海外駐在員レポート 

96年農業法以降の米国酪農政策の動きについて

ワシントン駐在員事務所 渡辺 裕一郎、樋口 英俊




1 はじめに

 96年農業法によって市場指向型農業に向かって大きく踏み出したかに見えた
米国農業政策は、その後の市場価格の低下に伴う農家の所得減を補うために実施
された累次の緊急支援措置、さらには、現在、上下両院で調整が行われている次
期農業法案の内容からもうかがえるように、価格支持的な政策への回帰、という
議会主導の流れの中に飲み込まれようとしている(96年農業法も確かに議会主導
で作られたのだが)。

 こうした流れは、耕種作物だけでなく、酪農分野についても同様である。96年
農業法で示された酪農制度改革の方向は、その実施に至るまでの4年近くの議論
の中で実質的な後退を迫られ、次期農業法案でもこの流れが受け継がれつつある。

 今回は、2年前に報告した「米国の新酪農制度」(本誌2000年3月号・特別レ
ポート)以降のフォローアップという意味も込めて、最近の米国酪農政策に関す
る特徴的な動きを中心に報告する。

2 米国酪農の生産構造

(1)基本生産指標

 まずは、あらためて米国酪農の基本的な生産構造について紹介する。

 2000年における米国の酪農経営体数は、この10年間でおよそ半減し、約
10万5千戸(日本の約3倍)となっている。経産牛頭数も長期的には減少傾向
にあり、2000年には約921万頭(同約8倍)となっているが、1経営体当たり経
産牛頭数は着実に増加し、88頭/戸と、日本の約2.6倍の規模に相当している。
 2000年の生乳生産量は、過去最大の約7,605万トンを記録している。この水準
は、世界最大であり、日本の生乳生産量の約9倍にも及ぶ。

表1 酪農関係指標の日米比較(2000年)

 資料:USDA/NASS、農林水産省

 米国の酪農経営体の規模別分布状況を見ると、経産牛飼養頭数が30頭未満の経
営体は、戸数全体の約3割を占めているが、頭数シェアではわずか約3%に過ぎ
ない。一方、全体の戸数の約2割を占める飼養頭数100頭以上の経営体において
は、頭数全体のおよそ3分の2が飼養され、さらに、1000頭以上層では、戸数で
見るとわずか1%にも満たないが、頭数では全体の約2割が飼養されている。

表2 米国の酪農経営体の規模別シェア(2000年)

 資料:USDA/NASS


(2)地域格差の拡大と競争の激化

ア 経営規模の地域的特徴

 このような、小規模な多数の経営体と、少数ながら生産量の相当部分を占める
大規模経営体への分化の傾向は、地域的な特徴を伴っている。

 まず、酪農経営体の戸数は、伝統的な酪農地帯である北東部から中西部にかけ
ての諸州に多く分布し、上位5州(ウィスコンシン、ペンシルベニア、ミネソタ、
ニューヨーク、オハイオ)だけで全米の戸数の半数を占めているが、比較的小規
模な経営が多い。このため、生乳生産量については、全米の約2割の酪農経営体
が存在するウィスコンシン州が大規模経営体のウエイトの高いカリフォルニア州
(戸数では全米第11位)に、近年そのトップの座を譲っており、同様に大規模化
が進むアイダホ、ワシントン、テキサス、アリゾナなどの西部(山岳部や太平洋
岸)を中心に生産量が急速に増大してきている。

表3 上位12州の酪農経営体数(2000年)

 資料:USDA/NASS

◇図1:上位13州(2000年)の生乳生産量の動向◇


イ 生乳生産コストの地域的特徴

 99年における単位重量当たりの生乳生産コスト(全米平均)のうち、変動費
(cash costs)と固定費(fixed cost)は、それぞれ85:15の割合となっており、
うち、変動費の中の飼料費は、全体の約53%(うち濃厚飼料費は約29%)を占め
ている。

 この飼料費は、穀倉地帯である北部平原、五大湖周辺の諸州を含む北中西部
(Upper Midwest)や、アルファルファなどの良質な粗飼料の生産が盛んな太平
洋岸(Pacific)において低く、これを反映して変動費全体としては、逆に北東
部(Northeast)や南東部(Southeast)などで割高となっている。一方、比較的
天候が温暖で投資コストが少なく、大規模な経営が多いためスケールメリットが
生かせる太平洋岸や南部平原(Southern Plains)においては、生乳単位重量当
たりの固定費(施設・機械の減価償却費や借入金利など)が少なくて済むが、北
中西部では、全米平均よりも約3割増と、突出して多い。

 こうした結果、生産コスト全体としては、太平洋岸や南部平原が低水準、北東
部や南東部が高水準、そして北中西部が全米平均水準にあると言える。

 また、各地域の生乳単位重量当たりの総利益(Gross Returns)について見る
と、後述するような連邦ミルク・マーケッティング・オーダー(FMMO)制度にお
けるクラスT(飲用乳向け)価格の水準の違いを反映し、飲用乳地帯で供給量が
不足する南東部において高く、太平洋岸ではむしろ低いという状況にある。

