特別レポート 

干ばつ支援対策について

シドニー駐在員事務所 粂川俊一、井上敦司




1 はじめに

 豪州は昨年から今年にかけて、「100年来」と呼ばれるほどの干ばつに見舞わ
れている。現地の生産者に干ばつの程度について尋ねると、その者の年齢によ
り、「1960年代以来である」、「80年代以来である」などの回答を得る。100
年来という表現は平均降雨量から導かれた表現と思われ、今回の干ばつの評価
そのものは終息した後の統計数値など客観的なデータによることとなるが、例
えば、豪州農業資源経済局(ABARE)が定期的に発表する「穀物レポート」で
は、夏作穀物が20年ぶり、冬作穀物が8年ぶりの不作と予測されとり、その影
響において農作物の生産動向からは80年代以来の干ばつという見方が今のとこ
ろ支配的である。

 全国的に干ばつは緩和の方向に向かうとみられるが、現時点でも降雨は濃淡
がある状況で、ニューサウスウェールズ(NSW)州西部では厳しい乾燥気候が
継続しており、全国の多くの地域で水の運搬が行われている。

◇例外的環境(EC)境界図◇

資料:豪州農業・漁業・林業省(AFFA)
注:あくまでもEC支援措置の境界図であるため、現実の気候状態を表すもので
はないが、色塗りの部分が干ばつの影響を受けた地域に相当
 豪州の過去150年における主要な干ばつは下表の通りである。その中でも大規
模な干ばつは8回とされ、豪州気象局では、多くの地域に影響を与える過酷な干ば
つは18年に一度しか起きないと分析している。

◇豪州における主要な干ばつ◇

資料:豪州気象局 注 :現在の干ばつは終息していないためそれ以前のもの
 干ばつは、まず発生した農家やその地域社会に影響を与えるが、その影響は
すぐに国家経済全体に広がる。実際、連邦政府は昨年11月に2002/03年度の
経済成長率を当初の3.75%から3%に下方修正している。

 本稿では、豪州の農業部門の再生へのカギを握ると考えられる干ばつ支援対
策について、歴史的な経緯を踏まえ、特に今回の支援対策においてさまざまな
論議を呼んだ例外的環境(EC)支援措置に重点を置き報告する。

2 災害などによる被害農村地域に対する政府支援対策の変遷

 歴史的に見ても、豪州では周期的に干ばつが発生しその影響も大きかったこ
とから、政府の対応もその発生のたびに発展した。現在の対策の基礎となった
のは、重要な政策の転機となった1989年における「干ばつ政策見直しチーム」
の議論の結果を踏まえて92年に連邦州政府で合意された「全国干ばつ政策」で
ある。
 (1)災害への資金供給と農村地域調整計画(RAS) 
 干ばつなどの発生で導入された最初の対策は、1935年における負債整理を中心
とする対策であり、類似の対策が数十年間継続した。70年代に、小規模経営に
よる低所得問題が肉牛や酪農、作物を含め多くの部門にわたって明らかになっ
たため、農業部門における構造的な問題を解決する必要性が認識され、それと
ともに対策もその焦点を変えることとなった。 

 1977年に農村地域調整計画(Rural Adjustment Scheme:RAS)が、政府の農村地
域に関連するさまざまな措置を1本の対策として合理化し、体系立てられた運
用がされていなかった干ばつ関連支援の措置を含めて再編成された。
 RASは主に3つの要素から構成された。


・農場開発のための融資について、金融機関が妥当な利率を設定するための資
 金供与

・金融機関の債務整理期間にある農家に対する短期的な経営救済措置(財政援助)

・離農し、他の職業に就くことを決めた農家に対する財政援助

 RASは1985年、88年、92年における修正を経て、97年まで継続した。
 
 (2)政策の転換  
   RASが修正を経ながら実施される一方で、干ばつ政策をめぐり議論が繰り広げ
 られ、その政策も転機を迎えることとなった。これは1980年代と90年代の数 
 十年にわたる経済の規制緩和に向けた政策の動きを反映したものでもある。
 
