食肉パッカーによる家畜所有の是非が大きな争点に(米国)


パッカーの家畜所有を禁止する次期農業法案が上院会議で可決

 次期農業法案に関する米連邦議会での審議は、2月13日に上院本会議で法案が
通過したため、いよいよ両院協議会の場での調整に委ねられることとなった。

 上下両院をそれぞれ通過した法案(上院案:番号S1731、下院案:番号HR2646)
には、数多くの相違点が見られるが、なかでも、両院協議会における最も大きな
争点の一つとして注目を集めているのが、上院法案にだけ盛り込まれている、食
肉処理・加工業者(パッカー)における家畜の所有を禁止するという条項である。

 これは、昨年12月13日の上院本会議において、ジョンソン議員(民主党・サウ
スダコタ州)ほか7名の超党派議員によって提案され、51対46(棄権3)という
小差で可決された条項がベースとなっている。

 年明け後の2月7日の上院本会議では、当初このジョンソン提案に賛成票を投
じたクレイグ議員(共和党・アイダホ州)が反対の立場をとるアメリカ食肉協会
(AMI)などの精力的なロビー活動を受けて寝返り、ジョンソン提案を削除する
代わりに、パッカーの家畜所有を禁止した場合の影響度合いを米農務省(USDA)
に270日以内で調査させるという新たな条項を提案した。これに対して、ジョン
ソン提案の共同提案者の一人であるグラスリー議員(共和党:アイオワ州)は翌
2月8日、ジョンソン提案の定義をより明確化するための追加提案を行った。そ
して結局は、2月12日の上院本会議において、53対46(棄権1)という投票結果
により、クレイグ提案が否決され元々のジョンソン提案を踏襲したグラスリー提
案が生き残ったのである。


パッカーと生産者の先渡し契約や販売合意は適用対象外

 当初のジョンソン議員の提案理由説明によれば、現行の「パッカー・ストック
ヤード法」には明らかな欠陥があり、近年、パッカーの寡占化が進展する中で、
パッカー自らの家畜の所有によって、生産者の競争力が弱められ、不当に低い家
畜の価格設定が許容されているとしている。

 このため、同法に「と畜の14日超(15日以上)前から家畜(家きんは含まれな
い)を所有、飼養または管理しているパッカーを違法とする」という条文を挿入
するというのが、ジョンソン提案の内容であったがさらにグラスリー提案では、
ここで言う「管理」について、(所有権の移転を伴わない)パッカーと生産者と
が交わす先渡し契約(forward contract)や販売合意(marketing agreenent)
は含まれないことを明確化するための修正が行われた。具体的には、パッカーと
生産者との間の各種「取り決め(arrangement)」のうち、畜産物やその生産者
に対してパッカーによる管理・運営・監督上の支配が及ぶことで、実質的に生産
者が経営に関与できないような仕組みのものだけが違法とみなされるとされてい
る。

 本提案が施行された場合、各パッカーにおいては、豚については、18カ月以内
に、その他の畜種にあっては同180日以内に、これらに該当する家畜を手放さな
ければならない。ただし、農協経営のパッカーや、生産者経営のパッカーで全と
畜頭数の2%に満たないものは、禁止対象から除外されることが規定されている。


業界の反応は賛否両論に二分

 本提案について、ファーム・ビューローや、家族経営を重視する立場のファー
マーズ・ユニオン、R−CALF USA(肉牛生産者団体)、中西部を中心とする肉牛
や豚の生産者団体などは、賛意を表明しているが、パッカーを会員とする上記の
AMIのほか、企業的経営体をも会員とする全国肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)や
全国豚肉生産者協議会(NPPC)といった全米最大の専門生産者団体は、「生産者
における販売の自由を制限すべきではない」などとして、強硬な反対姿勢を示し
ている。特にAMIは、本当に(先渡し)契約や販売合意が対象外となっているか
どうかは、グラスリー提案によっても明らかではないとして、大きな失望を表明
するとともに、今後も本提案の実現を断固阻止する構えを見せている。次期農業
法案は、すぐにも開催が見込まれる両院協議会における調整、さらには大統領に
よる署名(あるいは拒否権発動)というハードルをクリアしなければならないが、
本提案の扱いも含め、かなりの難航が予想され、その成立時期、内容とも、現段
階では不透明な状況にある。


4大牛肉パッカーは、その3割の肉牛を管理

 なお米農務省(USDA)穀物検査・食肉流通部(GIPSA)が1月18日に発表した
レポートによれば、パッカーによって所有、飼養、または契約や販売合意によっ
て購入されている家畜などの、いわゆる「とらわれの家畜(captive supply)」
に該当する肉牛は、99年では全米4大牛肉パッカー(IBP、コナグラ、カーギル、
ファームランド:この4社で全米の約8割のと畜シェア)のと畜頭数のうち32.
3%を占めていたとされる。この水準は、ブロイラーや豚に比べると低いが、少
なくとも全米の肉牛の4分の1にはすでにパッカーの息が掛かっているという見
方もできる。

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