海外駐在員レポート
シドニー駐在員事務所 粂川 俊一、幸田 太
豪州で2000年7月に開始された酪農乳業制度改革は、開始当初から@全国規模 で酪農経営の廃業が加速され、酪農家の平均経営規模が拡大すること、A地域別 には、ビクトリア(VIC)州への酪農生産の集中がさらに進むこと、B全国規模 で、乳業の再編が進むことが予想された。これらについては、長期的な視点から 検証すべきことであるが、豪州酪農庁(ADC)の最近の発表によれば、過去1年 間で約1千人の酪農廃業者が生じたとされている。酪農家の減少は、近年の戸数 減、頭数増という傾向的なものであったものの、改革の影響を抜きには考えられ ない様相を呈している。 改革の影響は、酪農家や酪農生産の動向のみならず、競争力強化を目指した乳 業メーカー再編という方向へ導くものとみられたことから、本稿では、豪州酪農 乳業における生乳処理・乳製品製造部門を担う乳業メーカーの改革前後における 動向を中心に報告する。
(1)改革の影響 2000年7月1日から開始された酪農乳業制度改革は、@加工原料乳に支払われ ていた価格補てん金(連邦政府制度)の撤廃、A飲用向け生乳に設定されていた 生産者最低価格(各州政府制度)の撤廃、の2点を基本とし、両制度の撤廃によ り、用途を問わず生乳の取引が完全に自由化され、すべての乳価形成が自由市場 に委ねられることとなった。 このうち、加工原料乳制度の撤廃については、制度改革以前に補てん金単価が 大幅に削減されていたこともあって大きな影響はなかったものの、飲用乳制度の 撤廃は従前この制度により各州の飲用向け乳価が加工原料乳乳価の2倍もの水準 に維持されてきたことから、特に飲用向け比率が高いニューサウスウェールズ (NSW)州や、クインズランド(QLD)州、西オーストラリア(WA)州では大きな 影響が生じた。 表1 乳価の低下状況 資料:ABARE、ADC 注:飲用向け比率は2000/01年度 (2)政府の対応 豪州政府は、酪農乳業改革を実施するに当たり、酪農経営に対する総額約17億 豪ドル(約1,173億円:1豪ドル=69円)の補償措置を実施した。これは、98/ 99年度の生乳出荷実績に基づき飲用向け46.23豪セント(約31.9円)/リットル、 加工原料向け8.96豪セント(約6.2円)/リットルをそれぞれ乗じて加算した額 を原則として8年間にわたり分割交付するものである。 その後、トラス農相の命を受け豪州農業資源経済局(ABARE)による改革の影 響調査が実施された。この調査結果を踏まえ、@飲用向け比率の高い生産者に対 する追加補償、A当初の補償対象とならなかったが改革の影響が大きい者に対す る救済、B地域補償の拡充を内容とする総額1億4千万豪ドル(約96億6千万円) の追加補償が行われることとなった。 (3)最近の酪農生産の概観 最新のADCの発表によれば、2001年6月末における酪農家戸数(1万1,876戸) は前年同期より1千戸も減少し、一方、乳牛の総飼養頭数(228万1千頭)は、 10万頭以上増加している。したがって、1戸当たりの飼養頭数は約190頭となっ ている。 戸数減、頭数増はこれまでの傾向で推移しているものとも言えるが、特に酪農 家戸数はここ数年一貫して減少しており、特にここ1〜2年の減少は大きくなっ ている。また、飲用乳向けが多いNSW州とQLD州での減少が目立ち、酪農乳業改革 の影響の大きさがうかがえる。逆に総飼養頭数においては、NSW州、QLD州が戸数 同様減少している中、そのほかの州では増加しており、特に従前から最大の飼養 頭数であったVIC州での増加が目立つ。ADCでは、改革の影響を認めつつも、生産 性の向上を目指した結果と分析しており、酪農家戸数は減っている中、特に大規 模経営を指向する生産者では飼養頭数を増やしているとしている。 表2 酪農家戸数と経産牛飼養頭数の推移 ○酪農家戸数の推移 資料:ADC 注:各年とも6月30日現在 ( )内は対前年比 ○乳牛総飼養頭数の推移 資料:ADC 注:98年まで3月末、99年以降は6月末 ( )内は対前年比 計は必ずしも整合しない。
