上海における食品産業へのSARSの影響 ● 中 国
米農務省海外農業局(USDA/FAS)が5月14日に公表したレポートによれば、
中国本土でここ数カ月の間、猛威を振るっているSARSに対する国民意識の高ま
りや感染者数の増加により、食品の消費パターンや売上げ、価格に多くの変化が
出ている。上海では大規模な発生は見られないものの、メディアによる報道や
SARSに対する人々の関心から市内のホテル、レストラン関係や食品産業など大き
く影響を受けている。
以下の概要はアメリカ農産物貿易事務所(ATO)による調査や新聞記事、自治体
からの報告などによるものである。
ホテル、レストラン業界は軒並み業績悪化
4月初旬から、レストランやホテルでは、売り上げや利用率が徐々に低下してい
る。ホテル施設を利用した商談のキャンセルも利用率の低下に拍車をかけている。
また、Shanghai Catering Associationによれば、SARSへの不安から人々が家
で食事を取るようになったことで、レストラン業界は打撃を受けており、売上げ
は4月初めと比べ、6割にまで落ち込んでいる。
5月第1週から、上海保健局は上海のすべてのホテルに対し、利用客がホテル
に入る際の検温を命じている。ホテル従業員は、スポーツクラブやレストラン、
通用口に至るすべての入り口ですべての客に対し、検温を求められている。検温
の実施は今まで一貫性がなかったが、ATOでは、この措置が人々のホテルレスト
ラン離れをいっそう強めるものと見ている。
また、中国では全食肉販売量の4分の1がレストランにおけるものであるが、
レストラン需要の低迷から、食肉価格はかなり低下している。
卸売、小売市場では玉ねぎが注目
SARSとの闘いにおける数少ない勝利者の1つが、地方の小売業界である。生鮮
食品や健康志向食品、さらにはSARSウィルスに打ち勝つとされている評判の商
品などを中心に売り上げを伸ばしている。上海の中央卸売市場によると、1日当
たりの野菜の平均販売量は1,100トンと前の2週間と比べ30%増加している。特
にタマネギ、ねぎ、ニンニクの売り上げが好調で、これは上海人が健康を保ち、
ウィルスを撃退するのに役立つと信じているためと見られている。また、オレン
ジは国産、輸入品を問わず目覚ましい売り上げを示している。上海ビジネス紙に
よると、生鮮果実の上海市における売り上げは、1日当たり3千トンと前年4月の
同時期に比べ、20%の増加となっている。一方、鶏肉、豚肉製品については20〜
30%の減少となっている。
食肉部門ではと畜停止措置も
現段階では、食品加工業の調査結果を全体のものとして捉えることはできない。
しかし、企業がどのようにして不況や需要の低迷に対応しているかという事例と
して、People's Food Holdings Ltdの例を挙げると、中国最大の国営食肉加工企
業である同社は、3工場での豚のと畜を一時的に停止するとしている。これによ
り、と畜頭数は昨年の600万頭の半数となると見込まれている。また、SARS拡
大への懸念から新工場の開設を遅らせることも明らかにしている。
企業の中にはPeople's Food Holdings Ltdのように、製造量を削減していると
ころもあるが、それにもかかわらず、消費者が食肉製品の購買量を減らしたり、
レストラン離れを起こしているため、食肉の価格は低下している。また、SARSは
動物からの感染による可能性があるとの報告から、肉類を食べることを避けるば
かりでなく、家庭で飼っているペットの放棄まで引き起こしている。豚肉の価格
は4月初旬に比べ、7.4%低下しており、中国の主要な鶏の生産地域である山東省
では、生体鶏の価格は4月中旬から3分の1以下となっている。
米国の食品輸出への影響
米国の食品輸出へのSARSの影響は、発生がいつまで続くか、さらに具体的に
言えば、日常生活にいつまで影響を及ぼすかによるものと見られる。上海では防
衛対策が日々の生活の一部となっているにもかかわらず、SARSの影響は沈静化す
る傾向にある。しかし、同地域の他の都市では、極めて慎重な雰囲気が残ってお
り、このような状況下では、影響について判断するのは困難であり、今後のさら
なる調査結果の公表が待たれる。しかし、2つの潜在的な問題については、注意
深い観察が必要である。第1にSARSのマイナス影響が食肉消費に及んでいるこ
とで、この被害の大半はレストランでの販売減により、輸出業者は自国がSARS
フリーの状況にあっても利益を得られそうにない。第2に香港から中国本土向け
製品輸送への影響である。国内製品と同様に香港を通じた輸入品の積み替えに衝
撃を与えており、中国への輸入食肉、野菜、果実などの直送への影響も長期化す
る傾向が強まるものと見られる。
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