特別レポート 

米国および豪州の畜産物需給見通し

企画情報部企画課




1 はじめに

 米農務省(USDA)は毎年2月、「農業観測会議」を開催する。会議はUSDA
が米国における主要農産物の需給状況や、今後10年間(2003年〜2012年)の長
期見通しを明らかにするとともに、政策推進上の課題などについては、ゲストス
ピーカーが講演し、質疑が交わされる。この予測や意見は、農業予算の支出見込
みの算定や政策の決定などに利用されている。

 一方、豪州では、連邦政府の農林漁業省豪州農業資源経済局(ABARE)が毎年
3月上旬に、「農業・資源観測会議」を開催する。穀物や食肉などといった主要
な第一次産品ごとに、短中期的な(2007/08年度まで:年度は7月〜翌年6月)
需給予測を発表するほか、時々のトピックスを取り上げ、各分野の専門家による
分析、提言が行われている。

 ここでは、今年の両会議(米国は第79回、豪州は第33回)で示された需給見
通し等の中から、主要な畜産物について、その概要を報告する。

 なお、米国の予測は、2002年11月現在、豪州については、2003年3月4日現
在のものである。
経済一般の短中期見通し(豪州・「農業・資源観測会議」より)

世界経済は2003年以降、穏やかに回復

  2002年の世界経済は、年後半から回復すると見込まれていたが、米国や日本な
 ど経済協力開発機構(OECD)諸国などの経済が依然として停滞していることか
 ら、結局低い経済成長率となった。2003年以降は、これらの国で穏やかに回復す
 ることが見込まれている。ただし、3月に起こったイラク戦争の影響が今後、米国
 をはじめ世界経済にどこまで影響を及ぼすかが懸念される。
豪州経済は干ばつの影響で2002/03年度の経済成長率は低下

 2001/02年度(7月〜6月)の豪州経済は、世界経済が全体的に停滞している
 中で比較的順調であった。しかし、2002年に発生し現在も続いている大規模な干
 ばつは、豪州の農業経済に深刻な影響を及ぼしており、この結果2002/03年度の
 同国の経済成長率は、前年度よりも低下することが予測されている。2003/04年
 度以降の同国の経済は、干ばつの動向にもよる(ABAREでは2003/04年度内に
 干ばつ終息を想定)が、全般的に順調に推移することが予測されている。
今後は豪ドル高の傾向

 2002年の豪ドルの為替動向は、9月まで世界の主要通貨である米ドルに対して
 比較的安定的に推移した。しかし、10月以降は豪州経済が米国経済よりも順調で
 あることから、豪ドル高の傾向となった。2003年に入ってもその傾向は続いてお
 り、2004年以降も豪ドル高で推移することが予測されている。なお、4月のイラ
 ク戦争終結以降は、さらに高くなる傾向が強まっている。
 
 

2.牛肉

(1)米国

飼養頭数は引き続き減少

 2002年の牛飼養頭数は引き続き減少し、キャトルサイクルの減少局面は8年目
に入った。2003年1月の牛総飼養頭数は前年比0.6%減の9,600万頭となり、ピ
ークであった96年と比べると7%の減少となった。肥育素牛供給がタイトなこと
から、生産者は未経産牛を留保する傾向にある。同年1月の未経産牛の飼養頭数
は、肉用は前年比1%増、繁殖用は同3%増という結果からもうかがえる。牛飼養
頭数は、2004〜05年に9,500万頭でキャトルサイクルは底を打ち、その後はわず
かながらも上昇局面に転じると見られている。

 一方、フィードロットにおける更新は2003年には減少が見込まれている。2002
年の子牛生産頭数は1951年以来最も少ない頭数となり、これはそのままフィード
ロット向け子牛の導入頭数の減少を意味している。このため、フィードロット飼
養頭数は、2003年はいっそうタイトとなり、生産者はさらに未経産牛を繁殖牛群
に加えるために留保すると見込まれている。しかし、飼料供給が今夏またはそれ
以降も厳しい状況が続けば、フィードロットからの出荷が進む可能性もある。
生産は2004年まで減少傾向

