WTO、カナダの新乳価制度も輸出補助金と裁定


99年のWTO協定違反裁定を受け制度を改定

 世界貿易機関(WTO)紛争処理小委員会(パネル)は7月5日、スペシャル・
ミルク・クラス制度に代わるカナダの新たな乳価制度についても、輸出補助金に
該当するとの裁定を下した。

 スペシャル・ミルク・クラス制度とは、輸出向け乳製品製造用の生乳について、
国内向けよりも安価な乳価クラスを設定し、生産者にはこれらのプール乳価が支
払われるという仕組みである。しかし、99年10月にWTO協定違反との裁定を受け、
2000年末までに協定に整合するような制度への改定が余儀なくされたことから、
2000年8月以降、各州単位による新しい輸出用生乳の価格制度が実施されていた。


カナダ、新制度は政府介入なく協定違反でないと主張

 制度が改定されるまでは、供給管理(クォータ)制度の下、生乳が供給過剰と
なった場合にのみ、カナダ酪農委員会(CDC)が、輸出用の乳価クラスの下での
取引を許可する仕組みとなっていた。

 これに対し、新制度では、こうした乳価クラスが廃止され、輸出向けに取引さ
れる生乳がクォータ制度の対象外となり(CDCの許可制も廃止)、生産者と乳業
者は、直接交渉によって輸出向け生乳の価格と数量について契約を交わし、これ
に基づいて取引することが可能となった(ただし、ケベック州とオンタリオ州に
おいては、「bulletin board(掲示板)」と呼ばれる単一の取引所での取引に
限定)。このため、カナダの政府や関係団体は、新制度に対する連邦・州政府の
介入は一切なく、価格は商業ベースで決定されるため、新しい乳価制度は、輸出
補助金には該当しないとの強気の立場を表明していた。


パネルは、輸出補助金と譲許表違反の2点に該当すると認定

 しかし、申立国である米国とニュージーランドは、変更後の制度もWTOの裁定
に従っていないとして、今年2月9日にカナダとの協議を行ったが、これが不調
に終わったため、2月16日には、本件に関するパネル設置と併せて、両国とも3,
500万ドル(約44億1千万円:1ドル=126円)相当の対抗措置(カナダ産品に対
する関税引き上げ)の承認をWTOに要請した。その後の仲裁手続きによって、パ
ネル(または上級委員会)報告が採択されるまで、対抗措置の手続きは延期され
ることとなり、そのパネルは3月1日に設置された。

 今回のパネル認定のポイントは、

@ 政府のクォータ制度の外に置かれた輸出用の生乳は、実際上、同制度下にあ
 る国内市場向けよりも低い価格で取引されており、また、これを国内市場に仕
 向けることも制度的に禁止されているなど、政府の政策的な関与によって、輸
 出向けの低価格生乳が供給される仕組みが存在するとして、農業協定第9条1
 (c)の「輸出補助金(政府の措置によって農産品の輸出について行われる支
 払い)」に該当する

A この制度による輸出用相当分を算入した場合の2000/01年度におけるチーズ
 の補助金付き輸出数量(1万666トン)が、譲許水準(9,076トン)を超えてい
 ることから、同協定第3条3および第8条の譲許表違反にも該当する

というものである。


米国は今回の裁定を歓迎、カナダは上訴の意向

 この裁定について、ベネマン米農務長官は7月11日、「WTOが米国の農業者を
不公正な貿易競争から守るものであることが証明された」とした上で、市場拡大
と輸出補助金の撤廃を図るためには、現在ブッシュ政権が獲得を目指している貿
易促進権限(TPA:ファスト・トラック権限と同義)の付与が不可欠である旨も
併せて強調した。また、全国生乳生産者連盟(NMPF)をはじめとする米国の酪農
・乳業3団体も同日、今回のパネル裁定を歓迎する共同声明を発表した。

 一方、カナダのバンクリフ連邦農業・農産食料大臣は、「カナダは、WTOの下
での国際的義務を完全に果たしている」として裁定への不満を表し、上級委員会
に上訴する構えであることを明らかにした。なお、上級委員会の裁定は、原則と
して申し立てから60日以内に行われる。

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