:大規模な広域酪農協による飲用乳の供給が拡大 1990年代:酪農協の統合が加速化し、全米の酪農協数は200組合強にまで減少 1995年 :ガット・ウルグアイラウンド(UR)合意により、乳製品の輸入割当 制度が関税化 1996年 :96年農業法が制定(加工原料乳価格支持制度の段階的廃止などがう たわれる) 1998年 :世界最大の酪農協デーリー・ファーマーズ・オブ・アメリカ(DFA) 設立 2000年 :FMMO制度におけるオーダー数が、31地域から11地域に統合。加工 原料乳価格支持制度の存続が、2001年12月末まで延長 (4)酪農協の法的根拠 農協の設立とその運営に関する法的な根拠は、1922年に制定されたカパー・ボ ルステッド法によって与えられた。同法の下で、1890年に制定されたシャーマン ・反トラスト法(独占禁止法)に基づく訴訟の対象から農協が除外されたため、 組合員による農産物の共同販売、すなわち、酪農協による生乳の独占的な販売が 法的に認められることになったのである。ただし、そのためには、@農産物の生 産者である組合員の相互利益のために運営されていること、A非組合員が出荷し た農産物の取扱量が、組合員のそれを上回ってはならないこと、という資格要件 が満たされなければならない。また、消費者保護の観点から、組合活動を通じた 取引の独占や制限によって不当な価格引き上げが行われることについては、他の 組織形態と同様に禁止されている。
(1)生乳供給において高まる酪農協のウエイト ア 米国における酪農協の数は、この60年の間に約9割も激減した。中でも、第 二次大戦以降、1960年代にかけて、植物油脂との競合や健康志向などによりク リームやバターの消費が減少する一方で、粉乳需要が増大したため、バター以 外に粉乳その他の乳製品も製造する大規模なプラントとの競合により、それま で酪農協全体の約6割を占めていたバター製造専門の酪農協(creameries) などが脱落していった。70年代以降、その度合いは鈍化しつつも、一貫して減 少している(図1)。その最も大きな要因は、後述するような酪農協同士の合 併・買収による統合が急速に進展したことによる。 イ 酪農協の組合員数は、1950年代半ばをピークに、その後、酪農家戸数の減少 とともに、大幅に減少していった(57年:約77万7千戸→97年:約8万8千戸)。 しかし、その減少の度合いは、酪農家戸数が、専業化や大規模化の進展により、 特に、1960〜70年代において急激に減少しているのに比べると緩やかである。 このため、酪農協の組織率(組合員数/酪農家戸数)は、1957年の約35%から、 97年には約71%にまで増加している(図2)。 ウ 一方、酪農協を通じた生乳の取扱量を見ると、酪農家における規模拡大の進 展や1頭当たり乳量の増大により、全米の生乳取扱量が伸びる中にあって、着 実に増加した。また、酪農協の占めるシェアも、酪農家の組織率の上昇を反映 して徐々に高まってきており、1957年の約59%から97年には約83%を占める に至っている(図3)。 エ 酪農協の地域別分布を見てみる(図4、表2)。その特徴としては、伝統的な 生乳生産地帯である五大湖沿岸から中西部にかけての地域(東海岸北部、中北 東部、中北西部)には、比較的小規模な酪農協とその組合員が数多く存在し、 新興生産地帯である太平洋沿岸や山岳部(西部)においては、少数の大規模な 酪農協とその組合員が存在している。最近10年間における地域的な推移として は、中西部などを中心とした地盤沈下が顕著である一方、西部においては、全 体の生乳取扱量で約1.8倍、1組合員当たりでは約3倍にまで増加するなど、大 規模化による生産拡大が急速に進展していることが分かる。このような東から 西へのシフトは、米国酪農全体の地域的なトレンドを表すものである。 ◇図1:酪農協数の推移◇ ◇図2:酪農協の組合員数の推移◇ ◇図3:酪農協における生乳取扱量の推移◇ ◇図4:酪農協の地域分布(97年)◇ 資料:USDA/RBS「Marketing Operations of Dairy Cooperatives」 表2 酪農協の地域別動向 資料:USDA/RBS「Marketing Operations of Dairy Cooperatives」 注1:地域区分は、図4に同じ。 2:「酪農協数」については、地域をまたぐ広域的なものもあるため、 合計は一致しない。 3:「生乳取扱シェア」は、全米の生乳取扱量に占める酪農協のシェア である。 (2)酪農協のタイプ別構造 酪農協には、大きく分けると2つのタイプがある。1つは、乳業者に対して生 乳の販売のみを行うもので、安定した取引先の確保と、より高い乳価を獲得する ための乳価交渉を行うことを目的としている(日本の指定生乳生産者団体に相当)。 もう1つは、こうした機能に加え、自らが生乳の処理・加工まで行うものである (日本の農協プラントに相当)。