海外駐在員レポート 

ミャンマー連邦の畜産事情

シンガポール駐在員事務所 小林 誠、宮本 敏行




はじめに

 ミャンマー連邦(旧ビルマ連邦)は、1948年にイギリスから独立し、6
2までは議会制民主主義を維持していた。しかし、国内の民族問題や宗教問題
を契機として国内が騒然となり、ネ・ウィン将軍によるクーデターが起こって
ビルマ型社会主義の名の下に、一種の鎖国状態における統制経済による国づく
りが行われた。

 しかし、この体制下でも少数民族問題はいぜんとしてくすぶり続け、闇経済
の肥大化や軍事独裁政権の腐敗など統制経済の矛盾、さらには鎖国化による世
界経済の市場化の流れからの立ち遅れなどにより、経済事情は急速に悪化した。
このような経済事情の悪化に加え、80年代後半に起こったフィリピンや韓国な
どでの民主化の影響を受けて、学生を中心とした民主化運動が高まり、88年に
はビルマ型社会主義は放棄された。この時点で、74年に制定された憲法も廃止
され、新憲法制定まで、暫定的に軍による国家法秩序回復評議会による独裁的
統治が開始された。89年には、国名をビルマからミャンマーに変更した。

 90年には総選挙が実施されたが、軍側の意図に反して、アウン・サン・スー
・チー女史を中心とする国民民主連盟(NLD)が圧勝したため、評議会はNLDの
活動を禁止し、スー・チー女史などNLD活動家を逮捕・監禁した。先進諸国は、
人道目的以外の援助を凍結するなどして政府に圧力を加えた結果、95年、同女
史は、一応自由の身となったが、同女史の自宅周辺はいぜんとして軍によって
厳重な交通規制が行われており、一般人は近づくことができない状態であった
が、最近、実質的な解放がなされたところである。

 97年、東南アジア諸国連合(ASEAN)は、アメリカやEU諸国の反対を押し切
り、ミャンマーを準加盟国から正式メンバーへ昇格させた。同年、回復評議会
は解散し、現在の国家平和・開発評議会が政権を担うことになったが、軍事独
裁政権であることには変わりがなく、今年で91歳になるネ・ウィン将軍が88年
の退任後も一貫して強い影響力を行使している構図にも変わりがない。

 今回は、これまで、日本にはほとんど紹介されていないミャンマーの畜産事
情を紹介するが、ASEAN諸国中最大の生産量をあげている酪農・乳業の詳細に
ついては、別途紹介することとしたい。


1.一般事情

(1)地理的条件

 ミャンマーは、中国、インド、バングラデシュ、ラオス、タイの5カ国と国
境を接しており、国境線は合計6,129kmに達する。国土面積は日本の約1.8倍の
67万7千km2で、南北2,051km、東西936kmである。日本との時差は2時間半であ
る。

 国内は、地理的特性から3つの地域に大別することができる。(1)中央平原
(イラワジ川流域)、(2)東部山岳(東部山岳地帯は最大の面積を有するシ
ャン州が主体で、海抜1,000〜1,300メートルの高原地帯)、(3)西部山岳
(最北部はヒマラヤ山脈に連なり、西ヨマ山脈でインドと分離)。


資料:「海外ビジネス情報シリーズ ミャンマー」


(2)気象条件

 1年は、3月〜5月中旬の夏期、5月中旬〜10月末の雨期、11月〜2月
末の乾期の3つの季節に大別することができる。一般に、ミャンマーの気候は
熱帯モンスーンといわれるが、中央部には年間降水量が1,000ミリを下回るや
や乾燥した地域がある一方、南部海岸地域の年間降水量は5,000ミリを超える
というように、地域による格差が大きく、農畜産業も気候条件を反映したもの
となっている。


(3)人 口

 ミャンマーは135の民族で構成される多民族国家であるが、各民族の人口
構成は多寡様々であり、ビルマ族、カチン族、カヤー族、カイン族、チン族、
モン族、ラキン族、シャン族が主要部族とされており、それぞれの部族名を冠
した州が設置されている。99年現在の人口は推計で4,725万人であり、人口増
加率は1.84%とされている。


(4)政府組織

 現在の軍政は、ネ・ウィン将軍の支配力温存のため国家平和・開発評議会が
最高意思決定機関として組織されており、その下34の省が設置されている。農
業関係では農業・灌漑省と畜水省がおかれている。畜産関係は畜水省が所管し
ている。同省は家畜改良・獣医局、水産局、養蜂局、計画・統計局、飼料・乳
製品公社の4局・1公社で構成されており、獣医大学も同省の所属となっている。

 ミャンマーには地方自治組織はなく、各州・管区には国家平和・開発評議会
メンバーか軍の管区司令官を長とする平和・開発評議会が設置されている。


2.経済事情

 現在の経済体制は、農業、軽工業、輸送は民営が主体、エネルギー、重工業、
米の輸出は国営という混合経済となっている。90年代初頭には、30年間に及ぶ
鎖国によって遅れた分を回復しようという政府の意気込みと民間活動の高まり
により、経済も回復に向かった。しかしその後、国内の民主化をめぐって国際
的な圧力が高まり、外国からの投資も停滞して、現在では深刻な経済危機にお
ちいっているとみられている。経済状況の悪化が深刻化したとみられるのは、
99年下半期以降であり、この事態を反映するかのように、それまで同国の経済
指標などを発表してきた国家計画・経済開発省の経済発表が現在に至るまで、
2年連続で取りやめられている。

 同国の経済成長率を現地通貨で計算した場合、95〜99年のミャンマーの国内
総生産(GDP)は、年率30%以上の大幅な伸びを示している。また、通貨チャ
ットと米ドルの公定交換レートは、86年以来、1米ドル=6チャット台に定めら
れており、公定レートで換算する限りにおいては、GDPが大幅に伸び、経済
が順調に成長していることになる。

 しかし、現実には、公定レートと闇の実勢レートの格差は年々広がっており、
実勢レートは、96年末に1米ドル=160チャット、99年末に1米ドル=350チャッ
トと大幅に下落している。したがって、このレートで換算した場合、5ヵ年間
の年平均経済成長率は13.1%となり、他のアセアン諸国を大幅に上回る成長と
は言えないことがわかる。通貨の実勢交換レートは、2000年中盤からは一層急
速な下落を始め、2002年5月上旬には1米ドル=1,030チャットまで下落してい
る。このため、米ドルに換算した場合、GDPはマイナス成長に陥っているとみ
られているが、99年を最後に3年連続で政府の経済発表が行われていないため、
データで検証することはできない。

 表には示していないが、政府の財政収支は、85年度以降、毎年赤字を続けて
おり、政府は紙幣を増刷することでこれをしのいでいるといわれている。この
ため、消費者物価の上昇も大幅で、表中の5年間で約3倍、85年度と99年度の比
較では実に20倍以上に達している。

表1 ミャンマーのGDPの推移(単位:百万チャット)

 資料:「Review of the Financial, Economic and Social Condition 
    for 1996-97」、「Statistical Yearbook 2000」
 注:下段は対前年比(%)。

表2 ミャンマーの財政収支、資金供給量、消費者物価指数の推移

 資料:「Review of the Financial, Economic and Social Condition 
   for 1996-97」、「Statistical Yearbook 2000」
 注1:98年以降の資金供給量はIMFの推計値。
  2:消費者物価指数は、1995年を100とした場合の指数。


(1)貿 易

ア.貿易相手国の推移

 ミャンマーの主要輸出品目は、米、豆類、トウモロコシ、生ゴム、エビとい
った農産品であり、主要輸入品目は一般消費財や中間製品となっている。

 輸出相手国としては、インド、タイ、シンガポールなどが上位の常連だが、
近年、中国への輸出が増加している。ミャンマーは、設立当初からのWTO加
盟国であり、中国のWTO加盟に伴って農産品の輸出機会が増えることを期待し
ている。なお、日本への輸出品目には、牛などの骨をボイルし、脂肪分を除去
して破砕したクラッシュド・ボーンが含まれており、日本でBSEが発生する以
前は、同国にとって数少ない収益性の高い畜産関係の輸出産品であった。

