特別レポート
企画情報部企画課
2000年 3 月から交渉が開始されたWTO農業交渉は、各国が交渉についての提 案を出し合う第 1 段階(第 1 フェーズ:2000年 3 月〜2001年 3 月)、各国 がそれぞれの考え方を詳細に説明する第 2 段階(第 2 フェーズ:2001年 4 月 〜2002年 2 月)を経て、2003年 3 月末までに交渉の大枠(モダリティ)を確 立することとされていた。しかし、米国・ケアンズ諸国は、保護・助成の大幅ま たは一律的な削減・撤廃を要求し、日本・EU等は農政改革の進ちょくに合わせ た漸進的な保護の削減を主張、さらに約100カ国の開発途上国は、先進国の市場 開放を要求するなど、各国の立場がかけ離れたまま、第 3 段階を迎えた。この結 果、ハービンソン農業委員会特別委員会議長から 2 月に提示されたモダリティ 1 次案はその内容について米国・ケアンズ諸国は部分的な評価をしつつも、さらな る自由化の拡大を求める一方、日本やEUは加盟国間で著しくバランスを欠いて おり、抜本的な見直しが必要と主張するなど、多くの加盟国にとって受け入れが たいものとなった。続いて提示された 1 次案改訂版についても一部の事項に修正 がある他は、主要部分は 1 次案と変わらないものとして、モダリティ確立には至 らなかった。このため、今後は各国とも 9 月のWTO閣僚会議(メキシコ・カ ンクン)に向けて、積極的に交渉を促進するとしている。 ここで、今後の各国の動向を注視する上で、各国政府および関係団体の 1 次案 改訂版に対する反応等を報告する。
○ UR農業協定・農業合意から ・農業貿易の改革過程は継続中 ・農業に対する助成及び保護を実質的かつ漸進的に削減するという長期目標は進 行中の過程 ・非貿易的関心事項、開発途上加盟国に対する特別のかつ異なる待遇等を考慮 (UR合意においては、削減率を先進国の2/3とすること、削減期間を10年と すること(先進国は6年)などの優遇措置) ・市場アクセス 関税化。関税を平均で36%、最低15%削減。現行アクセス機会は維持・拡大、 ミニマムアクセスは3%から5%まで拡大 ・国内支持 「黄」の政策を助成合計量(削減対象となる国内助成の総量)で20%削減 「緑」および「青」の政策は、削減対象外として位置付け、それぞれ要件設定 ・輸出規律 削減約束が課される輸出補助金の要件を設定し、財政支出額および量をそれぞ れ36%、21%削減。 「緑」、「青」、「黄」の政策 ○今次WTO農業交渉の主な論点は、URに引き続いて、市場アクセス、国内支 持、輸出規制 各国の主張は以下のとおり ・米国・ケアンズ諸国(豪等17カ国)は、保護・助成の大幅・一律的な削減・撤 廃を要求 ・日本・EU等は、非貿易的関心事項(食料安全保障、国土・環境保全等)に配 慮し、農政改革の進ちょくにあわせた漸進的な保護の削減を主張 ・開発途上国(約100カ国)は、先進国の市場開放を要求。開発途上国の理解、 支持を得ていくことが極めて重要。 WTO農業交渉における各国の主張(抜粋) (注1)フレンズ:非貿易的関心事項フレンズ国(日本、スイス、ノルウェー、韓国、 モーリシャスの6カ国)。 (注2)関税削減のUR方式:全品目の引下げ率と、品目ごと最低の引下げ率を設 定。毎年等量で削減。 (注3)総合AMS方式:AMS(助成合計量=・価格支持相当額+・削減対象補助金額) を全品目の総計で削減する方式。 (注4)モダリティ1次案改訂版は、削減数値、実施年数に関し、先進国を対象と した記述部分を抜粋。 (農林水産省ホームページ http://www.maff.go.jp/wto/index.html)から抜粋
「モダリティの決定はEUのCAP改革の方向性が決まるまで困難であろう。」 −3月中旬のUSDA幹部インタビューより 3月31日付けのUSDAのプレスリリースでは、「ハービンソン議長の提案は農 業交渉を前進させるためのリーダーシップとしては評価し得るが、現時点で米国 を完全に満足させるものではない。提案は、すべての加盟国が共にそれを行うの であれば補助金および関税を包括的に削減し明確な改革を推し進めようとする米 国を始めとする大半の国に主眼を置いてはいるものの、いくつかの鍵を握る国々 がそれを引き戻している。」としてハービンソン農業委員会特別委員会議長によ るモダリティ案がEUや日本の主張にも配慮していることに不満を表明している。 「米国は、3月31日という期限までに補助金と関税の削減のモダリティの合意が 世界の農業貿易の変革に対する反対により窮地に陥ったことを残念に思うが驚き はしていない・・・・すべての加盟国が今次交渉において政治的困難に直面して いる。建設的な解決を目指し、他の加盟国と互いに助け合いながら作業を進める 必要がある」として、今後の交渉によりさらなる歩み寄りを目指すとしている。 http://www.usda.gov/news/ releases/2003/03/0104.htm また、米国農務省(USDA)幹部は3月中旬に「モダリティの決定はEUのCAP改 革の方向性が決まるまで困難であろう。農業交渉はまさしく交渉であり、3月の ジュネーブでの交渉、9月のメキシコのカンクンでのWTO閣僚会合を経て徐々に 各国の立場の差が縮められていけば良い」との考えを当事務所のインタビュー に応じて示した。ハービンソン案は交渉の通過点に過ぎないとの見方である。
米国の関係団体はモダリティ案に対するコメントを差し控えている。米国提案 の実現に向けて関係者は一枚岩。 農業関係団体はごく一部の団体を除き、ハービンソン案に対するコメントを差 し控えている。この理由を各団体にたずねても「時期尚早である」と言ったコメ ントしか戻ってこない。この背景には、米国としては既に出した米国提案の実現 を目指して交渉を進めており、現時点でハービンソン案についてコメントを出す とこれが今後の交渉のたたき台となることを容認することとなることが懸念され 得策ではないとの戦略的な理由があるようだ。米国提案を出した以上はこの実現 に向けて関係者が一枚岩であるということの証とも言えよう。 畜産関係団体は、シアトル閣僚会合(99年12月)前にWTO農業交渉に対する ポジションを公表しており、その後、2002年7月に米国のWTO農業交渉に関す る新たな提案が示されるとこれを支持するとしている。以下に時期的には古いも のの各団体の今次WTO農業交渉における野心を理解する上で有効であると考え られるので、シアトル閣僚会合前に示された主要畜産関係団体のポジションを概 説したい。 (1)全国肉用牛生産者・牛肉協会(NCBA) NCBAは、今次WTO交渉の立ち上げに際し、 @ 関税の削減および関税割当枠の拡大(最終的には撤廃)、 A 生産歪曲的な価格支持および輸出補助金の削減(最終的には撤廃) 等の目標を掲げている。 