EUの牛乳・乳製品の需給動向


◇絵でみる需給動向◇


○脱脂粉乳価格が引き続き低迷


● ● ● 2003年に入っても依然として低水準● ● ●

 EUの脱脂粉乳価格は、2003年に入って生産が減少しているにもかかわらず、
2002年から引き続き低迷している。指標価格の1つであるドイツの工場渡し価格
は、2002年12月には100キログラム当たり203.7ユーロ(約2万9千円、1ユ
ーロ=142円)に戻ったが、2003年2月から再び低下し、5月の価格は191.3ユ
ーロ(2万7千円)と前年同月を4.5%上回っているものの、近年で見ると依然と
して低い水準となっている。輸出依存度の高いオランダや、フランスの工場渡し
価格もほぼ同様の値動きを示している。


 2002年のEUの脱脂粉乳価格は、域内生産増加や国際需給緩和による輸出の伸
び悩みなどから低迷し、EUでは毎年3月から8月まで行われる通常の介入買い上
げ限度数量(10万9千トン)を超過したため、11年ぶりに入札による介入買い上
げが行われた。



◇図:脱脂粉乳価格の域内価格と国際価格の推移◇



● ● ● イラク戦争による輸出停滞や子牛向け飼料需要減退等が原因● ● ●

 この原因としてはまず、EUから域外への脱脂粉乳輸出が停滞しているためとみ
られる。背景としては、今年3月に起こったイラク戦争の影響で需要家が在庫を
持つことを敬遠したことから国際需給が再度緩和傾向となり、国際市況が停滞し
ていることが挙げられる。脱脂粉乳の国際価格(西欧主要積出港の船積み渡し価
格)は、2002年12月から急上昇して2003年1月には1トン当たり1,775米ド
ル(約21万1千円、1米ドル=119円)となったものの、2月からは再び低下傾向
となり5月の価格は1,570米ドル(18万7千円)となった。さらに、最近のユー
ロに対する米ドル安の傾向が強まったことも影響している。


 また、域内では近年のEUの動物愛護規則強化により、フランスやイタリアで
は子牛肉生産に支障が出てきており、子牛向け需要が減退していることが挙げら
れる。1996年にEUで牛海綿状脳症(BSE)問題が本格化する以前、脱脂粉乳に
対する子牛の飼料向け需要は、生産量の6割近くを占めていた。しかし、それ以
後は減少傾向となり、2002年では5割未満となっている。また、2002年の買い
上げによる在庫量が未だ大量にある(5月末で約15万3千トン)ことも価格低迷
に拍車をかけている。



● ● ● 今後の回復は今回の輸出補助金引き上げとユーロの為替動向がカギ● ● ●

 こうした中、EUの酪農管理委員会は、5月16日付けで域外への脱脂粉乳の輸
出補助金を100キログラム当たり51ユーロ(約7,200円)から60ユーロ(8,500
円)と約18%引き上げた。この措置は、現在の米ドル安の傾向の中でEUの輸出
競争力を強化するため取られたものである。また、6月2日の先進国首脳会議(サ
ミット)において米国の「強いドル政策」が参加国に容認されたことで、今後は
ユーロに対する米ドル安の傾向は緩和に向かうことが予想される。


 域内では、3月から通常の介入買い上げが行われており、介入在庫量のさらな
る増加が懸念されている。また、2003年の牛肉生産は2%以上減少することが予
測されている。こうしたことから、EUの脱脂粉乳価格回復は、イラク戦争終結後
の国際需給動向にもよるが、今回の輸出補助金引き上げの効果と今後のユーロの
為替動向がカギを握りそうだ。

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