 2003年の牛肉生産量は、1頭当たり枝肉重量は前年並みであるが、と畜頭数の
減少により、前年比5%減の1,168万トンと見込まれている。上期(1〜6月)の
生産量は、2002年後半にフィードロットへ導入した牛の出荷が続き、乳用牛と肉
用牛いずれのと畜も比較的進むとみられ、減少は1%以下とされている。しかし、
下期(7〜12月)はフィードロット飼養頭数の減少により、と畜頭数は約8%の減
少が予測され、第4四半期の生産量は大幅に減少するものと見られる。さらに、
繁殖経営における未経産牛の留保を反映して、牛肉生産は2006年以前の増加は見
込めない。また、生産量の減少から、肥育素牛価格は上昇が見込まれている。


輸出は依然増加傾向

 2002年の輸出量は112万トンと記録的な数量となり、中でもメキシコおよび韓
国向けの需要が最も強く、BSEの影響による日本向けの減少分を補った。2003年
は日本向け輸出の回復から115万トンとさらに記録を更新すると見込まれている。
その後も牛肉価格の上昇や主要輸入国の為替安から成長率は鈍化するものの、引
き続き輸出量は増加するものとしている。なお、日本の輸入量は86万トン、韓国
については42万トンと見込まれている。

 また、特に輸出やホテル・レストラン向けに、より高品質な牛肉への需要が高
まり、牛肉部門での垂直的統合が進むとされている。


(2)豪州

生産等に対する干ばつの影響は2005/06年度まで

 現在干ばつで牧草や飼料用穀物、また水が不足しているため、生産者は牛を早
期にと畜に向けている。こうしたことから、2002/03年度のと畜頭数は、前年度
比9.9%増の947万頭、牛肉生産量は3.4%増の210万トンと予測している。こ
の結果、飼養頭数は2003年3月31日現在、前年比4.3%減の2,420万頭と見込
まれている。2003/04年度は、当該年度内に干ばつが終息し、生産者が牛群再構
築のため牛を留保すると見込まれることから、と畜頭数は18.8%減の769万頭、
生産量は17.7%減の174万トンと予測されている。2004/05年度以降は飼養頭
数も増加に向かい(2,450万頭)、2006/07年度には、回復する見込みである。

 なお、豪州の牛肉生産におけるグレイン・フェッド牛肉の占める割合は、生産者
の牛肉の品質を重視する傾向が強まることから、高まっていくと見込まれる。
米国向け等輸出は伸び悩む

 豪州最大の牛肉輸出先である米国向け(2002/03年度は34万トン)は、干ば
つの影響等で2004/05年度(28万トン台)まで減少する。その後は回復するが
2007/08年度になっても37万8千トンであり、2001/02年度の水準(40万3
千トン)には戻らない。これは、・今後も豪ドル高の傾向が続くと予想されてい
ること、・米国は同国産牛肉輸入に関して関税割当を行っており、豪州の牛肉輸
出増加を妨げていること、・口蹄疫の発生で米国への輸出が禁止されていたウル
グアイ産牛肉の輸出が解禁(2003年5月)され、今後同国の米国への輸出量が増
加することなどが挙げられる。

 なお、主要輸出先であるカナダ向け輸出は、2003年5月に発生した同国での牛
海綿状脳症(BSE)の今後の影響にもよるが、ウルグアイ産牛肉と競合すること
などから、輸出は米国と同様に伸び悩むことが予測されている。

 輸出量合計では、02/03年度の91万6千トン(製品)から03/04年度には
72万3千トン(21.1%減)と大幅な減少となっているが、USDAの予測値で見る
と(表参照)、2003年の150万トン(枝肉ベース)から2004年は145万1千ト
ン(同、3.3%減)とわずかな減少しか見込んでいない。
   