米国は、牛肉の輸出を日本の輸入自由化以降飛躍的に増大させており、さらな る生産の拡大を目指している。NCBAは、豪州、ブラジル、アルゼンチンとのFTA に対し、自国への輸入の増大を懸念し反対を唱えているが、WTO交渉において輸 入国の障壁が削減され、自由な競争が可能となり、一方的に輸入の機会を拡大す るのではなく自らの輸出機会も増大するのであれば自国の輸入関税(生鮮冷蔵牛 肉枠内税率 4 %、枠外税率26.4%)も引き下げることをいとわないとしている。 http://www.beef.org//dsp/dsp_content.cfm?locationId-710&contentId- 266&contentTypeId-1&print-1 (2)全国養豚肉生産者協議会(NPPC) NPPCは、今次WTO交渉の立ち上げに際し、 @ 可能な限り短期間での関税および輸出補助金の撤廃、 A 貿易歪曲的な国内支持の廃止(AMSベースで20%の削減)、 B 関税割当の運用の明確化 等を目標として掲げ、特に、関税の削減については例外のないスイスフォーミュ ラ方式による大幅な削減を提唱した。この背景には、すでに自国の関税が十分に 低い(キログラム当たり0〜1.4セント)ことや、海外の市場で輸出補助金により 保護されたEU産品との競争を余儀なくされていることがある。 http://www.nppc.org/public_policy/testimony/ testimony990930.html (3)全国生乳生産者連盟(NMPF) NMPFは、今次WTO交渉の立ち上げに際し、 @ 輸出補助金の撤廃、 A 関税の引き下げ(輸出補助金の削減が条件)、 B 乳・乳製品の関税の単純化・透明性の向上、 C 「緑」の政策の定義の厳格化、「青」の政策の上限の設定 等の目標を掲げた。 米国自身も乳製品については、関税割当を実施しているが、関税割当について 枠内税率の調和と枠外税率の公平な引き下げを提唱している。この背景には、EU の輸出補助金やカナダの輸出支援策に長年苦しめられてきたことがある。 http://www.nmpf.org/files/Balanced_Trade_booklet_(final).pdf
「議長の作業としては評価できるが、議論のたたき台としては野心が低すぎる」 というのがハービンソン議長のモダリティ案に対する米国関係者の評価である。 米国のWTO農業交渉提案は強力に市場開放を進めようとするものであるが、他方 で2002年農業法では、WTO農業協定上認められた権利であるとして不足払い制度を 事実上復活させるなど国内の農業保護を強化しており、米国は攻撃と防御の両面 でWTOを最大限利用している。 また、今次WTO交渉は「ドーハ開発計画」という言葉が象徴するように、加盟 国数では圧倒的多数を誇る途上国をどのように交渉にコミットさせていくのかと の課題がある。米国がどのようなカードを用いて、途上国からも大幅な関税と国 内支持の削減に支持を取り付けていくのかその交渉手腕が問われることとなる。
(1)EU委員会 提案はバランスが取れていない。 利益は主に強力な輸出国にあり、負担は主に社会的、経済的そして環境的持続 性と関連した国内目標を反映した政策を遂行している国にある WTO農業交渉モダリティ1次案の公表直後の本年2月12日および13日に当該 1 次案への反応を表明している。 その内容は、 @提案の内容は、WTOのメンバー国から出された意見をバランスよく反映して いない。利益は主に強力な輸出国にあり、負担は主に社会的、経済的そして環境 的持続性と関連した国内目標を反映した政策を遂行している国にある。 Aドーハ宣言に盛り込まれた重要事項のいくつか、例えば非貿易的関心事項など が含まれていない。 B途上国が直面している先進国市場への特恵的な参入の侵害についての配慮が ない。 等であり、モダリティ1次案を批判している。 http://europa.eu.int/rapid/start/cgi/guesten.ksh?p_action.gettxt=gt&doc= IP/03/222101AGED&lg=EN&display= http://europa.eu.int/rapid/start/cgi/guesten.ksh?p_action.gettxt=gt&doc= IP/03/231101AGED&lg=EN&display= また、同1次案改訂版が公表された後の3月19日には、1次案改訂版の取りま とめにあたった議長の努力に敬意を表明してはいるものの、 ・WTO加盟国間の隔たりを近づけることにはならない。 ・ 1次案改革案は、大部分が 1 次案と同じである。 ・ 相変わらずひどい不均衡のままである。 とのコメントを公表している。 http://europa.eu.int/rapid/start/cgi/guesten.ksh?p_action.gettxt=gt&doc= IP/03/414101RAPID&lp=EN&display= (2)フランス農業・食料・農村省 欧州は今日でも米国やケアンズグループよりも、より多くの農産物を輸入して いる フランス農業・食料・農村省は、2月12日に次のようなコメントを公表してい る。 @ 欧州にとって均衡を失するものであり、最貧国にとって法外かつ不利なもので ある。 A 当該提案を受け入れれば、欧州の農業活動が半減する恐れがある。 B 最貧国の特殊事情を全く考慮していない。欧州は今日でも米国やケアンズグル ープよりも、より多くの農産物を輸入している。 などと、途上国への配慮を強調するとともに、 C 当該提案が欧州に対して輸出補助金の段階的廃止を求める一方で、他方の当事 者に対して同等の約束を求めていない。 と非難している。 http://www.agriculture.gov.fr/spip/leministere.leministerelecabinet.comm uniquesdepresse_a1491.html また、1次案改訂版については、 ・モダリティ1次案は欧州型農業に対する配慮が何らなかったが、新提案は、フ ランスやEUを含む各国が1カ月来示してきた懸念を全く考慮することもなく、 交渉が停滞していることを明らかにしている。 等、1次案改訂版が相変わらず受け入れ不可能なものである旨批判する見解を公 表している。 