 輸入相手国としては、シンガポール、日本、タイが上位の常連だったが、近
年、韓国が順位をあげている。

表3 主要貿易相手国の推移(上位10カ国)
(1)輸出
 
(2)輸入
 
 資料:「Statistical Yearbook 2000」
 注1:国名下段( )内の数字は、貿易額(単位:百万チャット)
  2:年度は4〜3月

イ.関税率

 輸入に際しての関税率は、それほど高い水準とはいえないが、輸出入に際し
ては、そのたびに政府への申請・承認が必要とされているため、実際には、関
税以外の障壁が存在している。同国では、輸出に際してもFOB価格の10%相当
の関税が徴収されている。

 食肉、鶏卵については、輸入自体が禁止されている。

表4 農畜産物等の関税率および販売税率

資料:畜水省家畜改良・獣医局

ウ.農畜産物貿易

 農畜産物の輸出では、米、豆類、トウモロコシが中心であり、畜産物、特に、
生きた家畜の輸出量は、統計には表れていない。しかし、従来から、陸路での
タイなど近隣諸国への統計にない輸出が行われており、実際の輸出は相当数に
のぼるものとみられる。このような家畜の中には、インドからタイやラオスへ
通過するだけのものも含まれるが、16歳未満の牛のと畜が禁止されているにも
かかわらず、酪農の盛んなマンダレー管区の乳牛が一様に若いことを考慮する
と、ミャンマー国内からの不正輸出分または密殺分も相当数にのぼるものとみ
られる。

 2001年には、マレーシアとの間で、山羊を数千頭規模で輸出するという政府
間合意がなされている。また、未確定ながら、マレーシア資本による、対マレ
ーシア輸出向けの大規模ブロイラー農場の計画もあがっており、今後、マレー
シア向けの畜産物輸出が増加することが期待されている。

 後述するように、シャン州南部では、中国雲南省をターゲットとした畜産基
地の建設が進んでおり、2006年にはフル稼働する見込みである。

 ミャンマーでは、油料種子作物も多く栽培されているが、落花生、ゴマなど
多くは食用油として輸出に回され、国民の口に入るのは安価な輸入パーム油と
なっている。ミャンマーで輸入されている乳製品は、価格の安い、フィルド・
ミルク製品(乳脂肪をパーム油で置き換えたもの)の輸入が多く、輸入金額に
して1億7千万チャット(2,724万円:100チャット=16円)程度になっている。
れん乳は、マンダレーを中心に国内生産もされている。しかし、ティーショッ
プでは国産品を使って調製されたミルクティーに客の目の前で輸入の缶入りれ
ん乳を添加することによって高級感を演出しており、輸入品は高級品として、
一定の需要があるとみられる。


表5 農畜産物貿易量の推移
(1)輸出(単位:千トン)
 
(2)輸入(単位:千トン)
 
資料:「Statistical Yearbook 2000」


3.ミャンマー経済における農業の位置付け

 ミャンマーにとって農業は社会的にも経済的にも重要な産業である。畜産お
よび水産を含む農業生産額はGDPの60%となっており、輸出額に占める割合も
34.6%となっている。ミャンマーには1,800万haの可耕地があるといわれてい
るが、現在、実際に耕作されているのは1,000万haにすぎず、800万ha程度が未
利用地となっている。近年、豆類の生産量が着実に伸びており、96年以降は輸
出金額でも米の輸出額を上回って推移している。

 ミャンマーは米、豆類、トウモロコシ、魚介類については輸出余力があり、
食肉については自給しているが、小麦、パーム油、砂糖、れん乳類、粉乳類は
不足しており、年々輸入量が増加している。

 ミャンマーの農業は政府の介入が頻繁に行われており、政府の影響力も強い。
88年まで、各農家は1ha当たり54〜64バスケット(1,134〜1,344kg:1バスケッ
ト=約21kg)の米を推奨価格で政府へ売り渡す義務を課せられていた。この制
度は88年に改訂され、1ha当たり30バスケットの米を公定価格で政府へ売
り渡す義務へと緩和された。政府の公式発表によれば、これ以降、政府の統制
は徐々に弱められ、市場経済への移行が図られてきたということになるが、実
際には依然として政府の統制は強く、市場で農産物が不足したり、価格が高騰
した場合には、強制集荷や罰則を伴う公定価格の設定などが行われている。結
局、市場経済化の名の下に農家が得たのは、それまでの保護政策や補助金の撤
廃だけで、結果的に市場価格の乱高に苦しめられている。

 同国でも90年代には建設ブームが起こり、多くの農村労働者が都市部に流入
し、農村部では収穫期に人手が足りなくなる事態も発生した。同国の農業は、
機械化がほとんど進んでおらず、また、トラクター等がある場合でも、燃料が
十分に確保できないという問題があり、役畜だけでなく労働力の確保も重要な
要素となっている。この点では、ミャンマーの農村は労働力のバッファーとし
て十分機能しているといえる。
【牛による田の耕起】
表6 主要穀物生産量の推移(単位:千トン)

 資料:「Myanmar Facts and Figures」、「Statistical Yearbook 2000」

表7 主要穀物生産量の推移(単位:千トン)

 資料:「Statistical Yearbook 2000」


4.畜産事情

 農業がミャンマーのGDPに占める割合は60%程度となっており、ASE
AN諸国中もっとも高い数値である。一方、畜産がGDPに占める割合は、水産
とあわせても6〜7%、農業全体の10%程度にすぎない。畜水省によれば、畜産
と水産の生産額の目安は、おおむね1:2となっているが、近年、エビを中心と
した輸出需要が高まっていることから、水産が増加傾向にある。畜産が単独で
GDPに占める割合は2%程度と推計され、今後の拡大の余地が大きいとみられる
ものの、畜水省の予算額は国家予算の0.4%(99年度)にすぎず、辺境対策以
外はほとんど何もできないのが現状である。同省の予算は、国家予算の11.8%
を占める農業・潅漑省の予算と比べてもきわめて小規模であり、同省が、後述
する畜産連盟による民間活力の利用を急ぐ一因となっている。

表8 GDPに占める農業および畜産・水産業の割合の推移(%)

資料:畜水省家畜改良・獣医局

 畜産の概要としては、2000年度末(2001年3月)現在、牛が1,008万頭、水牛
240万頭、羊・山羊が175万頭、豚が382万頭、鶏が4,111万羽、アヒルが617万
羽となっている。鶏が年率10%程度の割合増加傾向を続けているのを例外とし
て、ほぼ横ばいから微増となっている。畜水省では、牛のうち100万頭が乳用
であると説明しているが、ホルスタイン種などいわゆる乳用種だけではなく、
役用種の雌をも含めて100万頭いるという意味である。

 99年の食肉など畜産物の生産量は、牛肉・水牛肉が6万1,200トン、豚肉が10
万1,700トン、鶏肉が20万4,600トン、牛乳が69万6,000トン、鶏卵が18億5,600
万個となっている。食肉の生産量は少ないが、牛乳の生産量ではASEAN諸国中
最大である。

 家畜の分布を州・管区別にみると、水牛と牛については、国内最南端に位置
し高温多雨のタニンダーリー管区で他州・管区に比べて水牛の比率が高い。羊
および山羊については、内陸乾燥地帯を含むマグエー、ザガイン、マンダレー
各管区で飼養頭数が多くなっている。鶏は、首都ヤンゴンを含むヤンゴン管区
およびその近郊、イラワジ川の河口デルタ地帯であるエーヤワディ管区での飼
養羽数が多くなっている。

表9 畜種別家畜頭羽数の推移(単位:千頭、千羽)

 資料:畜水省家畜改良・獣医局

表10 州・管区別家畜飼養頭羽数(2000年)

 資料:畜水省家畜改良・獣医局

@牛

 ミャンマーの牛は、役用が中心であり、乳用には役用雌の分娩後のものが用
いられる場合とホルスタイン交雑種が用いられる場合がある。ミャンマーの農
家は、耕地面積が1戸当たり8〜10アール程度しかなく、農業用動力機械がほと
んどないため、役用としての牛や水牛の重要性が高い。役用の廃用が肉資源と
なる。政府は、役用資源保護のため、牛のと畜年齢を16歳以上としているため、
フィードロットなどの牛の肥育産業は成立しがたく、肉牛産業という分野も成
立していない。牛や水牛を持てない貧しい農家の場合には、コントラクターに
よる耕起が行われており、10アール当たり100チャット(約16円)程度の費用が
かかる。

