EU、米国産ホルモンフリー牛肉の抽出検査を撤廃


今後は一般的な残留物質に関する抽出検査のみに

 EUの常設獣医委員会(SVC)は2月20日、EU委員会から提出された、
米国産ホルモンフリー牛肉の輸入に対する成長ホルモン残留に関する抽出検査
(約20%)の撤廃案を採択した。SVCの承認が得られたことで、EU委員会の正
式決定の後、米国産ホルモンフリー牛肉の輸入に当たっては、その他のEU域外
諸国からの輸入牛肉と同様に一般的な残留物質に関する抽出検査のみが実施さ
れることとなる。EUでは、天然型か合成型かを問わず、成長促進剤としてのホ
ルモンの使用を禁止しており、成長ホルモンを投与した肉牛から生産された牛
肉の輸入も89年から禁止されている。しかし、99年4月、成長ホルモンを投与
していないとして輸入された米国産牛肉および肝臓について抽出検査を行った
ところ、その12%に成長ホルモン(トレンボロン、ゼラノール、メレンゲステ
ロール)の残留が認められ、米国側のチェック体制の不備が問題となった。こ
の事件を契機として、99年7月以降、米国産ホルモンフリー牛肉の輸入に際し
ては、成長ホルモン残留に関する全量検査が義務付けられた。


米国・カナダはEUに対し制裁措置を実施

 EUのホルモン牛肉の輸入禁止措置に関しては、世界貿易機関(WTO)により
衛生植物検疫措置の適用に関する協定(SPS協定)に違反していると裁定され
た。しかし、EUはホルモン牛肉が健康を害する恐れがあるとして、その後も輸
入禁止を継続している。これに対し米国およびカナダは、それぞれ99年7月お
よび8月から、EU産食肉・食肉製品などに対し100%の報復関税を適用する制
裁措置を発動するなど、EU・米国間のホルモン牛肉をめぐる貿易紛争がエスカ
レートしている。EU側は、@米国のホルモンフリー牛肉に関する輸出検査体制
が、SVCによりEU基準に沿ったものであると認められたこと、A米国産ホルモ
ンフリー牛肉に対する全量検査で成長ホルモンの残留が認められなかったこと
から、2000年9月に、全量検査から抽出検査(20%)に切り替えている。なお、
EUにおけるホルモンフリー牛肉の輸入に関しては、年間1万1,500トンの輸入
枠が設定されており、主に米国やカナダからこの枠内で牛肉が輸入されている。


ホルモン牛肉をめぐる問題解決までは困難な道のり

 今回の米国産牛肉のホルモン残留に関する抽出検査の撤廃により、米国産ホ
ルモンフリー牛肉のEUへのアクセスがさらに改善されるとみられている。米国
の牛肉関係業界は、今回のSVCの決定について「正しい方向へ1歩前進した」
とおおむね好意的に受け止めているが、ホルモン牛肉をEUに輸出できない現状
に不満を募らせている。一方EUでは、ホルモン牛肉輸入禁止措置に対し米国等
が実施しているEUへの制裁措置の緩和に向けて、交渉開始の契機になると期待
する向きもある。しかし、食品安全性に対して敏感な消費者を抱えるEUの事情
から見て、ホルモン牛肉の輸入禁止措置解除は非常に難しいため、ホルモン牛
肉をめぐる貿易紛争の解決には、まだまだ時間がかかりそうである。

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