http://www.agriculture.gouv.fr/spip/ leministere.leministerelecabinet. communiquesdepresse_a1498.html (3)ドイツ連邦消費者保護・食料・農業省 市場アクセスに関し、EUが世界最大の途上国産農産物の輸入国であることを考 慮していない ドイツ連邦消費者保護・食料・農業省は、モダリティ案についての見解をホー ムページ上で公表していないが、講演会における連邦消費者保護・食料・農業省 の局長によるスピーチでは、モダリティ1次案について、 @加盟国間の負担が不公平である。 A市場アクセスに関し、EUが世界最大の途上国産農産物の輸入国であることを 考慮していない。 B国内支持について、EUのこれまでの共通農業政策(CAP)改革努力を無視し ており、現在議論されている改革に水を指すものである。 等非難している。 (4)イギリス環境・食料・農村地域省 CAP改革をさらにすすめるべきであり、また、EUは他国とともにさらに譲歩 すべき 一方、CAP改革に積極的なイギリスにあっては、上記の2カ国等と少々異なり 「CAP改革をさらにすすめるべきであり、また、WTO交渉に関してEUは他国と ともにさらに譲歩すべき」との環境・食料・農村地域大臣の講演会でのスピーチ をホームページ上で公表している。 http://www.defra.gov.uk/corporate/ministers/ speeches/mb030331.html
(1)欧州農業組織委員会/欧州農業協同組合委員会 (COPA/COGECA) EU委員会がCAPについて「中間見直し」という名称にしては、その範囲を超 える大幅な見直し案を公表していることにより、EUのWTOにおける交渉ポジシ ョンは危うい状態となっている。 EU加盟国の農業団体を構成員とするCOPAとEU加盟国の農業協同組合を構 成員とするCOGECAは、モダリティ1次案が示された直後の2月13日、共同で コメントを発表しており、この中で、1次案はEUにとって良い出発点ではないと した上で、 @農家への支持と関税の削減が、ウルグアイ・ラウンドで合意されたものをはる かに超えるものである。例えば、国内支持についてはウルグアイ・ラウンドでは 20%のカットであったものを60%削減することを、関税については平均36%で あったものを60%まで削減することとなっている。これは、他の先進国に対する よりも、EUに対してよりダメージが大きい。 A不幸なことに、EU委員会がCAPについて「中間見直し」という名称にしては、 その範囲を超える大幅な見直し案を公表している。このことにより、EUのWTO における交渉ポジションは危うい状態となっている。EU委員会のCAP中間見直 しは、時宜を得ていないばかりでなく、自らの輸出を増やしたいと考えている米 国やケアンズグループといった主な輸出国の要求に直面しているEUの立場を害 するものである。 B われわれはEU委員会に対し、農業を取引のための切り札として使うことをや めるよう要求する。EU委員会は、WTOの場において、欧州社会の価値と関心事 項をより強固に守るべきである。 と、モダリティ1次案が受け入れられない内容であると表明するとともに、EU委 員会のCAP見直し内容およびEU委員会の対応がEU農業を守るうえで不十分で あると強く訴えている。 http://www.cogeca.be/pdf/cdp_03_08_2e.pdf また、COPA/COGECAはモダリティの合意断念後の4月8日には、EU委員 会のCAP中間見直しに関連し、 @CAPの中間見直し案は、EU委員会が交渉の開始前からわれわれの貿易相手国 の要求を受け入れる用意をすでにしているとのメッセージを送っている。 AEU委員会が昨年12月に提案したWTOモダリティ案は、われわれの貿易相手 に対して、最終的にEUは彼らの考えを認めるとの考えを強めさせており、戦術 的な間違いである。EU委員会の前代未聞の交渉戦術は交渉のモダリティとしては 到底受け入れられることができないハービンソン氏の提案に、完全に反映されて いる。 と、CAP見直しの内容と時宜等EU委員会の対応を非難している。 http://www.cogeca.be/pfd/cdp_03_20_2e.pdf (2) 欧州乳製品輸出入・販売業者連合 (EUCOLAIT) モダリティ1次案の「削減」の水準は、とりわけ現在のEUのバターに対する 保護水準を深刻に損なうことになる 一方、欧州レベルの乳製品輸出入業者等の団体であるEUCOLAITは、モタリテ ィ案に関して3月13日、EU委員会のフィッシュラー委員宛に書簡を送っており、 その中で, @モダリティ案の「削減」の水準が、とりわけ現在のEUのバターに対する保護 水準を深刻に損なうことになる。UR合意に比べより先鋭的な方式による関税削減 の合意は、EU域内市場に深刻な不安定さをもたらす。 A市場アクセスは、多くのWTO加盟国が関税割当枠が未消化である中で、その 水準を倍増させるという提案は不合理である。この点についてWTOメンバー国全 員が考慮しない限りは、われわれは、いかなる枠の拡大にも反対する等見解を表 明してる。
EU委員会はEUの農業のあるべき姿を目指してCAP改革の見直しにとりかか っているところであるが、生産者団体等からは、EU委員会の提案内容について非 難がなされている。WTO農業交渉に関しても、生産者団体等からはEUの提案そ のものが譲歩しすぎであると批判されている。こうした中、WTO交渉においては 米・ケアンズグループに比べ、わが国に近い立場にあるEUが、今後、交渉が進 むに従って、わが国の交渉にどのような影響を及ぼすこととなるのか注目される。
(注:ケアンズグループとは、カナダ、豪州、NZ、チリ、アルゼンチン、ウルグ アイ、タイ、フィリピン、フィジー、南アフリカ等(18カ国)で輸出補助金を交 付しない、主だった農産物輸出国で構成される)