 ミャンマーの牛には、褐色のシュウィニー種(ビルマ語で「黄金」の意味で、
胸垂部分が発達していない)と白色のビャージン種(インドのハリアナ種と体
色、外貌が似ているが、ハリアナ種ほどには胸垂が発達していない)の2系統
があるがいずれも在来牛との交雑種であり、由来は明らかでない。これらの2
系統は、国内の分布が異なっており、褐色のシュウィニー種が西部と南部を中
心に分布し、白色のビャージン種が北部を中心に分布している。同国には、こ
れら2系統の広く分布している種類の他に、西部チン州のインド国境付近の冷
涼地にミャンマー固有のマイトン種という牛がいる。マイトン種は、牛と水牛
の中間的な外貌をしており、肉の味が良いとされている。ただし、どのように
「味が良い」のかは明らかでない。タイ政府は、同種の肉の「味が良い」こと
に着目し、ミャンマーから2頭を輸入し、雑種による改良を試みたが、同種は
タイの暑熱環境に適応できず、繁殖に失敗している。
【北部に多い
ビャージン種の種雄牛】

    
【ミャンマー固有種とされる
マイトン種の種雄牛】
 乳用牛は、専業農家では、ホルスタイン種とビャージン種との交雑種が多く
用いられている。乳牛の外国種は、78年に輸入されたが、純粋種は適応力に劣
るため、在来種との交雑が行われ、50%クロスのものが耐暑性、耐粗食性に優
れていることが判明し、推奨されている。ミャンマーでは、白い牛よりも赤っ
ぽいものが好まれ、50%クロスはミディアム・サイズで牽引力が高いとされて
いる。交雑種の場合、年間200日以上搾乳しており、1日当たり5kg程度とされ
ているため、1頭当たりの乳量は1,000kg以上ということになる。しかし、在来
のビャージン種の役用雌牛の場合には、1日当たりの乳量は1〜2kgとされてお
り、1乳期当たりの乳量も200〜400kg程度となる。分娩間隔は、平均で900日と
きわめて長いため、16歳まで飼養しても3〜4産が限界である。専業酪農家の平
均飼養頭数は5〜10頭程度であるが、役用を含めた平均では1〜2頭程度となっ
ている。88年までは、ヤンゴン市内にも数ヶ所の商業規模の酪農場があったが、
鎖国の解消に伴って乳製品の輸入が自由化されたため廃業してしまい、現在ヤ
ンゴン市内に残っているのは直営の喫茶部を所有している菓子会社の牧場だけ
である。現在の酪農の中心地は、ミャンマー第2の都市マンダレー周辺となっ
ており、マンダレー周辺には多くの加糖れん乳製造所がある。

 マンダレー市内の乳用牛頭数は、子牛なども含め、約9,000頭、酪農家戸数
は400戸程度である。マンダレー管区全体では役用雌牛も含めると7万頭程度が
乳用牛としての扱いを受けている。生乳の販売価格は、販売先によっても異な
り、1kg当たり60〜150チャット(9.6〜24円)程度である。

 ミャンマーは口蹄疫の常在地であり、毎年、国内での発生が報告されている。
通常、雨期の直前にワクチン接種を行うこととされているが、接種費用は農家
持ちのため、必ずしも十分に行きわたっているとはいえない状況にある。同国
で発生するのは、牛タイプ(Type OとA)が中心である。

A豚

 豚は、農家における少頭数飼育が中心であり、商業規模の養豚場は成立して
いない。しかし、トウモロコシやゴマ粕などの国産飼料資源が豊富で安価なこ
とから、養豚の競争力は高いとみられており、シャン州では中国雲南省向けを
ターゲットとした大規模養豚施設が建設中である。また、マレーシアでは、ウ
イルス性脳炎との関係で養豚の立地が困難となっていることから、同国の投資
による養豚の開始が期待されている。

B鶏

 ミャンマーの養鶏は、残飯処理用として家屋の周辺で飼われているものが中
心だった。ミャンマーでは、一般に、シャモに似た足の長い在来鶏の肉が好ま
れており、ブロイラーは価格も安い。しかし、ブロイラーが市場に出回ってい
るのも、マンダレーとヤンゴンの2大都市に限られている。ヤンゴン市のブロ
イラー需要は、1日当たり4万羽程度とされている。畜水省では、同市の鶏肉需
要のうち、商業規模の養鶏場が生産している量は、全体の15%程度と推計して
いる。

 鶏の品種としては、在来種(81%)、ロードアイランド・レッド(RIR:4%)、
ハイブリッド(15%)の割合となっている。RIRについては、現地への適応性が
高いことから国家推奨品種となっており、畜水省の努力もあって、2000年に1%
しかいなかったものが2001年には4%に増えた。

 国内には、ニューカッスル病が頻発しており、ワクチンの接種が必要だが、
冷蔵施設が不備なことと、輸入ワクチンの価格が高いことから農家段階では用
いることができないでいる。2000年10月から、豪州で開発された常温での保存
が可能で飲用水に溶かして接種できるワクチンが導入され、効力試験が行われ
ており、実用化への期待が高まっている。

 畜水省は、企業規模養鶏を奨励しており、採卵鶏であれば5,000羽、ブロイ
ラーであれば1万羽を最低単位として銀行からの融資を受けられる制度を設け
ている。

 最大の消費地であるヤンゴンで消費される鶏肉は、1日当たり約22.4トンで
ある。これらの鶏は、以前は90%が在来鶏だったが、現在では在来鶏の比率は
30%に低下している。ブロイラーの生産量は、年間3万トン程度で、タイのチ
ャロン・ポカパン(CP)などの外資が入っている。鶏肉の小売価格は、1kg当
たり438チャット(70円)程度である。なお、ミャンマーにはビスという単位
があり、1ビス=1.6kgであり、通常の表現はすべてビスで行われている。また、
ミャンマーのブロイラーの出荷体重はおおむね1ビス程度のため、ビスで表現
した方が分かりやすい面もある。

 鶏卵の生産には、CP始め多くの外資が投資している。鶏卵の年間1人当たり
消費量は、90年には25個であったものが、2000年には42個にまで増加している。
鶏卵の小売価格は、1個当たり14チャット(2.2円)程度となっている。


(1)農家の畜産による収入状況

 採卵農家の純益は、卵1個当たり3チャット(約0.48円)程度であり、ブロイ
ラー農家の場合、1羽当たり50チャット(約8円)の純益が見込める。一般
の採卵農家の飼養規模は200〜500羽が一般的であり、産卵率は75%程度なので、
年間収益は16万〜41万チャット(2万5,600〜6万5,700円)程度である。卵用鶏
で1,000羽、ブロイラーで3,000羽以上の規模を有するものは、農村地帯の一般
農家にはなく、すべて会社または都市部の富裕階層の所有になるものである。

 ミャンマーの場合、畜産を専業としているものは、中部にある同国第二の都
市マンダレーを中心とした地帯の酪農以外にはほとんど見ることができず、ほ
とんどが副次的収入源となっており1ヵ月当たりの収入も1万5,000〜3万チャッ
ト(2,400〜4,800円)程度にとどまっている。


(2)畜産物を中心としたミャンマー人の食習慣

 ミャンマー人の食物摂取量は表のとおりで、食肉はトータルで8.98kgとなっ
ており、ASEAN諸国中最低となっている(畜産の情報(海外編)2002年3月号48
〜49ページ参照。)。魚介類は22.7kgだが、一般的に海の魚類は好まれておら
ず、ほとんどが淡水産の魚となっている。卵もアヒルと合計しても45個であり、
食肉同様、所得水準が向上するか価格が低下しなければ、食べたくても食べら
れないという状況にある。ミャンマーでは、飲用牛乳は病人のための滋養食と
考えられており、一般には好まれていない。乳製品消費の大部分は、ミルクテ
ィーに用いられる加糖れん乳やスリー・イン・ワンと呼ばれる袋入りの粉乳、
コーヒー、砂糖の調製品を湯に溶かして飲む方法によるものである。