・ 干ばつ政策見直しチームの議論

    1989年に連邦政府は、干ばつ政策見直しチームに干ばつ政策について独立的か
 つ包括的見直し案の検討を委託した。委員会は、自然災害に対する援助計画の
 下に干ばつ対策が包含されていることに批判的であった。むしろ、幾つかの州
 政府による、「乾燥した気候の期間そのものに政府支援の資格がある」という
 意見に同調した。従って、気候状況に応じて対処する能力ではなく、政府支援
 が利用可能とする条件の整理・検討に重きが置かれた。

  このような視点から政策は、「短期的な農家に対する援助」から、構造調整下
 にあっても「長期的に経営が持続可能な農家に対する援助」に変化した。言い
 換えれば、これは「災害時資金供給」のような災害対応から生産者の「自立経
 営」に対する支援を伴うリスク対応への転換であった。
 

 ・ 全国干ばつ政策

  干ばつ政策見直しチームの議論を踏まえ、連邦政府と州政府のその後の検討
 の結果として1992年に全国干ばつ政策が確立した。
 
  その中で、「政府は、生産が急激に低下した時期において農村地域の経営基
 盤を社会的にも物理的にも維持するために行動し、回復段階において構造的な
 問題に対する支援を提供する」ことを目的とし、具体的に次のことを目指した。
 
 ・干ばつの影響によるリスクを理解する農家を援助し、農地に有害な影響を与
 える気候条件の負担を軽減するために農家自らが実行可能な戦略を発展させる
 こと

 ・干ばつ時における土地を保持する措置により、長期間にわたる豪州の農業経
 営基盤を保護 すること

 ・干ばつの影響から農地の回復を支援する対策を取ること
 
   
(3)農村地域政策の統合とEC 
  国家的な干ばつ政策の確立を踏まえ、RASもこれに基づいて最終的な修正を行 
 い前回の干ばつ(91〜95年)に対応した。その後、97年の農村地域の統合政策 
 に基づく農村開発などが行われ、豪州は今回の干ばつを迎えることとなる。 
  
 @「発展するオーストラリア」(AAA)

   1997年9月、当時のアンダーソン第一次産業エネルギー大臣は、RASなどの農 
  村地域の統合政策「発展するオーストラリア」(Agriculture  Advancing Australia:
   AAA)を発表した。  

   AAAの目的は次の通りである。

・個別の農場が利益を得るよう開発援助すること 
・農場の構造調整がうまく進展するように支援すること 
・農村地域の社会的・経済的な発展を促進すること 
・農場部門が社会福祉の適切な恩恵を被ることを確実にすること
  特にこの統合政策を実行するために、次の措置が取られた。
・税金の特例処置に伴う農場経営預金制度(Farm Management Deposit Scheme)  
・農場経営の技能を改善するための農場事業改善プログラム
 (Farm Business  Improvement Program) 
・世代間の農場所有権の継承を容易にする支援
・EC支援(後述)準備の継続 
・社会福祉と再建の支援(Farm Family Restart Scheme)


 A例外的環境(EC)

 AAAの中でも重要な要素の1つであるECは、全国干ばつ政策の確立後、測定 
可能な基準によって支援を行う試みとして開発された最初の対策である。干ば  
つや洪水などの例外的な環境下において、経営困難な農家を支援する「通常の」 
プログラムに加えて、これを補足する仕組みを供給するためにECの概念は導入 
された。用語としての「例外的環境」(Exceptional  Circumstances:EC)はた
だこ れを行うために作り出されたものとされている。
  
 農業・漁業・林業省(AFFA)によれば、「ECを認定することによって、通常
のリスク管理の範囲を超えて、地域における大部分の農家の将来が危機的な状
態である時に、生産者に短期的な支援を行う。EC認定を行うような重大事とは、
 20〜25年に一度しか発生する可能性がないというほど過酷で長期の影響を持つ
もの」としている。

 他の重要なECのガイドラインは次の通りである。

・ECが認定されるためには、その状況が保険に適するものであってはならない 

・農場収入に対する影響の期間は長期間にわたるものでなければならない  
 (例:単なる季節的な下落ではなく12カ月以上のもの)

 加えて、市場競争の結果としての農産物などの各部門で起きる商品価格の変
動や、長期の構造的な調整の結果に起因する現象を含まないことが重要とされ
ている。 
 

3 連邦政府の支援対策

 今回の厳しい干ばつは、政府がECの対応を通じてかなりの財政支援を行わな
ければならないことを意味した。EC支援には限度の取り決めがないが、財務省
によれば、2002年と2003年において、ECに要する支出は控えめに見積もっても
3億7千万豪ドル(約285億円、1豪ドル=77円)となっている。