 以上のことから、小規模経営主体の伝統的な酪農地帯である東部から、大規模
経営主体の新興地帯である西部へと生乳生産量が移動していることの裏付け、あ
るいはその理由を示すかのように、損益を通算した純利益(Net Returns)を比
較すると、南部平原や太平洋岸では全米平均の4割を超えるなど収益性が極めて
高く、また、こうした傾向が年々顕著になってきていることがうかがえる。

 このような、地域間の格差の拡大と競争の激化が、近年の米国の酪農政策に与
えてきた影響は大きく、全国一律とはいかない政策決定の困難化と制度の複雑化
の傾向をますます強めてきている。

表4 地域別の生乳の生産コストおよび収益性(1999年)

 資料:USDA/ERS「Cost of Production/Returns
     Surveys」、Sparks Inc.
  注:総利益には、生乳の廃用牛や子牛の販売額
    も含まれる。


3 96年農業法以降の酪農政策

 米国における主要な酪農政策には、@国内措置として、連邦ミルク・マーケテ
ィング・オーダー(Federal Milk Marketing Orders:FMMO)制度、加工原料乳
価格支持制度、北東部諸州酪農協定(Northeast Dairy Compact)、酪農市場損
失支援プログラム(Dairy Market Loss Assistance Program)など、A輸出入関
連措置として、乳製品輸出奨励計画(Dairy Export Incentive Program:DEIP)、
輸入製品の関税割当制度などが挙げられる。本項では、酪農制度改革がうたわれ
た96年農業法以降、現在までのこれら政策の具体的な見直し内容や実施状況につ
いて記述する(本誌2000年3月号・特別レポートとも一部重複するが、制度の内
容や議論の経緯などが詳述されているので、併読いただければと思う)。


(1)連邦ミルク・マーケティング・オーダー(FMMO)制度

ア 2000年1月に新制度に移行

 本制度の歴史は古く、1933年および1935年の農業調整法において、マ
ーケティング・オーダー(市場地域)ごとの用途区分(クラス)別の最低乳価の
設定と、生乳取扱業者による生産者へのプール乳価の支払いが義務付けられた後、
1937年農産物販売協定法の制定(独占禁止法の適用除外)によって本制度が正式
にスタートした。

◇図2:2001年1月以降の連邦ミルク・マーケティング・オーダー
(11地域)◇

 資料:USDA/AMS

 96年4月に制定された96年農業法の下では、後述するような加工原料乳価格支
持制度の廃止と併せて、本制度についても創設以来およそ60年ぶりの大改革がな
されるはずであった。実際に、同法で規定された「3年以内に制度改革を完了さ
せる」という点については、具体的な改革の実施方法に関する国内での議論がも
めにもめ、予定より8ヵ月遅れの2000年1月1日に新制度が実施に移されてはい
る。具体的には、

@ オーダー数が33(注:99年12月時点では31)から11に統合されるとともに、

A 生乳(飲用規格:グレードA)の用途区分については、それまでの3区分
 (クラスT:飲用乳向け、クラスU:ソフト乳製品向け、クラスV:ハード乳
 製品向け)から4区分に再分類(従来までのクラスVを、チーズ向けとバター
 ・脱脂粉乳等向けとして、それぞれ新たなクラスVとクラスWに分離)され、

B また、それまでのクラスV価格として適用されていた、加工用規格生乳(グ
 レードB)の実勢価格に基づく「基礎公式価格(Basic Formula Price:BFP)」
 に代わって、乳製品(チーズ、バター、ホエイおよび脱脂粉乳)の取引価格か
 らメーカーの製造経費見合額を差し引いて求められた各乳成分(乳たんぱく質、
 乳脂肪、無脂固形分など)の価値から逆算して「クラスT基礎価格(mover)」
 を求めるという、新たな各クラス乳価の算定方式を採用する、

などの変更が施されている。

◇図3:加工原料乳価格支持制度とFMMO制度の関係◇

 資料:USDA/ERS

 しかし、最大の争点であったクラスT差額(Differential)(従来までは、北
中西部のウィスコンシン州オークレア市からの輸送費等に相当する額。各オーダ
ーのクラスT価格は、上記Bにある全国一律で決定される「クラスT基礎価格」
に、各オーダー別に設定されるクラスT差額が上乗せされた形となる)について
は、従来よりも低い水準に設定したい米農務省(USDA)の意向とは裏腹に、最終
的には、99年11月に成立したFMMO制度改革案の修正法を含む2000年度包括統合予
算法により、従来に近い水準が維持され、これが、上記北中西部のほか、西部、
南西部の計3ヵ所を起点として、全米の各郡単位で設定されるに至った。以前に
も増してきめ細かい地域区分単位での配慮がなされたことで、生産者にとっての
オーダー統合の影響はほとんどなくなったに等しいと言える。

