経済要因が生乳生産動向に大きく影響 ● アルゼンチン
酪農部門は、ペソ切り下げによる生産コスト増などから生産性が低下
アルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA)によると、同国の生乳生産量は、施設
の近代化や加工処理能力の拡大などを背景に、92年以降一貫して増加し、99年は
1,033万キロリットルに達した。しかし、乳価低迷など伴う収益性の悪化により、
酪農家の廃業が相次いだことなどから、2000年には前年比5.0%のマイナスと減少
に転じた。2001年も同3.8%減となったが、2002年は、さらに減少幅が拡大すると
見込まれている。
SAGPyAがまとめた生乳生産動向によると2002年1〜6月における主要乳業メーカ
ーの生乳取扱数量(全国の生乳生産量の約60〜65%に相当。)は、離農の増加、
1戸当たりの出荷量の低下などにより、前年同期比13.2%減の229万キロリットル
となった。
SAGPyAでは、同期における生産動向に大きな影響を与えた経済要因として、20
02年1月に実施された自国通貨ペソの切り下げを挙げている。同国の酪農経営は、
輸入資材や補助飼料への依存度が高いことから、通貨切り下げにより生産コスト
が大幅に上昇する一方で、その上昇分をカバーするだけの乳価引き上げが行われ
ず、結果的に、収益性の悪化による離農の増加や生産性の低下につながった。そ
の他の減少要因として、水害や厳冬により酪農生産地域において牧草の生育状態
が悪化したことなどが挙げられている。乳価の引き上げが抑えられた要因として
は、多額のドル建て債務を抱える乳業メーカーの経営状況が厳しいことや、経済
情勢の悪化により消費者の購買力が落ち込んでおり、生乳の生産コスト増加分を
消費者価格へ転化することができないことなどがある。
耕種部門は、通貨切り下げにより生産額が上昇
一方、酪農部門とは対照的に、大豆やトウモロコシなどの耕種部門は好調であ
る。穀物の国際相場が上昇したことに加え、通貨切り下げ後、生産物のペソ建て
価格が上昇していることがその背景にある。SAGPyAがまとめた主要6品目(大豆、
小麦、トウモロコシ、牛肉、生乳、ヒマワリ)の農業粗生産額(推定値)を見る
と、01/02年度における大豆、トウモロコシの粗生産額は、それぞれ前年度比92
.6%増、76.1%増となった。中でも、大豆は、6品目全体に占める割合が97/98年
度に28.5%だったが、01/02年度には46.1%に達している。一方、97/98年度に
大豆、牛肉に次いで多かった生乳は、01/02年度には前年度比21.5%減の23億6,
300万ペソ(約779億7,900万円:1ペソ=約33円)となり、順位は5番手となった。
アルゼンチンの生乳生産量の推移
主要6品目の農業粗生産額
(単位:百万ペソ、%)
資料:アルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA)
注:7〜6月の生産数量に6月の生産物価格を乗じて算出
今後は、酪農部門から耕種部門への転換を予測
こうした状況を反映し、SAGPyAでは、酪農部門において、大豆を中心に耕種へ
の転換が進むとみている。現段階ではどの程度転換が図られるか予測することは
できないとしながらも、酪農経営体が用地の一部を耕種へ転用したり、あるいは、
酪農業から完全に手を引き耕種への転換を図るケースが少なくないとしている。
また、2002年通年の生乳生産量は、今後の天候条件にもよるが、前年を10〜20
%下回ると予測されている。こうした予測の要因としては、
@ 経営基盤が脆弱な小規模の酪農経営体の閉鎖が増加すること
A 大中規模の酪農経営体において、乳牛の売却、用地の全部または一部の耕
種への転換が進むこと
B コスト高となる補助飼料の給与量が減少し、乳牛の栄養状態が適正水準以
下となり、生産性が低下すること
C 経済混乱による農業融資の減少により生産資材の確保に支障を来し、牧草
などの栽培がより困難となること
などが挙げられている。
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