 なお、干ばつ救済に必要な資金供給の発動のためには、連邦政府、州政府とも
いわゆる「干ばつ宣言」的な性格を持つ認定などの行為を実施する必要がある。

 具体的には、まず、州政府は州内で10〜15年に一度しか起きる可能性がない
規模の干ばつが発生した地域を「干ばつ地域として指定」(干ばつ指定地域)
する。この段階で、州独自の干ばつ救済措置を実施することが可能になる。次
に、その地域に対して連邦政府の主要な干ばつ救済措置(EC支援措置やEC要件
関に連する救済措置)を発動するために、連邦政府はECの手続きを通じて、20
〜25年に一度しか起きる可能性がない規模の干ばつが発生した「EC地域として
認定」(EC認定地域)する。


(1)干ばつ救済プログラムの概要


 連邦政府が行う干ばつ支援対策は、主に農業・漁業・林業省によるものであ
るが、他の省でもそれぞれの干ばつ救済プログラムを持っており、今回の干ば
つの対応においては合計で下表に掲げた18件に上る。また、それらは性格的に
次の5つのカテゴリーに分類することができる。

・干ばつの影響を受けた個人または家族に対する直接的な財政支援
・金利補助あるいは税金の特例のような措置を通じた間接的な財政支援
・干ばつの間とその後における地域の再建支援
・見習制度、職業訓練、雇用主に対する雇用奨励などの雇用対策
・干ばつの影響を受けた人々に対するカウンセリングサービス


連邦政府の干ばつ救済プログラム




注:プログラム名欄の右下は所管官庁の略称。
AFFA:農業・漁業・林業省、DITR:産業・観光・資源省、EA:環境・遺産省、
FaCS:家族・社会サービス省、DEWR:雇用・職場関係省、DEST:教育・科学・訓練省、
Health:保健・高齢化省


(2)例外的環境(EC)支援措置の概要とこれを実施するに当たって生じた問題


 今回の干ばつの対応においては、干ばつにより被害を受けた農業者などの救済
のため、ECの認定準備と手続きについて連邦政府と州政府の間で予算と行政の
両面で分担することが持ち込まれたが、これに関してさまざまな論議が起きた。

・  ECの具体的な概要
(特徴と支援内容)

 ECは、前章で述べたように、「20〜25年に一度だけ起こり得る気候現象」、「農
家収入の過酷な減少」、「長期間にわたる多くの農家に対する影響」、「予測
可能ではない原因」などの特徴を持たなくてはならず、認定のためには詳細な
サポート・データを必要とし、ECとして認定された地域内の農家は次のような
支援を受ける。


・経営再建に向けた再出発手当(Newstart Allowance)
	……………………2週間当たり1人につき最高405豪ドル(約3万1千円)

・上記に係る配偶者手当(Partner Allowance)
	……………………2週間当たり1人につき最高348豪ドル(約2万7千円)

・健康保険カード(Health Care Card)
	……………………無料で診療を受けられる事ができる国民健康保険カードなどの支給

・経営持続(再建)に係る金利助成(Interest Rate Subsidies)
	……………………利率の半分補助


(EC認定の手続き)

 EC認定の手続きにおける重要なポイントは次の通りである。

・申請書は、特定の地域の農家グループあるいは共同体、農業者組織などの部
 門の産業グループによって行われる。 

・申請書は、最初に州政府(準州政府)に提出される。

・州政府は申請について、必要なデータを整備したら、連邦政府の農相に送付する。

・予備の査定が農相によって行われる。もし申請書からその地域がECとして認
 定されることが適当であると判断されるなら、農相は独立した諮問機関である
 全国農村地域諮問委員会(NRAC:農家と産業専門家から構成)に送付する。

・NRACの答申が行われ、さらに、連邦内閣の承認により、その地域が「EC」
 であると認定される。

A ECを実施するに当たって生じた問題と対応

(連邦政府と州政府の財源負担)