 なお、後述するように加工原料乳価格支持制度が存続される状況にある中、上
記Bのとおり、FMMO制度における各クラス乳価が、全体的に見るとわずかな生産
量でしかない加工用規格生乳(グレードB)の価格(BFP)ではなく乳製品の実
際の取引価格を基礎として算定されることとなったことから、図3にもあるよう
に、両制度の結び付きはより強化され、生乳の価格支持効果はむしろ以前よりも
高まったという見方もできよう。

表5 各オーダーの生乳取扱量とクラスT差額の設定状況(2000年)

 資料:USDA/AMS
  注:「クラスT差額」は、( )内の州内の代表的な都市の値である。


イ クラスV・W価格の算定方法の見直し

 上記修正法では、クラスV(チーズ向け)およびクラスW(バター・脱脂粉乳
等向け)の価格算定に必要な製造経費見合額の適正な水準などを設定するため、
USDAが、公聴会を開催し、2000年12月1日までに最終規則を発表、2001年1月1
日までに新方式による価格設定を実施することが規定された。これを受けてUSDA
は、2000年5月の公聴会において関係者の意見を聴取した上で、2000年12月1日
にその算定方式の最終規則案を公表し、暫定規則という形で2001年1月1日から
とりあえず施行に移すこと、ただし、約60日間(同年2月5日まで)のコメント
募集を行い、必要な見直しを行った上で最終規則の形にすることを明らかにした。

 しかし、この暫定規則を不服とするニューメキシコ州の酪農協の訴えを受けて、
ワシントンDCの連邦地方裁判所は2001年1月31日、USDAに対し、クラスVの乳脂
肪価格の変更を一時的に凍結するための差止め命令を出した。このため、USDAは
10月25日、この裁判所の禁止命令と暫定規則に対して寄せられたコメントを踏ま
え、暫定規則の一部を変更するための勧告決定を公表し、本年1月25日までに再
度コメントを募集したところである。この変更内容に対しては、当初から見直し
を求めていた全国生乳生産者連盟(NMPF)や上記訴えを起こした酪農協も支持を
表明しているが、寄せられた40件弱のコメントの中には、メーカーやユーザーを
中心に強硬な反対意見も多く、最終規則がいつ頃どのような内容で落ち着くかは
不明である。

○クラスVおよびクラスWの価格算定方法の見直しに関するUSDAの提案の概要

【最終規則案(2000年12月1日公表、2001年1月1日暫定施行)】

@ 製造経費見合額

・クラスV

 − チーズ :0.1702ドル/ポンド → 0.165ドル/ポンドに引き下げ
 − ホエイ :0.137ドル/ポンド → 0.140ドル/ポンドに引き上げ

・クラスW

 − バター :0.114ドル/ポンド → 0.115ドル/ポンドに引き上げ
 − 脱脂粉乳:0.137ドル/ポンド → 0.140ドル/ポンドに引き上げ
 (注:ただし、脱脂粉乳の歩留まり値を1.02→1.00に引き下げ)

A クラスV価格の算定方法

・乳脂肪価格:バター価格ではなくチーズの乳脂肪価格に基づくよう変更
(注:クラスW価格算定に用いる乳脂肪価格については従来どおりバター価格を
 使用)

・乳たんぱく質価格:バターとチーズ間の乳脂肪の価格差を調整するための項を
 含めず、チーズの乳たんぱく質の価格に基づいて算出するよう変更

【暫定規則の一部を変更するための勧告決定(2001年10月25日)】
 @ 製造経費見合額
  ・クラスV
    − ホエイ :0.140ドル/ポンド → 0.159ドル/ポンドに引き上げ
 A クラスV価格の算定方法
  ・乳脂肪価格:クラスWと同様、バター価格を使用


(2)加工原料乳価格支持制度

ア 延長に次ぐ延長で制度は存続

 本制度は、商品金融公社(CCC)が加工原料乳の支持価格水準に見合う価格
で乳製品(チーズ、バターおよび脱脂粉乳)を買上げることにより、加工原料乳
の価格を間接的に支持しようとする制度であり、1949年農業法に基づき導入され
て以来、その後に制定された農業法によって支持価格の見直しなどの改正が逐次
行われてきた。

 96年農業法においては、支持価格を段階的に9.9ドル/100ポンドまで引き下げ、
2000年1月1日以降は制度自体を廃止する、その代わりに、CCCによる乳業者に
対する質流れなしの短期融資(リコース・ローン)制度を3年間実施することが
規定された。しかし、99年10月に成立した2000年度農業関連歳出法では、FMMO制
度改革の影響などを危惧するNMPFなどの生産者団体からの強い要望を反映して、
それまでと同水準の9.9ドル/100ポンドの支持価格で2000年12月末までの延長が
決定された。そして、2000年10月成立の2001年度農業関連歳出法でも1年間の再
延長(2001年12月末まで)が、2001年11月成立の2002年度農業関連歳出法ではさ
らに本年5月末までの存続が決定されている。