 一般に、ミャンマーで最も好まれ、重要視されている食肉は鶏肉であり、豚
肉がこれに続いている。特に来客をもてなす場合、鶏肉料理が必須のものとさ
れている。また、養鶏は必要とされる土地面積が小さく、起業・運営コストが
少なくて済むことや、他の畜種よりも起業から収益の回収までのサイクルが短
いという特徴もある。また、特に鶏舎などの施設がなくても、庭先で簡単に始
められるという特徴もあり、資金のない農家にとっては重要な現金収入源とな
っている。

表11 ミャンマーの食物摂取量(2000年)

資料:畜水省家畜改良・獣医局


(3)行政機関

ア.畜水省家畜改良・獣医局

 ミャンマー国内には、135の種族があり、この中に50の独立派グループ
があるため、歴史的にも安定性を欠いているところがあり、現在の政府が軍政
を維持している理由となっている。特に北部は歴史的にケシ(アヘン)の栽培
が行われており、これを止めさせるためにも畜産による収入が不可欠であると
している。このため、局の下に全国42ヵ所の獣医事務所を設置して畜産振興を
行っている。2000年は、いわゆる黄金の三角地帯(シャン州)にも獣医事務所
を設置し、ケシ栽培を止めさせるための援助も行っている。

 2001年度(年度:4〜3月)は、国家農業5ヵ年計画の初年度であり、次の5つ
の目標を掲げている:@道路などインフラの整備(流通の改善)、A乾燥地域
における水の確保(バダン近辺)、B家畜飼養管理技術などの普及・教育、C
家畜衛生および人間の健康の増進、D農業および畜産の経済的発展。

 局では、現在、鶏の推奨品種としてRIRの増羽を目指しているが、将来的に
は、日本の農林系統のようなミャンマー独自の採卵鶏やブロイラーの品種を確
立したいとしている。

 局では、モデルファーム制度を有しており、小型ふ卵器(1辺40cm位の木
製立方体の中に電球と卵架を設置しただけのもの)により発生した雛を無料で
配布している。このふ卵器は、1台15,000チャット(2,400円)で、卵が36個入
り、手で反転するもの。ただし、このように生産を励奨しても、卵の需給が安
定しておらず、長期間保存可能な粉卵を作ることができれば、本格的に養鶏を
振興できるとしている。

 また、ミャンマーでは牛用粗飼料として稲ワラがきわめて重要だが、現状は
山積み状態であり、雨の降らない乾期の貯蔵飼料とはいえ、損耗が激しいので、
ベールに加工できれば貯蔵性、ハンドリング性能が上がると考えている。この
ため、農家にも導入可能な安価な手動式ベーラーの開発を行いたいとしている。

 政府は、畜産物不足を解消する手段として、世界的にもまれな、技術力の向
上等によらず面積の拡大のみによる増産政策を進めており、農家の土地を強制
収容して畜産・野菜ゾーンの設置を進めている。現在、このようなゾーンはヤ
ンゴン周辺に3ヵ所あり、1エーカー(約40.5アール)当たり10万チャット(1
万6,000円)で分譲されている。
【酪農家の飼料用稲ワラ。
雨期に向け高床に積み替えている】
イ.家畜改良・獣医局人工授精センター

 家畜改良・獣医局の下部組織として設立され、開発部(牛の凍結精液を全国
に配布)と研究部(種雄牛の能力検定)の2部で構成されている。

 同センターでは、種雄牛、種雄豚を繋養し、牛については採精から凍結精液
製造、人工授精技術の普及を行い、豚については採精と希釈を行っている。牛
の人工授精は、67年にペレット方式で開始され、当初は全国10カ所に人工授精
センターを開設した。73年と76年に国連食糧農業機関(FAO)の人工授精プロ
ジェクトが実施され、83年にはカナダの国際開発庁(CIDA)の協力も得、人工
授精センターは全国40ヵ所まで拡大された。現在は、ストロー凍結精液を国内
で生産し、全国110ヵ所の人工授精所(技術普及を含む)に配布している。

 同センターは、FAOのプロジェクトで導入された液体窒素の製造装置を有し
ており、本来なら1時間当たり6リットルの製造が可能だが、機械が古すぎるこ
とと経済的な理由により交換部品が入手できないため、現在稼動していない。
液体窒素不足により、91年〜93年にかけて年間9万頭にまで拡大した人工授精
実施件数が近年大幅に減少している。国内の液体窒素は、民間での生産はなく、
第1企業省で生産しているものを購入してるが、十分な量を確保できないため、
人工授精普及の障害になっている。牛人工授精師の養成は公務員を対象に年2
回実施しているが、今年度は財政難と実習用家畜が供用できないことから実施
していない。

 豚も人工授精を実施しているが、希釈液を作るための薬品が買えないので、
希釈せずに使用している。また、保存液の知識もない。1回の採精で約250mlを
採取し、人工授精の1回分は80mlで行っている。人工授精による受胎率は100%
であるとしている。

ウ.畜水省牛乳・飼料公社

 牛乳・飼料公社は、家畜の配布、飼料販売、獣医事サービスを行っている。
 公社傘下の養鶏場では、ブロイラーの種鶏をインドから導入、採卵鶏の種鶏
はフランスから導入している。種豚場の豚はタイのCP社から寄贈されたものを
飼養している。酪農場では、ホルスタインの交雑種を飼養している。
 公社は、鶏と豚に関して契約生産を行っている。契約対象農家は、土地、建
物、生産機材を保有していることが条件となっている。このような農家に対し、
資金貸付、飼料、医薬品、技術指導を行い、10ヵ月後に返済させる仕組み。こ
の制度は、95/96年度に開始したもので、FAOの技術協力計画(TCP:Technical 
Cooperation Project)による農家1戸当たり鶏10羽を配布し、1年後に他の農
家に同数を委譲するという方式を応用している。この制度で配布される豚は、
L×W(ランドレース種と大ヨークシャー種の一代雑種)であり、鶏は50年前に
導入されたRIR種を元に増殖されたもので、産卵率は70%程度のものである。

(ア)ふ卵場

 ふ卵場は、2001年4月18日に設立されたもので、鶏とアヒルのふ卵を
担当担当している。

 セッター(1万2,096個容)6基とハッチャー2基を保有しており、アヒルの発
生数は毎週1万2,700羽、鶏は毎週3万羽発生となっている。機械はアヒル用が
中国製、鶏は米国製、現在製造中のものは自国製である。発生率は、鶏で77%、
アヒルで85%。品種は、採卵鶏がシェーバーとミャンマー・ノーリン、ブロイ
ラーがインドの品種である。

 初生雛は、公社の養鶏場に送るほか、ブロイラー100チャット(16円)、採
卵鶏65チャット(10.4円)、アヒル275チャット(44円)で外部に販売して
いる。しかし、この価格は、一般市場価格よりも安いので、外部とはいっても、
対象は公社の退職者や在郷軍人に限定されている。

(イ)鶏育種場

 日本の技術協力の名残りを残しており、当時持ち込まれた農林系統を現在ま
で維持・増殖している。この系統を用いてミャンマー・ノーリン系統を作出す
る試みが、98年まで、シンガポールの技術協力により行われていた。この系統
は、まだ第2世代しか経過しておらず固定されるには至っていない。

 その他、マレーシアから寄贈された4系統が維持されており、組み合わせ検
定などを行っている。
【人工授精用の採精、ドイツ方式】
(ウ)酪農場

 現在、搾乳牛40頭を飼養しており、1頭当たりの乳量は1日当たり平均4ビス
(6.4kg)である。同牧場では、9ヵ月間搾乳(270日)が一般的であり、分娩
間隔は400日〜450日である。乳用牛の耐用年数は、5産程度である。

 同牧場は、生乳処理施設を有しており、殺菌作業から自社ブランドのプラス
チックボトルへの充填まで、すべて手作業で行っている。牛乳の販売価格は、
800mlのものが140チャット(22.4円)、280mlのものが58チャット(9.3円)で
ある。

(エ)種豚場

 ミャンマーCP社が純粋種の種豚を寄付したのが始まりで、現在でもこの系
統が維持されている。同場では、ランドレース、大ヨークシャー、デュロック
の3元交配を行い、肉用素豚として外部に販売している。

エ.ヤンゴン市開発委員会(YCDC)

