特別レポート
シンガポール事務所 小林 誠、木田 秀一郎
インドネシアは、2億1千万人を超える人口を有する世界最大のイスラム教 国であり、東南アジア諸国連合(アセアン)10ヵ国の合計人口の約4割を占 める地域内の大国である。同国は、人口密度が高いことでも知られているが、 人口の57%に相当する約1億2千万人は国土面積の6.7%を占めるに過ぎない ジャワ島に集中している。このため各地域内における食料の生産可能量、実 生産量、消費量との間の格差は常に問題となっており、食料の自給率向上を 目指す同国政府は、「外領」と称されるジャワ島以外の島への移住政策を進 め、人口過密地以外での食料増産の実現を目指してきた。 今回紹介するカリマンタン島は、一般にはボルネオ島とも呼ばれており、 グリーンランド、ニューギニアに次いで世界で3番目に大きな島である。この 島は西側の約3分の1がマレーシアの東マレーシア(サバ、サラワク州)とブル ネイ、東側の約3分の2がインドネシア領に分割されており、インドネシア領が カリマンタンと呼ばれ、4つの州に分割されている。近年、インドネシアでは、 昨年独立を果たした東チモールの他にもスマトラ島北部のアチェ特別州やニュ ーギニア島西部のイリヤンジャヤ州など分離独立運動が起こっており、スハル ト大統領による独裁体制の崩壊以降、政情不安が続いている。分離独立に係る 紛争以外にも、スラウェシ島などでも国内移住政策などを原因とする住民間の 紛争が起こるなど、治安も悪化していると言われている。カリマンタン島でも スラウェシ島と同様の理由により住民間の紛争が生じており、一般に治安は悪 化していると言われているが、東カリマンタン州は早くから移住者と現地住民 との融和政策を行っており、天然ガスなどの鉱物資源や木材産業などもあって 経済的にも比較的恵まれているため、この種の紛争は起こっていない。 インドネシアの畜産はこれまでにも「畜産の情報(海外編)」(2001年3月号 ほか)で紹介してきたが、いずれも国全体としての肉牛の生産動向などを主体 としたものであり、広大な面積を有することにより畜産物供給の潜在力が大きい カリマンタンには言及していない。今回は、カリマンタン4州の中では最も治安 が良好であり、畜産振興の潜在力が高いとみられる東カリマンタン州について、 同州畜産局の協力を得て現地調査を行ったので、同州の畜産事情として紹介する。
インドネシアは多数の島で構成されており、地理的条件や社会経済的状況に 基づいて国内が大きく6地域に分割されている(図1)。同国の人口の約6割、 日本の人口にほぼ匹敵する1億2千万人が、国土面積のわずかに約7%、日本の面 積の3分の1程度にすぎないジャワ地域に集中している(表1)。このため、ジャ ワ地域においては、粗飼料の確保のための土地が必要な、牛などの反すう家畜 の飼養頭数を現状以上に増加させることは困難であり、ジャワ地域以外のいわ ゆる外領における牛を中心とした畜産振興が必要とされている。 表1に農地面積を示したが、これにはアブラヤシなどのプランテーションにお ける永年性作物の栽培地のほか、一時休閑地、畦畔の面積を含んでいる。これ は、同国ではアブラヤシなど永年性作物の下草、畦畔の牧草・野草も重要な飼 料資源とされているため便宜的に行った仕分けであり、通常の農業統計では可 耕地面積とは別に集計されている。総面積に占める農地面積の割合は、人口密 度の高いジャワ島では40%に達しており、現状以上の飼料資源の増加が困難で あると考えられるのに対し、スマトラ島は28%、ヌサテンガラは21%、スラウェ シ島は22%、カリマンタン島は14%となっており、飼料資源拡大の余地が残さ れているとみられる。しかし、特に、スマトラ島やカリマンタン島では、毎年、 主に焼畑に原因するといわれる山林火災とこれにより発生するヘイズと称される 煙害が国際的な問題となっており、熱帯雨林の保護が地球規模での課題とされる 中、環境保全と農業・畜産との両立が課題とされている。 同国の農業実勢調査は10年ごとに行われており、2003年が調査年となっている ため、やや古いデータになるが、直近2回の数字を比較すると農家戸数は人口の 増加に伴って増加している。農家のうち家畜を飼養していると答えたものの数も スラウェシ島を除いて増加しており、全国集計で10年間に1.7ポイント増加し24.7 %となっている(表2)。なお、この集計における家畜には小羽数の鶏・アヒルを 飼養している農家戸数は算入されていない。 インドネシアはアセアンの中でも農村人口の割合が高いとされており、2000年 の推計で全人口の約61%を占めている。しかし、国内総生産(GDP)に占める農業 生産額の割合は近年15〜17%で推移しており、生産額だけで見るとその地位はけっ して高くない状況にある。畜産の生産額は、農業生産額に占める割合は約11%、 GDPに占める割合は1.8%程度である。このように、生産額ベースで比較すると農 業および畜産の重要度はあまり高くないが、農村人口の割合が高く、農村が都市 における雇用のバッファーとなっていることや多くの農家が少頭羽数の家畜・家 きんを飼養していることを考慮すると、同国における農業・畜産の社会・経済上 および食料安全保障上の重要性は高い。 表 1 インドネシアの州別・地域別概要(2000年) 資料:Central Bureau of Statistics 注1:農地面積は、水田・畑、一時休閑地、アブラヤシなど永年性作物の面積の合計。 2:NAはデータがないことを示す。