 EC支援については、2002年5月の第一次産業大臣会議(連邦政府と各州政府の
第一次産業を担当する大臣によって農林水産および食品産業の振興を目的とし
て開催)において、連邦政府のトラス農相から財源強化について提案されたが、
その財源の負担割合をめぐり連邦政府と州政府で意見が分かれ、議論がとん挫
していた。従って、EC支援の実施に当たって、連邦政府と州政府の間の財政面
での前提条件が問題として残っていた。この財政負担割合については、同年10
月の同会議において、再度連邦政府が、初年度に連邦9割、州1割、次年度に
連邦5割、州5割で2カ年にわたり各州ごとに実施することを提案した。干ば
つの被害が深刻だったNSW州政府とQLD州政府は11月、連邦政府提案の負担
割合について了承し、EC認定・支援が開始された。


(暫定救済措置)

 EC支援を策定することに当たって、政府は、これを「通常の」干ばつ支援対策
に加え、かつこれを補足するものとしなければならなかった。これは、被害農
村地域からの「より高い水準の」支援要求ができないようにする仕組みと手続
きを準備することを意味したため、慎重な手続きを計画した。しかし、公式に
EC申請書を審査するために要した行政上の時間のために、農家がさらに経営困
難に陥る可能性があるという事実が明らかになったため、政府は、連邦の農相
によるNRACに対する諮問をもってEC支援を暫定的に開始する措置を導入し
た。
 この暫定救済措置によって、NRACが諮問を受けてから6カ月の間、農家は収
入援助に対する資格を持つこととされた。


(追加支援措置)

 暫定救済措置を導入しても、今回の干ばつは、連邦政府が2002年12月9日に
追加の支援措置を発表したほど厳しいものであった。 

 ただし、追加の背景には、EC申請の前提条件としてその地域が既に州政府によ
って干ばつ指定されていることから、州政府へのEC申請書の提出の遅延や干ば
つ指定の未実施などに起因する干ばつ支援の遅れから、早期の支援を要求する
農業団体による激しいロビー活動も挙げられる。
 連邦のトラス農相によって発表された措置における要点は次の通りである。


・暫定的な収入援助を、2002年3月から11月までの9カ月にわたって、20年
に一度の降雨不足を被っている地域の全ての農家を対象に6カ月間利用可能と
する。州の農家の80%以上がこの要件を満たす場合、連邦は州全体を暫定的な
収入援助の対象として認定する(具体的にはNSW州における農家の80%以上
が要件を満たすため、連邦は暫定的な収入援助の資格を有する州としてNSW州
を認定)。

・暫定的な収入援助の資格農家に対して、新規または追加の市中借入(最高10
万豪ドル(約770万円)まで)金利10%以上は5%、10%未満はその半分の額
について2年間の金利緩和措置を実施する。その後ECが認定された場合、農家
は既存のEC支援措置である2年間にわたる50%の金利助成金の受給資格を持
つ。

・ECに認定された地域とNRACによって諮問された地域の農家はこの追加支
援措置の資格を持つ。
以上のほか中小企業に対する金利緩和措置などを含め、連邦政府全体の追加措
置は総額36億8,000万豪ドル(約283億円)と見積もられている。

B EC認定における問題

(長期の行政手続き)

 先に述べたようにEC認定の手続きは、特別な被害を受けたケースだけを支援措
置の対象とすることから、そもそものEC認定の行政上の審査に長期間を要して
いる。EC認定の手続きを計画する際に、例えば、州の80%以上が干ばつに見舞
われるという過酷な干ばつは想定していなかったため、この手続きでは、進行
する干ばつに迅速に対応することが困難であった。


(透明性の確保)

 EC認定の際のいわゆる「透明性」に関する問題も論議を呼んだ。現在民間部門
が「健全な企業の統治」と「公開」を求められているのと同様に、公共部門は
その意思決定に到達する過程の中で「透明性」を確保するよう求められている。
農業団体は、EC認定審査結果が完全には明らかにされておらず、その審査過程
が「透明性の確保」されたものではないと批判的な目で見ている。


(農業団体の見解)