イ 注目が高まるバターと脱脂粉乳の買上価格の変更

 本制度における加工原料乳の支持価格は、81年の13.49ドル/100ポンドをピー
クに徐々に引き下げられた後、90年代は、ほぼ10.10ドル/100ポンドの水準で固
定されていたため、加工原料乳価格(BFP)は、支持価格からかい離して常に
これを上回った状態で(しかもかなり変動を繰り返しながら)推移した(当初、
生産者団体が96年農業法で本制度の廃止を容認していたのは、こうした背景もあ
ったからである)。

 一方、乳製品の買上価格は、92年1月以降、それまでとは逆転して脱脂粉乳高
のバター安という水準となり、93年7月以降は、脱脂粉乳の買上価格が100セン
ト/ポンド以上の高水準に設定されていたのに対して、バターについては65セン
ト/ポンドでほとんど据え置かれていた。このため、CCCによる脱脂粉乳の買上
在庫が膨らみ、買上や保管などに要する支出も2001年度では12億ドルを超えるに
至ったことから、USDAは2001年5月末、1ポンド当たりの買上価格を、@脱脂粉
乳については10.32セント引き下げの90.00セントに設定する一方で、Aバターに
ついては19.99セント引き上げの85.48セントに変更した。このように支持価格を
固定したままで、脱脂粉乳とバターの買上価格だけを変更することは「ティルト
(tilt:上下調整)」と呼ばれ、CCCの運営コスト削減のための手法として、農
務長官に年2回それを行う権限が認められている。

◇図4:CCCによるバターと脱脂粉乳の買上価格の推移◇


 これについて、乳業メーカーなどが組織する国際乳食品協会(IDFA)は、国産
脱脂粉乳の国際競争力が増すとともに、近年脱脂粉乳の代替として輸入が急増し
ている濃縮乳たん白(Milk Protein Concentrate:MPC)の輸入も減るとして歓迎
しているが、生産者団体のNMPFは、脱脂粉乳の買上価格の引き下げがFMMO制度の
クラス乳価を下げ、結果的に農家の手取りが減少するとして、反対の立場を表明
した。特に、見直し後のFMMO制度におけるクラスT基礎価格の算定に当たっては、
クラスVまたはクラスWの算定に用いられる脱脂乳価格のうちいずれか高い方の
価格が適用されることとなったため、従来よりも増して脱脂粉乳の価格水準がク
ラスT価格に与える影響は大きくなっている。このことが、生産者団体にとって
の脱脂粉乳買上価格の引き下げに反対する根拠であり、また、加工原料乳価格支
持制度の延長を支持する理由の一つになっているとも言えよう。今後も本制度が
存続する限り、こうしたUSDAによる「ティルト」の実施に関係者の視線が注がれ
ることとなる。


(3)地域的な酪農政策に関する動き

ア 北東部諸州酪農協定は昨年9月末に失効

 96年農業法では、FMMO制度の改革が実施されるまで、すなわち99年3月までの
間に限って、前述したとおり比較的小規模で非効率な経営が多い北東部(ニュー
イングランド地域)の6つの州(コネチカット、メイン、マサチューセッツ、ニ
ューハンプシャー、ロードアイランド、バーモント)における地域酪農協定の創
設が認められた。これは、FMMO制度で定めるクラスTとは別に、16.94ドル/100
ポンドの最低価格を設定できるというものである。

 本協定は、98年10月成立の99年度包括歳出法により6ヵ月間の延長が図られた
後、前述した99年11月成立のFMMO制度改革案の修正法を含む2000年度包括統合予
算法によって2001年9月30日まで2年間延長された。それ以降の延長については、
下院では2001年5月、上院では同年6月に多数の超党派議員による法案(それぞ
れHR1827、S1157)が提出され、いずれも、北東部については対象州を拡大して
有効期限を撤廃すること、さらに南部、太平洋岸北西部および山岳部においても
同様の協定を設立することを規定していたが、例えば上院では、同協定を取り扱
う司法委員会の公聴会(同年7月開催)において、推進派として中心的な役割を
担ってきたリーヒー同委員会委員長(民主党・バーモント州:元農業委員会委員
長)らの説得にもかかわらず、延長に反対する意見が続出するなどにより、結局、
法的な手当てがなされることなく、同年9月末をもって失効した。ただし、現在
のところ、クラスT価格が同協定で定められていた16.94ドル/100ポンドを上回
って推移しているため、実質的に失効の影響は生じていないという状況にある。

○北東部諸州酪農協定における乳価の設定方法

・同協定を管理する北東部酪農協定委員(各州知事の任命を受けた生産者、乳業
 者、小売業者および消費者の代表計26名の委員で構成)は毎月、同協定による
 クラスT価格(16.94ドル/100ポンド)がFMMO制度によるクラスT価格を上回
 るときは、乳業メーカーなどからこれら価格の差額(over‐order)を徴収す
 る。

・同委員会は、その額から、ニューイングランドのWICプログラム(婦人、乳幼
 児、子供のための栄養向上プログラム)への補償(値段を引き上げていること
 に対して)と、乳業者の支払い遅延に備えるための準備金向けのコストを差し
 引いた後の残額を、酪農協などを通じ、各生産者の生産実績に応じて乳代の上
 乗せ分として各生産者に支払う。

(計算例)