これらはそれぞれ一般に、交渉専門 (Bargaining-only)農協、処理・加工(Processing/Manufacturing) 農協と呼ばれている。97年においては、組合数では全体の7割が交渉専門農協で ある一方、生乳取扱量では処理・加工農協が全体の約4分の3を占めており、概し て、処理・加工農協の生乳取扱規模の方が交渉専門農協よりも大きいことが分か る。 地域的には、生乳取扱量の多い伝統的生産地帯である中北東部と新興地域の西 部において、処理・加工農協数の割合が高いという特徴がある。近年における推 移を見ると、87年から97年の10年間で、交渉専門農協の数が約7%の減少にとど まっているのに対し、処理・加工農協の数は、東部から中西部にかけての伝統的 生産地帯を中心に半減しているのが興味深い(表3)。このことは、処理・加工 農協の地位の低下を示すものではなく、むしろ小規模なプラント同士の統合によ って規模拡大や効率化が進展したと見るべきであり、一方のプラント施設を有し ていない交渉専門農協においては、「規模の経済」というインセンティブが働き にくいため、統合が進展しなかったものと考えられる。 表3 交渉専門農協と処理・加工農協の地域的推移 資料:USDA/RBS「Marketing Operations of Dairy Cooperatives」 なお、USDAは、処理・加工農協を、生乳の仕向け先や製品の違いなどによって、 さらに次の5つに類型化している。 資料:USDA/RBS「Financial Profile of Dairy Cooperatives, 1997」 注:上記シェアは、いずれも酪農協全体を100とした場合である。 (3)生乳の処理・加工段階における酪農協の位置付け 処理・加工段階において、酪農協はどのようなポジションを占めているのであ ろうか。順序は逆になるが、まず、酪農協にとっての生乳の販売先であると同時 に、処理・加工分野では競争相手でもある民間の乳業メーカーの概要について、 簡単に記述する。 再編、統合という構造変化の波は、酪農協だけでなく、乳業メーカーにも及ん でおり、75年に存在した乳業メーカーで、現在もなお同じ会社名で経営が行われ ているのは、業界最大手のクラフト・フーズ社だけである。同社の主力商品は、 プロセスチーズとヨーグルトであり、99年の売上高は約44億ドル(約5,150億円) を記録している。第2位のスイザ・フーズ社は、度重なる飲用乳メーカーの買収 により、99年だけで売上高を33.5%も伸ばすなど、急成長を遂げた。以下に掲げ た上位10社は、特定の商品に限定するというよりも、比較的幅広い商品を製造し ているケースが多い。また、クロガー社(第5位)とセーフウェイ・デーリー社 (第10位)は、大手スーパー・マーケットによる乳業への進出例である。これら 大手スーパーの進出は、特に1960〜70年代に多く見られたが、スーパー自体の再 編も進み、A&P社のように乳業から撤退した企業もある。 表4 乳業メーカーの売上高上位10社(99年) 資料:Dairy Field(2000年7月)に加筆 しかし、ややデータは古いが、94年時点では、牛乳・乳製品の売上高は、多数 の中小乳業メーカーの占める割合の方が高く、全体の約4割を占めている(表5)。 ただし、過去50年間を振り返ると、中小乳業メーカーのシェアを奪うようにして 酪農協のシェアが着実に拡大し、94年には全売上高の約3割を占めるに至ってい る。 表5 牛乳・乳製品の国内売上高に占める 酪農協と乳業メーカーのシェア 資料:USDA/ERS「The Structure of Dairy Markets: Past, Present, Future」 注:「大規模乳業メーカー」とは、年間売上高が、50年は6,800万ドル、 75年は2億5千万ドル、85年は4億3,300万ドル、94年は6億3千万ドル 以上のものである。 酪農協、乳業メーカーそれぞれが取り扱う生乳のフローを簡略化したのが、図 5である。これによると、酪農協においては、集めた生乳(非組合員からのもの も含む)5,734万トンのうち、その約55%に相当する3,173万トンを乳業メーカー に販売し、残りの2,561万トンを自ら処理・加工し、牛乳・乳製品を製造する。 一方、乳業メーカーにおいては、自らの集乳分1,191万トンと、酪農協からの購入 分3,173万トンを合わせた4,364万トンを牛乳・乳製品の製造用に仕向けている。 つまり、全国の生乳生産量(6,925万トン)に占める酪農協による処理・加工シェ アは約37%、乳業メーカーによるのが約63%ということになる。 ◇図5:生産から処理・加工に至るまでの生乳のフロー◇ 資料:USDA/RBS「Marketing Operations of Dairy Cooperatives」より作成 注1:数値は97年のものである。 