モダリティ案は改革に抵抗している国による故意の遅滞のために進歩できない でおり、これはEUや日本、韓国、スイスと彼らの同盟国の野心の欠如を明確に 表示する 豪州連邦政府の見解については、ベール貿易相が逐次コメントを発表している。 モダリティ1次案発表時の2月13日、「1次案が含む野心のレベルは豪州の農 民にとって失望的であり、豪州の農産物貿易に対して非常に多くの損害を与える 莫大な助成と高い保護水準を扱うには十分でない」と総括した。ただし、「EUと 日本によって提案されたウルグアイ・ラウンド削減方式の拒絶と、国内支持に対 する新たな規律は積極的である」と部分的には評価しつつ、「全般的には農産物 輸出国のケアンズ・グループが目指すものにははるかに不足である」としている。 http://www.trademinister.gov.au/releases/2003/mvt007_03.html なお、同貿易相は東京におけるWTO非公式会合開催時の2月16日、「豪州政 府は1次案をベースに交渉していく方針である」という見解を示した。 http://www.trademinister.gov.au/releases/2003/mvt010_03.html また、1次案改訂版については3月19日、「未だ農業分野については野心的で ない」と次のようにコメントしている。 ・改訂版は当初案と本質的に同じで、いくつかの非常にマイナーな編集上の変更 を含んでいるが、野心のレベルに対する変更はない。 ・何十年間もより公正な国際取引の環境を待っている豪州の農民にとって十分 でない。 ・モダリティ案は改革に抵抗している国による故意の遅滞のために進歩できな いでおり、モダリティ案の進歩の欠如は、交渉においてEUや日本、韓国、スイ スと彼らの同盟国からの野心の欠如を明確に表示する。 http://www.trademinister.gov.au/releases/2003/mvt020_03.html
(1)全国農業者連盟(NFF) 豪州の農民は長い間本質的な貿易改革を待ったが、妥協に疲れ切っている。妥 協により保護が継続したことは明確である コリッシュ会長は、モダリティ1次案発表後の3月10日、十分な検討の結果と して、「豪州の農民にとって容認できないとして拒否する」と次のようにコメン トした。 ・特に市場アクセスについて改善の要素が非常に不足しており、本質的な改革を もたらさないため、拒絶する。前進するための基盤として、ケアンズ・グループ による提案が持続されなくてはならない。 ・豪州の農民は長い間本質的な貿易改革を待ったが、妥協に疲れ切っている。妥 協により保護が継続したことは明確であり、貿易をゆがめる方法での米国や欧州、 日本での農民に対する助成は自らの国内の消費者、開発途上国、国際経済に有害 である。今日における海外諸国の農民に対する支持水準は、ウルグアイ・ラウン ドの開始時にあったものと同じぐらい高い。 ・農業における世界貿易の自由化にはるかに遠いため、ベール貿易相はWTOが さらに進歩することを確実にしなくてはならない。 http://www.nff.org.au/pages/nr03/10.html (2)豪州食肉家畜生産者事業団(MLA) 優先度が最も高いことは、関税引き下げと関税割当枠の拡大による世界的な市 場アクセスの改善である MLAのバーナード経営企画・市場分析部長は3月5日、牛肉輸出5ヵ国(豪州、 米国、NZ、メキシコ、カナダ)による牛肉貿易自由化に関する共同研究プロジェ クト、マゼラン・プロジェクトの報告書の発表に当たって次のようにコメントし ている。 ・優先度が最も高いことは、関税引き下げと関税割当枠の拡大による世界的な市 場アクセスの改善である。 ・残念ながら、モダリティ1次案は、豪州やケアンズ・グループによって提案さ れた目標をかなり下回り、全く不十分である。 http://www.mla.com.au/printerversion.cfm?sid=25&newsid=1704 また、同部長は4月28日、「ビーフ・オーストラリア2003」において次のよ うにコメントしている。 ・最も重要な挑戦は貿易自由化の速度を増すことである。 ・牛肉の貿易障壁は他の食肉よりも高いため、結果的に多くの国で小売価格も同 様に高い。例えば、EUにおけるわずかな牛肉輸入割当枠、北アジアにおける高い 関税障壁、そのほか多くの衛生植物検疫(SPS)措置などの障壁が世界的な牛肉貿 易に対峙する。 http://www.mla.com.au/printerversion.cfm?sid=25&newsid=1945 (3)豪州酪農庁(ADC) 輸出補助金が撤廃されれば、乳製品価格は上昇し、関税が下がっても生産者の 利益は確保可能である 酪農業界団体では特段の公式なコメントは発表されていないが、ADCのグード 国際政策課長に聞いてみた。同課長は、豪州農業資源経済局(ABARE)が2001 年5月に発行した「乳製品における世界貿易の自由化の効果」(Impacts of liberalising World Trade in Dairy Products)の内容に触れながら、次のような ポイントを挙げた。 ・関税率の引き下げなどの市場アクセスの改善は当然であるが、輸出補助金の撤 廃が重要である。 ・輸出補助金が撤廃されれば、乳製品価格は上昇し、関税が下がっても生産者の 利益は確保可能である。 ・消費者にとっても、その価格上昇分は関税の引下げで吸収可能である。 ・従って、議長案よりも早期の輸出補助金撤廃というケアンズ・グループの提案 に力点を置くべきである。 (4)その他−WTO非公式会合における抗議行動− 2002年11月、シドニーでWTO非公式会合(25ヵ国参加)が開催された。反 グローバリズムを掲げた抗議行動などが予想されたため、開催会場が当初予定さ れていた市内から警備が容易なオリンピック・パークに変更された。 非公式会合では途上国問題が中心議題となり農業分野については扱われなかっ たが、会議当日、周辺では約900人の規模の抗議デモが行われた。マスコミの報 道では、自由貿易推進に反対する抗議者の次のようなコメントが紹介された。 「WTO、国際通貨基金(IMF)、世界銀行などによる一連の動きは、すべての国々 の農業や企業を裕福な国々による支配下に置くもので、農民や生産者、すべての 途上国の貧しい人々をさらに疎外している」と基本的にWTOは先進国寄りとの観 点からの批判となっている。
特に関税割当枠拡大の低いレベルに失望した。関税割当枠拡大が提案されてい るが、ケアンズ・グループが求めていたより低いレベルである NZ政府の見解については、サットン貿易交渉相(同氏は農相を兼ねる)が逐次 コメントを発表しているが、各コメントにおいて「開発途上国」を文言上、NZと 並列的に扱い、途上国に対する一定の配慮をにじませている。 モダリティ1次案発表時の2月12日、「部分的に良いが、ことわざの「玉石混 淆」のようだ」と次のようにコメントした。 ・ NZにとって重要なことは、初めて輸出補助金の撤廃に明確な期限を設定する ことである。しかし、まだその期限はあまりにもはるか遠くにある(輸出補助金 は世界市場を侵食し、NZと世界中の農民を傷つけているため、可能な限り速く撤 廃されなくてはならない)。 ・ 関税削減と国内補助金削減に対するケアンズ・グループの野心に合致しない。 1次案が与える柔軟性は各国に産品を選択することを許し、主にいくつかの大き くゆがめられた産品を除外することが可能である。 ・ 関税割当枠拡大の低いレベルに失望した。関税割当枠拡大が提案されているが、 ケアンズ・グループが求めていたより低いレベルである。 ・ 貿易をゆがめる国内支持は削減されるが、多くの国で実質的な助成水準を残す ことが可能である。(国内支持は農業貿易における最も悪い問題の多くの源とし てOECDによって最近、強調されたが、)1次案は5年後にさえ多くの支持を残 す可能性が高い。 http://www.beehive.govt.nz/ViewDocument.cfm?DocumentID=16026 また、1次案改訂版発表時の3月19日には、「(欧州と北アジアの農業保護貿 易主義者の)故意の遅滞は止まらなくてはならない」と次のようにコメントした。 ・ 改訂版は当初案から本質的な変化がない。これは、今次WTO農業交渉につい て、意欲的な結果を欲する国と、最小の結果を欲する国の間にまだ大きいギャッ プがあるという事実を反映する。 ・ NZが望むものは、より早期の輸出補助金の撤廃、市場アクセスにおける真の 改善、国内の農業補助金におけるより大幅でより固く定義された削減であり、改 革の余地をいじくり回すことでは実現不可能である。 http://www.beehive.govt.nz/ViewDocument.cfm?DocumentID=16280
輸出補助金の撤廃を見るのに10年もの期間が必要であろうか−フォンテラ NZ酪農業界をほぼ独占する乳業会社であるフォンテラのノルゲート最高経営 責任者(CEO)は、モダリティ1次案が発表された直後の2月14日、次のように コメントした。 ・NZの酪農家が何年もの間要求していた輸出補助金撤廃のための具体的な期限 を評価する。 ・しかし、1次案は重要な分野でのフォンテラの期待には十分達しない。例えば、 輸出補助金の撤廃を見るのに10年もの期間が必要であろうか(それだけ乳製品の 国際価格の重要な改善の見通しを遅らせる)。 ・また、乳製品の多くの高い関税は、提案された実施期間の完了後にさえ残る可 能性が高い。 ・さらに、関税割当枠の拡大に対して提案された最小レベルは、国内消費の8% とあまりにも低いものであり、その水準においてこれから何年もの間、市場アク セス規制に直面し続ける可能性が高い。 ただし、同CEOは、「もしこの1次案が通ることが起こるなら、農産物の貿 易自由化にとって相当な前進となるであろう。しかし、われわれはこれが最初の 案でしかないことを覚えていなければならない。まだ前進する過程には意見一致 に達するために長い道のりがある」と現実的にはモダリティ確立には相当な期間 を要するとの見方も暗に示した(その後、1次案改訂版については特段のコメン トを出していない)。 http://www.fonterra.com/fonterra/content/news/fonterranews/displayart icle.jsp?elementId=k%3A%5Cfonterraprod%5Cinetpub%5Cwwwroot%5Cfonte rramediarelease%5C20030214_FonterraWTOComment.xml
このように、豪州、NZ両国政府ともモダリティの確立に対してはハービンソン 議長によるモダリティ案を土台に交渉するという姿勢を見せているが、農業者団 体である豪州のNFFは議長案に対して拒否の姿勢を示し、食肉業界は特に市場ア クセスの改善に、酪農業界は輸出補助金の撤廃、市場アクセスの改善にそれぞれ 不満の意を表しつつ力点を置く見解が顕著である。 豪州、NZとも農産物の自由貿易を標榜するケアンズ・グループの中心的な存在 であり、また、国際市場において牛肉や乳製品などの競争力のある農産物を持っ ている。両国とも究極的には農産物に関して完全な自由化を追求する立場にある ことから、今後のモダリティ確立を含めた交渉でも自由化という文脈において、 関税の大幅削減やアクセス数量の拡大、国内支持の削減や輸出補助金の撤廃を求 めてくることは間違いない。
東南アジア諸国連合(アセアン)加盟10カ国のうち、ベトナム、カンボジア、 ラオスの3カ国を除く7カ国がWTO加盟国である。7カ国のうちシンガポールと ブルネイについては国内に農業がほとんどないため、農業交渉には何の反応も示 していない。ミャンマーは後発開発途上国(LDC)注として特別な扱いを受ける ことが明らかなため、今回はタイ、マレーシア、フィリピン、インドネシアの4 カ国の反応について報告する。ただし、6月5日現在、インドネシアは政府、畜産 関係団体を通じて何の反応もしていないため、調査は行ったが以下の報告には含 まれていない。 今回の農業交渉では、昨年のドーハ閣僚会合で途上国に対する特別な取り扱い の必要性について特に1項が設けられたように、WTO加盟国の圧倒的多数を占め る途上国への対応が大きな問題となっている。しかし、先進国が一様に関税率の 大幅な引き下げを行ってしまえば、途上国であるがために与えられている特恵待 遇の比較優位性がなくなってしまう可能性が生まれるなど、国によって利害得失 が複雑に絡み合っており、途上国といえども対応はさまざまである。また、一部 には、農産物の貿易自由化で得をしているのは豪州とニュージーランドだけとい う意見も表明されており、モダリティ改訂版1次案については各国とも様子見の 感がある。 注:LDCとは、国連総会の決議により認定された途上国の中でも特に開発の遅れ た国々をいう。現在、世界には49カ国がLDCと認定され、うち、アジア地域で は9カ国が認定
(1)商務省 輸出補助金が維持される以上、途上国は関税割当枠を維持することが必要であ る タイなど4カ国はいずれも国際貿易の急速な自由化を求めるケアンズ・グルー プの構成国であり、2月にモダリティ1次案が公表された時点では、タイ、マレ ーシア、フィリピンの3カ国が1次案に対する強い不満を表明した。しかし、改 訂版1次案に対する反応はほとんどなく、公式見解を表明しているのはタイ政府 のみである。このような状況は、4カ国が開発途上国であるため、ウルグアイ・ラ ウンド農業協定の実施期間の終了が2004年となっており、政府としては実施期間 中にさらなる市場開放を切り出しにくい状況があるものと考えられる。 唯一公式見解を発表しているタイ政府の見解は、WTO合同委員会を組織してい る商務省によるものであり、同委員会のホームページ(http://wtothaiand.com) にタイ語で発表されている。 これによるとタイ政府は次の点に関してケアンズ・グループの主張に同調して いる。 @ 関税率:関税率の削減方式としてスイス・フォーミュラを適用するが先進国は より削減率の大きいスイス25、途上国にはスイス50を適用する。ただし、途上 国の関税率のうち現行関税率が50%を超えるものについては、実施期間中に50% の削減とする。 