EUの牛乳・乳製品の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○生乳供給は安定、乳製品はチーズ生産に傾く


 EU委員会は2001年7月、2001〜08年までの主要農畜産物についての需給に関
する見通しを公表した。生乳需給などに関する概要は以下のとおりである(需給
に関する見通し策定に当たっての前提条件等については、参考を参照)。


減少が見込まれる乳用経産牛飼養頭数

 EUの生乳生産見通しについては、2005〜07年にかけて予定されている生乳生
産割当(クオータ)制度の見直しによる生産枠の拡大により、その後の増産が予
測される。しかし、生産枠の拡大と併せて生乳の最低保証価格が見直されるため、
実質的な生産の増加率はかなり低く抑えられるとみられる。この間の乳用経産牛
の飼養頭数は、クオータ制度の下で乳用経産牛1頭当たりの乳量が年々増加する
ため、減少傾向で推移することとなり、頭数は2000年の2,060万頭から2008年に
は1,810万頭へと、率にして12%を超える減少が見込まれる。


生乳供給は安定的な推移と予想

 EU域内の生乳供給量(乳業会社等への出荷量)は、2004年までの間、わずかな
がらも減少が見込まれるが、その後の生産枠の拡大により若干の増加が期待でき
る。乳用経産牛1頭当たりの生乳生産量は年平均で約1.6%の増加となり、2008
年には2000年の約1.13倍に達するものと見込まれる。しかし、乳用経産牛の飼養
頭数が減少傾向となることから、2001年以降の生乳供給量は、ほぼ1億4,400万
トン台で安定的に推移すると予想される。

EUにおける生乳生産、供給、頭数の長期見通し

 資料:EU委員会
  注:頭数は各年12月末


チーズは安定して生産が増加、輸出は長期的には増加

 EUのチーズ生産は、域内需要や域外向け輸出の拡大を背景に、安定した増加が
見込まれる。短・中期的な見通しでは、輸出補助金の削減などにより輸出量は一
時的に減少するが、長期的な見通しでは、生乳価格の低下に伴い生産コストが低
下する中で、国際価格の上昇も見込まれるため、輸出市場におけるEU産チーズの
価格競争力は高まるものと期待される。一方、域外からの輸入については、UR農
業合意やEU加盟候補国との貿易協定などにより、実質的な増加が見込まれる。


1人当たりのチーズ消費も順調に増加

 EU加盟各国における1人当たりの年間チーズ消費量については、引き続き増加
が期待される。2001年から2008年までの消費は、年平均0.8%の伸びが予想され、
1人当たり19.5sと2000年に比べ1.25sもの増加となる。このようなチーズ需
要の拡大による生産の増加で、生乳供給がチーズ原料向けに傾斜し、バターや脱
脂粉乳などの乳製品生産に影響を与えることになる。

EUにおけるチーズ需給の長期見通し

 資料:EU委員会


バターの生産、消費はともに減少予測

 EUのバター生産は、供給される生乳の乳脂肪分が上昇すると見込まれるにも関
わらず、減少が予測される。これは、他の乳製品、特にチーズ生産の拡大による
バター・脱脂粉乳向け生乳供給量の減少と併せて、需要不振で価格が低迷してい
ることによるものである。バター消費については、現在の総需要量の約30%が補
助金により支えられているものであることから、将来的な補助金削減により需要
は減少せざるを得なくなる。EU域内のバター消費を1人当たりの年間消費量で見
ると、2000年の4.69sから2008年には4.39sへと7%近い減少が見込まれる。


バター輸入、輸出は現状レベルで推移

 EUのバター輸出については、98年のロシアの通貨危機による落ち込みから回復
傾向にあり、年間約20万トン台で推移するとみられる。しかし、輸出補助金に支
えられたEUのバター輸出は、価格面などでオセアニア諸国との対抗は難しく、こ
れ以上の上積みは期待できない。仮に、輸出補助金の削減などによりこの輸出見
通しを下回った場合、EUの介入在庫の増加に結びつくことになる。一方、域外か
らのバター輸入については、UR農業合意に基づく輸入が見込まれることから、短
期的には増加し、年間110千トン台で推移するものと見込まれる。

EUにおけるバター需給の長期見通し

 資料:EU委員会


補助金の削減などにより脱脂粉乳生産は減少

 EUの脱脂粉乳の生産は、価格は上昇したものの、飼料用への補助金削減、低迷
するバター価格および輸出補助金の大幅な削減などにより、その促進までには至
っていない。このため、2005年までの生産は、年平均3%弱での減少が予測され
る。一方、脱脂粉乳の消費については、食用需要がほぼ一定の水準で推移すると
みられるのに対し、飼料需要は、補助金の廃止や他の飼料原料用農産物の価格引
き下げが見込まれるため、長期的にも低下するものとみられる。


世界市場おけるEU産脱脂粉乳のシェアは縮小

 世界市場における脱脂粉乳取引が拡大する中で、EUの脱脂粉乳輸出は、ある程
度の増加が見込まれるものの、オセアニア諸国の積極的な輸出攻勢に太刀打ちで
きる状況にはない。堅調に推移する域内価格や輸出補助金の大幅削減により、世
界市場におけるEU産のシェアは縮小を余儀なくされる。一方、域外からの輸入に
ついては、EU加盟候補国との貿易協定などにより、安定した増加が見込まれる。

EUにおける脱脂粉乳需給の長期見通し

 資料:EU委員会
  注:バターミルクパウダーを含む



○参 考


1.EUの2008年までの農畜産物需給見通し

 EU委員会では、毎年、EUの主要農畜産物の需給状況について、中・長期的な見
通しを作成している。前回(2000年10月)公表された需給見通しでは、昨年10月
末、フランスでの牛海綿状脳症(BSE)感染疑惑牛肉の販売問題を皮切りにEU各
国に拡大したBSE問題の再燃・拡大の影響や、今年2月のイギリスを中心とする
口蹄疫発生の影響などが内容に加味されていなかった。このため、実態に即した
データの見直しが早急に行われ、2001年は7月という例年にない早期の公表とな
っている。なお、今回の見通しは、2001年5月時点における諸条件を基礎として
策定されたものである。

2.需給見通し策定に当たっての前提条件

(1)農業および貿易政策

 @農業政策については、EUの現行農業規則および2001年から2008年の間に既
  に実施が決定されたものを適用する。また、この中では、アジェンダ2000の
  フレームワークに採用されたEUの共通農業政策の改革についても考慮に入れ
  る。

 A貿易政策については、輸出などに関してガット・ウルグアイラウンド(UR)
  農業合意に基づく輸出補助金による農畜産物の輸出は、毎年のUR農業合意の
  範囲を超過しないと仮定する。また、ミニマム・アクセスによる輸入につい
  ても、これをすべて組込むものとする。さらに、UR農業合意の内容は、2008
  年まで継続すると仮定する。

 B2000年にEU加盟候補国10ヵ国との間で締結した貿易協定については、その内
  容を含むものとする。

(2)一般的な経済指標

 一般的な経済指標については、2001年から2008年におけるEU域内の人口増加率
を平均で0.2%、経済成長率(GDP)は平均で2.9%、インフレ率については平均
で1.8%とする。

EUの主要経済指標

 資料:EU委員会
  注:為替レートは米ドル対ユーロ

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