豪・米FTA交渉をめぐるオセアニアの動向
豪州でFTAに対する悲観も
豪州と米国の自由貿易協定(FTA)交渉は、昨年11月に交渉開始が合意され、
今年3月に第1回目の交渉が行われた。しかし、豪州側の関心が強い農業分野に
ついては困難な展開が予想されている。
豪州の民間コンサルタント会社が2月に発表した調査報告書では、両国間のFTA
について、比較的に要求項目の少ない米国が交渉の主導権を握ることとなり、農
業分野の交渉が実らなければ、豪州連邦政府が経済的に期待している年間数十億
豪ドルの利益とは反対に赤字となる可能性があることを指摘している。
こうしたことから、米国とのFTAは豪州にとって未だかつてない機会であるも
のの、農業分野が協定から除外される可能性や早期締結が困難であるなど悲観的
な見方も出始めている。
肉牛業界団体が早期締結と完全自由化を再度要請
豪州の肉牛生産者団体である豪州肉牛協議会(CCA)は5月12日、北米自由貿
易協定下にあるメキシコやカナダからの牛肉輸出のように、豪州産牛肉の完全か
つ迅速な市場アクセスの獲得を目指すため、FTA交渉について支持することを改
めて発表した(CCAは、従来から積極的に米国とのFTA交渉を支持している)。
この発表は、5月上旬に開催された豪州各地からの牛肉生産者の代表者が出席し
たCCAの会議での合意に基づいて行われたものである。
CCAのアダムス会長は、「10〜12年にわたるような交渉は受け入れられるもの
ではなく、迅速な自由化がわれわれのゴールである」と短期での交渉妥結を強く
求め、また、豪州の牛肉生産規模は米国の6分の1程度のものでしかないため、
米国の牛肉生産者に対する脅威にはならず、むしろ、「豪・米両国における牛肉
消費を増加させる努力を一緒に行うことが両国の牛肉生産者にとって重要であ
る」としている。
CCAの発表は、当面の交渉において市場アクセス関連の交渉は棚上げされる見
通しが支配的であるため、牛肉貿易の自由化を標榜する5カ国牛肉会議の盟友で
ある米国の生産者に対して連携を訴えたという見方ができる。
NZ酪農業界にも影響の兆し
一方、豪州の隣国ニュージーランド(NZ)でもこの交渉に関連した影響が出て
きている。
NZのフォンテラと米国のデイリー・ファーマーズ・オブ・アメリカ(DFA)は、
米国において出資比率50対50の合弁会社デイリ・コンセプツ(DC)を立ち上げ
たが、5月初めNZにおいて、DFAのキャメルロ最高経営責任者がフォンテラ傘下
の酪農家を前に次のように語った。
まず、合弁会社DCについては、
・ 組織としての法的整備など経営面の事項に関しては問題ない
・ 企業として両社の出資者である酪農家に利益を与える事業を行うことは当然
・ ただし、DFAとフォンテラの間では貿易政策に対する視点は異なる
と暗に両国の酪農家の立場の違いを示唆し、米国と豪州のFTA交渉について、
・ DFAは企業として豪州と米国とのFTA交渉について断固反対
・ 米国酪農界にとってもこの交渉は全く得るものがなく、米国政府の重大な
過ちの1つ
・ 貿易交渉は、世界貿易機関の場で一元的に行われるべきものであり、DFA
は乳製品の関税率引き下げや補助金廃止を米国政府とともに訴える
と言及している。
この発言に対し、フォンテラは予想された姿勢であるとし、DFAが「自由な貿
易」ではなく平等な交易条件による「公平な貿易」を追求していると認識してい
るようだ。
ただし、豪州同様にケアンズ・グループの一員として自由貿易を目指すNZのフ
ォンテラにとって、今後の豪・米とのFTA交渉の動向によっては、合弁事業の展
開を通じたDFAとの同盟関係にそごをきたす可能性も指摘されている。
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