豪州産乳製品の輸入禁止を示唆  ● フィリピン


長期間の係争による不満が表面化

 フィリピン農務省のオルドネツ次官補は、4月6日に行われた記者会見の席
上、豪州のフィリピン産熱帯果実に対する輸入制限措置に対抗するため、政府
として豪州産乳製品の輸入停止措置を検討していることを表明した。豪州は、
ガット・ウルグアイラウンド農業協定に付随して制定された衛生植物検疫措置
の適用に関する協定(いわゆるSPS協定)に基づき、植物検疫上の観点からフ
ィリピン産熱帯果実の輸入を制限してきている。これに対して、バナナなどの
熱帯果実を主要輸出産品とするフィリピン側は豪州からの肉用生体牛の輸入を
禁止するなど、長期間にわたって両国の係争が続いてきた。生体牛をめぐって
は、昨年、フィリピン国内の牛肉需給上の理由から輸入が再開されていたが、
今回の発表はフィリピン側の不満が表面化したものとみられる。


SPS協定を盾とする豪州

 豪州の動植物検疫は、世界的にも最も厳しいものであることは良く知られて
いるが、これは同国固有の野生動植物種の保護を目的として、SPS協定の「科
学的に正当な理由がある場合等においては、加盟国は国際的な基準よりも高い
レベルの保護水準をもたらす検疫措置を採用かつ維持することができる」とい
う規定に基づくものである。フィリピン政府は、豪州がSPS協定を盾にフィリ
ピン産バナナやパインの輸入を拒否していることに不満を募らせており、WTO
次期農業交渉が本格化する直前の最近に至って、アロヨ大統領が農産物貿易自
由化推進を掲げ、豪州などが主導するケアンズ・グループからの脱退を支持す
る旨を表明している。


フィリピン国内の酪農を振興したい政府

 フィリピンでは2001年末現在、8,610戸の酪農家(うち、水牛4,269戸、牛3,
991戸、山羊350戸)が約1万1千トンの乳を生産しており、生産量のうち67%が
牛乳、32%が水牛乳、1%が山羊乳となっている。同国の生乳換算による自
給率は0.86%ときわめて低い水準にあり、消費量のほぼ全量が輸入品および輸
入品を原料とした加工品となっている。フィリピン酪農庁(NDA)によれば、
2001年の乳製品輸入相手国は、豪州(39%)、ニュージーランド(32%)、ア
メリカ(9%)、オランダ(4%)で総輸入量の84%を占めており、輸入総額は
約212億ペソ(約551億円:1ペソ=2.6円)と前年を19.3%上回っている。

 政府は、従来から、年々増加傾向にある乳製品の輸入に頭を痛めており、ND
Aを中心として、生乳の国内自給率向上を目的とした「白の革命」を提唱して
いるが、財源不足により思うような進展がみられていない。このため、輸入乳
製品から差額関税を徴収し、これを財源として酪農振興を行ったり、学校給食
用牛乳に国産生乳の使用を義務付けるなどの措置を講じたいとしているが、現
行WTO協定上疑義があることと、国内関係者との調整が困難であることから実
施に踏み切れていない。


政府内で食い違う見解、民間ベースでの対抗措置の可能性も

 4月6日の農務省による発表に対して、貿易産業省のロクサス長官は同月1
5日、「フィリピンの乳製品生産量は需要量の5%にも満たない状況であり、
輸入品による充足が必要不可欠であることから、豪州の果実輸入禁止措置への
対抗策として豪州産乳製品の輸入制限措置を講ずる考えはない。」との見解を
表明した。

 一方、アロヨ大統領の雇用創設アドバイザーであり同国最大のバナナ輸出業
者であるラパンドリーグループのロレンゾ議長によると、同国乳業最大手のネ
スレ・フィリピン社とアラスカ乳業社が豪州産乳製品輸入停止措置に協力を表
明しており、たとえ政府が措置を講じなくとも、民間ベースでの対抗措置が実
効をあげるであろうとしている。また、16日には、上院多数派が今回報道され
た政府による豪州産乳製品輸入停止措置への支持を表明しており、同国産果実
をめぐる豪州との駆け引きは深刻化の様相を呈している。

 今回の農務省の発表は、単に時期WTO農業交渉での交渉材料として行われた
可能性もあり、今後の推移が注目される。

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