A 関税割当:先進国は国内消費量の20%にまで拡大し、枠内関税率は0%とする。 開発途上国は割当枠を14%に拡大する。 B 国内支持:「黄」の政策は撤廃し、「青」の政策は枠組み自体を廃止する。「緑」 の政策は規律を厳格化する。 C 輸出補助金:先進国は3年以内、開発途上国は6年以内に撤廃する。 タイで農業交渉を担当している商務省貿易交渉局農業・環境交渉部の担当者は、 「改定版1次案は農産物の関税率削減について、途上国により緩やかな方式を規 定している点が評価できる。しかし、輸出補助金を撤廃することとはしていない 点が問題であり、先進国の輸出補助金が維持される以上、途上国は関税割当枠を 維持することが必要である。特に輸出補助金や国内支持を維持している国からの 輸入に対抗するには、関税割当制度の維持が必要不可欠である。また、先進国が 国内支持を維持し続けるのなら、タイが先進国市場へのアクセスを拡大すること は不可能である」と述べた。同担当者は、開発途上国に対する特別な取り扱いに ついて、特別な取り扱いは途上国の市場アクセスを改善するために必要不可欠で あり、先進国がダンピングや農産物に対する国内支持を継続し続ける限り、特別 な取り扱いが必要とされるとしている。 (2)農業協同組合省 関税率の削減を緩やかに行うことは農業にとって良いことであり、価格支持や その他の特別な支持政策を許容することも必要である。−同省経済室 このように交渉の表舞台に立っている商務省側が輸出の拡大を視野に入れて急 速な自由貿易を求めているのに対し、国内農家を保護・育成する立場にある農業 協同組合省経済室の担当者は、「関税率の削減を緩やかに行うことは農業にとっ て良いことであり、タイではわずかな国内支持しか行っていないが、価格支持や その他の特別な支持政策を許容することも必要である」と述べている。同担当者 はまた、先進国と開発途上国の間に関税率の削減割合や削減期間に違いがあるこ とも、小規模農家の生き残りや発展のためには必要であるとしている。しかし、 先進国の「黄」の政策は完全に撤廃することが必要であり、「青」の政策と「緑」 の政策に対する管理の強化も必要であるとしている。「われわれがいくつかの品 目に対して関税割当を適用できるのは良いことであり、これが適用できないとな るとタイの農業は完全に壊滅の憂き目にあう。タイのブロイラー生産者について も、国内には輸出補助制度がないため、他の大生産国に比べて輸出競争力が勝っ ているとは考えられない」と述べている。 一方、同省畜産開発局の担当者は、WTO問題のようなセンシティブな問題に関 するコメントはできないことになっているとして、コメントを拒否している。彼 らによると畜産開発局はWTOにおけるタイの約束や国際貿易に関する事項は関 知しておらず、同局に与えられている役割は畜産物の生産とモニタリング、農家 が品質の高い畜産物を生産できるよう農家の啓発と技術移転に限られているとし ている。
タイでは畜産関係を中心に9団体にインタビューを申し込んだが、モダリティ に対する関心が低い上、1次案改訂版についてはほとんど知られておらず、インタ ビューに応じたのはわずか2団体であった。 (1)タイ商工会議所 特に養鶏と酪農について、先進国政府が支持を行っている限り、タイの生産コ ストは先進国に対して対抗できる水準にならない WTO合同委員会のメンバーでもあるタイ商工会議所の担当者は、「タイは途上 国なので、関税率の削減には先進国より長い期間が与えられるが、それでも不利 な立場には変わりがない。これは、特に養鶏と酪農について、先進国政府がこれ らの分野に種々の支持を行っている限り、タイの畜産の生産コストは先進国に対 して対抗できる水準にならないからである。改定版1次案によれば、先進国は5 年以内に輸出補助金を半分に削減し、残りの半分を9年かけて削減することにな っている。このことは、輸出補助金が今後10年以上も続くことを意味しており、 関税割当がわれわれにとっての唯一の対抗措置となることを意味している。途上 国に対する特別の取り扱いは良いことであり、維持されなければならない。これ がなければ、競争上不利な途上国が輸出市場にアクセスできなくなる」と述べた。 (2)タイ・ブロイラー加工・輸出協会 途上国には「緑」の政策すら行う余裕がない タイ・ブロイラー加工・輸出協会の担当者は、1次案改定版は加盟国間の妥協を 図ろうとしたものであると述べている。「改定版は「黄」と「青」の政策の取り 扱いや、間接的ながら先進国の比較優位を維持するための「緑」の政策に関する 取り扱いについても、多くの先進国が不満を表明しているという問題を抱えてい る。途上国が「緑」の政策を問題視するのは、先進国は財政上の余裕があるから このような政策を実施できるのであって、途上国には「緑」の政策すら行う余裕 がないのである。」このように述べる一方で、この担当者は、「黄」の政策は撤 廃されるべきだが、「青」と「緑」の政策については、撤廃までしなくても、削 減約束を高い水準に設定するだけでも良いとももらしている。「関税率の削減割 合と削減の方法は、タイにとって正負両方の側面を有している。1次案改訂版は、 途上国に対してより長い実施期間を許容している。しかし、このことはタイから 他の途上国への輸出を考えたときにはマイナスに作用する。」タイのブロイラー 産業は先進国への輸出に支えられて発展してきただけに、貿易の自由化には熱心 だが、その一方で自由化が進めば同じ途上国である中国などには生産コスト面で 太刀打ちできず、国内生産が危うくなるという心配もあると考えられ、インタビ ューへの回答も多少混乱した内容となっている。
EUが求めている国際貿易への動物福祉の概念の導入に対して、途上国を不利に するものとして強く反対するー農業省獣医局 マレーシア政府は改訂版1次案に対する公式見解を発表していない。畜産を所 管している農業省獣医局に見解を求めたが、同案に対する見解は得られず、一般 的な話として貿易の一層の自由化は必要であり、これに対処するために同国畜産 のコスト削減と生産物の品質向上に努める必要性が語られるのみであった。唯一、 モダリティに関するコメントとして得られたのは、EUが求めている国際貿易への 動物福祉の概念の導入に対して、途上国を不利にするものとして強く反対すると いう意見であった。