 今回の干ばつで最も影響を受けたNSW州の農業団体であるNSW州農業者協会
は今回のECの運用について次のような見解を示した。


・行政関係者の過酷な干ばつの評価方法に対する理解の欠如が、農家に混乱と
不満をもたらしたが、連邦レベルにおける手続きについての最近の変更(暫定
救済措置導入や査定の迅速化)がこの状態を改善した。しかし、過酷な干ばつ
の評価方法と、過酷な干ばつ状態が存在するかどうかについての州と連邦政府
間の共通認識の欠如のために、混乱と誤解は未だに存在する。例えば、潜在的
にEC認定基準を満たしていたNSW州とクインズランド(QLD)州の幾かの地
域は、1年近く州政府によって干ばつ指定が行われなかった。

・EC認定の手続きには審査期間の枠組みや期限がないが、その手続きの中で、
政府の他の分野(例:医薬品の認可など)で設定されているような一定の審査
期限があるべきである。例えば、州政府から連邦の農相にEC申請書を送付した
10日以内に農相の予備査定決定は発表されるべきである。このような10日間の
期限を設けることによって、EC申請書がNRACに評価されている間でも農家が
暫定救済措置の権利を与えられるかどうかを迅速に知ることができる(暫定救
済措置がいつ始まるかについても不確実な現状にある)。さらに、NRACが申
請書を受領した後のその評価を行う期間設定(4週間以内を示唆)についても検
討すべきである。

C その他の問題−畜産に対する支援の欠如−

 関連する問題として、集約的な畜産に対する支援がないことが挙げられる。干
ばつ時において、フィードロットあるいは養豚部門のような集約的な畜産は、
飼料穀物価格の急騰による急激なコスト増加の問題に直面する。

 NSW州農業者協会によれば、「現在の干ばつの間に再度認識されたことは、過
酷な影響が酪農や養豚、ブロイラーなどの集約的な畜産にも及ぶが、これらの
生産者が政府干ばつ支援のどんな書式に対しても資格がないということであ
る」としている。

 このように、干ばつ支援対策は、コストへの影響に対してではなく、干ばつの
直接の影響を受けた地域の生産者に対するものであるため、直接的な干ばつの
影響下に立地しない生産者に対しては支援措置がない。例えば、肉牛農家にお
いては雌牛の出荷頭数の増加などによる飼養規模の縮小という後ろ向きの自助
努力をせざるを得なくなる。特に畜産業界では今回の干ばつの影響による経営
規模の縮小から、食肉生産が回復するには最低5年、生乳生産が回復するには3
年程度を要すると予想されている。


4 州政府の支援対策

 今回の厳しい干ばつに対しては、州政府も独自に救済措置を導入した。以下に
おいて、干ばつの影響が大きく、肉牛や酪農の生産のウェイトが高いNSW州、
QLD州、ビクトリア(VIC)州における代表的なプログラムを示す。
なお、州政府は州独自の干ばつ救済措置を実施するために、前述したように干
ばつ地域を指定する必要がある。

(1)NSW州

 連邦政府のプログラムに加えて、NSW州政府は、2002年において下表に掲げた
5つの措置の実施を発表した。


写真:NSW州中部の肉牛牧場(2002年11月撮影)

NSW州政府の干ばつ救済プログラム


(2)QLD州
 QLD州政府は、15の干ばつ救済措置を2003年1月末までに実施したが、主な措
置は下表の通りである。


写真:QLD州南部の肉牛牧場(2002年9月撮影)

QLD州政府の主要な干ばつ救済プログラム


 その後、州政府は今回の干ばつの厳しさと影響を受けた農家の苦境を考慮し、
2003年2月下旬に次のような追加の3つの干ばつ支援措置を発表した。


・ 干ばつ時に要した経常経費に対する金融支援
・ 干ばつの影響から穀物や畜産の再生産の回復を促進するための金融支援
・ 不動産ローンに対する借り換え支援


 最初の2つは、州の指定した地域におけるすべての生産者が利用可能であり干
ばつからの回復計画は、上の表の干ばつ時穀物・畜産支援ローンを置き換えた
ものである。不動産ローンに対する借り換え支援は、EC支援の資格を有する生
産者のみが利用可能であり、資格を取得するためにその生産者は財政再建中で
なければならない。
(3)VIC州
 VIC州政府は、干ばつに対処するため、2002年9月と10月に5つのプログラム
を発表したが、主なものは下表の通りである。

