特別レポート
移り変わる各国の食肉販売・消費事情
−各駐在員事務所による現地レポート−
企画情報部企画課
世界各地で流通網の整備や情報伝達の速度が増しており、最近では、どこの国
のスーパーマーケットを訪ねても、その販売風景は、外見上はみな同じようなス
タイルとなっている。食肉の販売についても、大小の違いはあるものの、一見し
ただけではカットされた製品のパックが並んだ陳列棚は一様に目に映る。しかし、
実際に売られている商品構成を細かく見ると、牛肉や豚肉など販売される食肉の
多寡、部位やカット方法、重量単位など、また、国によっては牛、豚、鶏肉以外
の食肉(羊やウサギなど)の陳列など、お国柄を反映してさまざまな違いがある。
このことは、それぞれの地域における歴史、文化、気候を反映した食肉の消費形
態(消費方向、料理方法)の違いを表しているといえる。
今回は、これらの実態について日本における食肉の販売、消費との違いを念頭
に置きつつ、各地域の海外駐在員が生活実感を基に、それぞれの地域における食
肉販売・消費の状況を報告する。
各国での食肉の販売については、近年、スーパーマーケットがその主流を占め
つつあるが、食肉小売店の存在も忘れてはならない。各国の食肉専門小売店(市
場)の店頭をのぞくと、スーパーマーケット以上に販売される食肉の違いを目の
当たりにできる。例えば、ヨーロッパの街角の食肉専門小売店では、秋口から冬
場にかけてウサギやキジが店頭につるされ季節の到来を告げるとともに、豪州で
は、夏場のバーベキューシーズンに、串刺しとなった牛肉やソーセージなどが小
売店舗のショーケースの中心を飾っている。また、シンガポールなど東南アジア
諸国の多くでは、伝統的な市場による食肉販売が小売の大半を占めている例もあ
る。
スーパーマーケットの台頭や消費者の生活スタイルの変化により、世界的にも
食肉専門小売店の数は少しずつ減少傾向にあるといわれるが、このように季節感
を全面に打ち出し消費者ニーズに的確に対応することや、地域文化に深く根付く
ことで、地域社会に密着し、かつ、欠かせない存在となっていることも事実であ
る。
各国の食肉消費については、食習慣の違いもあり量的には大きな差が表れてい
る。図にも示すとおり、主要な食肉(牛肉・豚肉・家きん肉)の各国1人当たり
年間消費量合計(枝肉換算ベース)は、最大の米国(125.7s)から最低のミャ
ンマー(8.2s)まで、また、種類別の牛肉消費量では、世界最大の牛肉消費国
であるアルゼンチン(62.8s)から最低のミャンマー(1.4s)まで、いずれも
大きな開きとなっている。このように、各国の食肉消費は、それぞれの国の歴史、
風土、食肉の販売形態、所得、消費スタイルなどと密接に結びついたものである
ことが感じられる。しかしながら、近年の食肉消費の特徴として、東南アジア諸
国の一部を除き健康志向を反映した鶏肉などのいわゆる「ホワイトミート」消費
が拡大していることが共通の特徴として挙げられる。後述するように実際、米国
では、家きん肉消費が牛肉消費を上回ったという例もあり、将来、各国の種類別
食肉消費バランスに大きな変化が訪れるかもしれない。次ページから、各地域・
国の食肉販売と消費にスポットを当てた、各駐在員による現地報告をお伝えする。
ワシントン駐在員事務所 渡辺 裕一郎、樋口 英俊
米国は、人種や宗教などの異なる多様な民族が寄り集まり、その独自性とこれ
を超えた統一性とが共存する国家である。また、社会全体は相対的には豊かであ
るが、貧富の差も歴然として存在する。このため、食習慣一つとってみても、そ
の平均像を捉えるには困難な面がある。しかし、米国では、食肉が食卓における
メインの食材であり、中でも牛肉については、1人当たり消費量が家きん肉に抜
かれた今でも、食肉の王様であることに変わりはない(近年の牛肉消費の特徴に
ついては、2001年6月号特別レポートを参照)。片や、鶏肉が国民の健康志向を
反映した「ホワイト・ミート」の代表格であるならば、豚肉は、低脂肪化への積
極的な取組みで、脂肪含有量が70年代に比べ30%も減少するなど、まさにそのキ
ャッチフレーズにあるような「もう1つのホワイト・ミート(The Other White
Meat)」という独特のポジションで、安定した需要量を維持している。
季節や用途に応じた食肉販売
