◇絵でみる需給動向◇
イギリス食肉家畜委員会(MLC)によれば、2002年のEUの牛肉域外輸出量(冷 蔵・冷凍、製品重量ベース、子牛肉を除く)は、最大の輸出先であるロシア向け が大幅に減少したことなどから、対前年比14.7%減の約34万5千トンとなった。 ロシア向けは、ドイツやアイルランドからの輸出が多いが、近年輸出の伸びが目 覚ましいブラジルやポーランド、ウクライナからの輸出が増加し、EUは17.0% 減の27万4千トンとなった。ブラジルはまた、以前EUの主要輸出先であったエ ジプトへの輸出も増加させている。 なお、EU加盟予定国(注)向けの輸出量は、72.6%増の1万3千トン、北朝 鮮向けは20.8%増の1万5千トンと大幅な増加となった。 (注):キプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、 マルタ、ポーランド、スロベキア、スロベニアの中・東欧等諸国10カ国
一方、輸入は域内牛肉消費の回復が報告される中で、ブラジルやアルゼンチン など南米諸国からの輸入が大幅に増加したことなどから、対前年比37.9%増の約 25万6千トンとなった。ブラジルからの輸入は年々増加しており、2002年には 13.7%増の11万6千トンとなった。また、アルゼンチンは、2001年3月に同国 で口蹄疫が発生したため、2002年1月までの間輸入を禁止したことから、2002 年は前年比470%増の6万トンとなった。EU加盟予定国からの輸入も大幅に増加 した。最も輸入量が多いのはイギリス(6万8千トン)で、次いでドイツ、オラン ダと続いている。 EUでは、域内牛肉需給の安定を図るため、通常の国境措置として域外からの牛 肉、子牛肉等の輸入に対しては、関税に加え輸入課徴金が課せられている。ただ し、さまざまな特恵措置(関税割当措置)があり、世界貿易機関(WTO)協定に 基づき、ブラジルやアルゼンチンなどからの高品質牛肉を輸入するに当たっては、 毎年度関税割当数量(ヒルトン枠)が設定されている。また、中・東欧諸国との 合意に基づき輸入される冷凍牛肉等についても、同様の措置が取られている。2002 年に南米諸国から輸入された牛肉の多くは、EUの特恵措置によるものであるが、 一部は通常の国境措置(関税に加え輸入課徴金を支払っての輸入)により輸入さ れた。これは、南米諸国からの牛肉は輸出競争力があることを示すものと言えよ う。
エネルギー資源や農産物の関税率引き下げをめぐって、今年中のロシアのWTO 加盟はロシア側から見送られた。同国では、一時期の経済低迷から回復し国内の 食肉消費の増加が伝えられている一方、牛の飼養頭数は依然として減少している ことが報告されており、今年4月からは国内牛肉産業保護のため、関税割当制度 (年間42万トン、今年は31万5千トン)が開始された。こうした中、現在もブ ラジル産牛肉輸出などが好調であることが報告されていることから、EUからのロ シア向け牛肉輸出は今後、一層厳しい状況になることが予想される。 域内では、2003年に入ってもドイツやフランスで牛肉消費が好調である一方、 牛肉生産は肉牛飼養頭数の減少などから減少することが予測され、その不足分は 域外からの輸入と介入在庫からの放出により埋められることが見込まれている。 ロシアに代わる主要輸出先が見つからない限り、域外牛肉輸出は停滞することが 見込まれ、また、南米諸国などからの安価な牛肉輸入が今後も続くようであれば、 域内の牛肉需給に影響が出てくることが予想される。
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