2:( )内は、全生乳生産量に占めるシェアである。 酪農協のシェアを製品別に見ると、粉乳(76%)、バター(61%)、ホエイ製 品(48%)、ナチュラル・チーズ(40%)が高く、飲用乳やソフト乳製品は低い (表6)。これは、酪農協が処理・加工機能を持つようになったのは、生乳の需 給調整という意味合いが強いことから、生乳が供給過剰時において品質格差の少 ないコモディティー商品であるバターや脱脂粉乳の生産に仕向けられるケースが 多いことによる。さらに、バターおよび脱脂粉乳が、余剰時に、政府による措置 として、商品金融公社(CCC)の買い上げの対象となっていることも、これら製 品のシェアが高い理由となっている。また、CCCの買い上げ対象とされているチ ーズについても、着実な国内需要の伸びを反映し、酪農協における生産量も増大 してきており、特に、ナチュラル・チーズのシェアは、過去40年間で約2倍に拡 大している。種類別に見ると、アメリカン・チーズについては大規模な酪農協が、 イタリアン・タイプについては乳業メーカーが、それぞれ全体の約4分の3を生産 している。一方、長期保存が効かず、また、その販売も小売サイドの販売網に頼 るところが大きい飲用乳やソフト乳製品における酪農協のシェアは、依然として 低い。特に、飲用乳については、そもそもマージン率が低い上に、前記のように 大手スーパー・マーケットが自社ブランド牛乳を製造・販売するケースもあり、 飲用部門を持つ酪農協(21組合)の多くは、中小のスーパー・マーケットや一般 小売店を通じて製品を販売しているとされ、飲用乳全体に占める酪農協のシェア は、80年代以降、横ばいないし減少傾向で推移している。なお、処理・加工用生 乳の用途別仕向け割合を試算すると、酪農協、乳業メーカーともにチーズ向けが 最も多く、それぞれ約半分強が仕向けられている。 表6 牛乳・乳製品を製造する酪農協の産品別状況(97年) 資料:USDA/RBS「Marketing Operations of Dairy Cooperatives」
(1)大規模酪農協の事例 処理・加工分野における酪農協のウエイトの高まりは、酪農協同士の統合によ る規模拡大が進展し、一層の効率化が図られてきたことと密接に関係している。 ここでは、その統合によって大規模化した酪農協の具体的な事例を見ることとす る。 97年のデータによれば、45万トン以上の生乳を取り扱う酪農協は、全組合数の 約1割にすぎないが、組合員の約7割がこれらに属し、酪農協による全生乳取扱量 でも約8割を占めている。 また、99年における上位50農協の生乳取扱数量は、全米の生乳生産量(約7,30 0万トン)の約78%に相当し、上位10農協でも約57%を占めている。 表7 生乳取扱数量で見た酪農協の規模(97年) 資料:Hoard's Dairyman(99.10.10) USDA/RBS「Marketing Operations of Dairy Cooperatives」 表8 酪農協上位20組合(99年) 資料:Hoard's Dairyman(2000.10.10) 注1:第7位のAssociated Milk Producers, Inc. は、99年10月にGlencoe Butter と合併。 2:*印は、全国生乳生産者連盟(NMPF)の会員である。 第1位は、前年と同じくデーリー・ファーマーズ・オブ・アメリカ(DFA)、第 2位、第3位は、前年とそれぞれが入れ替わり、カリフォルニア・デーリーズ、 ランド・オレイクス(LOL)の順となっている。特に、DFAの生乳取扱量は、約 1,570万トンと、日本の全生乳生産量の2倍近くをに相当している。 ○ デーリー・ファーマーズ・オブ・アメリカ(Dairy Farmers of America:DFA) ・ 98年1月、オハイオ州、ウィスコンシン州、コロラド州およびミズーリ州の 4つの広域酪農協の統合によって設立された全米最大の酪農協(本部:ミズー リ州カンザス・シティー)。その後も、カリフォルニア州、ミシガン州、バー ジニア州を本拠地とする3つの酪農協を合併。 ・ また、飲用最大手のスイザ・フーズ社などとの合弁企業(飲用だけでも14社) 設立や、ピザ用チーズ最大手のレプリノ・フーズ社との業務提携、ボーデン・ ブランドのライセンス取得など、多角的な事業を展開。昨年には、ニュージー ランド・デーリー・ボードとのチーズ製造のための2つの合弁企業を設立。 ・ 組合員数は2万4千戸(45州)で、全米の生乳生産量の約2割を担う。自社 のプラント数は33カ所(15州)。 ・ 製品は、チーズ、バター、れん乳、クリーム、脱脂粉乳、育児用調製粉乳、 栄養飲料、ホエイ製品など多種。チーズやクリームなどの海外市場の開拓にも 乗り出している。 ・ 製品の製造・販売だけでなく、農家サービスとして、医療・生命保険や融資 などを提供するほか、農家のリスクヘッジのための先渡契約(forward contract)も実施。 ・ 全国生乳生産者連盟(NMPF)と協力して、酪農家への緊急対策(所得補て ん措置)を求めたキャンペーンや、関係法案の制定に向けた政治活動も行う。 ○ カリフォルニア・デーリーズ(California Dairies, Inc.) ・ 98年に第3位だったカリフォルニア・デーリー・プロデューサーズと、他の カリフォルニア州の2組合が合併して、99年に設立(本部:同州アルテシア)。 ・ 組合員数は700戸で、同州の生乳生産量の約半分を担う。プラント数は5カ所。 ・ 生乳の販売のほか、脱脂粉乳、全粉乳、れん乳などを製造し、全米における バターの約2割を製造。 ○ ランド・オレイクス(Land O'Lakes, Inc.) ・ 前身は、1921年に設立されたMinnesota Cooperative Creameries Association。本部は、ミネソタ州アーデン・ヒルズ。 ・ 組合員には、1,100以上の地域酪農協と11,000戸以上の酪農家、30万戸以上 の農家が含まれる。全米に、200カ所のプラント、商品倉庫、配送施設を有する。 ・ バターとチーズのトップ・ブランドであり、商品数は600点以上。これらは、 スーパー、レストラン、病院、機内食などで目にすることができる。 ・ 生産から加工・販売、農家への生産資材(飼料、アルファルファ種子、肥料 等)の供給などの幅広い業務を担い、全米のみならず世界約50カ国でもビジネ スを展開。99年の総売上高は56億ドル(約6,550億円)。 ・ 96年以降、ペンシルバニア州、カリフォルニア州およびウィスコンシン州の 酪農協をそれぞれ統合したほか、昨年、全米第3位の乳業メーカーであるディ ーン・フーズ社と、飲用乳の販売等に関する提携を開始。 (2)酪農協の統合を後押しする要因 処理・加工農協において発揮されるプラントの大規模化に伴うスケール・メリッ トの他にも、酪農協の統合を後押しするいくつかの要因が指摘されている。 その1つは、生乳および牛乳・乳製品の主要なユーザーである乳業メーカー、 スーパー・マーケット・チェーン、外食産業などにおいても、統合による大規模 化が進展していることである。特に飲用乳部門においては、大規模乳業メーカー が中小のプラントを取り込む動きや中小のプラント同士の統合が進んでいること から、販売主体の酪農協は、生乳の供給元として、これら大規模化するプラント からの供給単位の拡大を求める声に応えるため、小規模なもの同士の合併を余儀 なくされることが多い。また、大型化するスーパー・マーケット・チェーンなど における仕入先が、高品質の商品を大量に、しかもできるだけ安いコストで安定 的に供給できるサプライヤーにシフトしていることは、処理・加工農協、乳業メ ーカー双方にとっての大きなプレッシャーとなり、商品の製造・販売規模の拡大 を促していると言える。 また、酪農政策が市場指向型に向かい、80年代から加工原料乳価格支持制度に おける支持価格が引き下げられたことなどから、生乳価格が不安定となり、この 結果、酪農家が酪農協に対して高い乳価やサービスの提供を求めるようになって きたことも、その要因の1つに挙げられている。酪農協は、こうした要請の中で 製品の市場シェアを維持・拡大していくため、単独での投資という手法によらず、 他の酪農協との統合や、合弁、業務提携といった方法で、施設や機能の充実を図 っている。 なお、政府に対する政策要請などを行うに当たって、統合による組合員の広域 化が、酪農協の政治的なポジション強化にもつながっているとの指摘もある。 【80〜90年代における酪農政策の変化】 81年:生乳の過剰問題が表面化し、81年農業法により、30年以上も続いた支持 価格算定におけるパリティー方式を放棄 82年:支持価格が13.49ドル/100ポンドから13.10ドル/100ポンドへ引き下げ 83年:83年酪農・タバコ調整法により、支持価格が12.60ドル/100ポンドへ引 き下げられるとともに、4月と9月に合わせて1ドル/100ポンドの課徴金 を徴収 85年:支持価格が2度の引き下げで11.60ドル/100ポンドに設定 87年:支持価格が11.00ドル/100ポンドに引き下げ 90年:90年農業法により、最低価格支持水準(10.10ドル/100ポンド)が設定 され、同水準まで支持価格が引き下げ 96年:96年農業法により、99年までに9.90ドル/100ポンドへの段階的引き下 げが決定(以降も同水準が適用) ◇図6:加工原料乳価格(BFP)と支持価格の推移◇ (3)巨大酪農協のカリフォルニア州への進出 全米最大の生乳生産量(全体の約23%)を誇るカリフォルニア州は、酪農家の 経営規模も大きく、2000年では、1戸当たりの経産牛の平均飼養頭数が596頭と、 生産量第2位のウィスコンシン州(同約16%)の65頭を大きく引き離している。 