米国の食肉小売形態については、まとめ買いのための大きな塊をイメージされ
る方も多いが、実際には、日本と同様、部位ごとに調理目的に応じたポーション
・カットが売り場面積の多くを占めている。ただし、日本や韓国食品などを専門
に扱う一部スーパーを除き、薄切りの牛肉や豚肉のパックを目にすることはほと
んどない。スーパーの食肉販売エリアには、ブッチャ−(肉屋)形式の対面販売
用の陳列ケースと、精肉パックが並ぶセルフサービス用のケースの併設が多く、
対面ケースには、スーパーごとに特色のある商品が並ぶ。例えば、銘柄牛肉のス
テーキ・カットを中心に高級な印象を打ち出したり、野菜などの食材と一緒に冬
はシチュー(煮込み)用、夏はバーベキュー用と季節に応じて品揃えを変えたり
と、各店でさまざまな工夫が凝らされている。一概にはいえないが、家族だけの
食事にはセルフ・ケースの精肉パックを、客を招いての食事には対面ケースから
のもの(あるいは注文してカットしてもらう)を選ぶことが多いようである。
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【東海岸に展開するスーパーチェーン
GIANTの対面ケースの中は、銘柄牛肉のサ
ーティファイド・アンガス・ビーフや厚切
りのポーク・ロイン・チョップ(ロース切
り身)等が中心。】
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根強いバーベキュー人気、全米の75%の家庭が用具を所持
一般的な米国での食肉の調理方法は、直火や炭火による網焼き、オーブンによ
る照り焼き、フライパンでの炒め物、油で揚げたフライ、あるいは煮込みであり、
前述のように、それぞれの調理目的に応じたカット肉が販売されている。特に、
開拓時代からの名残によるのかバーベキュー好きの米国人は今も多く、業界の調
査によれば、実に全米の75%の家庭がバーベキュー用のコンロを所有し、その6
割弱が1年中バーベキューを楽しんでいるという。こうした根強いバーベキュー
人気を反映して、当事務所近郊のスーパーからも、ハンバーグ用の牛ひき肉、牛
肉のロイン系ステーキ・カット、豚肉であればロイン・チョップなどが、年間を
通じた一番の売れ筋商品との説明を受けた。なお、バーベキュー用といえば、ス
ペア・リブに代表されるあばら肉の人気も高く、スーパーでは、その調理済み製
品の売れ行きも良いらしい。中でも、豚の胸椎に近いベイビー・バック・リブと
呼ばれる部位は、小ぶりで肉もやわらかく女性にも人気がある。昨春、国内消費
量のおよそ半分を占めるデンマーク産の輸入が、欧州における口蹄疫の発生によ
って一時的にストップした際には、絶対量の不足を懸念する声もあった。
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【味付けと加熱がされているポーク・リブ
製品。右がスペア・リブで左がベイビー・
バック・リブ。電子レンジで数分間加熱す
れば、すぐに食べられる。】
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鶏肉の消費の中心は、健康志向を反映してムネ肉に
一方、鶏肉については、日本とは逆にモモ肉よりもムネ肉の小売価格の方が2
〜3倍と高い。これは、ムネ肉に対して白身で脂肪が少なくヘルシーであるとの
見方によるものである。複数のスーパーが口をそろえて言うには、調理が容易な
皮なし・骨なしムネ肉のパックが最もよく売れるという。ちなみに女性の社会進
出に伴う「便利さ」を売り物にした調理済み食品は、食肉消費の中でも一つのト
レンドになっているが、中でも、種類が最も豊富な鶏肉分野では、チキン・ナゲ
ットのほか、手軽にサラダと混ぜられるムネ肉の加熱済みカット製品の人気が高
いというスーパーもあった。
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【「ショート・カット(近道)」と名づけ
られた、パーデュー社の鶏ムネ肉を用いた
加熱済みカット製品】
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今後も拡大が見込まれる「ケース・レディ・ミート」
このような中で、新しい食肉の小売形態として「ケース・レディ・ミート」が