貿易の一層の自由化に対しては、日本の農家に共感するところがあるーマレー シア畜産農家協会連合 マレーシア畜産農家協会連合は1次案改訂版への公式コメントを発表しておら ず、このように複雑な問題に対してコメントを出すような専門性もないとしなが らも、同国政府が推進しようとしている貿易の一層の自由化に対しては、日本の 農家に共感するところがあるとしている。「畜産物の関税率を削減すれば、輸入 品によって同国の養豚、養鶏農家は壊滅状態に陥る恐れがあることから、同連合 は現在、政府に対して国内の畜産の実態を精査し、関税率をUR合意前の水準に 戻すよう要求しているところである。関税率の引き下げにより中・長期的にみて 国内の畜産業が活力を失ってきたことが明確になってきている。畜産物の大生産 国が価格支持や輸出補助金を維持し続けるのなら、今後少なくとも10年間は高い 関税率で国内産業を保護することも要求している。 近年、中国やタイからの鶏肉の輸入量が急増しており、2002年には 2 万6,500 トンに達している。これに対して政府は、輸入鶏肉の用途を国内加工向けに限定 するという新たな国境措置を導入しており、すべての国境措置を関税に置き換え るというUR合意の方向性に反している可能性があるだけでなく、自らの関税撤 廃方針にも反するという皮肉な結果となっている。 協会としては、どんな国も生産コストはどうあれ、自国で食料を生産する能力 を維持していくことが許されるべきであると考えている。食料の貿易は各国の長 期的な食料安全保障に必要な量を超える生産量についてのみ許容されるべきであ る。このようにすれば、各国が自国内での農業生産や水資源の維持を行えるし、 農村における雇用も確保できる。農業交渉の場において、これらの点を捨象して しまえば、低開発国の貧困問題が一層深刻になるだけでなく、近年不況にあえい でいる多くの国の経済も一層困難な状況に陥るだろう。」同協会はこのように述 べ、政府の貿易自由化政策に対する不満をにじませている。
一律かつ大幅な関税率の引き下げ方式では国内の農業の存立が危ぶまれる フィリピン政府も改訂版に対する公式コメントは発表していない。同国はケア ンズ・グループの一員ではあるが、同国の貿易構造は工業製品を輸出し米、小麦、 畜産物などの農産物を輸入するものとなっており、これまでも同グループの主張 とは一線を画する見解が多く見られる。農務省は最近、豚肉や鶏肉の実行関税率 を協定税率である40%にまで引上げるという提案を行っており、スイス・フォー ミュラのような一律かつ大幅な関税率の引き下げ方式では国内の農業の存立が危 ぶまれるとする意見もある。 フィリピンの畜産関係団体もさらなる貿易の自由化への対応はできておらず、 政府に対して関税率の引上げなどの要求を行っているが、1次案改訂版に対する公 式のコメントは行っていない。ここでもWTOの次期農業協定はまだ先のことと考 えられており、むしろ目前に迫っているアセアン・中国自由貿易協定の先行関税 撤廃品目リストから畜産物を除外することが喫緊の課題となっている。
(1)外務省 農業交渉なくして包括的交渉はない アルゼンチン外務省は 4 月 2 日のプレスリリースで次のとおり述べている。 「もし農業分野の貿易を歪める措置が排除されないのなら包括的交渉はあり得ず、 交渉進展のため先進国の政治的決断を要求する。また、輸出補助金の撤廃や市場 アクセスの改善などを要求する。(中略)先進国は農業交渉を進める約束をして おきながら、それを遂行しようとはしなかった。アルゼンチンは、非貿易的関心 事項と呼ばれる質的な障壁によって量的な障壁の代替としよとするゲームを受け 入れない。重要な課題について、我が国と途上国にとって調和のとれた交渉を続 ける決心をしている。全加盟国間でバランスの取れた譲歩が見られれば、工業製 品とサービス分野に対して状況に応じた提案をするつもりである。(略)。」 http://www.cancilleria.gov.ar/ministerio/prensa/5403.htm (2)アルゼンチン農牧水産食糧庁(SAGPyA) EUは輸出のための生産、日本は自給のための生産であり、それぞれ立場が違う のに、なぜEUと一緒に行動しているのだろうか SAGPyAにおける国際交渉関係のコーディネーターであるイディゴラス食品流 通局長へ 5 月20日に行ったインタビューの概要は以下のとおりである。 ・モダリティの期限3月31日を守れなかったことで、今後の交渉の見通しは大 変暗く、9 月のカンクン会議はおそらく成功しないだろう。EUは輸出のための生 産、日本は自給のための生産であり、それぞれ立場が違うのに、なぜEUと一緒 に行動しているのだろうか。 ・モダリティ案は交渉の基盤としては良いが、・市場アクセスのうち関税はもっ と大きく削減すべき、・輸出補助金は撤廃であるが、その撤廃期間は再検討、・ 国内支持のうち「黄」の政策はケアンズとしては撤廃だが、それは無理なのでア ルゼンチンとしては60%以上削減してはどうかと考えているが、これは新しい提 案である。 ・関税割当については、関税の引下げ交渉がうまくいかなかったら重要になるテ ーマである。ケアンズ・グループでは現行数量に消費量の20%を上乗せさせるこ とを考えている。一方、モダリティ案は国内消費量の10%とその算定期間の見直 しを提案しているが、アルゼンチンとしては輸出が拡大できるような、この2つ の中間的なパラメーターを検討したい。 ・非貿易的関心事項について、EUは農業が環境を保護すると言うが、補助金を 出すための口実に過ぎない。アルゼンチンは農業セクターが逆に環境に影響を与 えていると考えている。アルゼンチンでも特に土壌保全が大切だと思うが、土壌 を保全したいなら補助金を出さない方が良い。 ・なお、輸出税についてはケアンズ・グループの中にあって、アルゼンチンだけ このテーマに対する意見が異なっている。日本は国際市場の安定のため輸出税を 課さないスタンスだが、基本的にはその意見に賛成である。アルゼンチンは、経 済危機に直面している場面には課税しても良いと考えている。 (3)アルゼンチン農牧協会(SRA) モダリティ1次案改訂版は、正しい方向に向かっていると思う。先進国が交渉 を進展させる決断を示すことを期待する SRAは、ブエノスアイレス州を中心とした大土地所有者(2000ha以上)からな る農牧業生産者の利益保護、農牧業及び農牧業定着の振興を目的とした団体であ る。インタビューに応じてくれたロカッタグリアタ国際交渉コーディネーターは、 SRAの中にある国際交渉研究所に所属し、国際交渉に係る調整を実施している。5 月27日に行ったインタビューの概要は以下のとおりである。 ・ モダリティ1次案改訂版は、正しい方向に向かっていると思う。アルゼンチ ンのような農業国にとっては、さらに農業貿易が開放されないといけない。特に 市場アクセス、輸出補助金、国内支持についての進展を希望する。 ・市場アクセスについて、モダリティ案は途上国において関税の削減幅を小さく することができる「特別の品目」を指定することができるが、なるべくならその 規定がない方が良い。