EU、農業経営のリスク管理に関する報告書を公表


各加盟国におけるリスク管理の拡充を要望

 EU委員会は今年1月、農業経営におけるリスク管理の現状および今後の方向性
に関する報告書を公表した。EUにおける現行のリスク管理としては、@農家の経
営戦略(リスクの低い作物や畜種の選択、農業生産の多角化によるリスク分散)、
Aリスクの共有・転嫁(契約生産や契約販売、先物取引等の活用、農業保険等)、
B農業外収入の拡大、C公的支援(災害時の援助等)など、4つに区分されるが、
今回の報告書では、価格変動や生産量変動に対処するリスク管理手法として、先
物およびオプション取引の活用に加え、各加盟国における農業保険制度の拡充を
求めている。

 報告書では、農業経営におけるリスクを、価格変動と生産量変動の2つに大き
く区分しており、このうち価格変動リスクについては、農畜産物の貿易自由化や
共通農業政策(CAP)改革による支持価格(介入価格)の引き下げなどにより、
今後増加するものとみている。また、生産量変動リスクについても、気候変動に
加え、農畜産物の品質に対する要求の高度化、生産資材や動物用医薬品の使用に
関する規制の強化、人、動物、農畜産物の移動・流通の拡大などにより、価格変
動リスク同様、増加とみている。将来的には、特定品目による農業生産の専業化
の進展により、これら2つのリスクはさらに高まるものとしている。


先物およびオプション取引市場の活性化に関心

 アジェンダ2000に基づくCAP改革により、支持価格(介入価格)の引き下げが
行われる中で、今後、先物およびオプション取引の利用機会の増加が予想されて
おり、EUは、価格変動の拡大に対処する新たなリスク管理手法として、また、市
場の透明性向上に寄与するものとして、これら取引市場の活性化に前向きな関心
を持っている。すでに農村開発政策による教育・研修事業を通じて、農産物の先
物取引市場の振興が可能であるが、さらに広く活用されるようEUのすべての農業
者を対象にした情報提供事業などが必要としている。

 一方、生産量変動リスクの管理に対する生産者への支援(災害援助、植物検疫
および家畜衛生に関する対策、農業保険料の補助等)は、各加盟国が前面に立っ
て実施していることから、EUの役割は全体的な枠組み造りなどに限定されている
が、現行制度の枠内で包括的な農業保険制度の構築は可能としている。


非周期的な所得支持は長期的に見て望ましい手法

 一般の農業保険とは違い、必要な場合にのみ実施し、順調な時期には支持を減
らす非周期的な所得支持(Anti-cyclical income support)については、長期
的に見て望ましい手法であると報告している。これは、非周期的な所得支持が農
業分野の崩壊を防ぐとともに、透明性を確保しながら生産者のニーズに対応でき
るため、広く一般からの賛同を得やすいからである。報告書では、緊急災害への
対処として有効であるとともに、世界貿易機関(WTO)での協定上の「緑」の政
策にも適合しているとしている。

 次期WTO交渉を視野に入れ、各加盟国における農業経営に対するリスク管理の
拡充が求められている中で、今回の報告内容がどのように活用されるのかが注目
されている。

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