イギリス、競争力回復のため養豚業の再編を加速


養豚農家に対する補助を開始

 イギリス政府は1月22日、養豚業再編計画(Pig Industry Restructuring 
Scheme:PIRS)に基づき、養豚経営の継続を希望する農家に対し、金利補助
事業の申請受付を開始した。このPIRSは、・養豚農家の廃業促進、・養豚農家が
抱える借入金の金利補助の2つから構成されている。・については、既に昨年12
月4日から申請受付が開始されており、今回の開始により、PIRS全体が本格的に
動き出すこととなった。

 EUでは、96年の牛海綿状脳症(BSE)問題の影響による代替品としての豚肉需
要の増加や、97年にオランダで発生した大規模的な豚コレラに伴う一時的な需給
ひっ迫により、主要国での豚肉生産は加速的に拡大した。この結果、供給過剰に
伴い豚肉価格は暴落し、98年末から99年前半にかけて、価格は記録的な低水準で
推移した。

 さらに、EUの単一通貨ユーロに参加しなかったイギリスでは、ポンド高・ユー
ロ安での為替相場の影響により、デンマークなど域内各国から割安な豚肉の流入
が増加したことで、EU各国の中でも特に厳しい状況に追い込まれていた。


廃業促進による再編と経営継続支援が主点

 現在、豚肉価格は、需給状況の好転により回復基調にあるものの、養豚農家で
は、過去2年間に積み上がった巨額の負債が、生産コストの低減など経営体質改
善のための新規投資を妨げる最大の要因になっている。このような状況を受けて
イギリス政府は、EU委員会の承認を受け、同国養豚業の支援に乗り出すこととな
った。PIRSの概要は以下の通りである。

@養豚農家の廃業促進(Outgoers Scheme)

ア.申請資格者は、98年6月時点で繁殖または肥育用の子豚生産を行っており、
 廃業を希望する、または、98年6月以降、既に廃業した養豚農家

イ.補助単価は、特に定められていない。申請者は価格算定人の評価額を基に補
 助金額を算定し、申請する。補助金額に算入できる各費目の限度額は次の通り。

(ア) 飼養設備の再取得価格の50%以内
(イ) 今後10年間、養豚を行わないことにより見込まれる損失額の50%以内
(ウ)インセンティブとして、上記(ア)および(イ)の合計額の10%以内

ウ.申請者は、廃業により削減される繁殖雌豚1頭当たりの補助金額によりラン
 キング付けされ、削減効果の上位から採択される。なお、申請が承認された者
 は、承認後の10年間は、再び養豚経営を行うことができなくなる。

A養豚経営の継続支援(Ongoers Scheme)

ア.申請資格者は、98年6月時点で繁殖または肥育用の子豚生産を行っており、
 引き続き経営を行っている養豚農家。なお、大規模経営体(10名を超える常勤
 職員を雇用)は、申請採択に当たり、98年6月との比較で16%に当たる繁殖雌
 豚頭数の削減(5年間)が求められる。

イ. 養豚経営に付随する借入金の支払利息の一部が2年間補助される。ただし、
 申請者は、借入額、金利、返済計画を含む事業再編計画を作成することが求め
 られる。


養豚業界の競争力回復が狙い

 このPIRSは、今後3年にわたり実施される予定で、予算総額は6,600万ポンド
(約116億円:1ポンド=176円)に上る。経営が悪化した養豚農家の廃業を促進
し、再編を進め、また、全体で繁殖雌豚頭数を16%削減(98年6月比)する一方、
経営を継続する農家の金利負担を軽減することで、養豚業全体の競争力回復を狙
っている。

 昨年、イギリス東部地域で14年ぶりに発生した豚コレラの状況は、移動制限の
解除など終息に向かいつつあるが、国内の養豚に与えた影響は、いまだぬぐい去
れないものがある。しかし、豚肉に関してイギリスは、EU加盟15ヵ国の中で見る
と生産量で第7位、消費量で第5位を占めており、EUの豚肉需給全体に与える影響
も無視できないだけに、PIRSの成否が注目される。

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