図 1 インドネシア全図 資料:CIA World Factbook 2002に加筆 表 2 インドネシアの農家戸数の推移 (単位:千戸) 資料:畜産総局 インドネシアの畜産は、97年の通貨危機により大きな影響を受けたとされている が、実際に影響が出たのは、反すう家畜では、フィードロットでの肥育用に輸入さ れる生体牛の頭数だけであり、同国の対米ドル通貨レートの大幅な下落によりフィ ードロットの収益性が著しく悪化した牛の総飼養頭数には大きな変化が現れていな い。過去5ヵ年間の肉用牛頭数は1,100万頭台でわずかな減少傾向を示しているのに 対し、乳用牛頭数はわずかな増加傾向を示している。同国では、所得の増加に伴っ て牛乳・乳製品に対する需要も増加しているとされているが、酪農生産はジャワ島 のやや標高の高い地域に集中する傾向があり、頭数の増加につながっていない。ま た、同国では高温多湿を理由にして、タイやベトナムに見られるような低地への拡 大を既にあきらめていると見られる。水牛の頭数は減少傾向が著しいが、これは長 期的なものであることから、通貨危機の影響というよりは、農作業の機械化の進展 などの影響による減少であるとみられる。 一方、米ぬかなど国産飼料の利用度が高い在来鶏の飼養羽数はほとんど変化して いないものの、濃厚飼料などの輸入飼料への依存度が高いブロイラーや卵用鶏は通 貨危機の影響をより大きく受けており、98年のブロイラーと卵用鶏の飼養羽数はと もに前年比45%の大幅な減少となった。通貨危機の影響は、ブロイラーなどと同様、 濃厚飼料に依存している養豚でも飼養頭数の減少をもたらしたが、養豚への影響は 養鶏ほど深刻なものではなかった。豚の飼養頭数は、2000年に前年比34%の大幅な 減少となったが、これは通貨危機後の政情不安によって各地で紛争が発生し、国民 の9割近くが豚をタブーとするイスラム教徒である同国内で、養豚の立地が困難にな るケースが多発したことが影響しているものとみられる。 インドネシアは、国際獣疫事務局(OIE)により、口蹄疫清浄国として認定されて おり、この点を生かして、将来的にはアセアン各国だけでなく日本のような高い購買 力を持つ市場への畜産物の輸出国となる期待を持っている。この前段として同国は、 2005年までに牛肉を自給することを目標として掲げ、当初は同年までに肥育素牛の輸 入を廃止する意気込みであった。しかし、昨年は通貨レートの回復と経済の復調にと もなって肥育素牛だけでなく、と畜場へ直行する生体牛の輸入も急増しており、政府 の一部には「輸入肥育素牛を肥育した後は国産と認めることも可能」とするところま でトーンダウンしている。国内の牛は、ヌサテンガラ地域やスラウェシ地域が国内各 地への供給源となっている。 表 3 インドネシアの家畜飼養頭羽数の推移 (単位:千頭、千羽) 資料:Central Bureau of Statistics
インドネシア領カリマンタン島は、総面積が日本の1.4倍に相当する54万8千平方 キロメートルだが、人口は日本の1割程度の1,200万人しかなく、大部分が原生林を 含む森林や未利用地で占められている。同島は過去の王朝(サルタン)の所領など、 歴史的な背景により4州に分割されており、最も面積の小さい南カリマンタン州(3 万7千平方キロメートル)から最も大きな東カリマンタン州(21万平方キロメートル) まで面積や人口密度が大きく異なるほか、石油や天然ガスといった鉱物資源の有無 などの一般経済事情や主に反すう家畜の飼養可能頭数を左右する降水量(および年 間の降水分布)も大きく異なっている。 カリマンタン島の家畜飼養頭羽数(表4)は、前記の要因のほか各州の住民構成な ど社会的な要因も反映したものとなっている。例えば、南カリマンタン州は他州に比 べて極端に豚の飼養頭数が少ないが、これは同州のアヒルの飼養羽数が他州より著し く多いことを考慮すると、同州に中国系の住民が少ないということではなく、4州の 中で最も人口密度の高い同州ではイスラム教でタブーとされる養豚の立地が困難なた めであるとみることができる。 一方、飼養頭羽数の推移を見ると、各州の合計頭羽数はインドネシア全体の傾向と 同様の傾向を示しているが、97年の通貨危機を境にした頭羽数の増減が、州によって は全体の傾向と大きく異なっている場合がある。肉用牛の頭数は、全体としては大幅 な減少とはなっていないが、東カリマンタン州では98年に前年比53%の大幅な減少と なっており、その後の回復も鈍くなっている。また、同州では98年の水牛の頭数も同 42%の大幅な減少となっている。同州畜産局によれば、このような急速な頭数の減少 は、景気の減退によりコストが掛かる遠方の他州からの移入頭数が減少した分を州内 の繁殖牛のと畜や水牛肉による代替供給で補完したためであるとしている。 表 4 カリマンタン島内各州の家畜頭羽数の推移 (単位:頭、羽) 資料:農業省畜産総局
(1)畜産概要 東カリマンタン州の鶏を除く家畜飼養頭数の推移と2000年における地区別の飼養 状況を表5に示した。既に述べたように、他のカリマンタン島内の州および国内全 体の傾向と異なり、同州では97年の通貨危機の影響により、肉牛や水牛といった購 入飼料によらない家畜の頭数も大幅に減少しており、その後も急速には回復してい ない。このため、経済の回復に伴って、特に肉牛の外部依存度が高まっていると言 われている。所得の向上にともなって牛乳・乳製品の需要も高まっているといわれ ているが、乳牛はベラウ地区に25頭飼養されているのみであり、減少傾向が続いて いる。同州畜産局は、過去20年間にわたって酪農振興に取り組んできたが、農家に 技術の蓄積がないことや同州の気候条件が酪農には不向きであることを理由に、酪 農振興を取りやめている。インドネシアはイスラム教徒人口が圧倒的に多いため、 一般に養豚の立地は困難な場合が多いが、人口密度の極めて低い同州でも状況は同 じである。このため、豚の飼養頭数は、州内でも、より山岳部に近い西クタイ地区 (Kutai Barat)が州内全体の3分の2を占めるている。 東カリマンタン州の気象条件は、図3にサマリンダ市の例を示したように、1日の 気温は最低22℃程度、最高32℃程度で年間を通じてほとんど変化がない。また、年 間降水量も過去5カ年間で見ると1,700〜2,600ミリメートルの範囲にあり、明確な 乾期がなく、安定的に草の生産が行える状況となっている。ただし、州内に6カ所 ある測候所の観測値を比較すると、気温は測候所間に大きな差がないものの、年間 降水量は80ミリメートル程度しかない半乾燥地がある一方、4,700ミリメートルに 達する地区もあり、各地区に適した草種・品種の選択にはかなり細かな分析が必要 とされる。 図2 東カリマンタン州の地区・市別地図 (東カリマンタン州畜産局提供) 表 5 東カリマンタン州の家畜飼養頭数の推移と2000年の地区別分布 (単位:頭) 資料:東カリマンタン州畜産局 (2)政府の対応 東カリマンタン州畜産局によると、政府の同州畜産分野への予算配布は順調に増加 してきており、政府部門および農家融資などを含む民間部門への配布額は合計で98年 に約642億9千万ルピア(約9億5,163万円、100ルピア=1.48円)だったものが、2002年 には約1,773億3千万ルピア(約26億2,448万円)となっており、直近5年間で2.76倍に 増加している。