これに、温暖な気候を反映して、施設に関するコストが安いことや安価で豊富な 粗飼料供給に恵まれるという強みが加わり、生乳生産費も全米で最も低い。また、 同州は、連邦ミルク・マーケティング・オーダー(FMMO)制度とは別の独自の 乳価制度を有しており、チーズ向け乳価をFMMO制度よりも低く設定し、チーズ 産業の振興を図っている。このようなカリフォルニア酪農の優位性は、生乳のユ ーザーにとって大きな魅力となる。こうしたことから、中西部を本拠地とする巨 大酪農協も、既存の組合員にとっての直接的な利益確保というよりは、市場シェ ア拡大のための企業の論理を追従したとでも言うべきか、近年、同州にその触手 を伸ばしている。 このうち、DFAは、98年に同州の酪農協・カリフォルニア・ゴールド・コーポ ラティブ・クリーミーを合併し、330戸の酪農家をその傘下に収めたのを足掛か りに、98年には、南カリフォルニアでスイザ・フーズ社との合弁企業を設立した。 また、LOLも、95年に小規模なチーズ・プラントを買収し、98年には、同州の主 要酪農協だったデーリーマンズ・コーポラティブ・クリーマー・アソシエーショ ンを合併した。98年から99年にかけてDFAとLOLに新たに加わった約600の組合員 は、同州の全酪農家の約3分の1に相当するとされており、その後、99年に設立さ れたカリフォルニア・デーリーズの例のように、同州内の他の酪農協同士におい ても、競争力確保のため、連携を強めているとされている。
本項では、酪農協が有する多様な機能について、組合員である酪農家に対する 酪農協の役割という観点から、具体的に整理してみたい。 (1)生乳の販売 ア 乳価交渉 酪農家が出荷する生乳の安定的な販売先を確保し、乳業者との交渉を通じてで きるだけ高い乳価を獲得するということは、酪農協に託された最も基本的な使命 であり、これらは、1930年代に創設された連邦ミルク・マーケティング・オーダ ー(FMMO)制度という裏打ちがあってこそ、達成されてきたと言っても過言で はない。本制度は、・オーダー地域内で取引される飲用規格(グレードA)生乳 について、用途別の最低取引価格(現行制度では、クラス・〜Wの4区分)を設 定するとともに、・乳業者に対して、生産者へのプール乳価での支払いを義務付 けるものである(最低取引価格の具体的な算定方法等については、本誌2000年3 月号の「特別レポート」参照)。酪農協は、この制度の枠組みの中で、乳業者と の間で乳価交渉を行い、受け取った乳代を酪農家に再配分するという機能を担っ てきた。その酪農家の受取乳代とは、どのようにして決定されるのであろうか。 FMMO制度の下での最低取引価格とは、あくまでも生乳取引における下限価格 を保証しているにすぎず、オーバー・オーダー・プレミアム(OOP)という上乗 せ価格を最低取引価格に加算したものが実際の取引価格になる。すなわち、酪農 協と乳業者との間では、このOOPをめぐる相対交渉が行われる。いわば、需給実 勢を反映して政府(オーダー)が毎月公表する最低取引価格という官製価格の上 乗せ分が、民間ベースで決定される。加工原料乳の取引価格を民間ベースで決定 し、これに政府が生産者補給金による助成(上乗せ)を行うという日本の新たな 加工原料乳の取引制度とは、それぞれの価格の持つ意味合い等は異なるものの、 その主格(政府と民間)が逆である。 米国における乳価交渉の方法(OOPの決定方法等)については、酪農協、乳業 メーカーごとに異なっているが、鈴木宣弘九州大学教授の下で(社)中央酪農会 議が行った調査結果(文末の参考文献の9参照)において、その具体例を知るこ とができる。USDAによれば、OOPの水準は、基本的に、酪農協の交渉力(乳業 者との力関係)に負うところが大きいとされ、生乳の需給状況に加えて、最低取 引価格では賄えない集送乳コストや、生乳の品質向上に要するコスト、酪農家へ の各種サービスの提供に要するコストのほか、生乳が他の乳業者に仕向けられな いよう酪農協をつなぎ止めるために乳業者が支払うプレミアムなどの要素が考慮 される。また、OOPは毎月定められ、その水準が公表される場合が多いとされて いる。 酪農協から酪農家への乳代の支払いは、乳業者から支払われる用途別の最低取 引価格をプールした価格(用途別仕向け数量で加重平均した価格。「ブレンド価 格」と呼ばれる)に、OOPおよび酪農協における処理・加工などによって生じた 利潤を加え、これから、宣伝や運搬などに係るコスト、資本蓄積分(注)や組合 費などを差し引いた「再ブレンド価格」によって行われる。これは、「メール・ ボックス価格」とも呼ばれ、酪農家における手取り水準を示すものとして、毎月 USDAがオーダーごとの水準を公表している。 