世界最大の家畜市場、オクラホマ・ナショナル・ストックヤード(米国)

ワシントン駐在員事務所 渡辺 裕一郎、樋口 英俊


ひとくちメモ

 オクラホマ州とこれに隣接するテキサス州の北部一帯は、両州の境の形からパ
ンハンドル(平なべの柄)地域と呼ばれ、肉用牛の一大生産・肥育地帯としても
有名である。肉用牛の繁殖経営は全米各地に分布し、83万戸の農家で3,340万頭
の繁殖雌牛が飼養されているが、飼養頭数第1位のテキサス州(547万頭)と4
位のオクラホマ州(191万頭)の両州の飼養頭数は、全米の約22%を占めている
(2001年1月1日現在)。

 オクラホマの州都オクラホマ・シティにあるオクラホマ・ナショナル・ストッ
クヤードは、世界最大の取引規模を誇る子牛市場であり、年間取引頭数は、77年
の116万頭をピークに減少傾向にあったが、90年代以降は横ばい傾向で推移し、
2000年は49万7千頭となっている。取引されるのは、地元オクラホマ州のほか、
アラバマ州やルイジアナ州など南東部の繁殖経営において生産された3〜4ヵ月
齢以降の子牛(stocker)や、育成経営において12ヵ月齢程度まで育成された肥
育素牛(feeder)が中心である。取引データは、米農務省(USDA)によって集計
・公表され、国内における肥育素牛の取引指標価格として活用されている。
 繁殖農家から搬入される子牛。この
市場で取引される牛は、延べ約2万戸
の農家から集荷される。オクラホマ州
立大学ワード教授によると、米国では、
大規模農家においてはバイヤーとの直
接取引が進展しているが、比較的小規
模な農家は家畜市場を利用して販売す
る場合が多いという。家畜市場は、子
牛や肥育素牛の集荷・分配の場として、
現在もなお大きな役割を果たしている。
 
 オクラホマ・ナショナル・ストック
ヤードは、併設の食肉処理・加工場で
処理される家畜の取引市場として1910
年に開設された。1961年のパッキング
・プラントの閉鎖と同時に、それまで
穀物倉庫として利用されていた建物が、
オークション・アリーナ(競り場)と
して生まれ変わった。
 カウボーイによって競り場に追われ
る子牛。市場開設日は毎週月・火の2
日で、取引頭数は週平均で約1万頭。
取引は、1回30頭前後の群競り方式で、
1時間に700〜800頭が売買される。

    
 ペンの中で待機する乳用種肥育素牛
(中央)。市場に登録された9社の家
畜商は、集荷した牛を体重、月齢およ
び品種が比較的そろった牛群に仕分け
る。出荷農家は、1頭当たり10ドル
(市場徴収分5ドル、家畜商徴収分5
ドル)の販売手数料を支払う。
 
 育成農家やフィードロットからの委
託を受けた買参人(order buyer)は、
座席に設置された電話で、委託者と連
絡を取りながら競り落としていく。1
回当たりの平均参加者は約35人。市場
会社の社長であるフィッシャー氏も現
役の買参人である。

    
 競り人の上方に設置された4台のデ
ィスプレーには、群単位の取引頭数、
1頭当たりの平均体重、合計体重およ
び100ポンド当たりの価格が表示され
る。取引で最も重要視されるのは体重
であり、肉専用種の場合でも、品種は
ほとんど考慮されないという。

    
 買参人は、牛運搬用のトラックを所
有し、購入先の育成農家やフィードロ
ットに搬送する。購入先からは、生体
100ポンド当たり50セントの手数料と、
輸送料などの実費を徴収する。
 テキサス州アマリロ近郊の繁殖・育
成経営(雌牛1,500頭)における、広
大な自然草地での粗放的な放牧風景
(2月)。自然交配による春、秋の季
節生産で、冬季は放牧地で濃厚飼料
(ペレット)やロールベール乾草を補
助的に給与する。

    
 パンハンドル地域は、夏場の豊富な
草資源と、冬場の小麦畑放牧地(写真)
を活用した育成経営も盛んである。ワ
ード教授によると、南東部で生産され
た春子牛が、秋にパンハンドル地域の
育成経営に移動し、小麦畑放牧地で育
成された後、肥育素牛として出荷され
るのが、最も一般的なパターンとされ
る。

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