米国、新たなWTO農業交渉提案を公表
モダリティー確立に向け、当初提案をより具体化
米国政府は7月25日、世界貿易機関(WTO)の農業交渉提案を公表した。これは、
来年3月末までのモダリティー(交渉の大枠)の確立に向け、2000年6月および11
月にWTOに提出された当初提案の内容(本紙2002年8月号、2001年1月号参照)をよ
り具体化したものである。くしくもそのタイミングは、日本での5カ国農相会議の
開催前日であり、また、「意欲的な提案」と形容する割には、自国にとってなる
べく痛みが伴わなくて済むような内容であるなど、米国の高慢さが露骨に表れた
ものであるとも言えよう。
提案は、@(各国を)同じ土俵に立たせ、(各国間の)不公平を取り除くこと、
A貿易障壁の撤廃に向けて取り組むこと、B生産者、消費者双方の利益になるよ
うに、世界市場を拡大すること、という3つの原則に基づくものであるとされる。
その内容は、基本的に当初提案の延長線上にあるものであり、いわゆる「保護の
削減」の方式および目標数値が明らかにされるとともに、交渉終結から当初5年間
とそれ以降という2段階のアプローチが示されているのが新たな特徴である。
具体的には、次のとおりである。
多くの関係団体は支持を表明する一方で、失望の声も
本提案は、当初提案と同様に、関係団体の代表などから成る農業政策/農業技
術諮問委員会からの助言も仰いで策定されたものであり、そのメンバーである、
全米最大の農業団体ファーム・ビューロー(AFBF)を始め、畜産関係では、全国
肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)や全国豚肉生産者協議会(NPPC)、米国乳製品輸
出協会(USDEC)など、多くの主要団体が支持を表明している。
しかし、同じメンバーである、中小の家族経営が主体のファーマーズ・ユニオ
ン(NFU)は、「新農業法の下でのセーフティ・ネットを縮小させるとともに、将
来に必要な保護(国内支持や国境措置)が講じられなくなる恐れがある」として
失望のコメントを出している。
(参考:ベネマン農務長官は、新たな保護削減の開始は交渉終結後(交渉期限は
2005年1月1日)であるため、新農業法の実施期間(2002〜2007年)とはわずかに
重なるだけであるとして、交渉提案と新農業法が矛盾することはないという趣旨
の発言を行っている。なお、米国は今回の交渉提案の中で、助成額が生産額の5%
以下の国内助成については削減対象外とする「デミニミス条項」(これがないと
米国は国内支持の約束水準をすでに突破)は存続させるとしているが、一方で、
「デミニミス条項」によって削減対象外とはならなかった「黄の政策」を積み上
げたものだけ農業生産総額の5%水準まで削減するという主張は、果たして筋が通
ったものであると言えるのだろうか。)
また、手厚い国内支持とTRQによって支えられた酪農産品を抱える全国生乳生産
者連盟(NMPF)は、@輸出補助金の撤廃を前提に、市場アクセスの拡大や国内支
持の削減を行うとする本提案の戦略的なアプローチについては支持する(各国の
輸出補助金が撤廃されない限り、自国の酪農産品が不利になるような関税や国内
支持の引き下げには応じられない)として、今回の米国提案を支持するとしつつ
も、Aその戦略の中には輸入急増に対処するためのメカニズムが含まれていない
として、現行の特別セーフガードに代わるより実効性のある措置を提案すべきで
あるという声明を出すなど、不協和音も聞かれる。
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