 開発委員会は、日本における市町村に相当するもので、畜産部門、水産部門、
農産部門等が設けられている。委員会の農場で生産されたものは、一部を公設
市場(タックス・フリー市場と称されている)で低価格で販売され、委員会が
物価安定に努めているというポーズを示すためのプロパガンダ活動の場とされ
ている。例えば、2002年1月現在の鶏卵の市場価格は、1個当たり16〜18チャッ
ト(2.6〜2.9円)であるが、委員会の生産した鶏卵の一部は同10チャット(1.
6円)で販売するといったかたちで、この安い方の価格が市場の動きとして新
聞に掲載される。実際には、この市場へ放出される生産物は非常に少なく、早
朝に出かけても買えないこともあり、税金を投入してコスト無視で生産された
委員会の生産物の大部分は、一般市場で販売されている。

(ア)YCDC飼料工場

 2001年10月に操業を始め、同年12月末の従業員は60名だったが、将来的には
150名規模までの拡大を考えている。生産しているのは鶏用飼料のみで、原
材料は外部から購入している。販売先は、YCDC農場および契約農場に限定され
ており、「努力して畜産物の生産量を増やしても、飼料を外部から購入してい
るのでは民間飼料会社に儲けさせるだけのことで、もったいない。いっそ自前
で生産すればその分の儲けも入ってくる。」という発想から始められたもので
ある。YCDC農場には、採卵鶏15万羽、種鶏6万羽、ブロイラー2万4,000羽がいる。

 将来的には、一般農家にも飼料を販売する予定だが、農家は飼料を実際に給
与したときの鶏のパフォーマンス(産卵率、増体率)で判断するので、飼料分
析などは行う予定はない。飼料工場の開設にあたって新規のミキサー、ホッパ
ー、サイクロン、計量機などの導入を行っており、相当のコストがかかってい
るとみられるが、YCDCとしては、この事業の収益性は一切考慮していないとい
うことである。

(イ)YCDC種鶏場

 20棟の種鶏舎があり、各3,000羽を収容しており、合計6万羽を飼養している。
品種は、CPブラウンとスター・ブラウンで、CPブラウンについてはPS(ペアレ
ント・ストック)をミャンマーCP社から購入している。産卵率は75%であり、
産卵期間は49〜59週間である。ケージ式の養鶏場としては、国内最大規模で、
鶏舎内は2段式ケージが6列配置されている。
【YCDC種鶏場の鶏舎内部。
品種はCPブラウン】
(4)獣医・畜産教育

 ミャンマーの教育制度は、小学校5年間、中学校4年間、高校2年間、大学
3〜6年間であり、5歳で小学校へ入学となる。各上級学校への進学率に関す
る統計は公表されていないが、2000年現在における在籍生徒数から推定すると、
小学校から中学校への進学率は45%程度、中学校から高校へは75%程度となっ
ており、大学については97年〜99年まで閉鎖されていたため不明となっている。

 獣医・畜産教育は、古くはラングーン大学で行われていたが、64年大学法の
施行により畜水省の所管する獣医科大学に移された。獣医科大学は、ヤンゴン
の北方500km、マンダレーの南方150kmにあるインセインに64年に設立され、修
業年限は当初6年間だったが、97年に5年間へ短縮された。

 同大学には、畜産関係7学科と獣医関係7学科が設置されており、2000年度ま
でに3,340名の卒業生を輩出している。なお、2001年度の在籍数は、学部学生
が510名、修士課程が23名の合計533名となっている。

 獣医大学の卒業生の初任給は、政府が6,000チャット(960円)、民間が2万
5,000〜3万チャット(4,000〜4,800円)となっているが、民間の場合、ほとん
どが営業などの一般職であり、専門知識を生かせるものとはなっていない。


(5)ミャンマー畜産連盟

 ミャンマー畜産連盟は、99年10月に政府主導で設立された団体であり、畜水
省の3部門である家畜改良・獣医局、牛乳・飼料公社、獣医大学の指導・監督
の下に運営されている。
 設立の目的は、・州・管区および地区・町村レベルでの畜産連盟の設立、・
畜産物の貿易を含む畜産分野における情報の収集と普及・広報、・セミナー、
展示会等の開催、・畜産分野における国際活動、・畜産振興であり、活動の一
環として、2002年2月に第1回畜産・水産フェアを開催した。
 会員となる条件は、ミャンマー人であることと、特定の政党に属していない
ことの2点だけである。政府は、2001年1月以降、地方レベルでの畜産連盟の設
立を急ピッチで進め、畜産関連企業、農場の社長や所有者はほとんど全員が会
員となっている。設立の目的をみてもわかるように、ほとんどが本来であれば
畜水省が担うべき内容となっており、事業予算をほとんど持たない畜水省が、
民間企業家や農場主の組織化により、何とかして畜産振興を図ろうとしている
意図がうかがえるものとなっている。

(6)農協組織

 92年協同組合法に基づいて1万8,129の協同組合が設立され、このうち1万994
が農業関係の協同組合であった。農業関係の協同組合は、生産組合、農産物卸
売組合、作物購買・流通組合の3種類に分類され、2000年3月末現在、合計6,73
3組合、14万4,022人が組合員として登録している。6,733組合の内訳は、生産
組合が6,484組合13万8,531人、農産物卸売組合が202組合4,457人、作物購買・
流通組合が47組合1,034人となっている。


(7)畜産関連企業

 ミャンマーには、表12に示したように、いまだ多くの畜産関連企業は育って
いない。こうした中、中国のWTO加盟を機に、中国雲南省をターゲットとし
て大規模畜産開発を開始した企業(ホンパン・グループ)があるので、本節で
はこれを紹介する。

 ホンパン・グループは、ミャンマー資本で建設、住宅販売なども扱うコング
ロマリットであり、畜産には着手し始めたばかりである。

 畜産基地は、すべて現在建設中であるが、マンダレーからも車で2時間、シ
ャン州内に畜産基地を建設しようというのは、中国のWTO加盟を機会に中国向
けの畜産物輸出を行うことが目的である。2001年現在、中国とミャンマーとの
畜産物生産コストには約2倍の開きがある(ミャンマーが安い)うえ、建設地
から雲南省国境までは、ヤンゴンへ向かうよりも距離が近く、当地からは12時
間(300マイル)で雲南省に行くことができる。つまり、1日あれば中国市場に
出荷することが可能である。さらに、中国側もミャンマーを東南アジアでシン
ガポール、ベトナムに次ぐ3番目に重要な貿易パートナーとみなしているとい
う現状がある。

 同社の今回の事業規模は、4億5千万チャット(約7,211万円)であり、資金
的には何ら問題ないとしている。鶏については、5年計画(2002〜2006年)で
毎年採卵鶏を10万羽ずつ増羽し、最終年には50万羽規模の農場とする予定であ
る。鶏は、これも建設中の自社の種鶏場(原々種)、ふ卵場から供給する。種
鶏はタイやベトナムから調達することを考えているが、まだ未定である。豚に
ついては、7年計画で肉豚50万頭規模とし、1日当たり1,500頭の出荷を目標と
する。ただし、豚については、自社の農場で飼養するのは25万頭程度とし、残
りは契約農家での生産とする。

 飼料工場も建設中であり、タイ、ドイツ、中国の機械を導入し、日量400ト
ンの生産規模とする。飼料原材料は、全体としては、現状でもシャン州内で十
分調達可能と考えられるが、トウモロコシと大豆が若干不足しているので、こ
れについても契約栽培を行う予定である。飼料の原材料は、60%はシャン州産、
30%はマンダレー地区、残りの10%は魚粕であり、ヤンゴン地区から調達する。

 同社では、今回のプロジェクトを推進する上で問題となるのは、技術者の確
保(外国人を雇っての技術研修や外国へ派遣しての現地研修)、電気の安定供
給、通信事情、道路事情であるとしており、計画推進のため、台湾、タイ、ミ
ャンマーのコンサルタント3人と契約し、スタッフとして獣医師6人を雇用して
生産開始に備えている。

表12 ミャンマーの畜産関連企業等の概要



(8)民間種鶏場

 2001年以降、飼料価格の高騰により、養鶏の収益性が悪化して、初生雛の価
格が暴落し、多くの中小種鶏場は窮地に追い込まれた。本節では、民間種鶏場
の事例を紹介する。