FMMOのクラスT価格が13.94ドル/100ポンドである場合、

@ 同協定のクラスT価格との差額(over‐order)は16.94−13.94=3.00ドル
 /100ポンド。

A 協定内でクラスTとして販売された生乳数量が245,001,960ポンドであった
 とすると、

B 乳業メーカーなどからの委員会への支払額は、7,350,058.80ドル(@×A)。

C BからWICプログラムへの補償や準備金を差し引いた額が6,903,009.44ド
 ルで、

D 協定内の農家の全生乳生産量(クラスT〜W)が531,000,726ポンドであった
 とすると、

E 生産者への乳代の上乗せ分(単価)は、1.30ドル/100ポンド(C÷D)とな
 る。

イ カリフォルニア州は独自の乳価制度を維持

 一方、96年農業法の下では、FMMO制度には含まれない独自の乳価制度を持つカ
リフォルニア州について、同州の生産者が希望すればFMMO制度のオーダーに組み
込まれることとされていたが、これは今日でも実現されていない。前述したよう
な大規模で効率的な同州酪農の優位性は、気候条件などの外的要因だけでなく、
こうした州独自の制度の存在によっても育まれ、今後もそれが発揮されていくも
のと考えられる(ただし、地価の高騰や環境問題などの負の影響もあって、同州
から近接したアイダホ州などに移転する大規模経営も顕著になってきているのも
事実である)。なお、国内において2つの異なる価格制度が存在することに対す
るあつれきを和らげる意味で、同州の州法は、同州のクラス1乳価についてFMMO
制度のクラスT乳価との調整を図るよう求めている。

○カリフォルニア州の酪農制度の概要

 1933年農業調整法においては、カリフォルニア州も他の地域と同様に連邦生乳
販売協定(現在のマーケティング・オーダー)に含まれることとされていたが、
州を越えて販売される生乳は対象とされていなかったため、翌1934年この協定を
違法とする判決が裁判所によって下された。これを機に、同州の生産者や販売者
らは州独自の酪農制度の創設に向けて動き、1935年の州法制定によって現在のFM
MO制度からは独立した乳価制度がスタートし、今日に至っている。

 同州の酪農制度は連邦制度との類似点もあるが、特徴的な違いとしては、

@ 現行の飲用規格(グレードA)に対する用途区分は、クラス1(飲用乳等)、
 クラス2(クリーム類、カッテージチーズ、ヨーグルト等)、クラス3(アイ
 スクリーム等冷凍乳製品)、クラス4a(バター、脱脂粉乳等の粉乳製品)、
 クラス4b(カッテージチーズ以外のチーズ)という5つであること

A これら各クラスについては従来から乳脂肪と無脂固形分の価値に基づく価格
 設定がなされており、クラス2、3、4aおよび4bについては乳脂肪と無脂固
 形分が、クラス1についてはこれに加えて液体成分が算定要素に含まれている
 こと

B 飲用乳については、他州よりも高い無脂固形分基準による規格が設定され、
 製品の、季節的な、そして乳業者間の平準化が図られていること

C 各生産者にはクラス乳価制度による支払額に関連したクォータが割り当てら
 れること(クォータ内乳価の方が高く設定されており、また、このクォータは
 売買可能。生産調整を目的としたものではない)

 などが挙げられる。

(参考:同州の酪農制度については、(社)中央酪農会議による詳細な報告(文
末の参考文献6)が行われているので、御参照ありたい。)


(4)酪農市場損失支援プログラム

 現在、米国においては、生乳の需給調整のための根本的手段である、日本やEU
におけるクォータ制に代表されるような生産調整は行われていない。こうした措
置を導入することの是非については、これまでも、国内の生産者団体などにおい
て新たなセーフティ・ネット措置の創設とセットにした議論が行われてきた経緯
はあるが、実施上の困難性に加え、後述するような次期農業法の議会審議を見て
も明らかなように、耕種作物についても生産調整への回帰がまったく視野に入れ
られていない中で、基本的な酪農制度は今後とも維持される予定であることから、
現時点ではほとんど想定されていない。

 ただし、短期的、緊急避難的な激変緩和措置はこれまでも行われてきた。古く
は、80年代における賦課金制度(これには、@CCCによる乳製品の買上財源に
充当するものと、A減産した生産者に対する補償金を交付する仕組みの2つがあ
った)や乳牛のと畜を奨励する酪農経営休止計画などがそれである。90年代にも、
90年財政予算調整法によって生産者課徴金(上記80年代の@に類似)が導入され
たが、96年農業法により廃止された。

 こうした中で、98年における記録的な生乳生産量の増大により、99年4月から
乳価が下落し2001年初頭まで低迷した(100ポンド当たり全米生乳平均価格:98
年15.50ドル、99年:14.43ドル、2000年12.37ドル)。こうした低乳価による生
産者の損失を補てんするため、酪農市場損失支援プログラムとして、3次にわた
る立法措置(99〜2001年度の各農業関連予算法)に基づく追加的な直接支払いが
実施された。