   
日本向け等は順調に増加

 金額では最も大きい輸出額を占める日本向けは、2001年9月のBSE発生によ
り、日本国内の牛肉需要が落ち込んだことから、2001/02年度の輸出量は対前年
度比27.7%減の24万3千トンと大幅に減少した。しかし、その後日本政府が消
費者の牛肉に対する安全対策に努力したことなどから、需要はある程度回復して
きている。日本への輸出は2003/04年度、2004/05年度は干ばつの影響を受け
るものの、その後は順調に増加し2007/08年度はBSE発生以前の2000/01年
度を上回る37万8千トンと見込まれている。ただし、今後の日本の輸入牛肉に対
する関税の緊急措置(SG)発動が懸念される。

 また、米国、日本に次ぐ輸出先である韓国向けも同国の経済が好調であること
から順調に増加していく。2007/08年度の同国への輸出量は、2000/01年度に
比べると60%近く増加の9万トンと見込まれている。なお、今後は日本や韓国な
どの輸出市場をめぐって、豪州に次ぐ牛肉の輸出国である米国や口蹄疫の清浄化
が進んでいるアルゼンチン、ウルグアイなど南米諸国との競合が一層激化するこ
とは避けられない。


生体牛輸出は今後大幅に増加

 生体牛輸出は、干ばつの影響で2003/04年度は落ち込むものの、主要輸出先
であるインドネシアやフィリピンなど東南アジア諸国の経済が順調で今後も需要
が伸びることなどから、豪ドル高の傾向が今後どこまで影響するかによるが、大
幅に増加することが見込まれている。2007/08年度の輸出頭数は、2000/01年
度と比べ39.5%増の118万頭と予測されている。


牛肉価格は干ばつの影響で2003/04年度は上昇も、その後は伸び悩み

 牛肉価格(生体と畜場価格)は、干ばつの影響で生産量が増加することなどか
ら、2002/03年度は前年度を22.5%下回る1キログラム当たり237豪セント(約
182円、1豪ドル=約77円)となるが、2003/04年度は干ばつが終息し、生産
者が牛を保留すると見込まれることから、前年度を大幅に上回る285豪セント
(219円)まで上昇することが見込まれている。しかし、その後は生産量が増加
し、同国の牛肉生産量の6割が向けられる輸出も、増加はするが米国などとの競
争激化により金額的には2001/02年度の水準には回復しないことから、これが
結果的に牛肉価格に反映され2007/08年度は2001/02年度を8.6%下回る243
豪セント(187円)と予測している。
 
豚肉と鶏肉(USDAの需給見通しより)

(1)豚肉
 
  2002年は飼料価格の高騰と生体豚価格の低下から、生産者は規模拡
 大を図らず、 豚飼養頭数は減少した。
 
  一方、2002年の生産量は前年比を3%上回り、869万トンという記
 録的な水準 となったが、飼養頭数の減少と肉豚市場への慎重な見通し
 から2003年については、 減少が見込まれている。価格は2003年を通
 じて上昇するものと見られるが、2004 年以前に規模拡大を引き起こ
 すだけの充分な収益の改善とはなりえないと見られ る。
 
  中・長期的には、豚肉生産量の伸びは緩やかとなり、企業統合など
 のいっそう の進展から、ピッグサイクルは解消の方向へ進むと見られ
 る。また、大規模経営 による市場シェアが拡大する一方、生産コスト
 の増加は抑制されるものと見られ る。
 
  2002年の豚肉輸出量は、前年比4%増の73.2万トン(枝肉重量ベー
 ス)とな り、2003年以降も増加の見通しを立てている。なお、中・
 長期的には、環太平洋 諸国およびメキシコが主要輸出相手国であり、
 カナダが引き続き同市場における 競合相手となるものと見られる。
 
 一方、輸入量は、2002年はカナダでの生産量の増加から15%増とな
 った。2003 年以降も伸びは緩やかなものとみられるが、増加と予測
 されている。
 
   
 
(2)ブロイラー

  2002年の国内供給量の増加は、輸出の中断という要因によるところが
大きい。ブロイラー輸出量は、2001年に比べ12%の減少となった。中でも
ロシアとの貿易問題が最大の減少要因とされているが、その他、香港、メ
キシコ、日本など主要市場への輸出も各州で発生した疾病により一時停止
することとなった。この結果、在庫量が増加し、価格も前年に比べ低下し
た。