最近注目を集めている(その増加の背景などについては、本誌2001年6月号のト
ピックスを参照)。アメリカ食肉協会(AMI)によると、2000年には97年の2倍
以上に当たる12億パックの「ケース・レディ・ミート」が全米で販売された。ま
た、2001年1月時点では12万7千店舗余りの食料品店のうち、鶏肉のケース・レ
ディを販売しているのは2万5千店舗、豚肉は6千店舗、牛ひき肉は1万店舗を
数えるという調査結果も明らかにされている。中でも、全米最大の小売スーパー
・チェーンのウォルマートは、精肉製品を100%ケース・レディにすることを目
標に掲げている。同社のバージニア州の店舗を訪問した際、写真にあるようなプ
ラスティック・トレイ入りの密封パックされた製品が、食肉の陳列ケースのほと
んどを占めている光景は圧巻でさえあった。こうした「ケース・レディ・ミート」
が近い将来、食肉小売市場のすべてを席巻することは想定されないまでも、今後
もさらに大きなトレンドとなることは間違いない。
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【ウォルマートのケース・レディの中でも売れ筋の、ジャンボ・パック商品(重
量1.5s程度)。右はファームランド社の薄切りサーロインステーキ(厚さ5s
程度で7枚入り)。左はスミスフィールド・フーズ社の骨なしポーク・ロイン・
チョップ(15枚入り)】
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シンガポール事務所 小林 誠、宮本 敏行
東南アジアの食肉事情
東南アジア諸国(アセアン10ヵ国)の食肉消費は、豚肉について宗教上の制約
のある国(マレーシア、インドネシア、ブルネイ)や役畜としての重要性から牛
や水牛のと畜年齢に制限を設けている国(ミャンマー、ラオス)があるほか、所
得水準が著しく低いことにより肉の摂取が抑制されている国(ミャンマー、ラオ
ス、カンボジア)があることから、国ごとの食肉消費実態の相違は販売形態など
によるよりも社会経済事情によるものの方が大きいものとみられる。
また、食肉の小売販売量は、シンガポールを例外として、スーパーマーケット
経由のものよりも伝統的なウエット・マーケットによるものが大半を占めている
ほか、特に農村部では自家と畜・消費が相当量にのぼっている。今回は、東南ア
ジア諸国中、年間1人当たりの食肉消費量が最も低いが、国内に飼料資源生産余
力を有しており、今後の経済状況いかんでは食肉消費量の大幅な増加が期待され
ているミャンマー連邦(旧ビルマ)を紹介する。
《各国の1人当たり食肉消費量(s)》
資料:ミャンマー畜水省
ミャンマーの食肉消費
ミャンマー連邦の人口は99年の推計で約4,725万人、人種構成は多様で135の
部族がいるとされている。多民族国家であるため、食習慣も種々雑多であるが、
人口比で見るとビルマ族の支配地域で全人口の約73%を占めていることから、こ
の地域の中から首都のあるヤンゴン管区と同国第2の都市のあるマンダレー管区
における状況を紹介する。ミャンマー政府は、役畜資源保護の観点から、16歳未
満の牛のと畜を禁止している。このため、牛肉は非常に固く、一般にはあまり好
まれておらず、価格も食肉の中で最も低くなっている。
外国人向けのスーパーも
首都ヤンゴン市内には、スーパーマーケットもあり、白色トレーにのせられた
食肉も販売されている。しかし、現地であまり人気のないブロイラーが1s当た
り1,318チャット(約217円)と一般市場の2倍近い価格で売られており、現地在
留の外国人向けの域を脱していない。
一般市場での購入は、注意が必要
一般市場では、牛肉や豚肉は、多くの場合、各部分に分けられその場で計り売
りされているが、枝肉をカギにつるし、その場で切り売りしているものもある。
肉の部位による価格差はほとんどなく、脂肪も同価格で売られている。牛肉の場
合には、通常、くず肉とされる部位や、時には骨の重量も込みにされることがあ
る。一般にミャンマー人は、仏教の信仰が厚く、目の前でと畜されることを嫌う
ため、周辺諸国とは異なり、一般市場でも生きたままの鶏が売られていることは
ない。このため、丸鶏では体内に水を注入して重量を増やしている例がみられ、
購入には注意が必要である。