注:酪農協における資本蓄積の方法には、利潤の一部を留保する場合と、乳価の 一部から賦課金として徴収する場合とがあり、これらは、最終的に組合員に払い 戻される。 ◇図7:米国における共通販売機構◇ 資料:Hoard's Dairyman(1997.5.25) イ 共通販売機構 酪農協による生乳の販売は、個々の酪農協単独の場合だけでなく、@複数の酪 農協同士が組織する連合会(federation)や、A複数の酪農協が非組合員との 合意によって組織する地域交渉機構(regional bargaining agency)によって 行われる場合もある。こうした組織は、共通販売機構(marketing agencies- in-common)と呼ばれ、そのほとんどは、@に該当するとされており、また、 単協の場合と同様に、反トラスト法の適用対象から部分的に除外されている。米 国で共通販売機構が初めて組織されたのは20世紀初頭であるとされており、現時 点における全体像については、USDAも把握していないとしているが、業界誌に よれば、全米で14の組織が存在するとしている。 これらの機構の主な目的は、酪農協同士が連携することによって、乳価や販売 条件に関する交渉力を強化することであるが、これ以外にも、生乳や製品の供給 ・販売単位の拡大、在庫や市況情報の交換などが挙げられている。また、供給過 剰時において、広域流通によって、生乳を最も適切な用途に仕向けるなどの余乳 調整機能も期待されている。 (2)生乳の処理・加工 乳価交渉の機能は、交渉専門農協だけでなく、処理・加工農協にも当てはまる。 前者は、自らのプラントを有していないため、後者に比べると投下資本は少なく て済むが、生乳の供給過剰時においては、大きなリスクに直面することになる。 こうした場合、交渉専門農協は、完全に買い手市場の下に置かれ、安い価格で生 乳を販売するか、輸送コストの上昇を覚悟して、生乳を購入してくれる他のユー ザーを探さなければならない。交渉専門農協の機能が発揮されるのは、生乳需給 が均衡またはひっ迫する場合に限られる。 一方、処理・加工農協においては、需給情勢に応じて、生乳を外部に販売する か、自らのプラントで処理・加工するかどうかの選択肢が与えられているため、 上記のような生乳の供給過剰時におけるリスクを回避することができる。市場の シグナルを受けても、酪農家が直ちに生乳生産を増減させることは困難であり、 ある程度のタイムラグが生じるのは避けられない。また、米国では、日本のよう な生乳の計画生産が実施されていない中で、生産が増大する春に供給過剰となり、 秋にはこの関係が逆転するという、季節的な需給不均衡が見られる。こうしたこ とから、供給過剰となった場合の価格低下を緩和するための安全弁がどうしても 必要となってくる。その1つの方法が、生乳の処理・加工段階で、余乳を脱脂粉 乳やバター、チーズといった、保存の効くバルク乳製品の製造に仕向けることで ある。これが、処理・加工農協の最も大きな役割であると言え、結果的にこのこ とは、生乳を買い取る乳業者における余乳調整の労を軽減し、処理・加工農協の 乳価交渉におけるポジション強化につながっているとされている。逆に、需給が ひっ迫基調となった場合には、施設の稼働率の低下によって、施設の運営コスト が増すことから、これを賄うために、酪農家に支払われるはずのOOPの一部が充 てられたり、乳代から賦課金が徴収されたりする場合もあるとされている。 なお、処理・加工農協の約半分は、牛乳・乳製品の製造・販売を通じて、生乳 の付加価値を高めることにも重点を置いていることから(上記3(2)参照)、生 乳需給が緩和した場合には、乳業メーカーと同様、交渉専門農協などからの販売 先に困った余乳を安く買い取るユーザーの立場にあると言える。 (3)農家サービス 統合によって広域化する酪農協は、地理的にも離れ、経営規模も異なる組合員 を取り込みながらその組合員数を増やす一方で、これら組合員においては、個々 の持つ発言権が相対的に弱まることなどが懸念されている。このため、上記以外 の各種サービスの充実を図り、組合員の信頼を得ることが併せて求められている。 DFAは、組合員に対して、医療・生命保険、融資などのサービスの提供にも力 を入れており、また、LOLに見られるような生産資材の供給、アルト・デーリー ・コーポラティブ(本拠地:ウィスコンシン州、ランキング17位)のような乳質 改善などのための検査・診断やコンサルタント・サービスなどに取り組む組合も あるなど、組合員の多様なニーズに対する側面的支援も忘れていない。 また、80年代以降顕著に見られる生乳の価格変動の波に対処するため、農家に おけるリスク・マネージメントに関する普及・啓発や、そのサービスの提供など を実施している酪農協も増えている。