この間、政府部門への配布額は、98年の約79億4千万ルピア(約1億1,7 51万円)から2002年の約344億8千万ルピア(約5億1,030万円)にまで4.34倍の増加と なっているのに対し、民間部門への配布額は約563億5千万ルピア(約8億3,398万円) から約1,428億5千万ルピア(約21億1,418万円)への2.54倍に止まっており、政府直轄 事業分の増加が目立っている。同局では、民間部門への配布額の伸び率が低いのは、同 州の畜産の将来性が高いことから、一般企業の自己資金や銀行融資による民間投資が高 い割合での増加しているため、政府の予算を小規模農家対策に集中する必要が生じてい るためであるとしている。 年間の気温および降水量(サマリンダ市:2000年) (3)州畜産局郡事務所の事情 ア.クタイ郡ラオクル事務所 政府の外領向けプロジェクトとして、従来からの、政府から農家に対し牛1頭を供与 し、生産した子牛を1頭返却する事業の他に、新たに農家グループを対象としたパイロ ット・プロジェクトが開始された。このプロジェクトは、肉用牛の肥育農家を対象とし た融資制度であり、2001年は2グループ、2002年は各地区ごとに1グループを選定し、融 資の対象とした。1グループは、農家30戸程度で構成されている。このプロジェクトで は、政府がグループへ融資し、この資金プールから個々の農家が融資を受けて牛を購入 し、収益金の中から一定割合を資金プールへ返済していくものである。1グループ当た りの融資額は、3億800万ルピア(約456万円)であり、対象グループの選定は郡事務所 が行っている。融資を受けたグループは、定期的に集会を開催する義務が課せられてお り、集会での運営状況報告を通じて郡事務所がグループの運営を監督している。 イ.バリクパパン市事務所 バリクパパン市の牛のと畜頭数は、1月当たり900頭程度であり、と畜される牛の9割は スラウェシ島で生産されたものである。市内にある公営と畜場は1ヵ所だけであり、午前 1時〜4時までを業務時間としている。と畜場には、獣医と徴税員(1頭当たり5万ルピア (約740円)の税金を徴収)が立ち会う。市内のスーパーマーケットでは、地場産の牛肉 は衛生上の品質が劣るとされ、敬遠される傾向がある。 鶏の処理羽数は1日当たり11,000羽程度であり、1羽当たり250ルピア(約3.7円)の税金 を徴収している。鶏の場合、農家における自家処理羽数が相当数にのぼるとみられる。バ リクパパン市内は人口増加が続いており、十分な土地が確保できないため、ブロイラー農 家は他の地域へ流出している。ブロイラーは、コムフィード社とチャロン・ポカパン(CP) インドネシア社の契約農家が中心で、1戸当たりの飼養羽数は5千〜3万羽程度である。初生 ひなは、東カリマンタンで生産したもののほかに、ジャワ島のジャカルタ市やスラバヤ市 からも移入している。 バリクパパン市の牛の飼養頭数は、土地の制約により300頭程度と少ない。このため、何 らかの理由でスラウェシ島からの牛の移入が遅れると、牛肉価格が1キログラム当たり3万6 千〜4万ルピア(約533〜592円)にまで高騰する。スラウェシ島では炭疸病が多発している ため、スラウェシ島での船積み前15日間、バリクパパン到着後7日間の検疫を行っている。 しかし、同州は海岸線が長く、複雑な地形なので、不正移入がかなり行われているとみられ る。山羊も不正移入が多い。 バリクパパン市には、豚のと畜場もあり、農家も40戸ほどいるが、宗教上の問題があり、 養豚場の立地は困難である。 (4)畜産物の摂取状況と生産見込み インドネシア保健省は国民の栄養充足基準(Ketahanan Pangan Nasional)を定めている。 この基準によれば、たん白質の1日当たりの摂取量は60グラムとされており、このうち48グ ラムが植物性たん白質、12グラムが動物性たん白質とされている。動物性たん白質は、さら に畜産物と水産物に分割されており、理想的には1:1とされている。同省は畜産物から摂取 すべきとされている、1年当たり約2.2キログラムのたん白質を現物換算し、1年間に摂取すべ き畜産物の量を食肉10.3キログラム、卵2.8キログラム、牛乳7.2キログラムとしている。イ ンドネシア全体としては、この摂取基準に満たないといわれているが、東カリマンタン州の 2000年の統計によれば、同州における畜産物摂取量は、食肉が11.5キログラム、卵(アヒル を含む)が3.0キログラム、牛乳が5.9キログラムとなっており、牛乳を除き、国の定めた基 準を上回っている。 以上のような摂取状況にはあるものの、同州の畜産は肉用牛を始め、他州からの移入に依 存するところが大きい。同州畜産局は2001〜2005年の畜産物の生産見込みを、鶏肉を含む食 肉は1年当たり24,552トンから同31,775トンまで7,223トンの増産(年率7.4%増)、鶏卵は同 7,796トンから同8,646トンまで850トンの増産(同2.7%増)、牛乳は同84.3トンから同92.7 トンまで8.4トンの増産(同2.5%増)としている一方、消費見込みはいずれも年率8%台の増 加を見込んでおり、特に食肉の自給の達成には同州の草地資源を活用した牛の急速な増頭が 必要不可欠であるとしている。 (5)肉用牛 ア.東カリマンタン州の家畜飼養可能量 飼料資源や土地の形状などを基にして同州の畜産局が試算した、東カリマンタン州の各地 域の家畜飼養可能量は約73万4千家畜単位となっている。これに対して、2001年現在の反すう 家畜飼養頭数に基づく現存家畜単位は約5万1千家畜単位となっており、同州にはさらに約68 万3千家畜単位分の飼養余力があるとされている。同州の飼養余力を牛に換算した場合、飼養 可能頭数は約90万頭となる。これを州内の郡別に見た場合、飼養余力が大きいのは、州内北 部のブロンガン郡とヌヌカン郡がそれぞれ28万4千頭、21万5千頭、内陸部のマリナウ郡が約 10万5千頭となっているが、これらの郡はいずれも消費地および積出港であるサマリンダ、バ リクパパンからは遠く、現状では生産を拡大してもその後の流通に問題が多いものと考えら れる。