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肉料理はカレーが主流
ミャンマーの肉料理は、煮込んだカレーが中心である。ショーケースに並んだ
各種カレーから何種類か注文し、小皿に盛られたものを何人かで取り分けて食べ
る。下の写真中央の3皿は、チャッターヒン(鶏肉)、セッターアルー(羊肉)、
ワッダー(豚肉)といわれるカレーで、いずれも油がたっぷり含まれている。こ
れに各種野菜炒めや野菜サラダの小皿と生野菜の大皿がついてくる。写真の店は、
1人500チャット(約83円)でやや高めだが、普通は300チャット(約50円)程
度の食事である。しかし、一般労働者の最低賃金が1日当たり500チャット、政
府職員では同150チャット(約25円)であることを考えると、かなり高価な食事
ということになる。ミャンマー・カレーは、味は良いものの、非常に脂っこいた
め、続けて食べるときには覚悟が必要である。また、通常、カレー料理は昼食時
までに全て作り終え、冷蔵施設のないまま鍋の中に放置されるため、現地人向け
レストランで食事をするときには、夕食時は避けた方が無難である。
ブラッセル駐在員事務所 山田 理、島森 宏夫
EUの1人当たり年間食肉消費量は、各国の気候や食文化の違いを反映し、最大
のスペイン(125.2s)から最低のフィンランド(69.6s)まで55.6sもの差が
ある。なお、近年では、牛海綿状脳症(BSE)や鶏肉のダイオキシン汚染など食
肉の安全性に関する問題が連続し、食肉消費動向に影響を与えている。特に96年
および2000年末にはBSEの影響で牛肉消費が大幅に減少する一方、一時的に鶏肉
など他の食肉の消費増を招く結果となった。しかし、30ヵ月齢超の食用に供する
牛のBSE全頭検査の実施など、その後のBSE対策の充実により最近の牛肉消費量は、
BSE問題再燃前の水準近くに回復してきている。
今回紹介するベルギーは、地理的にEUの中心に位置し、1人当たりの年間食肉
消費量(ルクセンブルグを含む)も91.7sとEU15ヵ国のほぼ中間に当たる。種類
別に見ると豚肉の消費(45.4s)が最も多く全体の49.5%を占め、次いで鶏肉18
.6s(20.3%)、牛肉18.0s(19.6%)となっている。隣国のフランス同様、
ベルギー人の食に対する情熱は強く、馬肉、ウサギ肉など多種多様の食肉が販売
され、秋の狩猟シーズンには鴨やキジなどの"ジビエ(狩猟鳥獣)"が店頭を賑わ
せている。
ベルギーの小売事情
食肉の販売はスーパーマーケットが約6割を占め、食肉専門小売店3割、マル
シェ(朝市)などが1割となっている。スーパーマーケットでは、バックヤード
で小分けパックした商品のセルフサービスでの陳列販売のほか、生ハム、ソーセ
ージ、パテなど食肉加工品などの計量販売を中心にした対面販売のコーナーを併
せ持つ場合が多い。生鮮肉の陳列販売の商品構成を見ると、おおむね牛および鶏
がそれぞれ4割程度を占めており、豚は2割程度と少ない。これは、豚肉消費の
大半が食肉加工品を通じて行われるためとみられる。一方、食肉専門小売店の多
くは、スーパーマーケットの販売拡大により防戦を余儀なくされている。このた
め、品質の高い食肉を扱い、自家製の食肉加工品を販売するなど店の個性を明確
にすることで、スーパーマーケットとの差別化を図る店も増えている。また、食
肉をめぐる安全性問題などを契機に、オーガニック(有機)製品の販売数量が増
加傾向にある。
牛肉は脂肪分が少なく、鶏肉は淡泊なムネ肉に人気
ベルギーでは、牛肉について一般に脂肪分の少ないものが好まれる傾向にあり、
ベルギーの代表的な肉牛であるベルジャン・ブルー種(産肉量の多いことで知ら
れている)や、フランスのシャロレー種の肉が高級とされている。これらの肉を
実際に食べると予想以上に柔らかく、肉の香ばしさを十分に堪能できる。ベルギ
ーを始めEU各国とも自国産農畜産物優位の認識が強く、それを好む習慣があるよ
うだ。鶏については、一般に淡泊な味わいのムネ肉が好まれる傾向があるようで、
価格もモモ肉などに比べ2倍程度と高い。スーパーマーケットの鶏肉売り場では、
丸鶏の販売が過半を占め、ルエ鶏などフランスの赤ラベル鶏のほか、飼料の違い
などにより多種の鶏を取り扱う。また、食肉加工品も、ヨーロッパ食肉文化の長
