アルゼンチン、経済不況により乳製品輸出を促進



牛乳・粉乳類の輸出が前年同期を大幅に上回る

 アルゼンチン農畜産品衛生事業団(SENASA)は6月14日、5月の牛乳・乳製
品輸出統計(製品重量ベース。ただし、牛乳は粉乳換算ベース)を公表した。
その中で特徴的な動向を見せているのは、牛乳・粉乳類における輸出であり、
1〜5月の輸出量は6万6,600トンと、前年同期の4万2,000トンを大幅に上回っ
ている(58.6%増)。一方、輸出額は1億900万ドル(約132億円、1ドル=12
1円)で前年同期の8,600万ドル(約104億円)に対して25.9%増となってい
る。


乳業メーカーがドル獲得のため、輸出を促進

 変動相場制に移行した2002年1月以降、乳業メーカーは輸出に力を入れてい
る。乳業メーカーはドル建て債務返済のためドルを獲得する必要があるが、
経済不況の中、購買力が落ちている国内では収益を得にくいことから、ドル
を簡易に入手する目的で輸出促進の道を選んでいる。

 なかでも、主に南米近隣諸国、アフリカおよび中東向けに輸出している全
粉乳の伸びは大きく、2002年1〜5月では約5万6,000トンと、前年同期の約3万
2,300トンに比べ73.2%増となっている。これは、2001年の年間輸出量約8万
3,300トンの7割弱をすでに輸出していることになる。国別に見ると、昨年と
同様第1位はブラジルで、2002年1〜5月で約2万6,100トンと、昨年の輸出量3
万200トンの9割相当に当たる。また昨年第2位であったメキシコとは全粉乳の
取引がなく、代わって第2位には昨年第3位のアルジェリアが約1万1,200トン
で浮上しており、昨年の1.6倍をすでに輸出している。第3位には昨年8月から
新規開拓が功を奏して取引が始まったヨルダンが約5,400トンとなっている。

 輸出量が増加した要因には、乳業メーカーの思惑とともに、通貨切り下げ
による輸出価格の値下げの効果があると思われる。アルゼンチンペソは兌換
法時代の1ドル=1ペソから、6月には1ドル=3.5ペソ前後で推移しており、通
貨は大きく下落している。牛乳・粉乳類の輸出価格は、2001年はおおよそ1kg
当たり2ドル(約242円、FOBベース、以下同じ)であったが、2002年1〜5月の
1kg当たりの価格は1.6ドル(約194円)と40セント(約48円)程度安くなって
いる。また、月ごとに進むペソ安とともに輸出単価も下落し、5月には1kg当
たり1.45ドル(約175円)となっている。


輸出促進による国内消費向けシェアの低下で価格の上昇も

 アルゼンチン農牧水産食糧庁の5月レポートによれば、「2002年の第1四半
期において、国内生乳生産は10.5%減少(生乳ベース)した。一方、牛乳・
乳製品の17%(製品重量ベース)が海外市場に輸出されており、これは前年
同期比の12%を上回っている。」と報告されている。近年、国内需要が伸び
つつも生産量が低下する中、輸出促進による国内消費向けシェアの低下が起
こり、さらなる品不足、それに伴う価格の上昇、経済不況による購買力の低
下、利益を求めた輸出の増大と、国内消費向けシェアを減らし輸出を増大さ
せるシナリオは、経済不況が続く限り、まだまだ続きそうである。

    牛乳・粉乳類の平均輸出単位(FOBベース)
                         (ドル/kg)
  1月 2月 3月 4月 5月 年平均
2001年 2.00 2.06 2.07 2.13 2.09 2.03
2002年 1.73 1.70 1.67 1.57 1.45 *1.63
増減率(%) ▲13.5 ▲17.5 ▲19.3 ▲26.3 ▲30.6
 *:2002年1〜5月の平均



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