(1)乳業界の概観 豪州の乳業は、乳製品を主体とするメーカー2社:マレー・ゴールバン、ボン ラック(ともにVIC州を拠点とする協同組合系)、飲用乳を主体とするメーカー 3社:デイリー・ファーマーズ(協同組合系企業)、ナショナル・フーズ(豪州 商系企業)、パーマラット(イタリア系多国籍企業)の大手5社の系列によるマ ーケットの寡占化が進んでいると言われる。 なお、豪州の生乳処理量はマレー・ゴールバン、ボンラック、デイリー・ファ ーマーズの3協同組合系企業が、その約60%を占め、中でもマレー・ゴールバン は30%を占めるとされる。その他の協同組合によっても15%以上が占められてい るとされ、協同組合系のシェアは高い。 この5社の概要については、下表のとおり。 表3 大手5社の概要 資料:ADCほか 売上高のランキング(企業ベースのため非乳業部門も含む)は下表のとおり。 表4 乳業および関連企業の年間売上(2000年) 資料:フード・マネージメント・ニュース 注:1.非乳業の売上高を含む 2.ジュース売上高を含む (2)乳業メーカーの最近の動向 @全般的なマーケット戦略 酪農乳業改革は、酪農家のみならず、乳業界にも大きな影響を与え、改革以前 から生き残りを懸けて行われていた再編合理化の動きがさらに加速している。小 規模な乳業メーカーの買収が進められ、また、大手の乳業メーカーについても、 会社あるいは協同組合にとっての規模の経済メリットを求めて、州あるいは国境 を超えた買収先を求めている。 企業のマーケット戦略如何で財務の健全化や生き残りが左右されることとなる が、中でも、主要な乳業メーカーにおいて、「大きい賭け」("big stakes") と言われるような行動が盛んに見られている。 また、改革は、合併・買収という再編合理化の狭間で、ニッチ・マーケットを 目指す中堅企業に新しい機会を与えたとも言われる。 A主要メーカーの動向 ア マレー・ゴールバン マレー・ゴールバンは現在、豪州で最も安定している乳業メーカーと言われて いる。 同社は協同組合系であり、その母体の協同組合長によれば、「生乳が我々の事 業の基礎である。しかし、新たな酪農場を引き受ける場合、追加の供給源が既存 の供給源に新たな価値を加え、かつ、乳価を最大にすることに貢献する状況の下 でしか考慮できない」としている。 同社は、小売マーケットへの供給よりもどちらかと言うと産業マーケットへの 供給、すなわち原料乳製品供給にその戦略を集中している。実際、その直接消費 者向け販売は全体の売上高のうち約1億豪ドル(約67億円)と7%を占めるに過 ぎない。 協同組合は、そのメンバーである組合員により高い収益を返さなければならな いため、これを達成するためにリスクの低い戦略に焦点を合わせる。協同組合系 の中でも特に同社はこの傾向が強いとされる。 なお、2001年に同社は、当時、経営危機に面していたボンラックに買収の申し 出を行った。しかし、ボンラックは、その申し出がボンラック・グループが分解 後、その一部(原料乳製品部門)がマレー・ゴールバンに取り入れられ、残りが 他者に売却されるという内容であったため同意しなかった。 イ ボンラック ボンラックはマレー・ゴールバンとは完全に異なったマーケット戦略を試みた。 同社は単なる乳製品供給業者であることに満足せず、特に、小売飲料において輝 かしい経歴を持っていた最高経営責任者の下で、意欲的な「ブランド」戦略に基 づく経営の多角化を展開した。 同社の小売製品に重点を移す戦略への移行は、酪農家の間に驚きを起こすと同 時に、伝統的な協同組合の役割からかけ離れた動きと批判的に見られた。 結果的に、この戦略に対する同社の投資は低い成果しか上げることができず、 その母体である協同組合に多大な損失を与えることとなった。その最高経営責任 者の退任後、同社は、酪農家メンバーからの支援を獲得する必要だけでなく、収 支バランスをとるために厳しい経営再建キャンペーンに対処することとなる。 同時に、その建て直しの一環として、同社に対して25%の所有権を持つことと なったニュージーランド・デイリー・ボード(NZDB)との業務提携の下で、原料 部門のNZ企業との合併や販売会社(消費者向け乳製品販売会社:Bonland)設立 によって、財務の安定化を目指すこととなった。なお、Bonlandの設立によって 同社は、中堅専門チーズ製造業者ベガ・チーズの母体の協同組合と協定を結び、 ベガは、Bonlandに25年間のベガ・チーズの販売権を与えるとともに、その販売 権料として3,500万豪ドル(約24億1,500万円)を獲得している。 日本の公正取引委員会に当たる豪州消費者自由競争委員会(ACCC)は、ボンラ ックとNZDBの業務提携に関して、多くの他の乳業メーカーとの競争を損なうこと なく、その提携により消費者が不利になることはないとの判断の上、これを承認 した。