豪州南部からの中東向け生体牛輸出が暫定禁止に




サウジアラビア向け生体牛で880頭の死亡が契機に

 豪州連邦政府のトラス農相は7月16日、豪州南部からのイギリス・ヨーロッパ種
(bos taurus:ヘレフォード種、アンガス種など)の中東向け生体牛輸出の暫定
禁止と熱帯種(bos indicus:ブラーマン種など)生体牛の船積み輸送の制限強化
を行うよう指示したと発表した。

 トラス農相の具体的な指示は次のとおり。

 @ 北半球の夏季(今年10月31日まで)におけるイギリス・ヨーロッパ種生体
    牛の南緯26度(北部準州と南オーストラリア州の境界付近)以南の地域から
    アラビア湾への出荷の停止
    
 A 熱帯種であっても1回の船積み輸送につき出荷を500頭までに制限

 これは、家畜輸出業者ウェラード・ルーラル・エクスポーツ社が6月中旬に豪州
南部からサウジアラビアに出荷した生体牛1,995頭のうち、輸送中と陸揚げ直後を
含め半分近い880頭(当初の報道では約200頭)が死亡したことに対応したもので
ある。その内訳は、ポートランド(ビクトリア州)から出荷されたアンガス種と
ヘレフォード種879頭と、同じ航海でフリーマントル(西オーストラリア州)から
出荷された熱帯種1頭とされる。


死因は猛暑による消耗との見解

 豪州海事安全局(AMSA)、豪州検疫検査局(AQIS)、生体家畜輸出業者の代表
団体であるライブコープは、主に船の設備や管理、動物愛護などの観点から事故
に対する調査を実施しているが、現在のところ、船の設備や設計上の問題はなく、
航海にも獣医師が同行していたため、気候要因、すなわち猛暑(事故当時の同湾
は気温45℃、湿度100%)による消耗の結果との見方が強い。

 なお、同社は98年にも同様の事故を起こしたため、一定期間の出荷禁止措置を
受けていたが、同社では、今回の航海で使用した輸送船は自動車用の船を改造し
たようなものではなく、動物愛護に特別の注意を払った注文生産による最新鋭の
家畜専用輸送船であったとしている。

 今回の措置は、豪州家畜輸出業者評議会(ALEC)によって提案されたものであ
るが、トラス農相は、船積み輸出の生体家畜の死亡率が数年前の0.7%から昨年は
0.3%にまで着実に減少していたことから、今回の「受け入れがたい」死亡率に対
しては、詳細な調査が必要であるとしている。


今回の措置の影響に関する業界内の見解

 この措置の結果、南オーストラリア州のフリーマントルやポートランド、アデ
レードから、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、オマーン、サウジアラ
ビア東海岸などへのイギリス・ヨーロッパ種生体牛の輸出は、10月まで中断され
ることとなる。これらの仕向け先の合計は、昨年豪州の生体牛輸出(約83万頭)
におけるエジプトを含めた中東市場(約25万頭)の約10%を占めた。中東向けの
中でも大きな市場であるエジプトやサウジアラビア西海岸への輸送は、紅海の気
候がアラビア湾に比べて穏やかなため、通常通りに継続される予定であるが、動
物愛護団体は批判的である。

 今回の措置に対して業界内では、中東輸出の10%という数字は輸出業者だけで
なく生産者も犠牲を払わなければならないことから、決して微々たるものではな
いという見方がある。

 一方、南半球の冬の期間中にポートランドから輸送される生体牛は非常に少な
いため、この中断はほとんど影響がないだろうという楽観的な見方もある。ただ
し、南部の家畜市場関係者の間では、国内の肉牛価格の下げ要素になるのではと
懸念の声も挙がっている。



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