い歴史を反映し、生ハム、ソーセージ、サラミ、パテなど多種多様な商品構成と
なっている。これら商品は、対面販売コーナーでオーダーに応じてカット・販売
されるため、新鮮でかつスライス幅など好みに合ったものを入手できる。一方で
少量にパックされた保存性の高いスライス商品も販売されており、消費者は用途
に合わせて使い分けているようだ。
食肉の表示・トレーサビリティー
ダイオキシン汚染やBSEなど相次ぐ食品の安全性を揺るがす問題の発生を受け
て、欧州の消費者の間では、食品安全性に対する関心が非常に高くなっている。
こうしたことから、EUおよび各国政府では食品安全性の確立を重要課題の1つと
して位置付けている。この一環として、農場から食卓までの食品のトレーサビリ
ティーの確立に向けた取り組みが進められている。牛肉については、2000年9月
から、牛個体と牛肉の関連を示すコードおよびと畜国の表示がEU全域で義務づけ
られ、2002年1月からは、これらの項目に加え、牛の生産(出生)国および肥育
国の表示も義務づけられた。ベルギーの大手スーパーマーケットでは、牛肉だけ
でなく豚肉のパックのラベルにも、その肉の元となった牛または豚の個体識別番
号が表示されている。
ベルギーの代表的な食肉料理
ベルギーの食肉料理は、フリッツ(フライドポテト)を付合せにしたグリルま
たはオーブンでのローストが一般的である。夏季(5〜9月)の日が長い週末に
は、友人などを招いて庭でのバーベキューも盛んに行われる。この時期には、バ
ーベキュー用の串刺し肉、スパイスや素材の組み合わせによる多種多様の生ソー
セージなどが食肉売り場を彩る。また、秋から冬にかけては"ジビエ"料理も好ま
れる。冬季には、ポトフなど煮込み用の肉の販売も多くなる。ベルギー料理のレ
ストランでは、牛肉を特産のビールで煮込んだカルボナードや、シコン(アンデ
ィーブ)とハムのグラタン、鶏肉をクリームで煮込んだワーテルゾーイなどが定
番となっている。こうした伝統的料理は調理時間が比較的長いため、特に若い世
代を中心に、調理の必要がないレトルト食品や冷凍食品などを活用する例が広が
っている。また、マルシェなどでは、丸鶏のローストが人気商品となっている。
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ブエノスアイレス駐在員事務所 浅木 仁志、玉井 明雄
(アルゼンチン)
1人当たりの年間食肉消費量は約100s、このうち牛肉は日本の5倍強に当た
る約63sが消費され、この際立った牛肉消費がこの国の特徴である。食肉消費を
支える主要な肉牛は、主にヨーロッパ系品種でも特に脂肪交雑が良いとされるア
ンガス種が中心である。また、鶏肉消費は、価格や消費者の健康志向を反映し、
90年から2000年の10年間で140%の増加となった。鶏肉需要はほぼ国内生産でま
かなわれており、市場では約2.7sの大型鶏が好まれ、需要の約8割は丸鶏とな
っている。一方、豚肉消費は着実に伸びているものの量的には少なく、これは、
昔から豚肉の8割以上が加工品で消費され、テーブルミートの消費がごく限られ
ているためである。
スーパーは品質を重視、小売店は低価格を重視
アルゼンチンは地域格差が激しく、首都ブエノスアイレスでは牛肉小売りの7
割がスーパーマーケットで、残り3割が全国に4万5千店あるといわれるカルニ
セリアと呼ばれる食肉専門小売店(市場)で販売される。しかし、国全体で見れ
ばこの数字は逆転する。両者の最大の相違点としては、主にスーパーマーケット
が品質を重視するのに対し、カルニセリアでは低価格を重視することにある。な
お、仕入れについては、カルニセリアの8割強が枝肉で搬入されるのに対し、地
域や販売方針にもよるが、スーパーマーケットでは枝肉搬入はおおむね4割とな
っている。
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【ブエノスアイレス市内の大型スーパーマ
ーケットの食肉コーナー。小売の7割はパ
ック販売だが、写真のように対面販売を行
うケースもある。】
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牛肉では、炭火焼き肉用部位などが人気商品
小売店で人気のある牛肉は、アルゼンチン風炭火焼き肉アサードの材料となる
