NLIS義務化をめぐり議論(豪州)
政府関係者と食肉業界団体代表が会議に参加
豪州における今後の家畜個体識別について議論するための会議が2月19日、
シドニーで開催された。この会議は、州・連邦政府農業担当部局の責任者および
食肉関係業界団体の代表者によるもので、義務的な全国家畜個体識別制度(NLIS)
の完全な実行に向けた次のステップをめぐる議論の場となった。
99年から生産者の任意参加という形で実施されたNLISは、当初の導入目的から
EU輸出向けに限り義務化していたが、昨年末、ビクトリア(VIC)州において今
年1月1日以降生まれた牛について、生まれた農場を離れる前に耳標を装着する
ことなどが義務化されている(子牛肉用など、生まれた農場から直接食肉処理施
設に出荷される牛については免除)。
生産者団体は、政府の財政支援を強く要望
この会議において、生産者団体の1つである豪州肉牛協議会(CCA)のアダ
ムス理事長が、仮に肉牛・牛肉産業が義務化により NLISを実行するべきである
なら、連邦と州政府の財政支援の有無が局面を左右する重大なものになると発言
している。
同氏は、VIC州政府が、当初の100万個の電子耳標を無料配布し、その後も補助
により市場価格より約1豪ドル(約71円:1豪ドル=71円)低い2.5豪ドル(約
178円)/個で生産者に提供し続けている。食肉処理施設においても読み取り装
置に補助を行っており、このようなVIC州の義務化へ向けた取り組みを模範的な
前例として挙げた。NLISのようなプログラムの実行のためには、電子耳標を用い
た個体識別装置やそのほか基本的な機器・施設が必要であり、政府は特に生産者
に対する財政支援の役割を担うべきであるとしている。
また、同氏は、生産者が義務的にNLISを実行する上で継続的に経費を負担しな
ければならないことに留意する必要があり、子牛が生産されるたびに必要とされ
る電子耳標が生産者に与えられるべきであるとしている。対照的に、食肉処理加
工業者のための機器・施設の取得費用は、立ち上げ段階では重要であるものの、
その後はデータの集積が主体となる。CCAとしては、立ち上げ段階のみならず、
中間実行段階においても、経費を必要とする生産者のために、重要な支援を求め
ていくとしている。
さらに、同氏は、高まる食品安全性問題だけでなく貿易に関連する問題でもあ
るため、政府は正当に関与すべきであると政府の積極的な関与を求めた。
経費負担が問題となる中、総論では義務化に前向き
一方、食肉団体の1つである豪州食肉協議会(AMC)の代表、ハッチンソン氏
は、NLISを義務化するに当たっては、強力な財政支援がない限り、生産者がシス
テムを採用しない可能性は高いとしている。AMCは現在、NLISの実行計画には賛
同しているものの、データベースの安全確保や情報検索などの問題を再調査して
おり、今のところ問題はないものの、特に技術的な問題がすべて解決されるまで
義務化の実行に局面を前進させるつもりはないと発言している。AMCの他、同じ
く食肉業界団体である全国食肉連合(NMA)も同様の意見という。
しかしながら、AMCは、世界的に牛海綿状脳症(BSE)や口蹄疫などの問題が散
見していることから、義務的な家畜の個体識別プログラムに対して迅速な対応が
行われるものとみている。
生産者、食肉業者ともにNLISの義務化については、食品安全性はもちろんのこ
と、輸出依存度が高い牛肉の今後の輸出相手国のニーズに対する対応を含め、総
論的には前向きであるが、初度経費やランニングコストに対する何らかの財政支
援が必要としている。しかしながら連邦政府は昨年、NLISの義務化について、経
費負担の観点から難色を示していたことから、連邦政府の今後の対応が注目され
る。
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