消費地ではあるが飼養余力の小さいサマリンダ、バリクパパン、ボンタンの3市・郡を 除くと、インフラの整備状況等の面から最も生産拡大の可能性が高いとみられるのは、クタイ 郡とパシル郡の合計約17万頭である。 通常、家畜単位は、牛や水牛といった大家畜が1頭で1単位、山羊や豚などは1頭0.2単位とな っているが、東カリマンタン州畜産局は、現地の土壌条件、家畜の平均体重などを基にして独 自の係数を算出しており、牛1頭=0.7583単位、水牛1頭=0.908単位、山羊1頭=0.1148単位、 羊1頭=0.1255単位としている。濃厚飼料で飼養される豚や鶏については、地域差がないため それぞれ標準の0.2単位と0.02単位を使用している。 イ.東カリマンタン州における牛移入の必要性 東カリマンタン州は12の市・郡に分割されており、このうち7市・郡に公営と畜場が設置さ れている。これらの公営と畜場で処理された家畜頭数の推移は表7のとおりであり、消費地を 抱えるサマリンダ市とバリクパパン市の処理頭数が圧倒的に多くなっている一方、ブロンガン 郡のタンジョン・セロと畜場は休止状態である。また、牛について見ると年平均約2万8千頭程 度が処理されている。公営と畜場のない郡では、畜産局各郡事務所の監督の下、庭先と畜が行 われている。同州の肉牛総処理頭数は、表8のとおり99年には約3万7千頭であり、約1万頭が公 営と畜場以外での処理となっている。また、年次変動は大きいものの、肉牛需要量の45〜80% を主にスラウェシ島からの生体牛の移入に頼っている。 表 6 東カリマンタン州内各地区の家畜飼養可能量(2000年) 資料:東カリマンタン州畜産局 注:「AU」は家畜単位を示す。牛飼養余力(頭数)の換算には、東カリマンタン州畜産局に よる、牛1頭=0.7583家畜単位を使用。 表 7 公営と畜場における処理頭数 資料:東カリマンタン州畜産局 表 8 東カリマンタン州の肉用牛と畜頭数と出荷元の推移 資料:東カリマンタン州畜産局 ウ.農家の事例 (ア)クタイ郡サンボジャ地区タンジョン・ハラパン村 地区内には牛が5千頭程度飼われているが、郡内で牛を飼い始めてから20年 程度を経過しており、自然交配による繁殖が主体のため近親交配の危険性が高 まっている。 現地見学に同行した畜産局職員によれば、この地域で牧草の坪刈りによる収 量調査を行ったところ、ヒューミディコラ(Brachiaria humidicola;フィジー ではコロニヴィア・グラスとも呼ばれる。)は、乾期を除く年8回刈り取りで1 回1平方メートル当たり4キログラムの生草収量があったという。これをヘクタ ール当たりに換算すると、1回当たりの収量は40トンとなり、年間では320トン になる。しかし、この結果は各種文献に見られるこの種および属の牧草類の収 量としては高すぎる水準であり、さらにこの地域における通常の放牧強度が1ヘ クタール当たり3〜4頭であることを考慮すると、この収量をもってこの地域の 生産力とするのは危険である。 @ 農家1 81年に牛1頭から畜産を始め、現在18頭を飼養している。牛の品種は低品質の 粗飼料でも良く育つバリ牛である。ココヤシ畑を3ヘクタール所有しており、ヤ シの下草にシグナルグラス(Brachiaria decumbens)の仲間であるヒューミディ コラを栽培し、放牧している。ヒューミディコラ以外にも、ダリスグラス(Paspalum dilatatum;豪州ではパスパルムとも呼ばれる)やセタリア(Setaria sphacelata) を栽培しており、これらについては、刈取給与している。ココヤシは、年6回の 収穫期に1日当たり1千個程度採れる。販売価格は、1個当たり500ルピア(約7.4 円)なので、年間の推定収入は2,100万ルピア(約31万1千円)程度とみられる。 当該農家としては、牛の方が収益性が高いと考えており、牛を増頭したいと考え ている。交配は、自然交配だが、一部、東ジャワ州シンゴサリ人工授精センター のブラーマン種の精液を用いた人工授精も行っている。 A 農家2 ココヤシ畑10ヘクタールと草地2ヘクタールを所有している。バリ牛を18頭飼 養しており、年間4頭程度の生産がある。飼料は、放牧、刈取給与の牧草のみで、 サプリメントは与えていない。この農家の経営も牛の売却による収入が主体で ある。村内には187戸がおり、合計1,341頭の牛が飼養されている。全戸に牛が飼 われており、各戸別の飼養頭数は、最低が2頭、最多が47頭となっている。 B 農家3 バリ牛を18頭飼養している。住居の周囲にココヤシ畑1.5ヘクタールを所有して おり、少し離れたところに2ヘクタールの草地を所有している。草地が足りないの で、特に乾期には、牛を自由放牧とし牛が自ら飼料を探し歩くが、村の近隣に約1 万5千ヘクタールの野草地があるため、ここが主な放牧場となる。このような状態 のため、時には牛泥棒に遭う時もあり、村の周囲に柵を設置することが検討されて いる。牛は、成牛であれば1頭当たり500〜1,000万ルピア(約7万4千〜14万8千円) で売ることができる。生体重250キログラムくらいのものだと通常は350万ルピア (約5万1,800円)程度でしか売れないが、イスラム教の断食月を中心としたフェス ティバル・シーズンには500万ルピア(約7万4千円)以上に急騰する。村には体重計 がないので、車で買いにきたミドルマンと相対で価格を決める。 ココヤシ畑の下草による放牧風景 (イ)クタイ郡のやや大規模な農家 訪問時(乾期)の飼養頭数は50頭であり、乾期は繁殖、雨期は肥育を行っている。 牛の品種は、ブラーマン交雑種が主体であり、バリ牛も少頭数飼養している。肥育 素牛は、南スラウェシから購入している。繁殖は、飼養しているブラーマン種とバ リ牛の雄牛を用いて自然交配を行う場合もあるが、人工授精が主体である。牛の飼 料は、牧草の刈取給与と豆腐残さ(オカラ)である。牧草類は、改良草地20ヘクタ ールから刈り取る。草地の周辺には、副収入用としてチークを植えている。改良草 地以外にも、この農家の周辺には緩い傾斜地が広がっており、野草地がふんだんに ある。 