EU委、CAP中間見直し案を公表




農業生産と切り離された農家単位の直接支払いへ、支給額は毎年減額

 EU委員会は7月10日、共通農業政策(CAP)の改革案を公表した。CAPは、農業の
生産性向上や農畜産物市場の安定化を目的に、EU加盟国に対し共通に適用される
農業政策として60年代に導入されたもの。CAP導入後、その改革がたびたび実施さ
れているが、今回の公表された改革案は、99年に合意されたアジェンダ2000に基
づく現行CAPの中間見直しとして位置付けられるものである。当初は6月中に公表
される予定であったが、米国の新農業法成立を受けて、その影響を盛り込むため
に公表が延期されていた。

 改革案の概要は、以下のとおりである。

@ 直接支払いのデカップリング
  既存の直接支払いから農業生産と切り離された農家単位の直接支払いに変更
  する。交付水準は、過去の各種直接支払い(耕種作物、肉牛、羊等)の受給
  実績を基に設定する。 

A クロスコンプライアンス
  @の農家単位の直接支払いおよびその他の直接支払いの交付要件として、環
  境、食品安全、動物福祉、労働安全基準などに関する一定条件の遵守を義務
  付ける。 

B モジュレーション
  @の農家単位の直接支払いおよびその他の直接支払いを毎年3%づつ減額(小
  規模農家は除外、最終的な減額は最大20%)する。また、1農家当たりの交付
  上限を30万ユーロ(約3,600万円、1ユーロ=121円)とする。この措置による
  余剰財源は、地域開発に資するため、農地面積等を勘案し各加盟国に配分す
  る。 

C 新たな農家監査システムの導入

D 高品質な農畜産物生産、食品安全、動物福祉を推進するための新たな地域開
  発対策の導入


WTO農業交渉や中東欧諸国のEU加盟を強く意識

 改革案の内容は、世界貿易機関(WTO)農業交渉や中東欧諸国のEU加盟を強く意
識した内容となっている。直接支払いを農業生産から切り離すことで、WTO協定上、
削減が免除された「青の政策」に属する穀物・肉牛に関する直接支払い(92年CAP
改革で導入)を、削減対象とならない「緑の政策」に切り替えることになる。こ
れは、輸出補助金の取り扱いで守勢に立たざるを得ないEUの立場を幾分でも強化
することにつながるものとみられる。

 また、直接支払いの減額・地域開発の充実は、既加盟国と比較して、所得水準
(特に農業所得)の低い中東欧諸国のEU加盟を念頭においたものである。


酪農分野では介入価格の大幅な引き下げなどのオプションを提示

 畜産について、具体的な改革内容を現行CAPと比較してみると、牛肉分野では、
1頭当たりに単価が設定されていた特別奨励金や繁殖雌牛奨励金などの各種直接支
払いは、@に記述した農家単位の直接支払いに一本化される。

 酪農分野では、今後の議論のたたき台として、以下の4つのオプションが提示さ
れた。


@アジェンダ2000に基づく施策を2015年まで延長する

A介入買い上げ価格の更なる引き下げ(バター▲15%、SMP▲5%)と生乳生産ク
 オータの増枠(3%)、

B2段生乳生産クオータの導入

C生乳生産クオータの撤廃と介入買い上げ価格の引き下げ(▲25%)

 今回の改革案はCAPの中間見直し案とはいえ、かなり大幅な改革提案が含まれて
いることから、決着までには紆余曲折が予想される。



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