長年、ボンラックとマレー・ゴールバンが理想的な合併パートナーと酪農 団体からも期待されていた一方でACCCが、結果として生じる会社が、その大きさ のために、産業において競争を制限するであろうという理由で、このような合併 は認めないと考えられていた。しかし、むしろ、両者の妥協点のないほど異なっ た戦略が合併を現実的なものとしなかったと言える。この見地から結果的に、NZ DBの資本参加による業務提携がボンラックのために最も良い相性となった。 ボンラックは、財政的にも経営的にも解決すべき問題を多く抱えており、当面、 経営再建に専念せざるを得ないとみられているが、最近、生乳供給源の確保のた めに、新たな動きを見せている。 ウ デイリー・ファーマーズ・グループ デイリー・ファーマーズ・グループはNSW州を拠点とし、その経営戦略は優柔 不断とも評価されている。同グループのイアン・ランドン委員長は酪農乳業の規 制緩和に対する強い批評家であった。さらに、グループの協同組合の構造は同社 の発展の障害とも見られている。 近年においても例えば同グループは、99年末におけるイタリア系乳業メーカー のパーマラットの傘下ポールズを通じた意欲的な合併買収提案を拒否している。 また、2000年末にもナショナル・フーズからのパーマラットを上回る友好的な合 併買収提案に対しても拒否している。 特にナショナル・フーズからの合併買収提案に対する拒否は、同グループの協 同組合としての体質によるものとされる。表向きには、買収価格などの条件が不 十分であったという同社の見解であるが、協議が整わなかった真の理由は、同社 の経営陣が、組合員である酪農家に、営利的な企業にグループの生乳処理の管理 権限を委ねるべきであることを理解させることは不可能であるという結論に達し たことによるとされる。すなわち、酪農家は、協同組合の株価や利益よりも、組 合員としての要求の保全や、特に生乳処理の管理を維持することが保証されるこ とに一番の関心があるという。 改革後、特に飲用乳メーカーは、買い手であるスーパーマーケットからの圧力 に対応するために合理化の必要性を実感している。 ナショナル・フーズとデイリー・ファーマーズの合併に関する合意形成の失敗 は、酪農産業の中における協同組合の組織問題のような構造的な問題を解決しな い限り、再編合理化問題を複雑にするだけである。仮に再編合理化が起こる場合 には、組合側は、より弱いポジションから交渉を行うことになり、より大きい内 外の圧力を経験することとなると予見されている。 エ パーマラット 豊富な資金源を持つ多国籍企業、パーマラットは、96年に豪州市場に参入し、 VIC州のオゥバリーで2つの乳業プラントを買収した。同社は、98年にQLD州の ポールズの買収時に、ナショナル・フーズとの競争入札に勝ち、意欲的な姿勢に より同社の存在を豪州酪農乳業界に印象付けた。ナショナル・フーズも相当な買 収資金を用意していたとされるが、適正な市場評価額を超えた買収をいとわなか ったパーマラットに勝つことはできなかった。 しかし、パーマラットは、ポールズ取得のために4億3,700万豪ドル(約301 億5,300万円)を費やしたものの、最近の決算では5%近い売上げの減少により 4,200万豪ドル(約28億9,800万円)の損失を計上したとされる。このため、同 社が再び他の乳業会社を買収するような試みを豪州で行うことはないともみられ ており、そのマーケット戦略の焦点をNZに移すのではないかとの見方が強い。 オ ナショナル・フーズ 食品や飲物などの複合企業であるナショナル・フーズは、これまで数年にわた り合理化や合併を経験している。その事業活動は、プラスチック容器を含め、オ レンジジュースから牛乳および乳製品の各部門に及んでいる。 同社は、前述したようにポールズやデイリー・ファーマーズに対して具体的な 買収を試みたものの、その試みも頓挫しており、2000年2月におけるパーマラッ トとの合併協議も論議は発展しなかった。むしろ最近ではNZの市場で活発に動い ている。同社は、NZDBが50%所有しているニュージーランド・デイリー・フーズ (NZDF)の買収に関心を表明している。NZDBは新しいグローバル・デイリー・カ ンパニーの形成の結果としてNZDFの50%の所有権を売却する必要があった。しか し、現在はフォンテラグループとなっているNZデイリー・グループ(NZDG)がナ ショナル・フーズの20%近い株を保有しているため、買収・合併の際の競争の原 則から見て不確実な状況である。 