肉専用種の増頭で羊肉増産に取り組むマレーシア

シンガポール駐在員事務所 小林 誠、宮本 敏行




ひとくちMemo

 マレーシアは、97年の通貨危機を契機にして、それまでの半導体を中心とした
工業化政策から食料増産政策に転じており、特に、食肉の増産を急いでいる。同
国は、イスラム教を国教としており、イスラム教人口が多いため、イスラム暦の
断食月から新年にかけてのいわゆるフェスティバル・シーズン(イスラム暦は、
太陰暦だが354日を1年とするため、同シーズンも年々変動する。)には、牛肉、
山羊・羊肉の需要が急激に高まる。需給状況は、2000年の牛肉の消費量が約12万
トンであったのに対し、生産量は約2万8千トン(自給率23%)、山羊・羊肉の消
費量が約

 1万4千トンであったのに対し、生産量は約1千トン(同7%)となっており、鶏
 肉(同124%)や豚肉(同79%)に比較して、大きく立ち遅れている。
 
 ケダー州は、マレー半島最北部に位置し、タイと国境を接している。半島部諸
州は、アブラヤシやゴムといった永年性作物のプランテーションを主体とする場
合がほとんどであり、同州もゴムの生産量は半島部諸州中2位の約15万トンを生産
している。同州の農業で特徴的なのは、非公式な推計ながら、収入のほとんどを
農業に依存する世帯割合が8割以上と非常に高く、そのほとんどが小規模農家経営
であること、同国の米の生産量約200万トンのうち約37%に相当する73万トンを生
産していることであろう。 

 ガジャ・ムティ羊種畜場は、76年にケダー州政府が羊と山羊の種畜場として設
立し、86年に連邦農業省獣医局へ移管された。獣医局は、羊在来種を外国種との
交雑により改良することを目的に、短毛肉用種であるオーストラリアン・ドーセ
ットホーン種を導入し、同種畜場を羊専用とした。獣医局は95年、羊毛生産をあ
きらめ、品種をブラジルから導入したヘアリー羊などと呼ばれる毛足のごく短い
サンタ・イナス種に切り替え、現在に至っている。同場の飼養頭数は2002年9月末
現在、1,420頭であり、このうち461頭がサンタ・イナス種、残りが在来種との交
雑種となっている。同場は、州都アロア・セターから約25キロメートル北東に約
70ヘクタールの本場があり、本場からさらに15キロメートルのところに122ヘクタ
ールの支場がある。職員数は23名であり、このうち4名が国の職員、19名が州の職
員となっている。同場で生産された羊は、各州の州立種畜場などへ配布されてお
り、州立種畜場で再増殖された後、農家へ配布される。なお、2001年の配布実績
は、388頭となっている。

 
 放牧中のサンタ・イナス種。種畜場では、純粋種で あるとしているが、体毛の色は様々である。在来種 は、脂肪が多いためマレー人に好まれず、脂肪の少 ない山羊肉が好まれていた。現在では、山羊肉の入 手が難しく、代表的なマレー料理であるサテ・カン ビン(山羊肉の串焼き)もほとんどの場合、名称を カンビン(山羊)としたままで羊肉が使われている。    ガジャ・ムティ羊種畜場の正門横看板。看板には、 現在のヘアリー羊ではなく、獣医局へ移管当時に飼 われていたドーセットホーン種が描かている。国立 の羊種畜場は、同場のほか、半島部に3ヵ所設置され ている。
     
 
 放牧中の交雑種。多数の中には、毛肉兼用種のような 羊毛を残しているものも見られる。国の牧場の販売価 格は、時期に関係なく生体重1キログラム当たり10リン ギ(約310円)だが、羊の一般市場価格は通常の5リン ギ(約155円)程度からフェスティバル・シーズンの30 リンギ(約930円)以上まで大きく変動する。    放牧場に隣接した畜舎。畜舎はいずれも約1.5〜1.8メ ートル程度の高床式であり、ふん尿はスノコを経て落 下する。種畜場には、支場もあわせ13棟があるが、い ずれも築25年以上を経過しており、老朽化が著しい。
     
 
 畜舎内の様子。床はすのこ状であり、よく乾燥してい る。床を通して落下したふん尿や飼料かすは、定期的 にかき集め、野積みしてあるが、草地への還元は行っ ていない。      畜舎へ急ぐ羊群。職員が草地の柵を開け放つと、羊は、 先導なしに配合飼料の用意された畜舎へ一目散に駆け入 る。
     
 
   畜舎の入口に設置された水槽。水槽の中には、ひづめの 腐乱防止を目的として酸化亜鉛が入れられている。    支場総面積122ヘクタールのうち、60ヘクタールは周辺畜産 農家の刈り取り給与用に解放されている。草種は、干ばつに も多雨にも強いBrachiaria humidicolaが使われている。種 畜場の草地はすべて本草種である。
     
 
 種畜場のある地域は、乾期が5ヶ月程度と長いため、乾期用 の飼料を調製する必要がある。貯蔵用飼料は乾草が主体とな るが、調製期間が雨期にあたるため、乾燥時間が短くてすむ ロールラップ・サイレージも調製している。サイレージは、 ロールの直径が60センチメートル程度、高さが70センチメー トル程度の小型のものであり、機械は豪州製である。重量は、 水分含量によって異なるが、おおむね20〜45キログラム程度 となっている。    クアラルンプールの国際博覧会場で10月1〜6日まで開催さ れた農業博覧会の1画に、ゴルフ場2ヘクタール分を利用し て設置された畜産コーナーに出品されたガジャ・ムティ羊 種畜場のサンタ・イナス種。1日にはマハティール首相も視 察し、展示されたヘアリー羊を絶賛した。    
     
     

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