なぜなら、アルゼンチンにとって主な市場は発展途上国で あり、肉、乳製品、穀物などの品目を政策的に制限してもらいたくない。また、 ケアンズ・グループの提案により途上国が優遇されない米国提案が最良である。 ・関税割当について、モダリティ案の10%には不満である。交渉による関税の削 減幅にもよるが、削減できなければ20%以上、削減できれば関税割当は存在しな い方がよい。また枠内税率も削減すべきだと考えている。 ・国内支持について:「黄」の政策については60%削減ではもの足りない。SRA はケアンズと一緒で、撤廃期間を提案している。なお、デミニミス(注)もケア ンズと同じで廃止のスタンス。 「緑」の政策については「付属書2」には予算の上限がない。予算の上限を 規定すべき。 ・輸出補助金等については、全体的にほぼ満足。ケアンズ・グループの提案のよ うにもっと短期間で撤廃してほしい。 ・なお、輸出税について、アルゼンチン政府とわれわれは主張が異なる。政府は、 輸出税はあって良いとの立場であるが、SRAとしては、禁止されるべきと考えて いる。 注:UR農業合意で、助成額が生産額の5%以下の国内助成については、最小限政 策(デミニミス)として削減対象外とされている。
(1) 外務省広報部 ブラジルを含む多くの途上国のもっとも重要な目的は、農業分野の自由化およ び先進国が実施する国内助成措置の廃止である。 ブラジル政府が 3 月31日に公表したプレスリリースの概要は以下のとおりで ある。「ブラジル政府は、本日3月31日までにWTOの農業交渉モダリティの合 意が得られなかったことに失望を示す。(中略)。 ブラジルを含む多くの途上国のもっとも重要な目的は、農業分野の自由化およ び先進国が実施する国内助成措置の廃止である。自国農業に助成しかつ市場アク セスを認めない先進国の交渉に対する消極的な姿勢が、期限内に交渉がまとまら なかった原因である。 農業交渉は今次WTO交渉のもっとも重要な分野であり、期限を厳守しなければ その他の交渉にも悪影響をもたらし、今次WTO交渉の全テーマについて途上国に 意味のある合意にたどりつけるか疑問である。(略)。」 http://www.mre.gov.br/infocred/info112-03.htm (2)ブラジル農務省 輸出補助金は、国際貿易の中でもっとも不当な手段であると思う 取材に応じてくれたコルセラ農業政策局補佐官は農業計画や政策の立案、農牧 生産システムに関する調査・分析、通商政策および協定に係る調整を実施する農 業政策局において、貿易協定政策を担当しており、5月21日に実施したインタビ ューの概要は以下のとおりである。 ・関税の削減については、ブラジルは大幅な削減を望んでいる。農業製品の関税 の平均は工業製品に比較してまだ高すぎる。それに関税率2〜3%のものもあれば 400〜500%のものあるというようにあまりにも不均一である。そのため高い関税 をより多く削減し低い関税の削減率は少なくして均一化を図る「スイスフォーミ ュラ」の適用を提唱している。 ・関税割当については、URで非関税障壁を関税に置き換えるという観点から導 入され、それまでアクセス不可能だった市場にもアクセスすることが可能になっ た。そういう意味では役割を果たしたので廃止するべきである。 ・国内支持、国内補助金については、各国の都合の良いように「緑」の政策に 当てはめることを防ぐため、基準を見直し厳しく設定する必要がある。なお、ケ アンズ・グループはデミニミスの撤廃を提案しているが、ブラジルとしてはまず AMSを削減することが重要であり、デミニミスレベルまで下げることを熱望する 輸出補助金は、国際貿易の中でもっとも不当な手段であると思う。途上 国の競争力を優遇するのではなく先進国の経済力が優遇され、それによって途上 国を国際貿易から排除することになるからである。 ・途上国の取り扱いについては交渉の段階で取り組むテーマではないと思う。 交渉によって大枠を決めた後に、途上国を優遇するための措置を盛り込むべきで ある。交渉の段階でこのテーマを盛り込もうとすると交渉が非常に複雑になるか らである。
(1)ブラジル全国農業連盟(CNA) 輸出補助金は、競争性を歪曲させるもっとも不正な施策であり撤廃を提唱する 5 月27日の取材に応じたベラルド貿易部長からのコメントの概要は以下のと おりである。 ・関税の削減については、先進国はスイス・フォーミュラに修正を加えて提案し ているが、そのままスイス・フォーミュラを適用することが理想である。もちろ ん交渉の余地はある。 ・関税割当については低関税である関税割当数量を段階的に拡大し100%にする こと要求し、それにより最終的には割当は意味がなくなるため廃止することを提 唱する。 ・輸出補助金は、競争性を歪曲させるもっとも不正な施策であり撤廃を提唱する。 段階的に撤廃することが唱えられているが、われわれは即刻撤廃を求める。もち ろん交渉の余地はあるが、期間的な交渉に応じても撤廃すべきという点について は譲らない。 ・国内支持政策や国内補助金について、各国が国内農業を保護する政策をとるこ とについては問題無いが、国際貿易を歪曲するものはいけない。たとえば米国が 国内の大豆生産者を優遇する政策をとり、その結果として国際市場に対しより多 くの大豆を供給することになれば大きな歪曲効果をもたらす。したがって輸出効 果をもたらす支援策は排除するか規制する必要がある。
南米においては、農業交渉モダリティの確立期限であった3月31日以降の農業 団体等のプレスリリースがなかったため、インタビューを実施した。アルゼンチ ン、ブラジルとも畜産大国であり、農業団体は当然畜産物貿易に大変関心がある。 しかしながら、インタビューに際し畜産に特化した話が出なかったことから察す るに、個別品目の話はまだまだ先の交渉であり、言及する時期ではないと見てい るようだ。また、輸入自由化がさらに進めば国際競争によって消費者は安くて品 質が良い食品を手に入れることができ、かつ供給国の選択肢が増えることにより 食料を国内に安定供給することが可能になり、消費者にとってたいへん有利にな ると考えている。 なお、メルコスル等各国(アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル、 チリ、ボリビア)の農業における国際交渉力を強化するため、5月30日に農業担 当大臣が集まり、第1回南米南部農牧審議会(仮称)が開催されており、今後共 同歩調を取れるか注目される。
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