表6 酪農市場損失支援プラグラムの概要



(5)乳製品輸出奨励計画(DEIP)

 DEIPは、米国産の粉乳(脱脂粉乳、全粉乳)、バターファットおよびチーズに
対し、新たな海外市場の開拓や他の補助金付き輸出を行う国(これはEUが念頭に
ある)と競合する市場における競争力確保などを目的とした輸出補助金の交付を
行うものであり、96年農業法においては、DEIPをUR合意の下での約束数量・金額
の上限まで最大限に活用するとされている。しかし、近年においては、先に述べ
た加工原料乳価格安定制度におけるCCCの買上在庫を低減させるための方策とし
て、CCCによる買い上げの代わりに、DEIPを用いて海外市場に輸出するという余
剰処理の側面が強くなってきている。

表7 DEIPによる輸出補助金の交付実績数量の推移

 資料:USDA/FAS

 なお、世界貿易機関(WTO)新ラウンド交渉における輸出補助金の扱いに関
する米国の酪農・乳業界のスタンスは、米国政府の提案と同様に「全面的廃止」
であり、特に、EUの乳製品に対する補助金付き輸出がなくなれば、米国産乳製品
もDEIPなしで輸出できるとしている。ただし、「交渉が完了し、EUが輸出補助金
を撤廃するまで、米国も許される範囲内で最大限これを活用させていただく」と
いうのが本音であり、「全面的廃止」というのは、あくまでも相対的なポジショ
ンであるということに留意すべきであろう(これは、輸出補助金以外の他の分野
に対する米国全体のポジションも同様である)。


(6)輸入乳製品に対する国境措置

ア 関税割当は今後も維持

 米国は、UR合意による関税化措置によって、1933年農業調整法第22条に基づく
乳製品、綿花、落花生などの輸入数量制限を廃止し、関税割当制度に置き換えた。
うち、乳製品についても、表8のとおり、比較的高水準の2次税率(関税割当枠
外)が維持されているため、新ラウンド交渉においては、国境措置の扱いも輸出
補助金と並ぶ国内の酪農・乳業関係者の大きな関心事項となっている。

 具体的なNMPFなどの関係団体の主な主張は、@関税割当品目以外の高関税品目
についての一定の上限水準までの関税引き下げ、A関税割当品目についての2次
税率の公平かつ互恵的な引き下げ、B関税割当の運用改善などである。特に、A
に関しては、同じ北米自由貿易協定(NAFTA)のメンバー国であるカナダおよび
メキシコがNAFTA以外の国からの乳製品の輸入に適用している2次税率に比べる
と、米国の水準の方が低いため、結果的にその2国において豪州やニュージーラ
ンド(NZ)などから輸入されるはずの乳製品が米国に押し寄せているとしており、
こうした自国よりも高い2次税率を適用している国から先に関税を下げるべきで
あるというのが、その主張の趣旨である。

表8 米国の輸入製品に対する関税割当の概要(2000年)

 注:1 1次・2次税率は脱脂粉乳が関税番号0402.10、バターが同0405.10、
     チーズが同0406.30のものである。
   2 2次関税率の欄の( )内は、従価税換算水準である。

イ 濃縮乳たん白の輸入急増問題は進展なし

 一方、先にも少し触れた、脱脂粉乳の代替として近年輸入が急増している濃縮
乳たん白(MPC)の問題に対処するため、昨年春頃、2種類の法案が連邦議会に
提出されたが、生産者側と乳業メーカー側の対立も激しく、これまでのところ進
捗は見られていない(MPCの輸入動向等については、本誌2001年5月号・トピッ
クス参照)。

 こうした中で、本年3月1日には、全米最大の酪農協であるデーリー・ファー
マーズ・オブ・アメリカ(DFA)とNZの協同組合系乳業会社フォンテラが、2000
年に設立した合弁企業デーリコンセプツ(DairiConcepts)を通じ、ニューメキ
シコ州内のDFAのプラントを拡張してMPCの製造を開始することが明らかにされた。
フォンテラ社の説明によれば、これは、米国初の商業的販売を目的とした粉末状
のMPCの製造プラントとなる予定であり(注:現在米国内には、食品医薬品局
(FDA)が認可した、4ヵ所の農場内に設けられた液状MPCのプラントがある)、
今後もその需要の伸びが期待される米国内はもとより、NAFTA加盟国のカナダ、
メキシコの市場も視野に入れているとしている。その原料乳の大半は米国産とな
ろうことから、結果的にはMPCの一定の輸入抑制効果も期待できるが、国内では、
輸入MPCの最大の供給国であるNZ産との価格競争について疑問視する声もすでに
上がっているほか、まさしくそのNZとの合弁という話でもあるため、警戒心を抱
いている者が多いのではなかろうか。

○MPC関連法案の概要

@ クオリティー・チーズ法案(S117、HR1016)

(経緯)

 米会計検査院(GAO)に対しMPCに関する調査要請を行った民主党議員6名の中
のウィスコンシン州選出の2名によって、上院には2001年1月22日、下院にはGA
Oレポート公表後の3月14日に提出。