(ア)民間種鶏場A(ヤンゴン市インセイン地区)

 RIRの種鶏場。鶏舎10棟、土地面積1.5エーカー(約61アール)、最大8,000
羽収容可能、労働力は10人。76年に農場を始め、88年以前の社会主義体
制下ではヤンゴン市で1、2を争う規模の種鶏場だった。

 経営者によると、RIRは、ミャンマーの気候条件に適しており、さらに改良
する必要はないと思うが、PSを自場で選抜・維持しているため、長期的にみる
と能力が低下してしまう。そこで、デカルブ種やハイライン種を追加的に入れ
て交雑し、能力の維持を図っている。

 ふ化は5日間隔のローテーションで行っており、1回の発生羽数は1万5,000羽
(雄、雌の合計)である。今は、雛の売れ行きが悪いので、1回当たり3,000羽
に減らしているが、それでも売れず、どんどん損を重ねている。現在の初生雛
の価格は、雌が1羽当たり80チャット(12.8円)、雄が30チャット(4.8円)。
雌雄鑑別は、かつて日本の技術協力プロジェクトが行われていたときに導入さ
れた肛門鑑別方式を採用している。種鶏の衛生上の問題は発生していない。
【鶏舎外観:木造、茅葺の簡易
施設だが、風通しが良く、50セ
ンチほどの高床になっているた
め、落下した糞もよく乾燥し、
清潔である。初生雛の売れ行き
が悪いため、減羽しているとこ
ろであり、空の鶏舎が目立つ。】
(イ)民間種鶏場B(ヤンゴン市インセイン地区)

 2001年末現在、価格低下と売れ行き不振により、ふ卵業務、種鶏関連業務を
ストップしている。ここは、88年に社会主義が終了するまでは(ア)の農家と
並ぶRIR種鶏場としては大規模なものだったが、経営状況の悪化は著しく、他
の小規模種鶏場はもっと深刻な状況にある。

 種鶏場を40年間やっているが、2001年ほどひどい年は経験したことがないと
いうことで、6,000羽規模の種鶏と1週当たり1万羽の初生雛生産能力を有して
いたが、12月第1週の初生雛発生が最後となる。

 95年から市場が悪化し始め、2001年は9月から破滅的になっている。政府は
外資の導入を奨励しているが、供給過剰であった鶏卵、ブロイラー市場に、政
府はCP社の参入を奨励した。CP社は資金も技術もある上、政府のバックアップ
も受けているため、一般の種鶏場はとうてい太刀打ちできない。CP社が初生雛
市場の価格形成役を担っており、5月から6月にかけて、CP社は雌の初生雛の価
格を1羽当たり1チャット引き上げた。そのためこの種鶏場でも増産体制に入
ったところ、今度は大幅な価格引き下げを行って採算ベースを割り込む水準に
相場形成されてしまった。一体、中小はどうしたら良いのか。SP社の参入によ
る中小企業や農家への影響は壊滅的である。

 種鶏をやめてブロイラー、採卵鶏農家に転向しようと思った時期もあったが、
ミャンマーの鶏肉、鶏卵市場は非常に小規模なので大量に供給を始めると価格
下落が起こると考えてやめた。

 政府は、外貨獲得のため、油粕類は輸出に回したい意向が強く、国内の飼料
費高騰要因になっている


(9)畜産関連機材販売

(ア)飼料・初生雛販売店A(マンダレー市)

 マンダレー管区で個人商店としては、最大の販売量を誇る。

 マンダレー市内には採卵鶏が40万羽いる。2年前であれば1万羽で大規模農家
といえたが、現在では4〜5万羽いないと大規模とはいえない。

 販売している初生雛の品種は、バブコックが中心であるが、デカルブ、ボー
バン、ハイライン、シェーバーなど、CP系統以外のものはすべて扱う。バブコ
ックは、94〜95年に扱い始めたが、卵のサイズが大きく、他のものより1個当
たり1〜2チャット(0.2〜0.3円)程度高く売れる(サイズによる卵価の仕分け
はマンダレーで導入し始めたばかりで、ヤンゴンの市場ではすべて同一価格で
ある。)

 ミャンマー北部でCP社は、1月当たり30万羽の採卵鶏初生雛を販売している
のに対し、ウ・エイ社のハイラインは10万羽、バブコックとシェーバーがそれ
ぞれ5万羽といったところである。CP社の初生雛は、タイでは1羽当たり18バー
ツ(300チャット(48円))なのに対し、こちらは現在80〜100チャット(12.8
〜16円)である。バブコックは160チャット(25.6円)で売っている。

 A店では、シャン州にも初生雛、若鶏や飼料を販売しているが、中央政府は
他州への飼料や若鶏の販売を規制しているので、時々州境で留め置かれること
がある。(ミャンマーでは、州と管区を跨いだ取り引きには各種の規制がある。)

 A店は、ハイラインの種鶏場も経営しており、米国ハイラインのマニュアル
に沿った農場設置・運営を行っている(農場間の距離、外部者の立入り禁止な
ど)。現在の初生雛の販売価格は、雌が80チャット(12.8円)、雄が5チャッ
ト(0.8円)で販売している。(卵用種の雄はセミ・ブロイラーと呼ばれ、肉
用種に比べ成長が遅く、成鶏になるまでに12週間程度必要であることから、価
格が安い。ミャンマーの一般のブロイラーは9週間で出荷される。)

 A店では、現在、PSをはじめ、種鶏6万羽を飼養しており、5日間隔で初生雛
5万羽ずつを生産。

(イ)初生雛販売店B(マンダレー市)

 ミャンマーでは、一般経済が不振なため、卵価が下がったにもかかわらず、
所得減により卵消費量が低下するという悪循環に陥っている。B店の初生雛販
売数は、2000年の半分の水準であり(2000年2万羽/月→1万羽/月)、価格も
低下している。例年、販売数が最も多いとされている11〜1月であるが、12月
の予約は、バブコック、ハイラインがゼロ、ボーバン(オランダ)がたった5
00羽といった状態であり、最低1年間は回復できないのではないかという。
CP社の販売価格である初生雛1羽当たり80チャット(12.8円)というのは、
生産コストを下回るひどい水準である。

 マンダレーを中心とした地方におけるブロイラーの問題点は、農家の知識が
欠如しているため、衛生状態が良くないことである。特に、マイコプラズマを
含む呼吸器系の疾病が多いことである。ガンボロ病、ニューカッスル病につい
ては問題ない。

 採卵鶏農家は、知識水準はブロイラー農家よりは上であり、経験をつんだ農
家が多いので、問題点があれば獣医に相談する。経営的には、飼料費が上昇し
ている一方で卵価は下降しており、経営を圧迫している。ただ、このような状
況でも、産卵率が80%以上あれば収益は確保できる。しかし、75〜80%が損益
分岐点で、これを下回ると赤字になる。


(10)畜産農家等の事例

 本節では、種類ごとに農家の実例を紹介し、畜産事情を理解する一助とする。

ア.養鶏(採卵)
 
 (ア)養鶏農家A(マンダレー管区ピンウーリン地区)

 以前は衣料品の貿易商をしていたが、その後、オレンジの栽培を始め、オレ
ンジを甘くするのに鶏糞が有効であることを知り、それならいっそ鶏糞を自前
で調達しようということで75年に養鶏を始めた。

 採卵鶏1万3,000羽を飼養しており、このうち1万羽が成鶏で、1日当たりの卵
生産量は8,600個である。管理作業などのため10人を雇用している。品種構成
は、CPブラウン4,700羽、ハイライン(中国からのもの)3,200羽、ユナイテッ
ド・ブラウン(タイのユナイテッド農場の育成した系統)2,500羽、バブコック
(ヤンゴンからのもの)3,000羽となっている。産卵を始めてから14ヵ月間経
過したところで、3日に2個生んでいるようなら更に継続。3日に1個まで落ちて
いる場合には廃用にしている。廃用にした場合の鶏は1羽700チャット(112円)
で売れるが、一度に多数を引き取れる業者がいないので、徐々に間引いている。
【鶏舎内部の様子、品種は
ユナイテッド・ブラウン】
 生産した卵は、中国雲南省とマンダレー市内へ出荷しており、1日当たり2
万チャット(3,200円)程度の利潤がある。鶏糞は毎日集め、鶏糞用ピットに
貯める。これは小型トレーラー1台当たり4,500チャット(721円)で売れる。
 