これらには、生乳の先渡契約(forward contract)や先物・オプション取引などのリスク・ヘッジ手法、経営管理の ためのコンピューター・ソフトウェアの提供といったサービスが含まれている。 さらに、酪農に関する政策(規則)は、FMMO制度をはじめ、食品安全性、家 畜衛生、環境保全、表示・規格、新技術など、広範な分野において複雑さを増し、 また、その見直しも頻繁に行われているため、酪農家に対する情報提供や普及・ 啓発、技術指導などの役割を、酪農協が担っている場合も多い。 一般的に、こうした酪農協によるサービスは、民間企業である乳業メーカーに よる場合とは異なり、いわば原価(コスト)ベースで提供されるという点も、組 合員にとってのメリットとなっている(なお、非組合員に対しても、同様のサー ビスを提供する酪農協も存在する)。
(1)乳製品の輸出
米国は、世界最大の生乳生産国であるにもかかわらず、国内で製造された牛乳 ・乳製品の大半は国内市場に仕向けられており、また、国際市場が引き締まる等 の状況にない限り、豪州、ニュージーランドをはじめとする他の輸出国に比べる とバターや脱脂粉乳といった基礎的乳製品についての価格競争力に劣るため、全 生乳生産量に占める輸出仕向割合は依然として低く、過去5年間の平均でも、そ の割合は2.5%を占めるにすぎない。 酪農協の中にも、ランキング第4位のノース・ウェスト・デーリーズ傘下のダ リゴールド・ファームズや同第6位のフォアモスト・ファームズのように、チー ズの副産物であるホエイ製品などの特定商品の輸出に活路を見いだすものも存在 する。また、統合により巨大化しているDFAやLOLのように、国際市場の開拓に積 極的に取り組む例も見られる。しかし、現段階において、統合などによってプラ ントの能力を増強している酪農協の多くは、国内における他の酪農協や乳業メー カーとの競争力を高めることを通じた組合員への直接的な利益還元を優先し、輸 出を供給過剰時のはけ口以上にとらえている酪農協は少ないものと考えられる。 確かに、酪農品は、落花生、砂糖などと同様に、米国にとってのセンシティブ品 目であり、現在は、関税割当と高率の枠外関税(2次税率)によって保護されて いる。ただし、この前提が崩れれば、これまでのように国内市場にだけ目を向け ていればいいというわけにもいかなくなる。このため、今後における酪農協によ る乳製品の輸出拡大の可能性を占う上で、次期交渉の行方を無視することはでき ず、また、酪農協自体の問題としては、組合員の利益確保とのバランスを取りな がら、輸出向け乳製品製造用の生乳価格をどこまで引き下げられるかというのが、 最も大きな課題である。 ◇図8:米国における生乳生産量とその仕向け先の動向◇ (2)酪農協間の競争と統合の加速化 近年、酪農協と乳業メーカーとの間の信頼関係が強まり、乳業メーカーは、特 定の酪農協に生乳供給の相当部分を依存し、供給過剰時における需給調整の機能 のほとんどを処理・加工農協に委ねる傾向にあるとされている。また、これら酪 農協が製造する牛乳・乳製品の販売に関しても、品質格差の少ないバターや脱脂 粉乳などの多くは、国内の乳業メーカーやフード・サービス産業などにおける加 工度の高い製品の原料に用いられており、乳業メーカーとの間よりも、むしろ酪 農協間の競争の方が激しくなってきているとの見方もある。このことも、酪農協 同士の統合や合弁などを促進する大きな要因であると言え、そのメリットを生か した差別化、ブランド化(これには、既存の大手ブランドに統合されることも含 む)による付加価値向上や、実需者のニーズに応じた柔軟な商品供給を図ってい くことが重要となってきている。 また、生乳生産が東から西へとシフトする中で、中西部や東部の処理・加工農 協を中心としたプラントの稼働率低下を懸念する声もあり、こうした地域におい ては、処理・加工農協と交渉専門農協との統合、あるいは、処理・加工農協にお けるプラント閉鎖(交渉専門農協への転換)などの動きが、今後加速化すること も想定される。 なお、前にも述べたが、統合によって酪農協が大規模化、広域化した結果、組 合員が地理的、規模的にも多様化し、それらのニーズにも大きな差が生じてきて おり、比較的経営規模が大きく、プラントからの距離が近い組合員と、小規模で プラントからも離れた組合員とを平等に扱うことについての是非が、議論の対象 となってきている。このため、DFAが実施している生乳の大量出荷者に対する上 乗せ(volume premium)のような、組合への貢献度合いに応じた見返り措置の導 入も、今後の課題として考えられる。 (3)酪農政策の見直しとの関係 96年農業法では、酪農制度改革の一環として、FMMO制度におけるオーダー(地 域)を再編統合することが規定され、昨年1月、オーダー数が31地域から11地域 に統合された。