牛の繁殖・肥育のほかに、牛のふんを利用してコンポストを製造しており、1立方 メートル当たり20万ルピア(約2,960円)で肥料として販売している。コンポストに は、市販の微生物調合剤を混合して品質を高めている。コンポストの販売収入だけ でも十分生活できるほどの収入になる。労働力は、牛の管理が3人、コンポストの製 造関係が20人である。 牛ふんによるコンポスト生産 (ウ)クタイ郡ラオクル地区の農家 現在、7頭の牛を飼養しており、このうち6頭がバリ牛、1頭がジャワから導入した ブラーマン種である。この農家は、かなり裕福であり、水田2ヘクタールの他に、コ コヤシ2ヘクタール、コーヒー0.5ヘクタール、バナナ1ヘクタールを所有している。 農家は牛が、一番もうかるので、もっと増やしたいと考えている。また、この農家は 日本のメーカーの耕運機を2台所有しており、他の農家に貸し出すとともに、1ヘクタ ール当たり36万ルピア(約5,328円)での作業請負も行っている。 同地区の農家は、一般に飼養管理や牛舎施設の簡単なバリ牛を好む。この農家は、 35戸で構成される農家グループの長であり、グループの構成農家は平均1〜2ヘクター ルの水田を所有し、2期作を行っている。稲ワラは飼料として用いておらず、収穫後の 水田のひこばえを放牧用に使っている。パイロット・プロジェクト(「4.(3)ア.」 参照。)によって購入した牛から得られた収益は、60%が農家自身の取り分となり、 残りをグループに返済する。借入金に対する利子は徴収しない。ただし、個々の農家 が農業資材購入のためにグループから借入する場合には、年12%の利子を徴収する。 グループの構成農家になる条件は、最低1頭の牛を所有していることである。グループ は、毎月のミーティングを義務付けられており、このグループは毎月25日に実施して いる。 収穫後の水田で繋ぎ飼いされているバリ牛 (エ)クタイ郡パナジャム地区の農家 ココヤシ畑と水田を主体とした土地を5ヘクタール所有し、バリ牛20頭を飼養して いる。バリ牛は飼いやすい上に肉付きが良く、良い牛であると考えている。バリ牛の 場合、1年1産が可能であり、初産年齢は2.5歳程度である。今年は既に8頭を売却済で あり、1頭当たりの価格は400万ルピア(約5万9,200千円)だった。(国の法律で、繁 殖が良好なら8歳以下の雌は売却できないが、抜け道があり、繁殖供用前の3歳くらい までは肉用として販売できる。)価格は、ミドルマンとの相対で決めるが、村にはは かりがないので、外見から体重を推定し、市場の牛肉価格の動向を参考に、農家側か ら希望価格を伝え、その後交渉となる。後継牛は、外部から導入せず、自分の牛郡か ら得ている。地域にも人工授精師が4人いるが、自然交配が主体である。飼料は、作物 栽培期間中は、ココヤシ畑の下草や、村の各農家が供出しあった共同草地での放牧し、 非作物栽培期間は、稲の刈り取り後地がこれに加わる。牛を売ったお金で家を新築して おり、居間に日本のメーカー製の耕運機が置かれている。耕運機は、1ヘクタール当た り40万ルピア(約5,920円)で他の農家に貸し出している。 この地域には、100家族程度がおり、バリ牛が500頭以上飼養されている。各戸の飼 養頭数は、5〜20頭程度である。牛の買い付けは、バリクパパン市から専門業者が来て 毎回5頭くらいづつ買っていく。価格は、成雄で400〜500万ルピア(約5万9,200〜7万 4千円)、雌で300〜400万ルピア(約4万4,400〜5万9,200円)である。 エ.集団としての取り組み(パシル郡サポック村畜産農家グループ) (ア)地域の概要(行政管区長の話) サポック村を含む地域は、中央政府の外領移民計画の対象地域であり、77年から入 植が始まった。この計画に参加した人は、家屋建設地を含む1ヘクタールの他に畑とし て1ヘクタールを供与された。その後、入植者の定着が進むにつれ、土地なしになる農 民と買い増して4〜5ヘクタールに拡張する層に分化が進展している。入植地は、かんが いが進んでいないため、水田はできず、陸稲の生産となっているため、収量が低く、1 ヘクタール当たりの収量は0.8トン程度と、水田作の2〜3割程度しかない。その他の作 物としては、トウモロコシがある。最近は、コショウの栽培も盛んになっており、良い 収益をあげているため、米やトウモロコシをコショウに転換する農家が増加している。 コショウは、1キログラム当たり1万6千ルピア(約237円)程度で売れ、年2回の大収穫 期のほか、毎日少量ずつ収穫することも可能であり、貴重な現金収入源となっている。 農業上の問題としては、野豚による被害がある。地域内には、9カ所の集落に合計500戸 の農家がある。この地域の農家は、最近、家畜のふん尿を肥料として使い始めた。 牛の飼料用に栽培されている草種は、イネ科ではヒューミディコラ、ダリスグラス、 ネピアグラス(Pennisetum purpureum;エレファント・グラスとも呼ばれる)、セタリ アであり、マメ科としては、スタイロ(Stylosanthes guianensis cv. 1108)とマメ科 潅木であるグリリシディア(Gliricidia spp.)である。地域内では、25〜30戸の農家 が1戸当たり0.5ヘクタールの土地を供出しあって共同で草地を開発している。 地域には、人工授精師が3名おり、受胎すると2万5千ルピア(約370円)の謝礼を得る。 バリ牛とリムジン種やシンメンタール種との交雑種の子牛の値段が高い(バリ牛は1頭 100万ルピア(約1万5千円)に対し、交雑種は150万ルピア(約2万円))ので、人工授 精の需要は高いが、凍結精液の供給面に問題がある。液体窒素は、サンボジャ町にプラ ントがあり、1リットル当たり2万5千ルピア(約370円)で入手できるので、供給に問題 はない。この地域には、1万5千ヘクタールの焼畑後の二次林があり、資金さえあれば養 牛開発の可能性は高い。 (イ)サポック村 急な坂を下ったところに集落があり、道の両側に住宅が並ぶ。訪問時、中央の道路沿 いには牛が多数つながれていたが、常時このような飼養方法をとっている訳ではなく、 訪問者を歓迎する意味での展示であった。 この村は現在30戸で構成されており、牛の飼養は91年に開始された。