  中・長期的にはブロイラー輸出量の増加ペースは、ブラジルを始めと
する他の輸出国との競争激化を反映して、90年代に比べ、ゆるやかなもの
となると見込まれている。また、ロシア向け輸出量は、 他の輸出国との
競合などから、これまでの10年間のような増加ペースは見込まれない。
 
   


3.牛乳・乳製品

(1)米国

生乳生産は着実に増加の見込み

 酪農部門は、2002年11月15日に発表された乳製品の買上価格の見直しによっ
て調整が進むものとみられる。バターの買上価格が引き上げられた一方、脱脂粉
乳価格が引き下げられたことで、市場の状況が好転し、CCC(商品金融公社)の
抱える脱脂粉乳在庫削減が図られるものと見込まれる。

 生乳生産は、経産牛の飼養頭数が減少するものの、1頭当たり乳量の増加から、
引き続き増加が見込まれている。また、国内の乳製品需要は、人口成長率に比べ
わずかに早いスピードで引き続き増加するとされている。中でもチーズおよびバ
ターの需要は、加工調理済み食品や持ち帰り食品の消費量の増加から大きな伸び
が見込まれている。これに対し、1人当たりの飲用乳消費量はゆるやかな減少が見
込まれている。

 なお、米国はUR農業合意に基づき、輸入割当制度から輸入関税割当制度へ移行
した。2001年の乳製品の生産および輸入実績は、チーズは生産量が3,687万トン
に対して、輸入量が198万トン、脱脂粉乳が同6,451万トンに対して5万トン、バ
ターが同600万トンに対して15万トンとなっている。今次WTO農業交渉においては、
アクセスの拡大、税率の引き下げ、国内保護水準の引き下げなどが論点となって
いるが、前記のようにUSDAは生乳生産量の一貫した増加を見込んでおり、強気な
内容となっていると言えよう。


(2)豪州

生乳・乳製品生産に対する干ばつの影響は2003/04年度まで

 干ばつの影響で乳牛頭数が減少し、1頭当たりの乳量も減少することから、生
乳生産量は、2002/03年度、2003/04年度まで影響を受けることが予測されて
いる。2002/03年度の生乳生産量は、前年度比9.9%減の1億16万リットルと
見込まれている。これに伴い、バターや脱脂粉乳、チーズなどの乳製品の生産量
も減少する(ただし、チーズは粉乳類の輸出需要が増加しており、粉乳類の生産
に仕向けられることから2004/05年度まで減少)。その後生乳生産量は回復し、
順調に増加して2007/08年度は2000/01年度に比べ8.4%増の1億1,436万リ
ットルと予測されている。これと併せて、乳製品の生産量も輸出の増加もあって
伸びることが見込まれている。また、生乳価格も2002/03年度は低下するもの
の、主に輸出の増加により好調に推移する。


今後の国際競争力に自信

 今後、乳製品の国際需要は、世界的な乳製品の増産傾向の中で、経済が好調な
東南アジア諸国からの需要を除き全般的に緩和傾向となることが予測されている。
特にチーズは、今後かなり供給過剰になることが見込まれている。しかし、豪州
は国際競争力を強化するため、2000年7月の酪農乳業界の制度改革により、国内
の生乳の価格支持制度、州ごとの生産規制を撤廃した。また、育種改良や飼養管
理などの技術改良や酪農家の経営改善にも積極的に取り組んできた。この結果、
豪州は今後国際的な需要が限られた中であっても、それに耐えられうる国際競争
力を持つようになった。今後、最大の競争相手は、豪州と同様に積極的に国際競
争力強化を図っているニュージーランドとなるであろう。また、世界の主要酪農
地域(国)であるEUによる輸出補助金の削減や米国の国内補助の削減とアクセ
ス数量の拡大などが実現し、今後WTO農業交渉によって自由貿易を推進していく
ことが、今後の豪州の酪農産業により一層の経済的利益をもたらすことであろう。




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