経済情勢悪化の中、アルゼンチン国際農牧展が開催





ドル建て債務の返済方法などを始めとする問題が山積

 第116回アルゼンチン国際農牧工業展(以下「農牧展」という。)が、経済およ
び社会情勢が悪化する中、7月26日から8月6日まで開催された。

 アルゼンチン農牧協会(SRA)が主催する本農牧展は、1875年に第1回が開催さ
れて以来、初期段階を除き毎年実施されている。SRAは2千ヘクタール以上の大土
地所有者、約8千人の会員から構成される政治的影響力の強い農業団体である。例
年、家畜品評会、オークション、農業機械展示、セミナーの他に、馬術競技、ロ
デオ、騎馬隊による華麗な馬上演技、世界各地の土産物店など催しものが盛りだ
くさんである。

 しかしながら、今年はアルゼンチンの経済情勢の悪化に伴い、以下のような様
々な問題を抱える中、開催されることとなった。

 @ 生産者と農薬や肥料などの生産資材サプライヤーとの間で問題となってい
      るドル建て債務の返済方法について、政府は省令等を数度変更したが解決
      されていない。現在は、1ドル=1ペソの兌換法制度時代のドル建て契約の
      うち、残存する債務に対して、小麦・大豆などでは25%、食肉では40%、
      乳製品では50%を割り引いて返済することになっている。この措置に対し
      て、サプライヤーが特に不満であり「国交断絶」と称し、農牧展で行われ
      るセミナーをボイコットをするなど、ますます対立が深まっている。

 A 経済不況により銀行が体力を失い、農業等への融資が困難な状況に陥って
      いる中で、アルゼンチン国立銀行頭取などは、「債務を弁済しない農業に
      は融資しない。」とも発言している。

 B アルゼンチン農畜産品衛生事業団(SENASA)のカネ総裁は、「2001年4月の
      口蹄疫撲滅キャンペーンから実施してきたワクチンの無料配布を、購入資
      金不足のため8月から取りやめる。」と発表し、今後は生産者にワクチン経
      費の自己負担を求めている。これにより、口蹄疫の再発が懸念されている。

 C  自動車専用道路等の通行料金が引き上げられることに加え、貨物運送用軽
      油に対する補助金を中止するため、8月以降は市場価格で提供されることに
      なる。また、燃料に対する輸出税の引き下げ(20%→5%)により、輸出が
      促進され、品不足のため国内価格の値上げが予想されている。これにより、
      生産コストの上昇が見込まれる。

 D  国際市場における需給ひっ迫により価格が上昇傾向にある皮革原料の輸出
      税を5%から10%に引き上げたため、輸出業者などから非難されている。

 E 厳冬により生乳生産量が減少する一方、水害のため例年より不足する飼料
      を購入する追加的なコストが生じたことを背景に、生産者が乳価の引き上
      げを求め、乳業メーカーとの価格交渉が難航している。

 F 7月上旬のブラジル・アルゼンチンの大統領会談の際、アルゼンチン大統領
      は、ブラジル向け自動車輸出の促進により経済情勢の好転を図るため、将
      来に向け自動車輸出が有利となる条件と交換に、二国間で懸案になってい
      るブラジル産豚肉および鶏肉のアンチダンピング輸出問題を棚上げすると
      した。


SRA会長、さまざまな農業問題に対する政府の対応を激しく批判

 このような農業問題に対し、政治的影響力の強いSRAのクロット会長は農牧展の
開催に先立ち、@政府はドル建て債務を1対1でペソ建て債務に置き換えることを
認めておきながら、まるで魔法のように生産者の持つ生産資材の債務を不当な省
令によってドル建てに変更した、Aどんな近代社会においても貸付なしに成長で
きない、政府は金融制度の問題点を即時に解決すべきである、B貸付と生産資材
の調達の停止、農薬などの輸入生産資材の値上がり、また穀類に係る20%の輸出
税は生産者の作付けに関する判断を難しくさせた結果、生産が制限されているな
どと厳しい批判を行った。

 例年、開会期間中に実施される公式開会式ではアルゼンチン大統領や農牧水産
食糧庁長官が農業対策を演説している。しかしながら、大統領は、治安の悪化を
理由に8月3日に行われた公式開会式を欠席し、農牧水産食糧庁長官が45分間にわ
たり、演説を行ったが、農業対策は発表されなかった。



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