政府の養牛に対 する補助制度を利用し、1戸当たり2頭、合計70頭で開始し、当初の導入牛から生産され た牛30頭を返済した。政府からの1戸当たりの融資額は、牛1頭相当額だったが、導入し た牛が通常より若年の1.5歳令だったため、1頭分の金額で2頭を購入することができた。 現在、合計で140頭おり、品種はオンゴル種とバリ牛となっている。村は共同で合計100 ヘクタールの草地を整備しており、各種の栽培試験を行っているほか、マメ科牧草類を 導入して飼料の栄養価を高める意向も示している。草地は非常にきれいに管理されてお り、農家の良質粗飼料確保に対する意欲も高い。 サポック村民との意見交換 管理の行き届いた牧草畑 オ.人工授精所の事例(クタイ郡デサ村人工授精所) 村には、成雌牛が490頭いる。2001年は、240頭に対し人工授精を実施した。2002年の 問題点としては、月により受胎率に大きな変動があることであり、飼料の品質が一定で ないことと凍結精液の品質が劣ることが原因であると考えている。以前は、初回授精受 胎率(First Service Non-return Rate)60%程度を維持できたが、2002年に入ってから は、月によっては25%程度まで落ち込んでいる。過去の実績からすれば、人工授精は多 い時でも1頭に対し2、3回も行えば受胎する。農家には、発情発見法を教えてあり、発情 兆候があったら連絡が来るようになっている。発情を観察した時間から11時間後に人工 授精を行なう。人工授精に際しては、卵巣触診を行う。各農家ごとに授精回数、使用し た精液など牛の履歴も残している。国有牛の払い下げの場合には焼印をされているが、 農家で生産された牛の場合には焼印をする習慣がないので、1頭1頭個体ごとに記憶して いる。 カ.フィードロット (ア)フィードロット(Sujayadi氏) 訪問した11月(乾期の終わり)は、飼料不足などにより肥育に不適当な季節である。 肥育している牛は、バリ牛、オンゴル種、ブラーマン交雑種が中心である。人工授精で オンゴル種、ブラーマン種、リムジン種を生産しており、バリ牛以外のフィードロット は、実際に営業しているものとしてはバリクパパン市内では唯一のものである。このフ ィードロットは土地面積が20ヘクタールで60〜70頭を飼養している。訪問地とは別の場 所にも同規模の牧場があり、こちらの飼養規模は80頭程度である。最近の出荷例は9月に 40頭を西カリマンタン州に売却したものがある。飼料は、キンググラス(ソルガムのハ イブリッド)、メキシカーナ(Ixophorus unisetusと思われる)の他、オカラ、米ぬか を給与している。 年間出荷頭数は、600頭程度であり、このうち150〜200頭はジャワ(東ジャワ州のスラ バヤ港と南カリマンタン州のバンジャルマシーン港の間は船で18時間の距離)から導入 している。スラウェシ地域はバリ牛中心なので、同地域からは導入しておらず、残りは、 自場生産分と、バンジャルマシーンからの導入となっている。東カリマンタン州は牛が不 足しているため事業は順調であり、もっと規模を拡大したいが、銀行ローンの年利が19% と高いので事業拡大に至っていない。 フィードロットで出荷を待つ牛 (イ)バリクパパン市内民間フィードロット・と畜場 94年にフィードロットとして設立され、豪州製の機械を入れたと畜場、食肉処 理場を併設している。処理能力は、1月当たり1,200頭である。97年までは、と畜 処理した牛肉をブルネイへ輸出しており、累計で1万1千頭の処理実績がある。フ ィードロットでの肥育期間は、2〜3ヵ月程度と短期間である。通貨危機により牛 肉の需要が落ち込むとともに、運転資金も続かなくなり、休止状態が続いている。 (6)養鶏 養鶏産業は通貨危機により大きな打撃を受けたが、その後、政府による大規模 な融資が行われ、急速に回復している。州内の鶏の飼養羽数は増えているものの、 鶏舎などの生産関連資材、飼料産業、種鶏場など、養鶏関連産業は未発達であり、 飼料や初生ひなはジャワ島からの移入に頼っているため、今後の養鶏産業の発展 に大きな障害となっている。同州のブロイラー初生ひなの発生数は、98年に1,432 万羽、99年は前年比19%増の1,700万羽、2000年は同27%増の2,161万羽、2001年 は同11%増の2,391万羽となっており、順調に拡大している。しかし、同州の2001 年のブロイラー飼養羽数は約1,783万羽となっているため、飼養期間6週間、入替 えなどに必要な期間を2週間と仮定して、年間ブロイラー生産に必要な初生ひなの 羽数を試算すると1億1,590万羽となり、現在の州内における供給数は必要数の約 21%にすぎない状況となっている。 ア.民間種鶏場(ISB社) ISB(Istana Sapi Borneo)社は、CPインドネシアの100%子会社であり、89年 に設立された。初生ひなの品種は、ISB707だが、当地でこのように名付けている だけで、実際にはCPの系統である。原原種鶏は米国から輸入し、東ジャワのスバ ンにある農場で原種鶏卵を生産し、ここでコマーシャルの生産を行っている。職 員数は、農場が130名、管理部門等が30名である。 現在の発生数は、1週当たり34万羽(年間1,768万羽)だが、これは生産能力の 90%程度に相当する。販売先は、一般農家と契約農家であり、サマリンダ市、バ リクパパン市の他、同州に隣接する南カリマンタン州の州都であるバンジャルマ シーン市を市場としている。この地方では、ブロイラーは35〜38日齢、1.7〜1.9 キログラムで出荷するのが通常である。 現在の初生ひなの価格は、1羽当たり3,500ルピア(約52円)程度であり、比較 的良好な状態であるが、価格下落時には同1,000ルピア(約15円)程度まで下がる こともある。 カリマンタン島では、同社が最大のシェアを有しており、競争相手として、コ ムフィード社、サムセン社(韓国の資本)、ワナカヤ社があるが、コムフィード 社が最も強力な競争相手となっている。 イ.民間養鶏場(鶏卵):Ayam Makmur社 東カリマンタン州の農業は、大きな潜在力を有しているものの、経営者は、政 府による支援が不十分であると考えている。カリマンタンの養鶏では飼料が高い ことと、鉱業などの労賃に引きずられる形により農場労働者の労賃が高いことか ら、畜産の生産コストもジャワより高くなっている。