イギリス畜産団体等、家畜の電子個体識別の推進を要望



EID導入に向けての具体的な施策を勧告

 イギリスの電子個体識別諮問運営グループ(EID Advisory Steering Group)は6月26
日、家畜の電子個体識別(EID)*および移動追跡に関する報告書を取りまとめた。同グ
ループは、イングランドおよびウェールズにおける最大の農業団体である全国農業者連
盟(NFU)が中心となり、イギリス環境・食料・農村地域省(DEFRA)と連携しながら、
肉牛、乳牛、豚、羊の各協会および食肉、牛乳検定、動物福祉、獣医師などの幅広い分
野の代表者から構成されている。

 同グループによるDEFRAにへの主な勧告内容は以下のとおりである。

@  電子個体識別および中央データベース(EDT)に対する予算措置

A  EID/EDT導入促進のための公的(試験導入)計画の実施

B  データ伝送の電子化による家畜飼養農家の書類作成作業の軽減

C  羊に関するデータベースおよび個体識別番号管理システムの開発

D  羊の電子個体識別と移動記録の将来の導入に備えた現行のデータベースの運用見直
  し


飼養規模の大きい羊への個体識別システムの適用などに期待

 イギリスでは、96年の牛海綿状脳症(BSE)問題により家畜、特に牛の個体識別の重要
性が再認識された結果、牛の個体識別電算システムが98年9月から稼動している。ただし、
データの記録・送信は書類により行われているため、牛飼養者の書類作成に係る労力の
軽減が求められていた。

 羊などのその他の畜種では、個体識別システムの構築が遅れていたが、2001年に記録
的な口蹄疫(FMD)の大発生に見舞われたことで、羊の個体識別をめぐる状況は大きく変
化した。

 昨年のイギリスでのFMDの発生は、豚で初発例が発見されたものの、すでにその時点で
他の畜種も含め、かなりの範囲で感染が広がっていたとみられている。特に、羊は、FM
Dに感染しても症状が顕著に現れない場合もあることに加え、1頭ごとに個体識別が行わ
れていないため、個々の羊の移動確認に時間を要したことから、家畜市場などを通じて
爆発的に感染が拡大したとみられている。

 FMDなどの家畜伝染病の防疫対策には、家畜の移動を把握することが重要であることは
言うまでもない。しかし、牛などで実施されている耳標による個体識別および移動記録
管理の仕組みを、飼養規模も大きく飼養管理の異なる羊に適用することは、多大な労力
を羊飼養者に強いることとなり、現実的ではないと考えられている。EIDは、羊の個体識
別を効率的に実施する方法としても注目されている。


早期の導入を求める団体に対して慎重な姿勢を示す政府

 EUでは、EID導入に関して、耳標型、ボーラス型などを用いた試験結果などを踏まえ、
検討が進められているが、いまだに結論が得られていない。

 NFUは、「DEFRAはブラッセル(EU)の指示を待つ必要はない。イギリスはこの分野で
先行していくべきだ」として、電子個体識別の速やかな導入を強く求めている。

 一方、DEFRAでは、この報告書による勧告内容を好意的に受け止めているものの、「ま
ず、EIDの適合性を確認するため技術的な問題点を整理し、かつ、EUレベルでの政策展開
を考慮する必要がある」として、慎重な姿勢を崩していない。

* 電子個体識別(EID):低周波を発生するマイクロチップ(トランスポンダ)を内蔵
   した器具を活用した個体識別方法。従来の煩雑な個体識別番号の確認作業を受信機を
   使用することで自動化できる利点がある。耳標型、飲み込み(ボーラス)型、皮下埋
   め込み型などが考案されている。



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