米下院農業委員会、次期農業法案を承認


作付け自由化などは維持、油糧種子の作物計画への追加も提案

 米下院農業委員会では、7月12日に同委員会のコンベスト委員長(共和党、テ
キサス州)および少数党リーダーであるステンホルム議員(民主党、テキサス州)
が公表した次期農業法の素案(コンセプトペーパー)に基づき、集中的な法案の
詰め(マークアップ)を行っていたが、同月27日、超党派の賛成を得て、次期農
業法案である2001年農業法案(「The Agricultural Act of 2001」法案番
号H.R.2646)が承認された。

 この中で、作物計画については、現農業法で実現されて生産者からの評価も高
い作付け自由化や、農家直接支払い制度を維持することとしている。農家直接支
払い制度に基づく固定支払い額は、素案では現農業法の最終年度である2002年度
水準での据え置きが提案されていたが、議会予算局(CBO)による支出見込額が
当初の推計額を下回ったことから、当初の水準を15〜32%上回る額に設定された。

 また、大豆などの油糧種子作物についても、作物計画に追加することが提案さ
れており、実現すれば、現農業法に基づく価格支持融資制度に加え、農家直接支
払い制度などの新たな適用対象となる。ただし、ローンレートの単価は、従来の
対象作物のほぼすべてが現行水準での据え置きとなっている一方で、油糧種子作
物は引き下げられることとされており、例えば大豆の場合、2001年のレートに比
べて6.5%安の1ブッシェル当たり4.92ドル(1トン当たり約22,778円:1ドル
=126円)に設定されている。

H.R.2646で提案された主要作物のローンレート、
直接固定支払い単価および目標価格

 資料:米下院農業委員会
  注:大麦とえん麦のローンレートは、トウモロコシの
    飼料価値に基づき考慮される数式により算出

生産者所得対策として、目標価格に基づく支払い制度の復活も

 この法案では、価格低迷時に変動幅を補う形(countercyclical)での生産者
所得に対するセーフティネットとして、現農業法制定時に廃止された目標価格に
基づく支払い制度も復活されている。目標価格について、素案では、新たに作物
計画に加えられた作物を除き、95年の価格水準に設定することとされていたが、
農家直接支払い制度の単価と同様の理由で、当初の水準を1〜2%上回る額に設
定された。支払額(単価)は、生産者受取価格(12ヵ月全国平均)あるいはロー
ンレート(全国平均)のいずれか高い方の額と農家直接支払い制度に基づく固定
支払額の合計を、目標価格から差し引いた額となる。


環境保全事業の拡充と輸出政策・加工原料乳価格支持の継続などを盛り込む

 畜産団体をはじめとして、生産者からの要望の強い環境保全事業の拡充につい
ては、土壌保全留保事業(CRP)の対象面積の拡大、環境改善奨励事業(EQIP)
の増額など、現状の予算から大幅に増加された。また、輸出政策として、市場ア
クセス計画(MAP)予算の倍増、輸出奨励計画(EEP)、乳製品輸出奨励計画(D
EIP)、海外市場開発計画(FMDP)の継続なども含まれている。

 酪農については、加工原料乳の価格支持制度を、現行の買い上げ価格である10
0ポンド当たり9.90ドル(1s当たり約28円)で継続することとされている。同
制度は、現農業法で2000年1月1日以降の廃止が規定されていたにもかかわらず、
生乳生産者団体である全国生乳生産者連盟(NMPF)の反対などにより、農業関連
予算法などに基づく延長が図られてきたものである。


肉牛団体などが歓迎、政府は議論への積極関与を表明

 全米最大の農業生産者団体であるファームビューローのストールマン会長は、
下院農業委員会での農業法案承認に関する声明の中で、同委員会の短期間での精
力的な作業に敬意を表するとともに、法案自体についても「バランスが取れてお
り、かつ公平なもの」と評価し、「このままの状態で、下院の本会議で可決され
ることを望む」と述べた。これに対して、小規模家族農家を主な会員とするナシ
ョナル・ファーマーズ・ユニオンは、作物間での不公平さが解消されていないこ
と、今日必要とされる家族農家にターゲットを絞った施策に欠けていることなど
を挙げて、同法案に対する失望を表明した。

 畜産関係では、肉牛生産者の団体である全国肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA)
が、同協会がかねてから主張してきた環境保全事業や輸出促進事業に対する拡充
などが認められたことに満足の意を表した。NCBAでは、提案されている作物計画
について、96年農業法とほぼ同様の効果にとどまるため、牛肉生産にマイナスの
影響を及ぼすことはないものとみている。また、NMPFは、同連盟の要望がすべて
取り入れられているわけではないものの、現在の買い上げ水準での加工原料乳の
価格支持制度の継続が認められたことは、生乳生産者にとって重要な勝利である
としている。

 一方、ベネマン農務長官は、素案の公表時に、「重要な第一歩であり、生産者
や一般国民のニーズに対する真剣な対応」と述べる一方、米農務省(USDA)でも
近日中に次期農業法に関する考え方を明らかにし、今後の議論に積極的に関与し
ていく姿勢を示した。


注目される上院での議論

 コンベスト農業委員長は、下院本会議での審議を夏季休会明けの9月に行い、
今年のクリスマス前までには次期農業法を成立させたいとの意向を示している。

 一方、上院は、次期農業法の議論に関して、依然として出遅れの感を否めない。
上院農業委員会のハーキン委員長(民主党、アイオワ州)は、次期農業法では、
環境保全により重点を置くべきであると主張しており、下院農業委員会を通過し
た法案に比べ、作物計画への支出が少なくなることも予測されている。また、上
院の同委員会少数党リーダーであるルーガー議員(共和党、インディアナ州)は
先ごろ、市場指向の重要性を強調する発言をしており、生産者の所得セーフティ
ネットなどをめぐり、下院農業委員会とは異なるアプローチを取ることも考えら
れる。いずれにせよ、次期農業法の本格的な議論は始まったばかりであり、今後
の動きに注目したい。

元のページに戻る