カリマンタン各州では、卵 の市場価格が高騰すると東マレーシアからの輸入が増える。サマリンダ市の鶏卵 の需要量は、1日当たり70〜80万個であり、インドネシアの中では同州の所得水準 が高いため、国内の他の地域より1人当たりの消費量が多くなっている。鶏肉は同 6万羽程度(年間2,190万羽程度)、牛肉は年間4万頭程度の需要があるとみている。 卵用鶏の初生ひなは東ジャワ州スラバヤ市の原種鶏農場からローマン種の種卵 を購入し、3ヵ所のふ卵場で生産している。初生ひなの価格は、卵用鶏が1羽当た り7千ルピア(約104円)、ブロイラーが3,600ルピア(約53円)である。 同社の鶏卵生産場は敷地面積が25ヘクタールあり、卵用鶏舎が4棟、このうち2 棟はドイツ製の機械によるフルオートメーション式のものであり、残りの2棟は 従来型だが今後オートメーション化する予定である。1棟当たりの収容羽数は30 万羽である。オートメーション鶏舎の中は、強制換気により外気より5℃くらい 温度が低い。鶏は、20週齢で産卵を開始し、18週間産卵を継続する。農場全体の 鶏卵の生産量は、1日当たり11トンである。同州ではニューカッスル病が常時発生 しているため、サマリンダ市内から車で1時間程度離れたところにある農場は、す り鉢の底のような地形に位置しており外部からの進入を完全に遮断するなど、防 疫には細心の注意を払っている。 鶏卵価格は、1キログラム当たり18〜19個のサイズ(1個当たり53〜55グラム) のもので1個当たり400ルピア(約5.9円)程度、同15個のサイズ(1個当たり66グ ラム)のものは同450〜475ルピア(約6.7〜7円)である。同社は、東カリマンタ ンでほぼ独占的に鶏卵の生産を行っており、生みたての新鮮卵を恒常的に出荷で きる所が他にないため、ジャワ島からの移入品やマレイシアからの輸入品に比べ、 プレミア価格での販売が可能であり、高い収益性を維持している。 ウ.養鶏農家の事例 (ア)パシル郡スリラバル村 ・ 養鶏農家1 この農家は各戸が400〜600羽程度の在来鶏を飼う30人のグループの一員である。 訪問の1週間前に100羽を販売したため、訪問時の飼養羽数は400羽であった。通常、 2週間に1回は若鶏を販売する。飼料は市販の有用菌を混ぜて自家配合しており、若 干のサイレージ臭がある。配合飼料を購入すると1キログラム当たり3千ルピア(約 44円)だが、自家配合だと採卵鶏用で同1,400ルピア(約21円)、ブロイラーで同 1,700ルピア(約25円)程度でできる。初生ひなは1羽4千ルピア(約59円)で2カ月 程度の飼養で1.3キログラムとなり、1羽当たり2万ルピア(約296円)以上で販売が 可能である。 自家製ふ卵器。製造費は30万ルピア(約4,400円)であり、石油ランプ で加熱する。 鶏舎内部の様子。鶏小屋の壁には産卵用のかごが設置されている。 ・ 養鶏農家2 鶏舎は5棟あり、それぞれ1千羽の収容能力だが、訪問時は2階建て鶏舎1棟の みに鶏がおり、飼養羽数は約1千羽であった。1千羽のうち400羽は繁殖用とし、 600羽を肉用としている。鶏舎内にはケージが設置されているが、これはカンニ バリズムを防止するためである。鶏は1.3キログラム程度で出荷し、1キログラ ム当たり1万7,500ルピア(約259円)程度で販売している。鶏ふんは集めて、2 ヘクタール所有しているアブラヤシ畑の肥料としている。収益は、3カ月を1サ イクルとして、1羽当たり5千ルピア(約74円)である。育成は2カ月だが、鶏舎 の清掃などに前後1カ月を要するため、3カ月が1単位となっている。 飼養管理は3人で行っており、1人当たりの給料は30万ルピア(約4,400円)と 国の定めた最低賃金の50万ルピア(約7,500円)を下回っているが、これは食住 付のためである。 エ.集団としての取組み(パシル郡スリラバル村養鶏農家グループ) 州畜産局は農家グループの組織化を奨励している。スリラバル村のグループ 会員は現在30名である。同グループは専用の集会場を持ち、小さいながらも専 任職員を雇用するなど組織もしっかりしており、グループオリジナルのティー シャツをユニフォームにしているなど、活発に活動している模様である。この ようなグループは、活動状況などに応じて畜産局が4段階にランク付けを行って いるが、同グループは最近下から2番目のランクに昇格した。ランク付けの根拠 は、組織、活動状況、会合開催、資産状況、物流など外部との交渉(取引)への 関与状況である。会員になる条件は、・自家を持っていること、・規則を守るこ と、・登録費5千ルピア(約74円)と月会費1千ルピア(約15円)を納めることで ある。 (7)その他の家畜 ア.養豚(バリクパパン市民間養豚場) 以前クタイ郡にあった養豚団地は、周辺住民との関係で何回も移転を余儀なく され、バリクパパン市に移転のだが、ここでも移転を迫られており、困っている。 この養豚場も数年前は、肉豚2千頭規模だったが、移転問題が持ち上がっている ため、400頭にまで減らしている。豚の品種は、シンガポールとの国境近くにあ るバタン島から導入した(N8×オランダの品種)の雑種である。パリクパパン市 の豚肉需要は、現在の平均と畜頭数である1日当たり豚20頭を上回っており、需要 はあるものの生産が出来ない悩みがある。カリマンタンにおける豚の出荷体重は80 キログラムである。1頭当たりの販売価格は、15万ルピア(約2,220円)程度である。 イ.山羊(クタイ郡テンガロン町山羊農家) 小規模農家プロジェクトに参加している農家。訪問した農家の経営者は、教師と の兼業だが、5戸で構成される他のグループメンバーは全て専業農家である。この プロジェクトの目的は、農家の所得向上と在来山羊の改良であり、山羊は政府が提 供する。この農家で飼っている山羊の品種は、Etawa種とKachan種の交雑種である。 インドネシアでは、山羊は宗教行事やお祝い事には欠かせないものであり、常に一 定の需要が見込める。飼料は、野草の刈り取り給与のみのため飼料費はかからない。 飼養上の問題点は寄生虫の防除である。この農家では、プロジェクトに参加して1年 3カ月になるが、この間、子山羊4頭を生産し、グループに収益の一部を返済している。 ウ.