B合併概観 豪州のアナリストによれば、乳業における理想的な状態は3つの会社、ナショ ナル・フーズ、デイリー・ファーマーズ・グループおよびパーマラットが2つの 会社になることとしている。 なお、今後、豪州の乳業メーカーが、合併を含む一層の合理化に失敗した場合、 NZの乳業メーカーによる買収の機会となる可能性もある。 (3)乳業メーカーをめぐる周辺事情 @ニュージーランドとの関係 長年、NZDBのNZ国内はもちろんその国際的な力は、NZに比べて必ずしも組織 的ではない豪州の酪農産業にとって相当な脅威であった。しかしながら、新たな マーケットを開発する場合には、酪農乳業の合理化が進む状況下では、NZの乳製 品がNZDBの「single desk(一元輸出)」管理の適用を受けていたのに対して、 豪州の輸出業者がより多くの自由を持っていたため、豪州はNZに対する脅威にな り始めた。 したがって、豪州、NZ双方でさらなる合理化が行われるとともに、豪州とNZの 間のつながりが完全に構築されることが十分に予想された。NZでは、NZDBの厳格 な乳製品コントロールから乳製品のビジネスを開放するために設立されたフォン テラ(旧グローバル・デイリー・カンパニー)が豪州の市場に対して一層直接の 興味を持ち、積極的に進出しようとすることは時間の問題に過ぎないと見られて いた。 結果として、フォンテラ設立前に、NZDBはボンラックの株式を25%取得、NZD Gはナショナル・フーズの約20%を取得、キウイはWA州の乳業メーカーであるピ ーター&ブラウンの株式を80%取得するなど、現在、フォンテラの豪州への進出 は急速に進展している。 Aスーパーマーケットの存在 酪農乳業改革は、スーパーマーケットのプライベート・ブランド牛乳の供給契 約に当たっての入札に端を発した乳価の下落により、豪州の飲用乳供給地帯を中 心に酪農経営に多大な影響を及ぼした。中でも、スーパーマーケット最大手ウー ルワースへの供給契約の入札におけるデイリー・ファーマーズ・グループの勝利 は、酪農産業にとって、特に酪農家にとって良くない事例の代表となった。この 供給契約入札において、デイリー・ファーマーズ・グループはVIC州、南オース トラリア(SA)州およびQLD州で落札した。そのほかでは、ナショナル・フーズ が、NSW州とタスマニア(TAS)州で落札している。 しかしながら、スーパーマーケットは、酪農乳業改革において飲用乳取引の完 全な自由化に相当な役割を果たしたとも言え、今や酪農産業の中でも重要な存在 となっている。 豪州の小売り食料雑貨店部門は2つのグループ、最大手の食料雑貨店の小売業 者ウールワースおよびコールズ・マイヤー・グループによって支配されている。 香港の乳業グループによって所有されていた業界第3位のフランクリンは過去数 年にわたって財政問題に苦しんでいた結果、2001年にウールワースに売却された。 そのほか、食料雑貨のディスカウント小売業者アルディ(ドイツ資本の協同購 入チェーン)は、2001年に豪州のマーケットに参入し、多数の店を築いている。 スーパーマーケットが極端に牛乳を値引することは、自らを損益分岐ラインに 置く程に攻撃的なことであり、特に、ノーブランド、あるいは牛乳の「ハウス/ プライベートブランド」で、際立って価格を下げているとされる。ACCCによれば、 飲用乳取引の規制緩和の影響についての調査結果の1つとして、牛乳販売に関す るスーパーマーケットマージンが調査期間において19%も減少したとしている。 なお、スパーマーケットにおける最近の牛乳販売に関する傾向として、貯蔵期 限(シェルフ・ライフ)の安定性が高いプラスチック(HDPE)へのパッケージの 移行が見られ、伝統的なカートン・パッケージのシェアは大きく下落していると いう。