 (イ)養鶏農家B(マンダレー市内)

 1年前に養鶏場を始めたばかりだが、マンダレーの市街地から近いため、土
地が十分に入手できず、3階建ての鶏舎を建設した。養鶏場の開始に当たり、
自己資本2,200万チャット(353万円)を投資しており、3年で回収する見込み
である。
【3階建て鶏舎の外観】
 現在、卵用鶏2万羽を飼養しており、うち成鶏が8,000羽で1日の卵生産量は
5,500個である。品種の内訳は、CPブラウン6,000千羽、バブコック3,000千羽、
ハイライン1万1,000羽となっている。生産した卵は、1個当たり22チャット
(3.5円)で製菓製パン業へ販売するのが中心だが、小売も行っており、こ
の場合、1個当たり23チャット(3.7円)である。生産上の問題点は、コクシジ
ウム症の発生である。

 従業員は、獣医師3名を含めて22人で、労働者の賃金は、食住込みで1月当た
り4,000チャット(641円)である。

 週1回、糞出しをするが、このときに周辺農家が買いに来る。価格は、16ビ
ス(25.6kg)入り1袋当たり60チャット(9.6円)である。

 (ウ)養鶏農家C(ヤンゴン市東部)

 鶏舎は2棟あり、1棟は多段式で1,100羽収容、もう1棟は高床の平飼式で7
50羽を収容している。経営者は、多段式の方が良いと思っているが、資金が
なく統一できないでいる。品種はすべてCPブラウンで産卵率は80〜85%を維持
している。ただし、平飼い式の鶏舎はここ2週間ほどの間、病気が出ており、
産卵率も40〜50%まで低下している。鶏卵は直売式のため、1個23チャット
(3.7円)で販売できている。

 オールイン・オールアウト方式を採用しているが、育雛やブルーディングの
施設がないので若鶏を購入し、11ヵ月間産卵させて廃鶏にしている。生産費は、
飼料代として1日1羽当たり14チャット(2.2円)かかっている。

イ.養鶏(ブロイラー)
 
 (ア)海軍養鶏場(ヤンゴン市東部)

 農場周辺一体は海軍の土地で、この養鶏場は海軍と民間との合弁である。農
場長は海軍曹長で従業員6人は皆兵隊である。

 CPブロイラー4,300羽を飼養しており、2002年1月現在の鶏群が3回目に導入
されたものである。1回目の鶏群は、品質は悪くなかったがブロイラーの価格
が低迷している時期でほとんど収益がなく、2回目はニューカッスル病が発生
して全滅した。現在の鶏群は、価格が高い時期なので、こんどこそ儲けが出る
ことを期待しているというが、同行した獣医師によれば現在の鶏群も病気にか
かっており、健全な状態で出荷するのは無理だろうとのことであった。

 育雛率は96%。飼料はCP社のものが、価格は高いが、発育促進剤が入ってい
るので3週齢まではこの飼料を使い、その後は一般飼料に切り替えている。

(イ)民間養鶏場B(採卵とブロイラーの混合)

 ブロイラー2,500羽、採卵鶏2,400羽を飼養している。ブロイラー用と採卵鶏
用の鶏舎がそれぞれ2棟づつあるが、採卵鶏用は1棟が空である。労力は16人。
土地面積は3エーカー(約1.2ha)。

 31日齢のブロイラーを見たが、非常にばらつきが大きく、元気もない。この
農場では、ガンボロ病が最も大きな問題である。

 1棟の建設費は35万チャット(5万6,000円)。土地は、海軍からのリースで、
1カ月当たり1万チャット(1,600円)。
【31日齢のブロイラー】
ウ.酪農

 (ア)酪農家A(マンダレー管区Tharyaraye村)

 経営者は45歳。妻と息子3人が労働力。

 搾成牛は4頭で、このうち3頭が搾乳中である。乳量は1日1頭当たり16
kg以上でないと飼料費をまかないきれないという。濃厚飼料を購入しており、
粗飼料は、近隣の野草を刈取り給与している。

 生乳は、生のまま市場で販売する。

 搾乳期間は14ヵ月、乾乳は1.5〜2ヵ月であり、酪農のみで生計を立てている。
繁殖は、人工授精で行っており、精液は中国経由で輸入される米国産やカナダ
産のホルスタイン純粋種や家畜改良・獣医局が生産する凍結精液(この場合も
ホルスタイン純粋種)で行い、ホルスタインの血量が75%程度になっている。

 (イ)酪農家B(マンダレー管区Tharyaraye村、Aに隣接)

 現在飼養している搾乳牛は4頭で、このうちの1頭は1日当たりの搾乳量が
20kgという高い水準であり、合計生産量は1日当たり40kgということである。生
産した生乳は、自転車で宅配している。午前6時に搾乳した分は7時半に出発し
て各戸を回り、13時に帰着、午後3時に搾乳した分は、戸別配達は行わず、夕方
にマンダレー市内に開設される市場で販売している。牛乳の価格は、昨年は良
かったが、今年は安くなって困っている。

 飼料は、普通は、野草の刈取り給与方式だが、乾期には近隣の野草が不足す
るため、外部から購入することもあり、この場合、7kg程度のもので70チャット
(11.2円)がかかる。なお、稲ワラは、1束500グラム程度のものが7.5チャット
(1.2円)である。

 酪農家A、Bとも、乳牛は敷地内に繋ぎっぱなしであり、搾乳もその場で行っ
ている。
【酪農家B】
(11)飼 料

 ミャンマーは飼料資源に富んでおり、現状では自給が可能である。また、ト
ウモロコシ、米ぬか、油粕類は輸出にも回されているが、食肉など畜産物の生
産が需要を満たしているとは言いがたく、将来的に畜産物の生産が増えれば、
飼料原料の備蓄も必要とされる。現状では、作物の収穫期には飼料があふれる
が、収穫後の処理が不適切なことや貯蔵施設が十分にないことから、雨期を中
心に飼料が不足し、高値となって畜産経営を圧迫する状況が続いている。また、
雨期には、飼料が不足するだけでなく、品質の劣化によって産卵成績が落ちる
などの影響も出ている。

 ミャンマー飼料協会によれば、飼料原料の生産時期は、トウモロコシと米
(砕米および米ぬか)が10〜12月と4〜6月の年2回、油粕の原料となる落花生
とゴマが1〜2月と4〜6月の年2回である。干し魚や魚粕の供給にも波があり、
干し魚が12〜4月、魚粕が10〜6月となっている。

 国営の飼料工場は4ヵ所あり、日量133トンを製造。民営は26工場あり、日量
974トンを製造。配合飼料は年間約40万トン製造され、鶏用、豚用が中心である。

 次に、民間飼料工場、飼料販売店の事例を紹介する。

ア.スーパー・パワー飼料社(ヤンゴン市:正式名称は、South Dagon Oil 
 Mill Co. Ltd.でゴールデン製粉社の子会社。同社は、建設、水、食品の製
 造販売を広く手がけているコングロマリット。)

 ゴールデン製粉は、飼料のほか建設、搾油(ゴマ、落花生)、魚・えびの加
工、キング・スター飲料、養鶏(ブロイラー)と事業を急速に拡大している。
その他、オイル・パームのプランテーション1,800エーカー(約730ha)を所有
しており、パーム油の製油工場も所有している。

 飼料工場に隣接して、シーフード用の冷蔵加工施設があり、エビの殻などは
飼料として利用している。ミャンマーでは1日おきに停電するため、600万チャ
ット(96万円)を投じて750馬力の発電機を設置した。そのため、シーフード
と飼料の2部門をあわせて7,000万チャット(1,122万円)の投資となった。

 飼料の販売価格は、採卵鶏用が40kg入りで2,000チャット(320円)、ブロイ
ラー用は同じく2,400チャット(385円)となっており、CP社の飼料よりも安い
設定になっている。製品のコスト構成は、原材料費80%、製造コスト(ほとん
どが手作業)10%、利潤10%である。飼料袋も印刷に出すと高いので、手作業
でやっている。これだと、1枚当たり5チャット(0.8円)の労賃だけで済む。
労働者は25名おり、平均賃金は月に6,000チャット(960円)程度。

