混迷を深める亜国経済、農業への影響大きく(アルゼンチン)
91年以来続いた兌換法は廃止
公的債務の一時支払い停止を宣言したアルゼンチンは1月6日、新たな経済法
案を採択し、公定固定相場を1ドル=1.4ペソとする一方、観光客向け交換など
一部に変動相場制を併用する二重為替相場制を導入した。91年以来続いてきた兌
換(だかん)法による1ドル=1ペソの固定為替相場制は、一連の経済危機と昨
年の大規模な暴動の責任を取って辞職した前デ・ラ・ルア大統領と、兌換法の生
みの親である前ドミンゴ・カバロ経済大臣とともに終えんを迎えた。
経済の混乱により昨年12月下旬から事実上機能していなかった銀行や両替所の
業務が1月11日からようやく開始されたが、変動相場制併用のため先安感の強い
ペソをドルに替える取引と、各種支払いに必要なペソ確保を図るためドルをペソ
に替える取引で、市中銀行や両替所は多くの市民で混雑した。一方、終わりの見
えない預金引き出し制限措置、ドル預金の強制的定期預金化及びペソ化を図るた
めドル預金のペソへの強制的転換などにより国民の不満は高まり、地方州では暴
動が相次ぎ、首都圏においても「カセロラッソ(鍋たたき)」などの各種の抗議
行動が起こり治安は悪化している。(なお、2月11日には、二重為替相場制を廃
止し、変動為替相場制に一本化された。
農業を基幹輸出産業と位置付けるも課題は多い
こうした中、新たに政権に就いた正義党(PJ党)のエドゥアルド・デュアルデ
大統領は、通貨切り下げで輸出競争力がついた農業を国の基幹輸出産業と位置付
け、アルゼンチン農牧協会など農業4団体と協議し、従来は通貨切り下げに対応
して実施していた農産物への輸出税課税を今回は行わないこと、輸入資材は公定
外国為替相場で決済することも検討すると約束した。
経済対策の中で10万ドル(約1,340万円:1ドル=134円)以下の借金は1ドル
=1ペソでのペソ払いを認めたが、銀行融資に対する土地担保など総額90億ドル
とされる農業部門のドル建て借金に対し、1ドル=1ペソでペソ払いする借金の
上限(10万ドル)を引上げること、有利な条件で借換融資を措置することなどが
今後議論されるとの見込みであったが、その後の経済対策で、金額や債務の性格
にかかわらず、すべての借金を1ドル=1ペソでペソ払いすることを認めた。
新政権下の機構改革で農牧水産食糧庁は新設の生産省に属し、同庁長官には元
サンタフェ州農業生産長官のミゲル・パウロン氏が任命された。パウロン新長官
が初めに取り組むべき課題は、穀物取引の正常化と生鮮牛肉のEU市場解禁であり、
以下にその状況を見る。
(ブラジルとの穀物取引)
輸出競争力のついた農産物の中で今年豊作が予想される小麦は、今後ブラジル
への輸出量を増やし、2002年上半期のアルゼンチン産農産物のブラジルへの輸出
額は前年同期比で25%増という民間予測もある。
ブラジルが輸入する小麦の大半はアルゼンチン産で、メルコスルの関税同盟に
より無税で入ってくるが、以前からブラジルはアルゼンチン産の小麦価格と品質
にクレームをつけ、貿易摩擦の火種になっていた。二重為替相場による外国為替
取引きの混乱やそれに伴う穀物価格下落の思惑からアルゼンチン産穀物の相場が
立たず、ブラジル向け小麦輸出は一時停止していた。そこでブラジルはかねてか
ら検討していた11.5%の小麦の域外関税を撤廃し、米国とカナダから小麦を輸
入する姿勢を見せている。現在ようやく公定固定相場で一部取引が再開され、ア
ルゼンチンの経済変動以前に契約した少量の小麦がブラジル向けに輸送される見
込みである。しかし、新規契約が成立しない場合、2月中旬で在庫の底がつくと
されるブラジルは域外関税を撤廃し他国から小麦を輸入するとされ、その場合ア
ルゼンチンは重要な市場を失う恐れもあり、穀物関係者は一度失った市場回復は
難しいと政府の経済対策に対し非常に懸念を抱いている。
(牛肉輸出)
EU向け高級牛肉は、昨年3月の口蹄疫発生を受け、昨年4月以降輸出実績はな
く、2000年は、EU向け高級牛肉枠(ヒルトン枠)の割当量28,000トンのうち5,4
00トン(製品ベース)の輸出に終わった。
EUは2月1日からアルゼンチン産生鮮牛肉の輸入を認め(ただし、口蹄疫の活
性が消えてから60日を経ていない2州は除外)、またイスラエルも続いて解禁し
た。現在、ロシア市場解禁に向け交渉中だが、チリはアルゼンチンの清浄国認定
を延期している。
利益の多いヒルトン枠を1年近く輸出できなかった食肉処理加工業者にとって
は、通貨切り下げとあいまって希望の持てる話だが、家畜衛生措置が厳しくなり
EUに輸出できる生産者が限られたこと、食肉処理加工業者に輸出再開の資金が不
足していること、預金引き出し制限措置で取引決済が麻痺していることなどで、
2001年分として輸出できる期限の6月30日までにヒルトン枠の規格に合った高級
牛肉を確保できるか憂慮されている。
農牧水産食糧庁は期限を延ばすようEUに求める一方、昨今の情勢により同庁の
業務が停滞しておりヒルトン枠の配分を未だ実施していないものの、まず輸出実
績のある大手の食肉処理加工業者から出荷をはじめるしかないとしている。
なお、不安要素としてはコルドバ州南部で1月下旬発生した口蹄疫であり、EU
は地域主義に基づき同州を解禁から除外する見込みだが、同州は肉牛生産地のパ
ンパにあり、口蹄疫が再びパンパに広がれば、今回の解禁の意味はなくなる。
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