(内容)

 上下両法案とも、現行の「連邦食品・医薬品・化粧品法(Federal Food, Drug, 
and Cosmetic Act)」を改正することによって、粉末状の膜処理乳又はカゼイン
(dry ultra‐filtered milk or casein)を、国産のナチュラルチーズ製造用原
料である乳(milk)又は脱脂乳(nonfat milk)として使用することを禁止する
旨を規定。ただし、下院案では、MPCの使用禁止も明示されるとともに、政府に
おいては、液状の膜処理乳(wet ultra‐filtered milk)の使用による酪農家へ
の影響について調査し、議会にその報告書を提出しなければならない旨も規定。

A 輸入MPCへの関税割当適用法案(S847、HR1786)

(経緯)

 2001年5月9日に上下両院に提出されたものであり、GAOレポートの要請者
(上記@の法案の提案者も含む)なども提案者として名を連ねている。

(内容)

 上下両法案は、完全に同一内容。その概要は、米国内に輸入される特定のカゼ
イン(casein、caseinates)、MPC及びその他カゼイン派生産品等(casein 
derivatives and glues)(メキシコ産を除く)につき、米国の関税率表を修正
し、関税割当の対象にするというもの。さらに、大統領に対し、補償措置に関す
る諸外国との貿易協定の締結などについての権限を付与するとともに、対象産品
の関税引き下げ幅の制限についても規定。

(参考)

 本法案に対しては、NMPF、ファーム・ビューロー、ファーマーズ・ユニオンな
どの20有余の農業団体が賛成する一方、IDFAのほか、アメリカ食肉協会(AMI)
など計11団体は、関税引き上げによる代償の提供や利害関係国からの対抗措置の
発動を懸念し、反対。


4 次期農業法案における酪農政策の扱い

 本誌海外トピックスにもあるように、本稿提出時点(3月15日)においては
両院協議会での調整が開始されたばかりの、上下両院ぞれぞれの次期農業法案
(法案番号:S1731、HR2646)には、主要な酪農政策に関しても、以下のように、
共通する部分だけでなく、大きな違いも見られる。


(1)加工原料乳価格支持制度

 本制度については、上下両院法案とも、支持価格を現行水準である9.9ドル/
100ポンドに固定したままで延長することが規定されているため、制度の存続は
確実視されている。ただし、両法案の実施期間が異なっているため、上院法案で
は2006年12月末まで、下院法案では2011年12月末までをそれぞれ期限としている。
当初、乳業団体のIDFAは、本制度を廃止してこれに代わる政府の市場介入を伴わ
ない新たな農家セーフティ・ネットを創設するよう求めていたが、現在は、本制
度の単純延長について、生産者団体のNMPFとともに賛成するとの立場を表明して
いる(ただし、IDFAの本音は、今すぐは無理としても、究極的には、市場わい曲
性があり国際競争力の確保を阻害する本制度の廃止を目指すということには変わ
りなく、どちらかといえば期限の短い上院法案を好むとしている)。


(2)生乳の価格変動に対応した新たな直接支払い

 上下両院法案における酪農政策に関する最も大きな違いは、上院法案にだけ盛
り込まれている生乳の価格変動に対応した(counter‐cyclicalな)新たな直接
支払い制度の導入である。これは、生乳価格についてのいわば不足払い制度であ
るが、すでに失効した前述の北東部諸州酪農協定の扱いとも密接に関係している。
 下院における次期農業法案の審議では、昨年10月5日の本会議通過の前日に、
関係州選出議員から同協定を再延長させるための条項を付加するという動きもあ
ったが、中西部などの他州選出議員などの反発によって却下されている。

 一方、上院の審議では、農業委員会が昨年11月15日に承認した法案において、
酪農の直接支払制度に関する最初の規定が加えられた。これは、同協定の継続化
に失敗した前述のリーヒー上院議員(民主党・バーモント州)の要請によるもの
であり、本土48州においてクラスT(飲用乳向け)とクラスV(チーズ向け)の
価格について、プール方式で一定の価格との差額を補てんするという内容であっ
た(予算額は20億ドルを計上)。この制度については、原料コストの値上がりを
懸念するIDFA(当初から北東部諸州酪農協定にも反対)のみならず、NMPFやファ
ーム・ビューローなどの生産者団体も、経営規模や地域間で不公平が生じること
などから反対を表明した。

 その後、上院本会議では12月11日、こうした反対団体の意向も受け、上院多数
党院内総務のダッシェル議員(民主党・サウスダコタ州)の主導で、当初案を北
東部12州とそれ以外の38州とで支払い方式の異なる2つの制度に置き換えるとい
う提案が承認され、これが結果的に本年2月13日に上院を通過した法案に生き残
った形となっている(予算額は前12州分が5億ドル、残り38州分が15億ドル)。
現在、引き続きIDFAは、こうした追加的な制度は不要であるとして本案に対して
も明確に反対しているが、NMPFは、地域や経営規模によって支払い水準に格差が
生じることなどには反対するとしつつも、「全米の酪農家に対して財政的な支援
が必要であることを上院が認識しているのは喜ばしいことである」として、全国
を対象にした20億ドル規模の直接支払いを導入すること自体については賛成であ
るとの立場を明らかにしている。

