タイからの生体豚の輸入を禁止(カンボジア)


豚を介するウイルス性脳炎の侵入防止が目的か

 カンボジアのフンセン首相は1月17日、タイから病豚が輸入されて市場に出
回っており、国民の健康を害する恐れがあるとして、同国から密輸される生体豚
を厳しく取り締まるとともに、タイからの生体豚の輸入を禁止すると発表した。

 今回の同首相の発表は、首都プノンペン市内の医科大学の開校式の場で行われ
たもので、病名は特定していないものの、一昨年マレーシアで発生して同国の養
豚産業を壊滅的な状況に追い込み、人にも感染して約100名が死亡した豚を介す
るウイルス性脳炎を指しているとの見方が強い。

 このウイルス性脳炎は、本来の宿主とみられるフルーツバットと呼ばれるオオ
コウモリの一種を介して豚に伝播(でんぱ)し、感染豚の尿や体液などから人に
も直接感染するといわれているが、実態についてはまだ解明されていない部分が
多い。また、カンボジア農業省家畜衛生・生産局によると、カンボジア国内で豚
肉を原因とした人の疾病は報告されたことがないものの、現在、と畜場や市場か
ら採取したサンプルを分析中であるという。


政府は衛生面から輸入禁止措置の正当性を主張

 今回の措置に関連してフンセン首相は、「最近、少なくとも10台のトラックに
積まれた罹患(りかん)豚が、カンボジア国内に運び込まれたと聞いている。」
としており、このような密輸を厳しく取り締まるとともに、これらをタイからの
生体豚の公式な輸入をも禁止する1つの根拠としている。また、同首相は、欧州
で発生している牛海綿状脳症(BSE)との関連で、各国が発生地域などからの特
定産品の輸入禁止措置を講じていることを引き合いに出し、同国が衛生上の理由
により、特定国からの生体豚の輸入禁止措置を講ずることの正当性を主張してい
る。同首相の発表を受け、プノンペンでは市長が陣頭指揮をとり、警察が密輸豚
を取り扱っていると畜場を摘発・閉鎖している。

 カンボジアには約240万頭の豚が飼養されており、近年は豚肉消費の伸びが最
も大きく、重要なたんぱく源となっている。しかし、その一方で、毎年約42万頭
の豚が疾病のため処分され、または死亡しており、同国にとって家畜疾病が大き
な問題であることは間違いない。


突然の発表にタイは困惑、唐突な措置には疑問も

 一方、今回のカンボジアの発表を受け、ブロイラーに次ぐ輸出産品として養豚
を振興したいタイ側は困惑している。タイ農業協同組合省畜産開発局では、99年
にマレーシアで豚を介するウイルス性脳炎が発生したとき、タイは直ちに同国か
らの豚の輸入禁止措置を講じており、タイで同症が発生したことはいまだかつて
ないとしている。

 タイから正式な手続きにより輸入される生体豚は、タイ輸出統計によると、年
間約500頭程度にすぎないが、実際にはこれを大きく上回る数の豚が、半ば公然
と密輸されているとみられる。カンボジアで豚肉の需要が高まる旧正月(1月24、
25日)をひかえた時期に、首相がなぜこのように唐突な措置を講じたのかについ
ては疑問が多い。また、国民に対して、「しばらくは豚肉を食べないように」と
まで言及しており、同国の養豚産業に何らかの異変があった可能性も含め、今後
の動向が注目される。

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