養鹿(東カリマンタン州畜産局鹿牧場) 牧場の土地面積は950ヘクタールだが、放牧などに利用可能なのは、このうち50ヘ クタールだけである。パドックが設けてあるのは、さらにこのうち6ヘクタールだけ で、これを7パドックに細分してある。鹿は、跳躍力が高いので、パドックの柵は最 低でも2.5メートルは必要である。 牧場の設立目的は、成雄だと体重300キログラム程度になるサンバル(Sambar)鹿 の家畜化と牛の凍結精液生産であり、リムジン種、シンメンタール種、バリ牛の種雄 牛を飼養し、シンゴサリ人工授精センターの監督・指導の下、凍結精液の製造を行う 予定である。現在、サンバル鹿は115頭おり、鹿角を生産してマレイシア、韓国等へ 薬用として輸出している。角の生産に使える鹿は、現在約40頭おり、年間5〜6キログ ラム程度の鹿角生産が可能である。鹿角はグレード3のもので1キログラムたり100万ル ピア(約1万5千円)で販売できる。鹿については、国立研究所と共同研究しており、 長期的には肉用にも供用する予定である。サンバル鹿は、過去にカリマンタン島から 輸出されたものがニュージーランドで家畜化に成功しているので繁殖が軌道に乗った ら、農家への配布も行う予定である。 鹿の飼養管理上の問題は、内部寄生虫と腸内醗酵である。草地は、ヒューミディコラ の他に野草のBriwi(種名など不明)である。飼養頭数の目標は、2、3年以内に250頭程 度にすることである。鹿を小規模で飼うのは柵の問題もあって難しいため、州畜産局で はつなぎ飼いや小規模の畜舎飼いの試験を行っている。 パドック内のサンバル鹿。
東カリマンタン州は、広大な面積を有しており、天然ガスや石炭といった鉱物資 源にも恵まれている。州政府は、人材育成、インフラ整備、畜産を含む農業の振興 といった相互に関連性のある3項目を重点事項としている。このため、同州における 畜産開発は、単に種畜の改良といった技術的な側面での改良に止まらず、畜産が同 州の経済発展において重要な役割を果たすことを目指すこととされている。同州畜 産局によれば、同州が抱える畜産開発上の問題点は、@小規模経営、A資金力不足、 B低い教育・技術水準、C未整備なインフラ、D優良種畜の供給不足、の5点に集約 されており、これらの問題点の克服のためには中央政府の支援だけでなく、民間資 本や非政府組織(NGO)などを含めた広範な支援が不可欠であるとしながらも、より 地域の実状に精通した同局が主導的な役割を果たす必要があるとしている。 インドネシアの畜産は、97年末からの通貨危機により同国の通貨レートが下落し たことから、生体牛の輸入が減少し、不足基調で推移したことに加え、乾期の粗飼 料不足により需給の不均衡が続いている。既に述べたように、人口密度が低く粗飼 料資源が豊富な東カリマンタン州の肉牛生産の潜在力は高く、同州畜産局の推計で は牛に換算して約96万8千頭分の飼養余力を有している。この生産余力を活用するこ とができれば、同州は輸入肥育素牛に依存している国内の牛肉の不足分を供給でき るだけでなく、やはり牛肉資源の不足しているマレーシアなど近隣諸国に対する潜 在力も有することになる。 しかし、現状では同州は州内需要も満たしきれていない状況にあり、同州畜産局 としては、まず2010年までに州内における牛肉の自給を目指して牛の増頭と生産性 の向上を図っている。このための方策として、同局は、2001〜2010年の間に・牛の 頭数を2001年現在の53,511頭から毎年、前年比約36%の割合で増頭し、2010年には 772,768頭とする。・この増頭目標達成のため2001〜2009年までの間、毎年5万5千頭 程度の繁殖牛を移入する(累計49万5千頭)、ことが必要であるとしている。この ように問題点は指摘されていながら、資金不足などを理由に増頭は進んでおらず、 外国企業による直接投資や海外援助を期待しているのが現状であり、目標達成まで の道のりは遠いと言わざるをえない。 肉用牛、在来鶏養鶏を問わず、一般農家や農家グループと面談した印象では、非 常に素朴かつ新知識の吸収に熱心であり、他の地域では経験したことのない熱心さ を感じることができた。同州の農家は、畜産の収益性が高いと認識しており、規模 の拡大を希望している例が多く、資金面でも政府の支援による融資が受けやすい状 況になっている。しかし、常に問題点として残されるのは技術力の不足であり、面 談した農家のほとんどが技術面での不安から飼養規模の拡大に踏み切れておらず、 外国政府機関などによる技術支援が待望されている。 参考資料 1. CIA(2002)“The World Factbook 2002”, http://www.odci.gov/cia/pubications/factbook/goes/id.html 2. Cooperative Regional Development Board and Statistics Agent of East Kalimantan(2001) “Kalimantan Timur in Figures 2001”, Samarinda. 3. Departmen Pertanian, Direktorat Jenderal Peternakan(2002)“Buku Statistik Peternakan 2002”, Jakarta. 4. Dinas Peternakan Kalimantan Timur(2002)“Buku Statistik Peternakan Kalimantan Timur” , Samarinda. 5. Management Monitoring Consultant of East Kaimantan(2002)“The Final Report of Rural Rearing Multiplication Centre of East Kalimantan”, Samarinda. 6. Sasamb Regional Integrated Economic Development(2002)“The Prospect of Beef Cattle Agribusiness in East Kaimantan”, Samarinda
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