プレート(その名も"アサード")、ショートリブなどである。そのほかにも、イ
タリアのミラノがその名の由来とされる"ミラネッサ"と呼ばれる薄切り肉も年間
を通して需要がある。通常、牛枝肉の前半分は主にイスラエル向け輸出となるが、
冬場には、プッチェロと呼ばれる野菜の煮込みに使われる。最近、都市部のスー
パーでは、アンガスやヘレフォードなどの商標付き高品質・高価格牛肉を販売し
ているが、売上げのわずか数パーセントを占めるだけで一般消費者にはあまり浸
透していないようだ。
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【"パリッジャ"という金網の上で炭火焼にすればアサード・ア・ラ・パリッジ
ャ、骨付きアサード(プレート)や解体した羊丸ごと1頭を鉄杭に掛け炭火の
回りに立てて焼けばアサード・アル・アサドールという。美味なり。】
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(ブラジル)
広大な国土面積を誇るブラジルでは、食肉の生産と消費に地域特性が見られる。
生産については、南部、南東部がブロイラー生産の中心地であるのに対し、中西
部は牛肉生産の一大拠点となっている。一方、消費については、都市部が当然の
ことながら"食肉形態"で消費するが、北部、北東部では"チャルケ"と呼ばれる乾
燥肉の消費が高い。同国の年間1人当たりの食肉消費量を見ると、牛肉が37s、
豚肉が11s、鶏肉が30sとなり、特に、隣国のアルゼンチンと同様、鶏肉消費が
90年代にかけて顕著に増加した。鶏肉については、国内生産でほぼ需要をまかな
うが、比較的小さめの鶏を好む傾向がある。また、需要の約6割は丸鶏である。
最近の傾向としては、鶏肉消費に若干の頭打ち感が見られる反面、牛肉と豚肉の
消費が若干の伸びを示している。
肉の柔らかさを提供するなど品質重視の動きも
ブラジル都市部では、人口の過半数を占める比較的購買力の低い層を中心に鶏
肉の消費が伸びてきた。彼らが鶏肉以外の食肉となる牛肉を買う際の選定基準は、
当然のことながら品質よりも価格である。しかし最近、外資系スーパーマーケッ
トを中心に価格よりも品質を重視する動きがあり、これらのスーパーでは、生産
段階から肉牛の飼養管理基準を定め、比較的若齢段階でと畜することで柔らかい
牛肉を販売する試みもある。ブラジルの肉牛の大半は「赤肉」が特徴のゼブー系
のネローレ種であり、一般的な国民の嗜好も「赤肉」が中心である。従来の「赤
肉」は風味には優れるものの、食生活の変化に伴い堅さを問題とする声もあるた
め、生産からと畜までを管理し、と畜後の枝肉熟成に注意を図ることで、このよ
うな柔らかく美味な「赤肉」の販売も開始されたわけである。
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【サンパウロ郊外のスーパーマーケット。
牛肉のショーケースの前で肉を選ぶ姿は世
界共通である。ここでは、通常のパック肉
と真空パック肉の2つの販売形態がある。
ブラジルネローレ協会の生産プログラムで
生産された牛肉を販売しているので、ネロ
ーレ(NELORE)の文字が見える。】
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ブラジルの国民食シュラスコ、さまざまな部位を堪能
南部、南東部の都市部は比較的富裕層が多く、ブラジルの代表的な焼き肉料理
であるシュラスコの材料となるストリップロインやテンダーロインなどの高級部
位、また、ショートリブやランプが多く消費される。シュラスコはブラジルの国
民的料理で、地方の街道沿いにも多くのシュラスカリア(焼き肉屋)が店を出し、
そこではピカンパと呼ばれるランプキャップやクッピンと呼ばれるゼブー牛の背
中のコブ肉をはじめ、ショートリブ、ランプテイルなどのさまざまな部位を一度
に味わうことができる。
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【ブラジル風焼き肉料理シュラスコ。定番料理である
が、おそらく家庭料理というよりは観光客向け、外食
向けかもしれない。鉄串に刺して炭火で焼いた肉を、
串ごとテーブルに持ってきて目の前でスライスされる
のを好きなだけ食べる。牛の各部位のほか、豚肉、手
