口蹄疫の発生を想定した経済的影響を報告     ● N Z


政府の「危機管理」演習の一環

 ニュージーランド(NZ)で口蹄疫が発生した場合の影響についてのレポートが
2月中旬、NZ準備銀行と財務省によって発表された。これは、首相内閣府が、政
府の「危機管理」演習の一環として口蹄疫が発生した場合のマクロ経済や財政上
の影響を調査するよう依頼したもので、NZで口蹄疫が発生した場合、家畜産業へ
の直接的な影響だけでなく、国全体への経済的な影響も大きいことを表している。
食肉業界、生産者団体ともに、この想定は起こり得る「現実的な」ものと評価し
ており、改めて検疫強化の重要性を訴えている。

北島のみの発生で豚から羊・牛に拡大を想定

 影響の試算に当たってのシナリオは、次の通り。
 ・ 口蹄疫は北島においてのみ発生し、食品廃棄物から豚が感染し羊と牛に拡大
    する。
 ・ 家畜に対してはワクチン接種が行われず、南島からの貿易再開は比較的早期
    に可能となる。
 ・ 乳製品輸出への影響は小さいものの、食肉輸出については口蹄疫清浄国が6〜
    12カ月間にわたりNZ産食肉の輸入を禁止するため、NZの総輸出量は発生年度に
    おいて8%減少し、翌年度までの累積で輸出額の累積損失は51億NZドル(3,315
    億円:1NZドル=65円)に上る。
 ・ NZ産食肉については、輸出が再開しても、「重大な評価損失」が起こり、輸
    出価格の下落が少なくとも4年間続く。

GDPは6,500億の損失、1万5千人〜2万人が失業

 以上のシナリオを受け、レポートにおける主な経済的な影響は次の通り。
 ・ 名目国内総生産(GDP)において発生年度に約60億NZドル(3,900億円)、翌
    年度までに累積で約100億NZドル(6,500億円)の損失が発生する。
 ・ 国内で1万5千〜2万人の雇用が失われる。
 ・ NZドルの対米ドル為替相場は20%も下落し、回復までに2年半を要する。
 ・ 発生翌年度において政府の税収がGDPの1.1%減少し、財政支出が同じく1.5%
    上昇するため政府の歳入、歳出の両面で打撃を受ける。

食肉業界は「現実的」、生産者団体は「国民への注意喚起」と評価

 食肉業界団体であるミート・NZは、「このレポートで予想される被害の大きさに
は驚くには値せず、現実的な数値である」としている。また、輸出再開した場合の
口蹄疫清浄国に対する輸出価格の劇的な下落については、報告と同様の見解を示し
ている。

 また、フェデレイテッド・ファーマーズ(農業者連合)では、「このレポートは
すべてのNZ国民に対する注意喚起である」としている。今回の報告で明らかとなっ
た雇用やGDPへの影響は、政府がバイオセキュリティー(生物安全確保)を高いレベ
ルで維持する必要性を高めるものである。

基本は水際での進入防止強化の周知

 豪州では昨年6月に口蹄疫が発生した場合の影響についてのレポートが発表されて
おり(弊誌「平成14年8月号」トピックス参照)、9月には口蹄疫模擬演習が実施され
た(同誌「平成14年11月号」トピックス参照)が、NZにおいても昨年12月に規模は小
さいながら同様の演習が行われた。家畜衛生基準が同水準である豪州、NZでは、同じ
ように口蹄疫を例に経済的影響の試算や発生時の迅速な対応が試験的に行われた。し
かし、外来の家畜伝染病の防止には、やはり基本となるのは国民に対する水際での進
入防止強化の周知にあるようだ。


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