イ.サン・ピャー飼料工場(マンダレー市)

 マンダレー地区最大の飼料工場。会社は73年設立だが、現在の工場が完成
したのは99年。工場の設計、施工、機材、すべてを中国から導入したので、完
成当初は中国人が常駐して技術指導、飼料分析まで行っていた。しかし、彼ら
が帰った後は、ただ自動運転しているだけ。

 製造している飼料の種類は、鶏用、豚用、魚用で合わせて1日8時間操業で1
日当たり60トン、年間では15,000トンの製造能力がある。従業員は50名程度。

 原材料タンクは、各13トン入りのものが12基ある。ミャンマーでは、原材料
価格が変動すると、直ちに製品価格に転嫁される仕組みになっているため、原
材料費の変動による原料組換えは行っていない。

 同工場で生産している飼料は、魚用が60%(このうち、10〜15%は、親族の
経営する養魚場で使用)、鶏用が32%、アヒル用が5%、山羊用が2〜3%であ
る。牛用、豚用は、自家配合が主流なので作っていない。取引先は大手養魚場
・農場が中心となっている。価格は、鶏用が1ビス当たり135チャット(21.6円)、
魚用が同130チャット(20.8円)、アヒル用が同120チャット(19.2円)、山羊
用が同150チャット(24円)である。1袋の重量は40kgである。

 原材料は量の多いものから順に、砕米(1ビス当たり90チャット:14.4円)、
トウモロコシ(使用量10%程度、同120チャット:19.2円)、豆殻(bean husk)、
ゴマ粕、魚粉、米ぬか、貝殻で、この他に2%程度のビタミン類が入る。


(12)タムウェイ鶏卸売市場

 この市場は、鶏の卸売市場としてはヤンゴン市内唯一のものだが、農家が直
接販売する分もあるので、同市場の取扱量は市内の鶏肉消費量の60〜70%程度
である。1日当たりの搬入数はトラック20台分以上、羽数にして最低4万羽に達
する。

 同市場におけるブロイラーの価格は、同市場のブロイラー部門を統括するメ
イカ産業社の営業部長が、ヤンゴン市内の小売市場の売れ行きなどの様々な情
報を収集し、前日の夕方、近くのティーショップで関係者から意見聴取した後、
最終的には1人で決めている。

 鶏肉の需要は、市民の購買力低下のため減少気味であり、さらに各農家には、
放し飼いの鶏がたくさんいるため、価格が低下傾向で推移している。2001年10
月には、CP社が若鶏を大量に放出しており、価格低下に拍車をかけている。こ
れは、アメリカのテロ事件の影響で世界経済が一層低迷し、ミャンマーの経済
成長が低迷することを懸念したためで、1ビス(1.6kg)当たり400チャット
(64円)という、従来の相場を4割以上下回る低価格での放出となっている。
【集荷かごに入れられた
ブロイラー】

    
【一部は市場内で処理解体
してから小売市場に運ぶ】
(13)小売市場

ア.タンウィー公設市場(タックス・フリー市場)

 YCDCが設置する、市内に3ヵ所あるうちの1つ(他の2ヵ所は、ハンダロリーと
ガバイー)。午前6時からオープンということだが、現地を訪問した午前8時に
は既にほとんど何も残っていない状態だった。「5.(3)エ.ヤンゴン市開発委
員会」で述べたように、そもそもこの市場に出てくる品物の量は非常に少なく、
政府の価格安定策に対する宣伝効果のみを目的としたものとなっている。
【鶏コーナーで鶏をさばく販売
人。腹腔内に水を入れて重量を
増す例もあるという】

    
【肉コーナーの全景。販売量は
非常に少ないが、ここでの価格
をもって市内の物価は安定して
いるとの宣伝が行われている】
(14)ミャンマー畜産の問題点

 ミャンマーの畜産にとって障害となっているのは、魚の消費量が多く価格が
安いため、畜産物の価格水準も低くならざるをえないことである。畜産物の中
ではでは、鶏肉が一番高価であり、さらに消費者のし好はブロイラーより在来
鶏に偏っているため、ブロイラーの大量生産による鶏肉の増産には発展しにく
い状況がある。卵についても、鶏卵よりアヒルの卵の方が好まれる傾向がある。
また、ミャンマーでは、為替レートや国内情勢の変化が大きすぎるため、外国
投資が期待しにくく、銀行などからの借入リスクが大きいことも、畜産の規模
拡大の障害となっている。

 また、@投入資材の品質が低かったり、不足していること、A情報が欠如し
ていることも発展の阻害要因となっている。ミャンマーの畜産は需要分を十分
にカバーしているとは言えない状態だが、その要因としては、以下のことがあ
げられている。

 @各種家畜疾病の発生および適正な診断技術の欠如、さらには獣医師・動物
  医薬品の不足
 A飼料成分の分析が進んでおらず、的確な飼料給与が行えない
 B育種の遅滞および養豚農家では近交係数の上昇
 C流通過程の不衛生
 D市場価格が不安定

 ミャンマーでは、テレビ等の普及率が低く、情報統制が厳しいため、新聞に
も政権に都合の悪い、不作や農村の疲弊といったマイナスの情報は、基本的に
は載ることがない。インターネットの閲覧や電子メールの利用も個人で行うこ
とは禁止されている。このような状況の下での農家の情報交換手段は、毎朝、
毎夕、さらには日中も多数の人でにぎわうティーショップでのおしゃべりや、
動物医薬品や生産資材販売店でのおしゃべりということになる。また、技術情
報については、多くの場合、飼料販売店や初生雛販売店は獣医師が経営者兼セ
ールスマンであり、販売先へのアフターケアのかたちで技術普及の役割を担っ
ている。


5.おわりに

 ミャンマーの畜産は、種々の問題を抱えているが、社会・経済的に農業の重
要性が高く、農業関係の動力機械がほとんど皆無の状況にあって、役畜を通じ
て重要な役割を果たしている。また、政府は、国内に食肉が不足していながら、
輸入を禁止しており、一般国民の経済事情が改善されれば、畜産物の消費量が
大幅に増える可能性も秘めている。さらに、畜産物の生産費がきわめて安いと
いわれる中国のさらに半分の生産費であることを考慮すると、将来的には、近
隣諸国への畜産物供給基地になる可能性もあるといえる。実際、マレーシアは、
政府間で山羊や牛の大量輸入契約を締結しており、ミャンマーの畜産企業の中
にはマレーシア向け大規模養豚施設を計画しているものも現れている。

 今回は、酪農・乳業の紹介は割愛したが、ミャンマーはASEAN諸国中最大の
生乳生産量を誇っており、牛乳の直接飲用習慣はないものの、れん乳や粉乳の
消費習慣は定着しており、今後の発展が期待できる。これについては、別の機
会に報告する。

 本レポートが、知られざる国ミャンマーの畜産事情を理解する一助になれば
幸いである。


参考文献等

大田晴雄(1996)「海外ビジネス事情シリーズ ミャンマー」総合法令。

安田信之(2000)「東南アジア法」日本評論社。

Central Statistical Organization. (1997)
“Statistical Yearbook 1997”, Yangon.

Central Statistical Organization. (2000)
“Statistical Yearbook 2000”, Yangon.

Central Statistical Organization and Department of 
Agricultural Planning. (1999)“Agricultural Statistics   
 (1987-88 to 1997-98), Yangon.

Central Statistical Organization.(2001)
“Selected Monthly Economic Indicators January- February 2001”,
 Yangon.

FAO Bangkok Office. (1997)“Selected Indicators of Food and 
Agricultural Development in Asia-Pacific Region”, 
 Bangkok.

Ministry of Commerce.(1994)
“Myanmar Export/Import Rules and Regulations for 
Private Business Enterprises.”, 
 Yangon.

Ministry of Information. (2000)
“Myanmar Facts and Figures”, Yangon.

Office of the Attorney General. (2001)
“Myanmar Laws (2000)”, Yangon.

Review Publishing Company Ltd. (2001)
“Asia 2002 Yearbook”, Hong Kong.

Review Publishing Company Ltd. (2000)“
Asia 2001 Yearbook”, Hong Kong.
“YCDC Evening Newspaper.”

元のページに戻る