こうしたオーダーの広域化の動きが、98年のDFA創設をはじめと する近年における酪農協の統合の動きを加速化したとの見方もあるが、オーダー と、酪農協がカバーする地域が一致するわけではなく、広域化している大規模な 酪農協を除けば、1つのオーダーの中に複数の酪農協が存在するという状況に変 わりはない(また、同一オーダー内では、郡単位で乳価(クラス・差額)に格差 が設けられている)。こうしたことから、オーダーの広域化は、酪農協の存続に 対して大きな影響は与えないというのがUSDAの見解である。 一方、当初は99年12月末をもって廃止される予定だった加工原料乳価格支持制 度については、2年連続の法律措置によって本年12月末までの延長が決定されて いる。CCCによって買い上げられる乳製品の多くは酪農協によるものと言われて おり、支持価格の大幅な引き下げや、制度の廃止が行われた場合、酪農協におい ては、相当の過剰在庫を抱えざるを得なくなるなどの影響が懸念されており、ま た、本制度廃止後に導入が予定されていた返済義務の伴う融資制度(注:穀物な どを対象にした価格支持融資制度は、返済義務が免除されている。)についても、 その効果を疑問視する声が多い(なお、96年農業法では、新たなリスク管理対策 として、生乳の先渡し契約やオプション取引に関するパイロット事業が設けられ たが、一般的には、まだ浸透していない)。 表9 CCCにおける乳製品買い上げ数量(2000年) 資料:USDA/FSAを基に推計 注:「酪農協の推定シェア」は、表6にある製造数量シェアを用いた。 関係者の間では、本制度の存続について楽観視する向きが多いが、その取扱い も含め、将来の酪農政策のあり方については、次期農業法の検討過程において実 質的な議論が行われるものと予想され、今後の米国政府、議会および関係団体の 動向が注目される。
以上見てきたように、米国の酪農協は、これまで、酪農・乳業をめぐる情勢の 変化に対応しながら、生乳の販売、処理・加工、さらには農家へのサービス提供 といった機能の強化を通じて、酪農家の利益確保のため、大きな役割を果たして きた。 ただし、これは米国の酪農・乳業全体にも言えることであるが、・関税割当と 高率の枠外関税による国境措置、・FMMO制度による最低取引価格の設定や加工原 料乳価格支持制度をはじめとする国内保護措置、・さらには、乳製品輸出奨励計 画(DEIP)の下での乳製品の補助金付き輸出といった手厚い制度の存在を前提と した、国内市場優先の供給構造の上に成り立っているものである。また、このよ うな制度がありながら、生産の増大による大幅な価格低下を招き、3度にわたる 総額約10億ドル規模の酪農家への緊急的な直接支払いを余儀なくされたのも、生 産調整という根本的な需給調整手段を欠く米国酪農のもろさを象徴していると言 える。 当然のことながら、米国の酪農関係者は、こうした諸点を十分認識しながら、 新農業法の制定や次期交渉に向けてのポジション固めを進めつつある。酪農家と 乳業者・消費者との間に立つ酪農協もまた、同じ認識の下で、統合や合弁などを 通じた効率化や体質強化を図ることによって、今後とも、米国酪農・乳業の中心 的な役割を担っていくに違いない。 米国の酪農協の状況を知ることは、組織再編を急ぐ日本の酪農関係農協組織に とっても、意を強くすることにつながるのではないかと感じた次第である。 参考文献: 1. USDA/Rural Business-Cooperative Service (RBS) "Marketing Operations of Dairy Cooperatives" (94年4月、99年6月) 2. USDA/RBS "Dairy Cooperatives"(95年10月) 3. USDA/RBS "Dairy Cooperatives' Role in Managing Price Risks"(96年9月) 4. USDA/RBS "Financial Profile of Dairy Cooperatives, 1997" 5. National Cooperative Bank (NCB) "NCB Co-op 100" 6. Hoard's Dairyman(99年10月10日、2000年5月10日、2000年10月10日、 2001年2月10日) 7.(社)中央酪農議会「1997 新農業法下の米国酪農」(97年10月) 8.(社)中央酪農会議「酪農政策の転換と酪農組織の機能強化―課題と改善経過 ―」(99年3月) 9. 鈴木宣弘「米国における生乳の需給調整―酪農協、メーカー、政府の役割―」 (社)中央酪農会議(2000年3月) 10. 畜産振興事業団「米国の酪農・乳業」(叢書シリーズ18、96年3月) 11. 農畜産業振興事業団「畜産の情報・海外編」(2000年3月)
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