干ばつによる放牧地の草資源不足に対処する米国 



近年で最も深刻だった88年以来の事態

 現在、米国では、西部の山岳区から大平原にかけての一帯や、東海岸の南部といった
諸州に干ばつが広がっている。7月3日のワシントン・ポスト紙は、近年で最も事態が深
刻だった1988年7月には干ばつの発生地域が全米の36%を占めていたのに対し、今年はそ
れが40%以上の地域にまで及んでいると報じている(過去最悪は1934年の65%)。また、
7月9日時点の米海洋大気局(NOAA)による観測でも、高温と降雨量不足によって干ばつ
の発生地域が拡大しているとされるなど、今後さらに事態が悪化することも懸念されて
いる。

 このような干ばつの進行は、農作物の生育にも大きな影響を及ぼし、特に、自然草地
における肉用牛の放牧が盛んな西部においては、草資源の不足による牛群の流動化(繁
殖雌牛のと畜による飼養頭数の減少)を促し、現在下降局面にあるキャトルサイクルに、
今後さらに拍車をかけることも予想される。


草資源確保のため、土壌保全用の休耕地における放牧や採草利用を容認

 こうした状況下、米農務省(USDA)は、放牧地の草資源が不足している地域を対象に、
土壌保全留保計画(CRP)に基づく休耕地における放牧や採草利用を認めるという決定を
行うなどの対策に乗り出している。このCRPとは、土壌侵食を起こしやすい農地の保全的
利用に関する契約を結んだ農家に対し、その農地の借地料と、永久カバー作物(草や樹
木)への転換費用の一部を助成するという、任意参加のプログラムである。

 USDAはまず、通常の干ばつ発生年よりも1月ほど早い5月22日、過去に干ばつの被害が
ひどかったコロラド、カンザス、モンタナなどの7州の中の特定の郡に所在するCRPの契
約農家について、その休耕地での家畜の放牧を許可すると発表した。対象となる郡は、
直近4カ月間の降雨量および草量が平年を40%以上下回っている地域に限られ、また、仮
に当該農家が家畜を飼養していない場合には、そこで放牧する権利を対象郡内の畜産農
家にリースすることも可能とされた。ただし、各農家における放牧可能地はCRP休耕面積
の75%までとされており、これに対する借地料の助成額も、通常の25%の水準に引き下
げられる。

 6月28日には、過去25年間の中で最も深刻な干ばつに見舞われているとされるサウスダ
コタとモンタナの2州について、USDAが、緊急保全計画(ECP)の実施に必要な財源とし
て、それぞれ190万ドル(約2億3千万円:1ドル=121円)と9万ドル(約1千万円)を措置
することが決定された。これは、同州内の畜産農家における家畜の水場の確保(パイプ
ラインの設置や井戸の掘削など)に要する経費を一部助成するために用いられる。

 また、USDAは、6月28日にサウスダコタとモンタナの2州、7月2日にコロラド、カンザ
ス、ネブラスカなどの7州について、前回のCRP休耕地の放牧的利用に次いで、今度はそ
こでの乾草生産(採草利用)も認めることを明らかにした。その対象となる郡の要件な
どは前回と同じであるが、対象農家における採草利用はCRP休耕面積の50%までに限られ
ているほか、そこで生産した乾草の販売は禁止されている。これらの追加的な対策は、
全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)による「休耕地には水場も牧柵もないことが多いた
め、放牧的利用は現実的ではない」という声に応えたものであると言える。

 さらに、USDAは7月11日、干ばつのさらなる深刻化・広域化に対処し、@CRP休耕地で
の放牧・採草利用対策の対象を、アリゾナ、コロラド、ジョージア、アイダホ、カンザ
ス、ミネソタ、モンタナ、ネブラスカ、ニューメキシコ、ノースカロライナ、ノースダ
コタ、オクラホマ、サウスカロライナ、サウスダコタ、テキサス、ユタ、バージニアお
よびワイオミングの18州にまで拡大し、A基本的にこれらの州内に所在するすべてのCR
Pの契約農家に本対策への参加資格を与えるという要件緩和を行うとともに、BCRP休耕
地で生産した乾草を畜産農家に対して無償で提供する場合には、前述のような借地料助
成金の減額は行わない、ということを明らかにした。


議会では、別途の緊急災害対策を求める声も

 USDAは、干ばつなどの災害によって影響を受けた農家への支援策として、上記対策以
外にも、@連邦作物保険や緊急農家融資プログラムといった既存制度に加えて、A今年
5月に成立した新農業法に盛り込まれている直接固定支払いや価格変動対応型支払い(本
誌「特別レポート」参照)が活用可能であるとしている。特に、Aに関し、ブッシュ政
権は、「過去4回にわたって実施された緊急農家支援策と同様の措置がすでに新農業法に
は盛り込まれている。もし、議会がこれとは別の追加的な対策を求めるのであれば、新
農業法で認められた予算の範囲内で、他の対策の予算を犠牲にして実施すべきである」
という立場をとっている。

 しかし、議会では、こうした政府の見解とは裏腹に、「新農業法には、価格の変動に
対するセーフティ・ネットはあっても、災害に対処するためのセーフティ・ネットは含
まれていない」といった主張により、2001〜2002年における耕種・畜産農家を対象にし
た追加的な緊急災害対策を2003年度農業歳出法案に盛り込もうとする動きもあるなど今
後の政府と議会の攻防が注目される。




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