(1)酪農産業における今後のキーポイント 今後の酪農産業におけるキーポイントは、酪農家、協同組合と乳業メーカー、 政府それぞれについて次のように考えられている。 @酪農家 現在の問題として、豪州の競争政策上、酪農家が乳業メーカーと団体で交渉す ることが許されていないことがある。従って、酪農家は乳価交渉の際、乳業メー カーと「1対1」を基礎に交渉する場合、十分な交渉力を持っていない。しかし ながら、ACCCは、QLD州の1つの酪農組合に暫定的に団体交渉権を付与しており、 酪農生産者団体全体としての要求に応え、2001年10月に酪農家に団体交渉権を 認める方針を発表した。 また、酪農家は、酪農乳業改革により乳価に対して強い下げ圧力を経験したこ とから、今後とも収入の安定、増加を切望するのは明らかである。 A協同組合と乳業メーカー 乳業のさらなる合理化を達成するためには、企業論理の中で協同組合の問題が 扱われなければならないと言われている。 また、大手乳業メーカー間のさらなる合併は避けられないと考えられ、その焦 点は3つの飲用乳メーカー、デイリー・ファーマーズ、パーマラット、ナショナ ル・フーズに当てられている。 さらに、豪州のスーパーマーケットによる飲用乳価格への圧力はウールワース によって始まったわけだが、アルディの登場は、状況を悪化させるとみられる。 B政府 今後、業界から政府への政治的圧力が増加するような事態が起きれば、酪農家 に対する補償の追加などを行わざるを得ない可能性や、酪農経営に対する8年間 の補償の終了後に補償措置に係る課徴金の再評価の必要性が生ずることも予想さ れている。 (2)乳業界における注視すべき問題 豪州の乳業界の動向は、短中期的にはより混沌とした状況となることが予想さ れるが、注視すべき問題は次のことが考えられる。 @NZとの関係 ・NZの酪農産業が、豪州の酪農産業のさらなる合理化において大きな役割を占め ることが予想される。 ・NZの乳業企業が豪州に主要な影響を与えると予想されるが、NZのマ−ケットを も展開の視野に入れるナショナル・フーズの市場戦略は、豪州の協同組合も同 様の市場戦略を考える可能性も示唆している。その場合、NZ市場への参入は、 マレー・ゴールバンが最有力候補ではないかとも言われている。 A協同組合の問題 ・急激に変化しつつある市場環境に対応するために求められる迅速な意思決定と 行動に関して、協同組合の構造が障害となっていると考えられている。 ・国際的な小売製品のプロモーションにおける豪州の弱さは、原料乳製品企業で あることから脱皮しない2つの大きな豪州の協同組合によって増大されている という。 ・酪農家は、協同組合に対するより大きなコントロールを持つことを要求してい る。これは協同組合を企業の地位に移行させるのを遅らせる可能性があるとみ られている。 B景気動向 ・乳業メーカーの合併は、景気の動向に大きく影響される。景気動向が合併に与 える影響は、残存しているメーカーが財政的に苦しみ始めるほど強まる可能性 が高く、その交渉力が弱まることを意味する可能性が高い。
早くも酪農乳業改革の影響が、州間における生乳生産動向に格差を生じつつ、 酪農生産者の間で小規模経営が脱落し規模拡大が進展する中、豪州の乳業メーカ ーの再編合理化に関わる動きは今年に入ってからも活発に展開している。 例えば、ナショナル・フーズは昨年末の中国でのヨーグルト事業の展開を目指 した買収計画の発表に引き続き、1月末に、高級チーズの名門と言われるキング アイランドの買収を完了するなど内外で意欲的な事業拡大を指向している。一方、 ボンラックは、工場の稼働率を上げるために、原料乳の安定確保を図ることを目 的に、NZの酪農生産者を対象に豪州への移住を勧誘するキャンペーンを実施した (「畜産の情報」今月号トピックス参照)。 一例ではあるものの、片や新たなマーケットを内外問わず模索し、片や内外問 わず原料調達を目指すという。事業拡大と経営再建とその取り組みは対照的であ る。余力のあるメーカーは市場拡大を目指し、再建が課題のメーカーは資本の回 転率向上を目指すという図式であり、今後、企業の論理による乳業界の再編合理 化が展開することも予想される。 興味深いことに、例として挙げたナショナル・フーズおよびボンラックはいず れもNZのフォンテラ・グループが株主となっているメーカーである。豪州の乳業 メーカーの動向には、今後もフォンテラの市場戦略が影響を与えることが十分予 想され、オセアニア全体での酪農乳業の再編合理化が進行してくものとみられる。 参考文献: ABARE「The Australian Dairy Industry Impact of an Open Market in Fluid Milk Supply」 ADC「Dairy Compendium 2000」 ADC「Australian Dairy Industry in focus 2001」 以上のほか、コンサルタント会社の調査報告書等を参考とした。
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