写真:VIC州北部の酪農場(2003年3月撮影

VIC州政府の主要な干ばつ救済プログラム


民間の干ばつ支援に対する取り組み
−「ファーム・ハンド・アピール」−

 日本における災害時の募金活動と同様に、豪州でも慈善活動機関などを通じ
て干ばつの影響を受けた農家や家族に対する支援が行われている。民間の干ば
つ支援活動の中でも注目を集めたのは、全国ネットのテレビ局であるチャンネ
ル9(ナイン)が主催した「ファーム・ハンド・アピール」である。これは、前
回の干ばつ時の1994年後半に立ち上げられ、今回の干ばつに対応する民間支援
活動においても主導的な役割を務めたと評価されている。

 「ファーム・ハンド・アピール」のチャールズ事務局長は、2003年3月末の
マスコミのインタビューで、今回の干ばつにおける「ファーム・ハンド」の活
動について次のような要点をコメントしている。

・ 3月末時点で、2千350万豪ドル(約1億8,000万円)の寄付金を受け、その
  大部分を分配

・ 約1万5,000件の申請に対して1件当たり平均1,500豪ドル(約12万円)を
  分配

・ 受領された約1万6,000件の合計申請額(未交付のものを含む)は寄付金の
  約9倍である2億1,200万豪ドル(約163億円)となった。従って、申請書に記
  載される平均額は1万3,240豪ドル(約102万円)となった。

・ 今回の活動計画は2003年6月末で終了

・ 寄付金はさらに集まる見込みであるが、NSW州では多くの干ばつの影響を
  受けた地域が未だ存在し(特に同州西部地域)、不十分(NSW州政府によれば、
  同州の99.6%が未だ干ばつ指定地域)

・ QLD州とVIC州でも同様な状況の地域が存在
  加えて同氏は、受益した多くの者からの家庭生活における食費や学費などに
  役立てることができたという感謝の声を紹介し、この活動の約束は果たされた
  と総括している。

  しかし、同氏は、今なお助けを求める声も毎日受けていることから何らかの
  活動が今後も必要との認識を示している。そのため、この活動において、切迫
  した家庭生活のニーズに対応するために使用されてきた資金を、干ばつへの対
  応力を補強する観点から、今後、水の節約や確保の方法の調査に向けることに
  関する提案が5月に行われる予定である。今回の活動計画が終了する6月末に、
  将来の計画として新たな発表が行われることが期待されている。

   なお、このような動きに呼応するかのように、連邦政府のトラス農相は5月7
  日、水資源確保のためのアイデアを広く一般から求めることを発表している。
 

5 おわりに

 政府の干ばつに対する支援措置を政府の対策を中心に報告したが、肝心の干ばつの
動向については今なおいつ終息するかは、明らかではない。

 4月上旬に開催された第一次産業大臣会議においては、気象局から最新の気象予測
として、3〜4カ月先には平年に近い気候に戻るものの、通常の降雨量は保証されない
と報告された。その後、各地でまとまった降雨に恵まれたことや、気象局から5月6日
にエルニーニョ現象(豪州北部と東部に乾燥気候をもたらすと言われる)が終息したと
の見解が発表されたことから、明るい見通しになりつつある。ただし、干ばつの影響は
穀物生産だけでなく、生乳生産、肉牛の飼養頭数など畜産物の生産構造に与えたものも
大きく、仮に干ばつが終息してもその影響から脱却するにはしばらく時間がかかりそう
だ。

 連邦政府の干ばつ対策も歴史的な変遷を経て今回報告したような対応を行ったわけ
であるが、第一次産業大臣会議においては、干ばつが緩和した後、行政や関連産業、
生産者などによって連邦政府や州政府の干ばつ対策の効果について再調査することが
同意されており、何年かの周期で襲ってくる干ばつに対応するためには、その調査結
果の検討が極めて重要なものになるとみられる。


参考資料

主に連邦政府と州政府の干ばつ対策関連のリリースを参考にした。
以下にそのウェブサイトを記す。

連邦農業・漁業・林業省:http//www.affa.gov.au/
NSW州政府:http://www.nsw.gov.au/
NSW州農業省:http://www.agric.nsw.gov.au/
QLD州政府:http://www.qld.gov.au/
QLD州第一次産業省:http://www.dpi.qld.gov.au/
VIC州政府:http://www.vic.gov.au/
VIC州第一次産業省:http://www.nre.vic.gov.au/

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