 両院協議会では、こうした直接支払いに関する規定がない下院案との折り合い
がどのようにしてつけられるのか、現時点では明らかではないが、両院協議会の
メンバーの一人となっているリーヒー上院議員が、酪農政策以外の上下両院の相
違点(耕種作物に関する政府支払上限額の水準など)との取引材料として、最終
的に、今回の議論の出発点であった北東部諸州酪農協定の復活という提案を蒸し
返してくるのではないかとの見方もなされている。

○上院次期農業法案(S1731)における酪農家への新たな直接支払い制度の概要

【北東部12州】
・対象州:

コネチカット、デラウエア、マサチューセッツ、メリーランド、メイン、ニュー
ハンプシャー、ニュージャージー、ニューヨーク、ペンシルバニア、ロードアイ
ランド、バーモント、ウェストバージニア(注:下線は、北東部諸州酪農協定の
対象だった州)

・支払方法:

上記12州内の酪農家に対し、@毎月のボストンにおけるクラスT価格が、A16.9
4ドル/100ポンド(注:これは北東部諸州酪農協定の最低価格と同水準)を下回
った場合、

その差額(A−@)×12州の全生産量×0.45(北東部オーダー内のクラスT仕向け
割合)を交付

・支払上限額:

1農家当たり年間生産量800万ポンド(約3,600トン≒約400頭分に相当)までを対
象

・予算額(実施期間):5億ドル(2002〜2005年度)

【その他38州】

・支払方法:

その他の38州内の酪農家に対し、@全米の全生乳の四半期平均価格が、A同当
該四半期の過去5年移動平均価格を下回った場合、

その差額(A−@)×38州の全生産量×0.4(全米のクラスT仕向け割合)を交付

・支払上減額:(同上)
・予算額(実施期間):15億ドル(2002〜2005年度)


(3)その他

ア FMMO制度

 本制度の見直しに関する規定は、両法案ともにない。

イ 乳製品輸出奨励計画(DEIP)

 両法案とも、DEIPを継続することが規定されている(上院法案は2006年12月末
まで、下院法案は2011年12月末まで)。ただし、これは、今後の新ラウンド交渉
の結果いかんにもよるということは言うまでもない。

ウ 酪農チェックオフ・プログラム

 現在、米国には、国内外における牛乳・乳製品の需要促進活動を行うため、@
生乳生産者から徴収した15セント/100ポンドを原資とした全国酪農振興研究プ
ログラム(1983年創設)と、A飲用乳製品メーカーからの20セント/ポンドを原
資とした全国飲用乳加工業者振興プログラム(1990年創設)という2つのチェッ
クオフ・プログラムがある(うち、飲用乳の一部については99年に全国飲用乳統
合プログラムとして統合)。

 今回の次期農業法案では、上下両法案ともに、@のプログラムの原資にするた
め、乳製品の輸入業者に対し15セント/100ポンドを賦課するという規定が含ま
れている。これについて、IDFAは、むしろ輸入抑制的にはたらき、国内メーカー
にとっての原料の輸入コストが増加するとして反対している。


5 おわりに

 上下両院を通過した次期農業法案の内容は、市場指向型農業をうたった96年
農業法の理念から明らかに後退するものである。本誌が発行される頃には、その
最終的な形が明らかになっているかもしれないが、これについては、また改めて
詳しく報告したい。

 酪農関係で注目されるのは、やはり上院法案に盛り込まれている新たな直接支
払いの扱いである。これについては、近年における酪農経営の地域間格差の拡大
という問題に対処するためのものであるはずが、逆に地域間の対立を煽る結果と
なっているのは皮肉である。今後、国際競争だけでなく、こうした国内における
地域間競争の問題もより顕著となり、必ずしも一枚岩ではない米国酪農・乳業の
姿がさらに浮き彫りになってくるものと考えられるが、FMMO制度や加工原料乳価
格支持制度といった基本政策は当面現状維持のままであり、今は、酪農政策に関
しても、改革の機運が再度訪れるような情勢にないことだけは確かである。

参考文献

1. 連邦議会関連法案および審議記録

2. USDA/Economic Research Service(ERS)
 “Milk Pricing in the United States”(2001年2月)

3. USDA/Farm Service Agency(FSA),
 Foreign Agricultural Service(FAS),
 Agricultural Marketing Service(AMS)のホームページ掲載資料各種

4. NMPF、IDFA、U.S. Dairy Export Council(USDEC)の各種公表資料等

5. 鈴木宣弘「米国の農業・酪農政策転換の本質」(2000年3月:
 (社)中央酪農会議「最近の米国の酪農制度改革の動向」)

6. (社)中央酪農会議「1997 新農業法下の米国酪農」(97年10月)

7. 農畜産業振興事業団「畜産の情報・海外編」特別レポート
 (97年2月、2000年3月、2001年3月)

元のページに戻る