羽先、鶏の心臓、各種ソーゼージなども供される。】
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シドニー駐在員事務所 幸田 太、粂川 俊一
豪州における食肉の需給状況は、牛肉、豚肉、鶏肉それぞれで異なる。牛肉に
ついては輸入がほとんどなく、輸出型産業としてその生産量の約6割を輸出して
いるが、豚肉は生産量と国内需要が均衡しており、生産量の約2割弱を輸出、約
2割を輸入している。また、鶏肉は生産量の約3%を輸出し、輸入はない。豪州
は、他の主要な食肉生産地から隔離されているという地理的条件から、牛肉以外
の食肉についても新たな供給地としての可能性が高まっている。また、現在の豪
ドル安で推移する為替の影響も手伝って、国際市場での引き合いは強くすべての
食肉で輸出量は増加傾向となっている。
健康志向から鶏肉の消費が好調
豪州の1人当たりの年間食肉消費量は、牛肉が35.4s、鶏肉が32.7s、豚肉が
17.3s、羊肉などが18.2sで、年間合計では103.6sとなり、日本と比較して約
3倍もの食肉を消費している。しかし、牛肉の消費は1970年代の半ばにピーク
(70s)を迎え、その後は牛肉価格の上昇、健康志向の高まりなどから、消費量
は年々減少傾向にある。一方で豚肉と羊肉の消費量は安定している。また、鶏肉
の消費は、いわゆる「ホワイトミート」に対する需要の高まりから牛肉消費に取
って代わり、ここ数年の消費量は牛肉に肩を並べる勢いである。先日公表された、
豪州家畜生産者事業団(MLA)の食肉別購買動向調査によると、過去1年間に一
番売れたパッケージは、牛ひき肉、次いで鶏ムネ肉、ラムロースト(主にモモブ
ロック)、ラムチョップ、牛ソーセージ、牛ステーキカット(モモ、腕などロイ
ン以外)、ラムモモ、豚チョップ、牛(ロイン)ステーキ、豚ソーセージ、鶏ス
ープ料理用ぶつ切り、丸鶏の順となっている。
牛肉、豚肉ともに価格は上昇傾向
食肉の平均小売価格を見ると、牛肉は1s当たり10.65豪ドル(約735円:1
豪ドル=69円)、豚肉は8.50豪ドル(約587円)、鶏肉は3.55豪ドル(約245円)
の順に価格形成がされている。最近の小売価格の動向については、牛肉が好調な
輸出による品薄感から小売価格は上昇傾向にあり、また、豚肉も近年の輸出促進
による順調な輸出増を反映し、小売価格は牛肉同様に上昇傾向となっている。
専門店も人気
豪州では、食肉はスーパーマーケット、もしくは、ブッチャーと呼ばれる食肉
専門小売店で購入することが一般的である。スーパーなどが入店している大きな
ショッピングセンターには、必ずといっていいほどこの食肉専門小売店も出店し、
スーパーと隣り合わせている場合も珍しくない。豪州では、この食肉専門小売店
がスーパーと並び人気が高く、食肉の販売量ではほぼ2分しているといっても差
し支えない。このような人気の背景には、好みに応じたカット、はかり売りはも
ちろん、半調理品(てりやき味付けカット肉など)など多種多様の製品を数多く
扱っていることが挙げられる。また、生活様式の変化に伴い、これらが料理時間
の短縮につながることも大きな要因となっている。
肉料理の代表はバーベキュー
豪州では、ほとんどの公園に必ずといっていいほどバーベキューグリル(バー
ベキュー用の鉄板)が設置してあり、誰もが手軽にバーベキューを楽しむことが
できる。また、多くの家庭でも、キッチンとは別に、それぞれの庭にバーベキュ
ーグリルがあり、住宅地では週末の夕方になるとどこからともなくバーベキュー
の香りが漂ってくる。バーベキューには、牛肉のステーキカットが一般的で、値
段の手ごろなランプステーキやブレードステーキなども人気がある。地元の人の
話によれば、お金の有る時でも無い時でも、手軽に楽しめるのがいいところで、
高級ステーキ肉が安価なソーセージに取って代わっても、ビールを片手に、焼け
るのを待つ時の気分は最高とのことである。また、観光地や郊外には大きなバー
ベキューグリルを備えたレストランもあり、客が自ら選んだ生のステーキカット
肉、ソーセージ、シーフードを買って、自身で調理(バーベキュー)できるタイ
プが人気となっている。
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